児童・生徒13,000人分×9年間の膨大なデータをAIが分析し先生をアシスト
第97回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.9.29 Thu
児童・生徒13,000人分×9年間の膨大なデータをAIが分析し先生をアシスト<br>第97回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は202283日、コニカミノルタ 情報機器開発本部 DX開発推進センターの 松末 育美氏を招いて、「誰一人取り残すことのない、個別最適な学びを届ける『tomoLinks』~学びに関わるすべての人がつながる、子ども一人ひとりが 望む未来に向かって自ら成長していく社会へ~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では松末氏が「tomoLinks」の概要と、文部科学省と大阪府箕面市の小学校が取り組んで同サービスを活用した実証事業について紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「誰一人取り残すことのない、個別最適な学びを届ける『tomoLinks』~学びに関わるすべての人がつながる、子ども一人ひとりが 望む未来に向かって自ら成長していく社会へ~」

■日時:2022年8月24日(水)12時~12時55分

■講演:松末 育美氏
コニカミノルタ株式会社 情報機器開発本部DX開発推進センター

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、コニカミノルタtomoLinks 事業・開発責任者の 石黒 広信氏とコニカミノルタ 情報機器開発本部 副本部長の原田 英典氏が加わり、参加者を交えての質疑応答を実施した。

「良い授業」とは? 定義に関する質問やtomoLinks」の導入効果に関する質問が多数

石戸:「ありがとうございます。質問が多数寄せられています。『ベテランの先生の授業が必ずしも優れているわけではないと思いますが、若手の先生が目指すべき良い授業の定義は、どのようにされているのでしょうか』。これに対して石黒さんからは『授業力が高いベテランの先生の授業を分析した』という回答がありました。もう一歩踏み込んで質問させていただくと、これからの授業のあり方、先生の役割も変化が求められています。そのような中、皆さんが考える『良い授業』、『先生の役割』の定義があって初めて、分析が活かされるのではないかと思います。定義はどのようにされていらっしゃるのでしょうか」

 

松末氏:「ご指摘のとおり、良い授業/悪い授業には定義があると思います。それは先生と先生を比較することもありますし、先生自身が授業を振り返ることもあると思います。現在は4つ観点(「発話比率」、「挙手人数」、「視線低下率」、「机間指導」)でレポートをさせていただいていて、そこから先生がどう考えるかにもよりますが、我々は大学の有識者からも、どういうところが良いか悪いか、どう改善したら良いか、コメントをいただいています。より深いレポートを作っていこうと思っています」

 

石黒氏:「『下を向いているからといって集中していないとは限らないのではないか』など、いろいろなお話を頂戴していますが、このシステムは、子どもたちや先生を監視するものでなく、先生の振る舞いを振り返るためのものです。今後の授業のあり方はおっしゃる通り変わっていくと思います。我々は教育者ではないので、分析観点は大学の先生や現場の先生にお伺いしながらやっているところがあります。先生が一方的に話し続けていって、子どもたちが聞いているだけの授業ではないところを目指している、というところは先生方からフィードバックを頂戴していますし、我々もそうあるべきだと思っています。なるべく対話的な授業がなされているのか、子どもたちが活発に活動しているのか、そういう様子を先生方が上手く見られるようにできればと思っています」

 

▲ 写真1・コニカミノルタtomoLinks
事業・開発責任者の 石黒 広信氏

 

原田氏:「先生の人数に対して子どもたちの人数が多いため、見落としや振り返りにかける時間を思うように取れていないと思います。そこをどれだけ改善していけるかが大切です。改善の手法はさまざまあり、『良い』の定義も子どもたちによって違いますが、先生がいかに手間なく、たくさんの子どもたちに個別最適な学びを提供できる環境を作れるか。これが全体像になると思います」

 

石戸:「タイトルにも『個別最適』が掲げられていますが、授業の中でもまさに個人が個別最適化されたやり方で学ぶ時間帯と、対話的協働的な学びをする時間帯とによって、良い時間の定義も変わってくると思います。さきほどの視点でいうと、自分で意見を考えるところであれば、下を向いて集中している時間が長い方が良いという考え方もあると思います。視聴者からもそのようなご指摘が複数ありました。良い授業という定義に対して、それも一律ではないと思いますが、議論がなされるとよいと感じています。

 

同時に、その分析の結果に関する質問もきています。『良くも悪くも教員のみなさんの評価につながる話。そうすると、教育委員会、教員の皆さんの反応やお考えはどうだったのかについて、意見を伺いたいです』それと、導入期間はまだ長期ではないのかもしれませんが、『システム導入によってどんな指導の変化が実際に起こっていたのかについて聞きたい』という声も上がっています。いかがでしょうか」

