メタバース空間に学校を作って授業する
第98回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.10.7 Fri
メタバース空間に学校を作って授業する<br>第98回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2022831日、株式会社シュタインズ 代表取締役 齊藤 大将氏を招いて、「現実よりも没入感の高い現実 メタバースが生み出す学習の未来」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、齊藤氏がメタバース上に創設した学園コミュニティ「私立VRC学園」の概要、メタバースを教育に活用することの可能性と注意点を解説。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「現実よりも没入感の高い現実 メタバースが生み出す学習の未来」

■日時:2022年8月31日(水)12時~12時55分

■講演:齊藤 大将氏
株式会社シュタインズ 代表取締役

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質問に齊藤氏が答えるかたちで質疑応答が実施された。

メタバースの教育分野での最新活用状況や自己肯定感が現実世界で継続するかなどの質問が

石戸:「海外の状況をもう少し知りたいという質問が複数あります。VRからメタバースという言葉に変わり、日本でも受け止め方に変化が見られたと思います。先ほどアメリカの高等教育の4割ぐらいがなんらかの形でVRを活用しているという話もありました。メタバース×教育という視点において、アメリカのみならず海外での受け止められ方はどうなのか、実際にどう活用されていて、それに対して良い点も悪い点も含めてどのような評価がされているのか、もう少しお話を伺えればと思います」

 

齊藤氏:「アメリカの大学でも実際にメタバースやVRが活用され始めたのは、ここ1年ぐらいのことです。基本的には、文化面やエンジニアリング、エンターメント以外でVRが浸透して進化してきたことを、リモート講義形式で学ぶような授業です。メタバース空間でプログラミングをしてエンジニアリングを学ぶような授業も実施されています。

 

もう一つは、人種的寛容さを学ぶ教育コンテンツとしてメタバースが活用されています。講演でも触れたバルセロナ大学の事例で、人種差別意識を弱められると実証されていますので、メタバース上で人種を変えて生活してみるといった使われ方がされています。個人的な情報ですが、エストニアでもVRの授業を導入している中学校や高校はかなりありました。ただし『VRで宇宙を旅してみよう』のようなレベルです。メタバースだけで完結する内容のものは、まだ確認できていないです」

 

石戸:1つの教育コンテンツを授業などで利用する事例はあるが、私立VRC学園のようなメタバース上で教育を展開する事例は、国内外問わずあまりないのですね」

 

齊藤氏:「継続的に行われている事例は確認できていないです」

 

石戸:「これからの領域ですね。メタバースで教育を受ける側の受け止め方も気になるところです。こんな質問もきています。『現実に比べてあまりに満足が高く、というお話しがありましたが、その根拠はどこから得ていますか』という質問です」

 

齊藤氏:「これは個人差が大きく、定義もあいまいな表現になっていたと思います。メタバースではなくゲームでの話になりますが、ゲームに依存している人たちが『自分がそこで必要とされている』感覚を持てることがあると思います。例えば現実の学校や社会で目的やゴールを見いだせない、評価されることが少ない人でも、ゲームの中ならレベルアップしたことが数字でわかり没入感が高くなります。目的やミッションが与えられて、達成すればゲーム空間の世界が良くなる、自分の装備レベルも上がっていくと、自分への自己肯定感と達成感を満たしやすくなります。

 

オンライン上で人と数十分交流するだけで幸福感や自己肯定感が高まるともいわれていますが、そうなった人は現実の世界でもボランティアに参加する頻度が高まる調査結果もあります。『自分は何かできる』という肯定感を高める意味で、現実よりもゲーム空間の方が、満足度が高いのではないかという話です」

 

石戸:「自己肯定感については、バーチャルの世界とリアルの世界との関係について複数の質問がきています。『メタバースの助けを借りて自己主張ができるという話がありましたが、その自信は現実世界でも続いていくものなのか、そのつなぎはどう考えているのか』という質問や、『メタバース上で得られる高揚感と現実社会のギャップがある中で、逆に自己肯定感が低くなることはないのか』というものです。バーチャル空間とリアル世界での自己肯定感の関係性について、研究成果や事例があれば、より深く教えていただければと思います」

 

齊藤氏:「スーパーマンになって子供を助けるメタバース体験をした人たちが全員、その後現実で困っている人を助けた話をしましたが、あの事例では、ただの観光のメタバースを体験した人と比べて『手伝いましょうか』と声をかけるまでにかかった時間が約3倍速く、しかも約2倍長く助けた、とされています。観光を体験した人の20%は困っている人を見ても無視しています。

 

