学校現場の声~千葉大学教育学部附属小学校の休校対応
第8回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2020.8.28 Fri
学校現場の声~千葉大学教育学部附属小学校の休校対応<br>第8回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2020年7月9日、千葉大学教育学部附属小学校副校長の大木圭(きよし)氏と、教諭の小池翔太氏を招いて、「学校現場の声~千葉大学教育学部附属小学校の休校対応」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、小池氏より、新型コロナウイルス感染症での休校中に実施した同校のオンライン授業について紹介。その後、大木氏より、アフターコロナを見据えた学校教育のビジョンや提言が紹介された。後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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「学校現場の声

~千葉大学教育学部附属小学校の休校対応」
■日時:2020年7月9日(木)12時~12時55分

■講演:

大木圭(きよし)氏
千葉大学教育学部附属小学校副校長
小池翔太氏
千葉大学教育学部附属小学校教諭
■ファシリテーター:
石戸奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では、視聴者から寄せられた質問を、ファシリテーターの石戸が紹介し、大木氏と小池氏が回答するという形で実施された。

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸奈々子

視聴者から寄せられた質問 アフターコロナ時代に新たな学びの場の創出を

石戸:「家庭にICT環境がない児童にはどう対応したのでしょうか。また、家庭の負担など、今回、保護者の反応はいかがでしたか」

 

小池氏:「たとえば、児童が3人いる家庭では、保護者のスマートフォンなどを使っても対応しきれないことがありました。そのようなケースでは、企業から支援をいただいたり、本校の端末も貸し出したりしました。文部科学省からも『従来のセキュリティの方針にとらわれず』との通知があったこともあり、積極的に支援しました。

 

グループウェアの長所は、家庭にある端末やスマートフォンで最適に動作し、活用できるところです。ただし低学年ですと子供一人で使うことはできないため、もともと保護者の端末を使うことが前提でした。このため、保護者を集中的に支援しました」

 

大木氏:「国からの休校要請が来て、すぐにオンライン学習を実施できましたが、もともとの伏線があったことが抵抗なくIT化を進められた大きな理由だったと思います。

 

本校では過去4年間に、たとえば学校から出す文書のWeb化を検討したり、保護者の学校評価アンケートをWebで回答してもらったりしています。ほとんどの家庭がスマートフォンやパソコンを学校教育に活用することに抵抗がなかったのではないかと感じています。

 

3月にオンライン学習を始めたときにも、強制ではないのに、初日で6~7割のアクセスがあり、あっという間に9割を超えていくような状況でした。そのため、たとえば子供の多い家庭に学校から機器を貸し出すなどの対応もできたのです。

 

ただし、低学年のオンライン学習は、家庭の負担が大きすぎることも顕在化しました。特に、小学校1年生は、『学校とは何か』がわからない状態から、いきなり休校、そのままオンライン学習となったので戸惑いと危機感が大きかったと感じています。これは保護者も同様です。それらの問題も家庭の協力のおかげでなんとか対応することができたと感じています」

 

石戸:「実践を通じて、オンラインが向いている授業はどういう授業でしたか?」

 

小池氏:「国語の例だと『話す・聞く』『プレゼンテーション・発表する』ということがオンライン授業に向いていると感じました。写真を見せて発表することなら教室でできますが、自分の家にあるものを生で手に持ちながらというのは、やはりオンラインでなければできなかった主体的な学びであったと思います。

 

また、Teamsの活用に慣れてきた子供たちが、少人数のグループでチャットで話し合いながら成果物を作る取り組みをしていました。これは、オンラインだからこそ新たにできた『対話的な学び』だと思います。

 

さらに、Teamsのプライベートチャネルを使い、子供と教員が1対1で、テキストでやり取りできる『子供の相談部屋』を作りました。これまでは、教室に他の子供たちがいる中で、『先生、ちょっと』と1対1で、小部屋で話すことなどできなかったのですが、それがかなり気軽にできるようになりました。これもオンラインならではのメリットです。その他にも、連絡帳のように保護者と教員がつながれるツールにもなっています」

 

大木氏:「プライベートチャネルは、生徒指導上もよい効果を得られました。通常の学校生活では、周りに見られて『あいつ、チクった』と言われてしまいかねないようなことでも、誰からも見られず先生と児童が1対1でつながる場があるので打ち明けられる。かなりセンシティブな悩みも話せるようになります。プライベートチャネルは、かなり有効活用できるでしょう」

 

石戸:「オンライン教育での学習の理解度に関する不安の声をよく耳にします。今後、効果検証もしていくのでしょうか」

 

