生成AIを使いこなすにはメディアリテラシー教育が不可欠
第162回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.9.20 Fri
生成AIを使いこなすにはメディアリテラシー教育が不可欠</br>第162回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2024年724日、信州大学教育学部 准教授の佐藤 和紀氏を招いて、「生成AIを活用するために必要な情報活用能力を育む」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、佐藤氏は子どもたちが生成AIを使いこなすために必要な情報活用能力やメディアリテラシーをどう育むかについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「生成AIを活用するために必要な情報活用能力を育む」

日時:2024年724(水) 12時~1255

講演:佐藤 和紀氏
信州大学教育学部 准教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

佐藤氏は、約30分の講演において、生成AIを活用するために必要な情報活用能力をどう育むかについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

 

まず、文部科学省のリーディングDXスクールの一つである沖縄県嘉手納町の中学校の事例を紹介します。自分で作成した文章を、生成AIに推敲してもらうという授業での取り組みです。

 

▲ スライド1・沖縄県嘉手納町の
中学校における生成AI利活用の事例

 

公開授業でしたので見学や視察に来た先生方もいらっしゃいましたが、中には「子どもらしさが抜けていくよね」といった話も聞かれました。では、「自分らしさ」や「子どもらしさ」とは何でしょうか。考えていく必要があるのではないかと感じました。こういった事例がいくつかあるので、それらを説明しつつ情報活用能力と生成AIについて話をします。

 

情報活用能力の基本とは何か。学習指導要領では学習の基盤となる資質、能力として位置づけられています。学習の基盤なので、教科の資質、能力を育成していくベースになる力です。

 

▲ スライド2・情報活用能力の位置づけ

 

生成AIの暫定的なガイドラインでは、情報活用能力が生成AIの活用には基盤となっていると書かれています。

 

子どもたちは、情報活用も含めて情報をどのくらい読解できるのかについて、昔からさまざまな研究がされています。BBC1957年の41のエイプリルフールに放映した「スパゲッティが木になる」というモキュメンタリー映像を子どもたちに見せて感想を聞くのです。

 

▲ スライド3・BBCが
エイプリルフールに放映した
モキュメンタリー

 

すると、半分ぐらいは「スパゲッティが木から生えるということがよくわかりました」と言います。残り半分は「えっ?」となるわけです。それで議論していきますが、小学生に関わらず大学でもそういう状況です。なぜ本当のことのように見えてしまうかについてずっと研究してきました。私が小学校の教員の時に、東京大学で何百人かに同じものを見せました。「東大生でも鵜呑みにしてくれた」と楽しかった思い出があります。学部によって見方が違って非常に面白かったです。

子どもも大人も情報を鵜呑みにする傾向がある

生成AIの登場によって、今では「本当らしさ」が数多く世の中に溢れています。さまざまなフェイクの話が聞かれます。2023年の10~11月にかけて、Xで話題になったのが、新聞記事風のフェイクでした。

 

▲ スライド4・生成AIが作成した
新聞記事風の画像

 

生成AIが作った新聞記事風のフェイクを子どもや大学生に見せて1,000人くらいデータを取りましたが、小学生はこれを素直に読んで受け止めて、感想を書いてくれました。ひとつ希望があるとすれば、やはり情報活用能力やメディアリテラシーに関する教育をきちんとやっているクラスの子どもたちは、「いや、これは嘘でしょう」といった話になりやすかったです。だいたい5割くらいが見抜きます。情報活用能力やメディアリテラシーに関する教育をやっていないクラスでは、違和感すら覚えない状況です。批判すらされないのです。

 

世の中には情報が溢れていますが、大人も子どもも含めて意外に情報が読めていないのではというのが問題意識、課題意識です。個別最適な学びの話になってきた時に、今までは先生が情報を厳選して伝えていくというスタイルの授業から、子どもが自分で学んでいくというスタイルになった時に、当然、教科書を含めてインターネットからも情報を収集していきます。この収集するところでこういう情報にも出くわしていくこともあると思います。もっと政治的な話になると色々出てきます。その時に批判的な思考が働かないで、与えられた情報を鵜呑みにしてしまうことがないように、情報活用能力やメディアリテラシーと、それに関連した教育がとても大事になってくるのではと思います。

 

