緊急時だからこそ、長の決断でできることをやる
オンライン講演会「広島県教育長に聞く~広島県のオンライン教育の取組」レポート・前半

プロジェクト活動|レポート

2020.6.15 Mon

概要

超教育協会は2020年5月20日、広島県教育長の平川理恵氏を招いて、「広島県のオンライン教育の取組」と題したオンライン講演会を開催した。講演会の前半では、平川氏が新型コロナウイルス感染症で休校が続く「緊急時」での取組について紹介。後半では文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 高谷浩樹氏、および、超教育協会理事長の石戸奈々子氏を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
 
【講演会概要】
「広島県教育長に聞く~広島県のオンライン教育の取組」
■日時:2020年5月20日(水)12時~13時
■講演:平川理恵氏 広島県教育長、ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
 
 
平川氏は約30分間の講演において、「緊急時には、できない理由を並び立てるより、『できるとしたら』と質問を変える」、そのためには、教育長や校長といったトップがリスクを取るかたちで決断することが大事であると強調した。その主な講演内容は以下のとおり。
 

緊急時こそ、トップの心構えと決断が大事

 最初に自己紹介をさせていただきます。広島県の教育長になって3年目です。20代がリクルートで、30代が留学斡旋会社を自ら起業して十年間、無借金でちょっと黒字というような会社を運営しておりました。その有限会社を売却した後、40代で民間人校長として横浜市の公立中学校2校の校長を務めておりました。その後教育長になって、今年で3年目となります。
 
 今日お伝えしたいことは次のとおりです。「緊急時、できない理由を並び立てるより『できるとしたら』と質問を変える」です。今,教育委員会において、スタッフにこのように伝えています。

 
 今はなかなか難しい時代で、オンラインについては、セキュリティとか、個人情報保護といった課題があります。ただ、(コロナ禍の)今は緊急時なので、それをできない理由として並び立てるのではなく、「できるとしたらどうすれば」という心構えで取り組んでおります。
 
 緊急時の取組においては、「長」たるもの、多少のリスクを取って対処する必要があると考えています。例を挙げると、原爆投下後の広島の復興において、銀行が大きな役割を果たしました。1945年8月6日に広島に原爆が投下されたのち、もう8月8日には日本銀行広島支店が再開されました。その際、無通帳・無印鑑でも預金の引き出しを可能にしました。原爆で通帳・印鑑がないなか、経済の血液であるお金を流通させることで少しでも復興を早くしたい。そのための英断でした。驚いたのは、そうして引き出された金額と実際の預金額については、ほとんど差異はなかったそうです。「善を善で返す」がなされたわけです。通常時ではありえないというときこそ、トップの決断が生きてくる。そのように思うわけです。
 
 そのうえで、どのようにオンライン教育に取り組めばいいのか。まず、これまでの学びを振り返ってみると、「40人が物理的に学校に来て、教室に入って初めて学びが成立する」というものでした。このスタイルには,例えば,不登校の生徒が増えているといった課題もあるし,教室に来ているが、授業についていけてなかったり、物足りなく思っている生徒がいるといった課題もあるわけです。
 
 そこで、なるべく個別最適なかたちで、子どもたちの実態に合わせた学び、あるいはプロジェクト型の学びをどうやって子どもたちの興味を惹くかたちで取り入れるかをずっと模索してきました。
 
 こうした状況でのコロナ危機だったので、ピンチをチャンスに変えて、個別最適な学びあるいはプロジェクト型の学びが進むのではないかという考えもありました。

生徒が安心して自己実現できる環境を

 このコロナ危機での対応の基本的構造を説明します。「感染リスク」と「学びの機会確保&心身の問題」という対立構造があるなかで、臨時休業中の代替案として、オンライン上の仮想教室を作っていく必要がある。このために必要なのが「アカウント」「デバイス」「通信手段」の三種の神器であると考えます。

▲ スライド・オンライン上の仮想教室は「アカウント」「デバイス」「通信手段」で形成する。

 
休校中、オンラインでの学びを作り出すために、デバイスや通信手段を必要とする生徒に貸し出すための予算も準備できましたが、(現時点では)調達しようにも市場にモノがありません。なので、当面は、家庭にあるモノを活用させていただいたり,出来り範囲で進めていこうということで、まず県立学校で全ての生徒のアカウントを取得して取組を進めました。オンラインによる学びは、いつでも、どこでも「つながる」という強みがあります。実際のやり取りにおいては、「双方向の手段」と「一方通行の手段」の両方があると考えております。