小池氏:「評価研究は難しいところではあります。我々が『学力観』のマインドセットを変える必要もあると思っています。オンライン学習とは、『今日は漢字ドリル何ページから何ページまでやりましょう、できたら写真を撮って送ってください』といったものではないはずです。別の観点が必要です」

 

大木氏:「学習の理解度などについては、まさに7月31日までのオンライン通学で検証していきたいと思っています。

 

休校期間中、教員に『ビフォーコロナ期の通常の授業と比べて、オンライン学習という指導法にどのくらい満足しているか』というアンケートを実施したところ、教員全体の満足度の平均は44パーセントでした。ただ、今後の検証結果を待ってではありますが、現時点の手ごたえとしては、習熟度が伴っていないわけではないと感じています。

 

『子供たちが100パーセント習得できていないのだったら意味がないじゃないか』というご意見があるとしたら、『では、これまでは、できていたんですか?』という話になってしまいます。そういった視点ではなく、『オンライン学習を通じて、どう個別指導をしていくか』が問われていくのだと思います。プライベートチャネルによる個別指導なども活用し、どんな指導が効果的かについて、今後考えていきたいと思います。

 

ただし、やはり一番の問題は、子供たちの『学ぶ意欲』です。課題を出すだけではなかなか意欲を持って取り組むことはありません。教員は、なんとかしてライブで授業をやりたいのです。実際、ライブ授業のクラスでは、かなり多くの子供たちが参加しています。そのあたりもこれから検証していかなければならない重要な点です。

 

また、ただ課題を出すだけではなく、『家庭で学習に協力する保護者向け』の資料まで作った教員もいます。オンライン学習では、学校は積極的に保護者をもサポートをしていかないとならないと考えています」

 

石戸:「オンライン学習による学力格差拡大の懸念も指摘されていますが、自力での学習が難しい子どもたちへのケアはどのような形がよいでしょうか」

 

大木氏:「これから検証するオンライン通学の中で、少しずつ挙がってくると思います。今回、期間中に家庭で対応できないお子さんは本校で預かることにしています。今のところ140人ぐらい応募があります。この子たちは登校しますが、我々がタブレット端末を貸与して、学校でオンライン学習に参加します。

 

私たちが個別具体の問題に対応して積み重ねていくうちに、どうやら、あらかじめこういうことを用意しておけばよさそうだという、本校なりのオンライン通学のやり方が見えてくるだろうと考えています」

 

石戸:「自治体からの支援、企業との連携はどのようにしたのでしょうか。アフターコロナ教育は、社会全体連携して進めていかなければならないと思いますか」

 

小池氏:「ICTを活用する、企業と連携した授業づくりは、私が学部生の頃から長年研究をしていまして、そのご縁もあり、企業からタブレット45台を寄贈いただきました。本校からは実践について企業に情報提供し、お互いWIN-WINとなることを目指して実績を積み重ねています」

 

大木氏:「私は以前、千葉県教育委員会の生涯学習課学校・家庭・地域連携室という部署にいましたので、今回の構想もその時の経験が下支えになっています。家庭や地域と連携していかないと、なかなか学校だけでは難しいところがあります。

 

すでに市の教育委員会にはこの話をしていますが、その際には、『少しずつ連携して進めていきましょう』との回答もいただいています。今回の検証結果データを提供しながら、次は、公立学校ではどれくらいできるだろうか、というふうに、ひとつずつ進めていけたらいいと思っています」

 

石戸:「夏休み短縮などによる先生方の負担もあるかと思います。試行中の先生方の反応はどうだったのでしょう。また、保護者の反応もどうだったのでしょう」

 

大木氏:「4~5月のときには、保護者もちょうど在宅勤務だったからご協力いただけたのだと思っています。今回の7月のオンライン通学ではそうはいかないかもしれない。また、家族皆が在宅で、パソコンを奪い合うようにしていたご家庭が、そうでなくなることもあるでしょう。このあたりはこれからの検証になります」

 

小池氏:「教員は、研究としてどこまでできるかやってみることが大学附属小学校としての使命であると思っていると感じています。使命感を持って取り組むことについて、教員はかなり肯定的です」

 

石戸:「今は、大改革のチャンスとも言えます。これまで課題を改善し、より良い学校のあり方を提示してくれると、追従する学校がたくさん出てくると思います。ぜひアフターコロナ教育を先導して、未来の教育のあり方を実現していただきたいと思います」

 

最後に石戸の締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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