概要
大手広告代理店を退職し、オランダへ移住して起業した吉田和充さんは、10歳(小学校5年生)と6歳(幼稚園年長)のお子さんとユトレヒトで暮らしています。
オランダは3月16日(月)からスタートしたロックダウンの6週目を迎えています。感染者数は依然として増加しているものの、重篤化する罹患者数は減少傾向にあり、医療崩壊は防げる見通しだと言います。
後半では、普段の学校の様子について伺いました。
(インタビュアー:石戸奈々子 超教育協会理事長)
関連リンク: オンライン授業4~オランダ(前半)
評価方法
3月18日の時点でなされた調査によると、88%の学校が遠隔教育をほぼ完全に実現している、11%はまだ開発中、1%は実施していないという回答があったといいます。そして「もちろん学校ごとにまったくやり方が違うというのがオランダの特徴ですが、その一方でこの学校のやり方は比較的主流であり、時間割通り講義をオンラインで先生が進めるような学校はほぼないと思います。」と吉田さん。
そしてそれはオランダのロックダウンのやり方にも共通していると続けて指摘します。
「オランダのロックダウンはインテリジェンス・ロックダウンと言います。簡単に言うと自主性に任されているということです。それは教育でも共通していて、学校での学びも日頃から自主性に任されているのです。」
これほどまでに個々合わせた学習を実現し、さらには自ら学ぶ姿勢が育まれているというのは理想的な学びの環境に思えます。その評価はどのようになされているのでしょうか。「評価の仕方はポートフォリオ」だと言います。学校に入ってから大人になるまで、絵などの作品も含めてすべて自分のポートフォリオに蓄積されるようになっています。もちろんそこに成績も含まれます。その成績も、重視されているのは前年度からの成長率だと言います。各科目ごとに折れ線グラフで毎年の成長が可視化されます。また教科科目だけではなく、「協調性」、「積極性」、「リーダーシップ」、「プレゼン力」、「計画性」、「独創性」、「共感力」といった項目も同様に評価されます。評価項目は42項目にも及ぶと言います。算数が100点ですごい!といった偏差値的な評価は一切せず、日本の通知表とはだいぶ違います。他者との比較ではなく過去の自分との比較。ですので、小学生でも学年を1年進ませたり、もしくは遅らせたりということはよくあることです。進路も偏差値で決めるようなことはしません。多岐にわたる評価項目をもとに、その子に最も適した進路を相談しながら決めます。ポートフォリオはその子のそれまでの生き方を示してくれるのです。このように幼少期からポートフォリオ文化で育っているため、ほとんどすべての経歴、活動、作品をいつでも提示できる状態で持っています。それをそのまま就活にも活用できますし、最近ではポートフォリオをLinkedInに掲載している人もいます。
学校の在り方
オランダには、イエナプランの他にも、モンテッソーリ、シュタイナー、ダルトンなど様々なオルタナティブ教育の学校があり、さらにどの学校も、各思想のいいとこ取りをして導入していると言います。繰り返しになりますが、オランダは100人にいれば100通りの教育方法があり、保護者が各学校の教育方針を見て選択します。では、吉田さんがこの学校を選択した決めてはなんだったのでしょうか。
「日本の学校は正解を教えるスタイルだと思いますが、この学校は「あなたの意見は何ですか?なぜそう思うのですか?」ということを追求するスタイルだからです。また、もう1つの特徴として他人との協働を大切にする点も良いと考えました。」
オランダでは学校を「子どもの未来を作る場」と考えていると言います。「学校は大人になったときの楽しみをみつける場。それが音楽でもスポーツでもなんでもいい。学校で好きなことや得意なことを見つけられなかったら可愛そう。だから学校はいろいろなことにチャレンジして楽しみを見つける場にしたい。子どもたちにとって学校が一番楽しい場所でないと。」というのは校長先生の言葉。
オランダでは先生は「教える人」ではなく「コーチ」。社会が大きく変化する中で、「先生こそが社会のことを一番知らない」という前提にたち、先生は子どもたちが好きなこと得意なことを自ら見つけることを手助けするプロのコーチに徹しているのだといいます。なお、オランダでは文科省の下にある日本で言う教育委員会が学校運営を担っており、先生は生徒に向き合うことに100%の時間を費やすことができるそうです。
各家庭の環境
さて、今回の遠隔教育の実施にあたり、各家庭の環境はどうなっているのでしょうか?「オランダはインフラ整備に潤沢な予算が回っていて、ヨーロッパでWiFiが一番安定しています。無料WiFiもすごく多いのでネットワークの問題はないかと思います。国民全体のITリテラシーも高いです。」しかし端末の問題はあり、250万ユーロの端末整備のための緊急財政措置もなされました。
日本の学校との比較
日本の学校と比較してどうでしょう。
「子どもだったら確実にこちらの方が楽しいですよね。」と笑いながら語ります。「とても自由です。協働プロジェクトが多いので、まるで大人が仕事をすすめているような感覚です。日本のように決められたことをやらなくてはいけないという発想がそもそもありません。」
日本ではプロジェクト型の学習と基礎学力が二項対立のように語られることもありますが。
「基礎学力は確実に日本人の方が高い。当初はそれが気になったこともありましたが、なんのためにそれをやるのか?という問いに戻りますよね。日本の企業と比較してオランダは常に新しいチャレンジがあり勢いがあると感じます。生き生きしている企業やスタートアップがたくさんあります。なによりもこちらでの仕事は楽しい。学校は社会の縮図です。大人になった時の目標をいまのような生活、いまのような生き方にすると設定すれば、このオランダの学校が良いなと思います。だから、ここで育った後に日本の会社には入れないとは思います。」
コロナにおける国の対応も諸外国と比較してリーダーシップがしっかりと発揮されていると感じるそうです。「リーダーシップが大事であり、それをどう発揮すべきかということを小さい時から学んできた人とそうではない人の違いが出ている気がします。」
学校も社会も自主性を重んじ、自分は何をやりたいのか、何をすべきかを突き詰めることを大事にしているということなのでしょう。
最後に
オランダの遠隔教育は、デジタル・アナログ問わず様々な教材を活用した自学自習を基本とし、コーチングの場としてのオンラインの活用。今回のために特別に体制が整備されたり、システムが構築されたりしたわけではありません。これであればできそうにも思えますが、それを可能とする自学自習の習慣こそが一朝一夕に築くことのできないこれまでの蓄積と言えるでしょう。
オランダの教育に関するお話は、遠隔教育のやり方のみならず、アフターコロナ時代の超教育構築に向け示唆に富む内容でした。