▲ スライド・平川氏による今から3~4年後の学びのイメージ。

 こちらのスライドがアフターコロナ、今から3~4年後の個人的な学びのイメージです。生徒中心の学びにしていくというものです。例えば、地域スポーツであるとか、劇団とかの地域文化であるとかとつながりを持って生徒が学べる。場合によっては企業のインターンシップをつうじて自分がどのようなことに興味があるのかを知りながら、自己実現につなげていく。こうした形が望ましいと考えております。
 
 生徒の意欲を削がないということでは、「自己認識」「自己開示」「自己表現」「自己実現」できる学びが必要です。自己開示するためには安心できる環境が必要で、管理的な教育システムでは経験的に難しいと考えております。この観点から,広島県では(令和5年度入学者から)高校入試も変えることにしました。具体的には調査書の比重を大幅に下げ、不登校の生徒も不利にならないような配慮もし、更に、自己表現をみるために受検者全員に「面談」を実施することにしました。子どもたちを中心とした学び,安心して学校生活を送れるような環境づくりを進めていきたいと考えています。

デバイスをはじめICT環境整備を急ぐ

 広島県のICT整備環境ということでは、私が着任したころは全国の順位は恥ずかしながら下から数えた方が早いという状況でした。教育用PCの整備状況は全国42位、普通教室の無線LAN整備率は全国44位と、かなり遅れをとっていました。また、日本はOECD加盟国の中でもデジタル機器の利用率が最も低いです。
 
 とにかくこれではいけないということで、1人1台環境の整備に取り掛かりました。文科省でもGIGAスクール構想を進めていらっしゃるということで、そういう意味では追い風であると考えております。
 

▲ スライド・平川氏が教育長になってからのICT化の経緯

 私が教育長になってからの経緯はこのスライドのようになります。就任してから初めの9カ月で県内約150校を訪問したところ、やはり従来型の授業、いわゆる「チョーク&トーク」が多く、「これではいけない」ということで翌年度、広島県教育委員会に個別最適な学び学習課を新たに設置しました。個別最適な学びを研究し、学校での取組も始めています。
 広島県では、コロナ対応とは別に、2019年4月にはBYODで1人1台環境を整えていくことを決め、2020年度から県内高校35校(新入生)で導入することが決定していました。
 
 今年4月からはG Suite(グーグルが提供する統合型Webアプリサービス)の導入準備も決まっていました。そういう意味では、いくらか準備ができていたと言えます。ただ,実際には3月2日から休校になってしまいました。ですから,この段階で(休校が)長くなることを想定し、家庭でのデバイス、Wi-Fi状況の把握を急ぎ,対応の準備を進めました。そして現在、デバイスや通信環境のない生徒に機器の貸し出しを進めているところです。
 
 入学式・始業式後の4月16日から再び休校になりました。市町立学校においてもオンライン,クラウドサービスの活用が進むよう連携を始めました。現在,県内23市町のすべてにおいて、クラウドサービスの活用に向けて、様々な取り組みが進められているところです。

短期・長期の両面で対策を

 BYODで生徒1人1台環境に取り組むには、パソコン等を持っていない生徒への経済的支援が必要です。
 

▲ スライド・生徒1人1第のパソコン等購入に係る経済的支援について。

 経済的支援については、このスライドにあるような支援を行います。高校においては、「学びの変革環境充実奨学金(給付)」、いわゆる「ICT給付金」にて生徒に年間3万5000円(3年間で10万5000円)を給付します。これについては今年3憶(3万5000円の9000人分)ということで予算化しています。ただ、ICT給付金だと支払いが12月になるということでそれでは遅いということで、「入学準備金(貸付)」も準備しました。
 
 実際には紆余曲折ありましたけれども、正直ここからだと思っております。コロナ危機においても2波、3波がくることも予想されます。長期的には先生の役割も変わってくるでしょう。こうしたことを踏まえ、「ブルームの分類学」に沿ったかたちでの教員研修も計画しています。先生にファシリテーターになっていただき、オンラインでもPBL形式で授業ができるようにしていきたいと考えています。
 
 まとめますと、短期ではウイルスおよびデジタルと共生すること、長期には先生方にファシリテーション力をつけていただくことに取り組んでいきます。どうもありがとうございました。
 
>> 後半へ続く

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