オンライン授業3~中国(前半)

コラム・インタビュー|コラム

2020.4.23 Thu
オンライン授業3~中国(前半)

概要

 中国では新型コロナウイルスの蔓延による学校休校直後から、5000万人の生徒が遠隔授業を受けられる体制を整備したというニュースが流れ大変驚きました。今回はその中国でどのような遠隔教育がなされてるのか伺いました。
オンライン授業3~中国は、前半と後半に分けて掲載します。
 
(インタビュアー:石戸奈々子 超教育協会理事長)
 
関連リンク: 
>>オンライン授業3~中国(後半)
>>オンライン授業1~マレーシア
>>オンライン授業2~アメリカ(前半)
>>オンライン授業2~アメリカ(後半)

上海の公立学校に通う小学2年生と小学4年生

「2月3月は街には人はほぼだれもいない状況でしたが、いまの上海はコロナ前の日常に戻っています。」そう語るのは、上海在住の趙さんと呂さん。2人ともお子さんが上海市内にある公立小学校に通うお母さんです。
趙さんのお子さんは小学校2年生、呂さんのお子さんは小学校4年生。そして、上海では約3ヶ月にわたる長期休校を経て、ようやく5月6日に開学すべく準備がはじまりました。
 
 武漢が都市閉鎖となった1月末はちょうど冬休み中。通常であれば冬休みは2月中旬までです。しかし、1月27日に国家教育部より、2020年度春学期開始を延期する通知が出され、2月末まで冬休みが延期となりました。さらには、学校再開の目処が立たないことから「授業は止めても学びは止めない」というスローガンのもと、3月から遠隔教育に切り替える方針が打ち出されました。
 

授業の一斉配信による遠隔授業

 遠隔になっても授業内容は通常通り。国語、英語、数学、音楽、美術、体育、道徳など時間割通り毎日6コマ行われます。

 スタートは朝9時から。通常であれば1授業35分、休憩時間10分ですが、遠隔教育では1授業20分、休憩時間40分です。休憩時間といっても、前半20分で視聴した映像を踏まえて、課題を行ったり、ラジオ体操や目の体操をしたりする時間です。
 
20分の授業映像というのは、上海市教育委員会が選定した先生の講義が上海市で一斉に流れます。学校ごとに準備をしているわけではありません。子どもたちは、テレビ、パソコン、タブレット、スマホなど自由な端末で視聴します。

 特徴的なのはテレビで放送されていることでしょう。上海メディアグループが放送する約10チャンネルのうち1チャンネルが臨時措置で遠隔教育チャンネルになりました。通常の番組を取りやめて、先生の講義映像の放送に切り替えたといいます。教育委員会も約2週間で映像を準備したようです。お二方を紹介してくださった野村総研時代から上海にいる横井正紀さんは、「成功するのか分からないものをとりあえずやる。必要だと思うことをとにかく取り組む。その姿勢が中国はすごい。」と語ります。

 遠隔教育がスタートする前、自宅にあるデバイス環境のアンケート調査が学校を通じてなされました。テレビ、パソコン、タブレット、スマホの何を持っているのか?どれが便利か?どの放送局の番組が見られるか?どのようなタイプのテレビか?など家庭環境の把握に学校は努めました。
 
 結果としてはデバイスを問わず視聴できるように準備がなされましたが、子どもたちにとっては、テレビをつけさえすれば授業が見られる環境はパソコンをセットするよりもハードルが低いかもしれません。授業の時間になるとテレビをつけて視聴し、また次の番組が始まる前までに画面の前に戻る。そのような生活を子どもたちは送っているようです。
参考までに、パソコンでは「上海市中小学空中课堂」というページから視聴できます。
【上海市中小学空中课堂】
https://ke.qq.com/act/shanghailive202002_pc/index.html?id=4&from=singlemessage&mmticket=

先生とのやり取り

 講義映像の視聴後に取り組む課題は、DingTalk(釘釘)でやりとりします。DingTalkは中国で会社の総務的プラットフォームとして定着している企業向けAPPです。出勤管理、決済管理、稟議管理など一般に会社の総務機能が集約されています。更にプロジェクト管理や顧客管理などの営業ツールも充実しており、社員の日常管理、業務の日常管理には欠かせません。これはアリババが開発し、一般的な利用に関して登録は必要ですが、無料で利用できます。このDingTalkの仕組みを使い、学校のクラスを一つの会社のように見立て、DingTalkにある様々な機能を利用した充実したコミュニケーションを実現しました。
 
 DingTalk内で教科ごとにスレッドがあり、使用するテキストや参考文献、課題などはそこに掲示されます。写真は2年4組の画面です。生徒たちが課題に取り組み、DingTalk内にアップロードすると、先生がフィードバックをくれます。生徒は、間違えた問題を解き直し、再度アップロード。先生からOKが出たら、その日のその項目の宿題は完了となります。

 例えば、こちらの写真では数学の宿題が掲示されています。「39ページに取り組みましょう。」子どもたちは、紙の教科書で問題を解き、完成した宿題を写真に撮ってアップロードします。提出した順番に生徒の回答が表示されており、先生はその中から毎回「優秀宿題」を紹介します。

 英語のテスト画像のようにワードファイルで送られてくるものは、そのまま書き込んでデジタルで提出しても構いませんが、プリントアウトして解いて写真で送る子どもが多いそうです。

 課題をプリントアウトして写メで提出するというのは、確かにスマホさえあれば誰でも簡単に対応できそうな気がします。
 
 今回の遠隔教育化で最も売れたのは、プリンターだといいます。プリンターの在庫が3月に切れました。タブレットも売れ行きが伸びましたがスマホを持っている人は多い。それに対してプリンターがない家庭が多いものの、今回の遠隔教育はプリンターがないと対応が難しいため、多くの家庭が購入しました。
他にも、美術の時間では絵を描いて写真をアップロードしたり、音楽の授業では送られてくる音楽を鑑賞したりといった授業も行われています。
 
 「熱はないか?」「上海市から出ていないか?」といった健康状態の報告も毎日することが義務付けられており、そちらもDingTalkを通じて行います。DingTalkは日常的に活用していたものの、このような使い方をしたのは初めてとのこと。

 
 もう1つグループワークの課題の際に活用するアプリもあります。アプリ内で3~5人ほどのグループが複数設置されています。そのグループ内で、作ったものを共有し、お互いに評価をし合っています。今日も英語の朗読文章を撮影して送り合っていました。
呂さんのお嬢さんは、スマホを持っていませんでしたが、今は宿題を全てスマホで行っているため、とうとう自分のスマホを持つに至ったそうです。
 
 それ以外に、保護者と学校の情報共有のためにwechatを活用します。チャット室に先生から届きます。日頃から活用しており、もちろん遠隔教育中も重宝しています。
 
 
オンライン授業3~中国(後半)へ続く

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