以前、情報をきちんと読めているかについて研究したことがあります。普通社会科の教科です。社会科の教科書を読むときに情報をきちんと読めているかどうかを調べました。実は教科書を読むだけでも最初はきちんと読めていないことがわかりました。情報が読み取れていないですが、読み方を教えてそれを繰り返していくと読解できるようになります。とにかく最初は、写真すらきちんと読めないということがわかっています。グラフもろくに読めないです。小学校段階ではこのくらい読めるとか、中学校まではここまで読めるというのがありますが、小学校段階までは統計的リテラシーでいうと3点ぐらいまでは読めるようになっていきます。5、6回繰り返していくと読めるようになりますが、そうしないとあまり読めないということです。

 

そもそも先生方はきちんと情報読解するための教え方をしているのかも問題です。実は情報読解の技術は確立されていて、例えばグラフを読むときは「この順番で読み取らせる」というルールがあります。

 

▲ スライド5・折れ線グラフを
読み取る技術

 

きちんと指示、説明、発問していくのは決まっていて、それを繰り返すことが情報を読むときには非常に大切です。まずは、基本的な情報がどう関わっているかということを考えていかなくてはなりません。

 

2つめは、ファクトチェックです。これは、私は日常的にやらなくてはいけないと思っています。学年に関わらずやるべきで、教科書でもWebでもできます。そして、ファクトチェックなどをやりながら、「そもそも情報はどのように読み解いていくものか」、「情報はどのように構成されているのか」など、基本的なことがわかっていない段階の生成AIと、そういうところをわかっている生成AIとはどう違うのかということも考えていく必要があります。

 

例えば、教科書をきちんと読むこと、きちんと文章と図を同定させられるかという視点でも読解力を考える必要があります。グラフも、何がどう見せられているのかをきちんと理解できているか。さらには、その情報はどれだけ保証されているものかという議論もきちんとしていかないといけません。それがわかる子どもに育てていかないといけないと思います。

 

例えば、グラフでは縦軸の目盛りの割合を変えるだけで、まったく違ったグラフに見えることがあります。

 

▲ スライド6・折れ線グラフを
読解するための考え方

 

左側のグラフは縦軸がゼロから5で、3辺りを推移しています。これだとあまり変化がないと見えるところが、右だと2.8から3.2が縦軸になっていて、すごく推移しているように見えるということです。

 

こういうことを瞬時に判断できる人とそうでない人では、情報をどう見るかということにおいて関わってくるのではというのが課題意識です。

教師が生成AI活用のために必要だと考える情報活用能力は

先生たちに、どのように生成AIを教えていけばよいのかという視点で、先生たちにもさまざまな調査をしています。例えば、生成AIを使うためには「情報活用能力として何が必要だと思っているか」を調査しました。私の周りにいらっしゃる比較的情報活用能力を指導している先生方に調査をしましたが、どのくらいの頻度で情報活用能力を指導、育成しているかというと、半分ぐらいの方がほぼ毎日何らかの教科活動のなかでやっているということをお話されていました。「どの程度、児童に生成AIの利活用を見せているか」については、利用制限年齢があるので先生を通して使わせることが多いですが、不定期というのが多くて、あとは月に1回、週に1回程度です。週に23回、ほぼ毎日というとだいぶ少なくなってきます。

 

つまり、情報活用能力をそこそこ指導している先生方でも、まだ生成AIに関しては市町村の方針や都道府県の方針を含めて少し足踏みしている状態だということです。こういう先生方に生成AIを活用する上でベースとなる、教えておいた方がよい情報活用能力は何かということを5件法で聞いています。

 

▲ スライド7・生成AIの利活用のために
教えるべきと考える情報活用能力

 

5から4.3までしか見せていないので、ほとんどの項目が必要と言っていますが、取り立てて必要ではないという反応を見せているのはインターネット上のコミュニケーションの話と、LINEのようなトークアプリ。それらはあまり生成AIとは関係ないのではないかということです。

 

順番に見ていきますと、例えば質問3尋ねている「インターネット上の悪口は脅迫するような内容を書いてはいけない」というものでは、「生成AIにも入力してはいけない」ことを先生方が認識しています。質問1のインターネット上での誹謗中傷も生成AIに関わるところではあまり良くないと認識されています。質問13の「情報発信することは情報を世の中に広める可能性があるので、正しい情報かどうか確かめる必要がある」ことにも多くの先生が反応しています。基本的には何でも必要だとなっていますが、優先して子どもたちに生成AIを使わせる前にきちんと教えておくべき項目は何かということを、これから検討していく必要があると捉えています。もっと厳密に調査をする必要があると思います。