また、自分のアバターのトレーニングを見たことが刺激になって、運動意欲が高まったことも実際に確認されていますが、ネガティブな側面をご紹介すると、『Call of Duty』や『バイオハザード』など、戦って人を倒す系のゲームは、戦略的思考や反射神経は高まりますが、一気にカッとなってしまいやすくなるという調査結果もあります。コンテンツ次第では有効だけれど、選択によってはネガティブな部分も育ってしまう可能性もあると思います」

 

石戸:「『SecondLifeの話もありましたが、過去のものとどう違うのか。単にメタバースという言葉が流行っているのか、齊藤さんの見解が知りたい』という質問がきています。確かにVRはこれまでも、ブームが来るといわれては定着しないということを繰り返してきたと思います。これまでと今回のブームはどう違い、教育分野においてどのように定着していくとお考えかお聞かせいただけますか」

 

齊藤氏:「『SecondLife』が廃れた理由は、何をしてよいのかよく分からなかったことが一つです。VRChatRec Roomもそのような感じです。私も初めたときに何をしてよいのかわからなくすぐ止めてしまいました。

 

要するに何をすればよいのか目的がわからかったのに対し、メタバースで生活している多くの人は、自分自身がクリエイターで、VR開発環境のUnityを使って自分のワールドやアバターを作り、それをバーチャルSNSにアップロードしたり、バーチャルマーケットというイベントに出展したりしています。そういう人たちにとっては目的が明確です。作品を見てもらい承認欲求を満たせます。そのようなイベントがなくなると一気に人が離れていくように思います。目的があるかないかの違いは大きいと思います」

 

石戸:「以前ここでVR×教育のテーマを取り上げたとき、コミュニケーションの定義も変わってくるという議論がありました。バーチャル上、メタバース上でのコミュニケーションに関する質問がきています。ひとつは、『現実の世界ではノンバーバル、人の表情やお互いの感情を理解する中でコミュニケーション取っている。メタバース上では表情に当たるもの、言葉ではない部分のコミュニケーションを、どのように取っているのか』という質問です。また、別の質問者は『いじめ』という例を挙げていますが、『メタバース上だからこそ起こりやすいトラブルはあるのか』という質問です。これから先、メタバース上で多様な方々が集まる学びのコミュニティを作るにあたりどのような点に留意するべきかという視点からも、この質問は気になります。齊藤さんのこれまでのご経験からの知見を教えていただけますか」

 

齊藤氏:「アバターの表情は、現実よりはわかりにくいですが、逆に勝手に笑顔になったりすることもあって、良いところも悪いところもあると思います。いじめまではいかないですが、トラブルはけっこう発生しています。同じ病気を抱える人や同じ趣味を持つ人が集まるコミュニティはある意味閉鎖的ですが、日本特有の成長の仕方である気がしています。現実では会わないような人と出会い、何十人か集まって話が盛り上がるのですが、その空間を守りたい意識が強すぎてしまう面もあるようです。なじめない人や、荒らしとまではいかなくても、目立とうとするなど温度感が異なる人、意見や方向性の考え方が異なる人がいると、このコミュニティに入れたくないとモメてしまう。メタバースで最先端なことやりながら、とてもコンサバティブな人たちもいるのです」

 

石戸:「講演でも触れていましたが、『不登校の子供たちの学びの場として大いに期待できるのではないか。しかし普及には至っていないのではないか』との質問がきています。今後の可能性と、齊藤さんが考えているメタバース教育の展望について、最後に一言いただければと思います」

 

齊藤氏:「実際、私のイベントに参加してくれる人たちの中に、不登校の子供たちは多いです。メタバースにはそういう傾向の人が多いのか、たまたま私の周りに多いのか、きちんと調査したわけではないですが、現実に対して違和感がある、自分は周囲と馴染めないと感じている人たちが集まり、理解しあえる人たちがいると知ることができる、私立VCR学園では普通の学校ではできないような学習ができています。

 

これは個人的なことですが、知能の高い人が多い印象も受けています。先日遊びに来てくれた高校生も、10代とは思えないほど知識が豊富で英語も少し話せて、私からは「君みたいな人はすぐに海外の大学へ行くべきだ」と言いました。そういう人たちに認知される空間であるという広げ方も1つあると思います。

 

メタバース上でイベントを主催する側は、(参加する方たちの事情や属性を)理解したうえで寄り添いコミュニケーションを取れなければならないと思います。企画としてそのような人たちをただ集めて従来のやり方で接しても、彼らにとって居づらい場所になってしまいます。現実にもそのようなことがありますが、メタバースでも同様です。

 

見た目がアバターのため相手の年齢が分からなく、つい最近10代だと分かっても、それまで年上だと思って接していたのでそのまま敬語で話しているようなことも実際にあります。このようなことも彼らにとっては心地よいのかもしれません」

 

最後は、石戸の「多様な学びの場の構築という視点からも、メタバースの教育への活用は今後も期待したいと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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