 

そういったことを踏まえて現在は、リーディングDXスクールの生成AIのパイロット校が非常に頑張っています。生成AIのパイロット校で何がされているかということも集計してみました。

 

▲ スライド8・生成AIパイロット校で
実践されていること

 

小学校よりも中学校の方が多いです。見ていくと、高校だと探究などでたくさん使われており、校務や授業でだいたい同じように使われていることがわかります。校務で使っていきながら、先生方が慣れていき、そして授業で使っていくということは、これまでのICTの活用と変わらないと思います。

 

生成AIのパイロット校は、きちんとファクトチェックをしています。ファクトチェックといえば、何かと何かの比較をきちんとするということです。生成AIの報告会の後でもきちんと活かされていて、沖縄県嘉手納町でも比較をやっています。何か思考する際には比較が重要です。批判的思考と考えても、比較の数を増やしていくことが非常に大切です。比較するということがファクトチェックでは大きな意味を持ちます。

 

生成AIが普及し始めて1年ちょっとですが、最初のころは「取り敢えず使ってみる」でした。思うように使えなくても量をこなして、やっとコツが掴めて質が高まるという意味では、生成AIでも何でも変わらないのではないかと感じています。こういった事例が生成AIのパイロット校のところに載っていますので、ぜひご覧いただければと思っています。

学習をより良く進めるために生成AIを使う「自己調整」が重要

それでは本日の話を総括します。以前、朝日新聞に私が取材された記事が掲載されました。

 

▲ スライド9・朝日新聞に掲載された記事

 

最初に聞かれたことは「読書感想文コンクールで生成AIを使うという話があるがどう思いますか」ということで、それに対して私が答えた記事になります。私が最初にお伝えしたことは、そもそも読書感想文は子どもがやりたいと思っているのかぐらいからスタートした方がよいということです。つまり、学校あるいは先生が全員一律一斉に読書感想文の課題を出し、そこにはやりたい人もいればやりたくない人もいます。そしてやりたい人が読書感想文をより良くしていく意味で生成AIを使うのであれば、私は賛成派です。どこの場面で生成AIを使ったのか、どのプロセスで生成AIを使ったのかをきちんと明記するべきではないかということをお伝えしました。

 

ただ一方で、全く読書感想文をやる気がない子どもたちが生成AIを使ったとしたら、もちろんサクっと終わらせたいわけです。その場合、サクっと終わらせるようなプロンプトを打ち、そのままコピペすることは当然、起こり得るわけです。ですから、生成AIが悪いというような論調になりやすいですが、そもそも、その学習は子どもがきちんとやりたいと思っているものなのかについては議論した方がよいと思います。そういう感覚でいうと、子どもが自分の判断で、自分で課題を決めていくといった自己調整の癖がないといけないと思っています。

 

生成AIを使っていく観点にしても、もちろん自己調整が必要です。ここまではやってよいとか、ここまではやってはいけないとか。これは情報モラルとか情報活用と語られたらそれまでですが、それにしても自己調整ということになり、善悪を判断するとか、学習を進めてより良く進めていくために生成AIを使うという判断とか、そういったポジティブなやり方をしていくのであれば、先生が課題を出してそれを一律一斉にやらなければならない方法ではなくて、子どもの主体性で出したい人が頑張っていくようなやり方をしていかないと、いつまでたってもそういった議論はいたちごっこになってしまうのかと考えています。ただOECDの調査では自立が弱いと言われているので、言われたことはできるけれど、自分ではできないというような話になると考えられます。

 

最後にお見せしたいのはこれです。

 

▲ スライド10・自分が情報の
送り手になってみることも必要

 

これはメディアリテラシーや情報活用能力の原則でよく言われますが、いつも受け手で情報を消費している、受容しているのではなくて、時々自分も送り手になってみる、責任のある送り手を体験してみる、たまには虚構新聞みたいなものを作ってみることも大事です。こんなこともできると面白いかなと考えています。

 

>> 後半へ続く

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