 

松末氏:「先生の評価になるのではないかということは、実証事業を始める前も結構、議論されました。『授業診断』は、嫌がる先生も一律に撮るのではなく、より指導力を高めたい先生にフォーカスして可視化をしています。教育委員会にも、評価に使うのではなくより自分の授業を改善したいという思いに応えたい、と伝えていて、撮りたいという先生にこのようなサービスを提供しています」

 

石黒氏:「批判的なお話もあれば、そうあるべきだとのお話もあります。先日も導入を検討している私立の小学校にお伺いしましたが、そちらの先生の1人は、以前、子どもたちからフィードバックをもらう仕組みの学校に勤めていたので違和感はないということでした。しかし別の先生からは、あまりよい印象を持てないというお話も伺っています」

 

松末氏:「先生の変化について、授業に向き合う姿勢が変わった、話しすぎていた先生から、抑えようというコメントをいただきました」

 

石黒氏:「始まったばかりのサービスなので、事例はまだそれほどできていないのですが、先日、教員養成課程がある大学様で、学生さん10名程度に使っていただきました。これから教職に就く方からは、『一方的に話している時間が長いとか、机間指導ができていないなど客観的に分かった。もう少しうまくなったときにもまた撮ってみたい』と、前向きなフィードバックをいただきました」

 

石戸:「先生の反応に関してだけではなく、子どもたちの反応に関する質問もきています。『新しいシステムの導入前後で、子どもたちの学びには変化が生じたのか』とありますが子どもたちの変化があれば教えていただければと思います」

 

松末氏:「授業診断は先生向けのサービスなので、子どもの学びが変わることとは違います。子どもたちの反応は、教室にマイクとカメラが設置されていたのを忘れた、というぐらい、何気なく撮影できています。先生自身が指導力を上げようとしているという、先生が学ぼうとしている姿勢が子どもに見えて、すごくよいというお声は、教育委員会から届いています」

 

原田氏:「このシステムは、教材のように子供たちに直接触れてなにか効果を与えるものではなく、先生という指導者を通して子どもたちにどういう効果を与えていくか、というものです。先生たちが授業中に気づけなかったことに気づける、例えば『この子、授業中は当てなかったけれどよく手を挙げている』など、振り返って見てみると印象が違う子どもの様子を認知できるようになると思います。そうして先生と子どもたちのコミュニケーションの関係性がより正しい形になっていくことも、期待できるのではないかと思います」

 

▲ 写真2・コニカミノルタ 情報機器開発本部
副本部長の原田 英典氏

 

石黒氏:「もともと先生の指導力の支援をしたいとスタートしましたが、サービスをご紹介して先生方から、『授業中に見きれていない子どもたちの、普段と違う様子も見られるようになった、そんな子どもたちをピックアップしてあげたい』というフィードバックをいただきました。あと、『生徒が自分の話を集中して聞いてくれているか、見ていきたい』というお話もいただいています。

 

当初は『監視するのか』とネガティブに捉えられて、どう進めたらよいものかと思ったこともありましたが、世に出してみると意外と『しっかり見とりたい』というお話は多いと感じています」

 

石戸:ICT教育に関するさまざまなサービスが生まれている中、他社のサービスとの違いに関する質問もきています。御社として『他と違うここが強み』というポイントを教えていただけますか。また、この先より多くの学校や自治体に展開していくにあたり、考えていらっしゃることがあれば教えていただければと思います」

 

石黒氏:「我々は、画像も含めた教育データの活用をテーマとしています。背景として画像解析、データサイエンスに関しても強みがあると自負しています。ですので、現在サービス展開しているものは、さまざまなデータを収集していく入口になるものを中心に考えています。データを収集して分析することに注力していきたいです。その例が授業診断です。文部科学省やデジタル庁が進めている学習eポータルとの親和性も測りながら、進めていきたいと考えています」

 

石戸:「『画像や音声と学習者端末データが連携して分析できるとよいと思いますが、いかがでしょうか』という質問もきていますが、今のご回答を伺うと、今は入口部分のサービスを展開しているけれど、学校のクラス内プラスαに関するデータを総合的に取り扱うようなサービス展開をしていきたい、という理解で正しいでしょうか」

 

石黒氏:「はい、おっしゃる通りです。端末の操作状況など、複合的な分析もやりたいとのご希望もいただきます。昨今は端末のセキュリティレベルが上がってきているので、操作ログは撮りづらいと思うのですが、そのような方向に展開できればと思っています」

 

石戸:「最後に、これから取り扱うデータに関する質問を2つご紹介して終わりにしたいと思います。『授業時間以外の子どもたちの様子も分析できると、例えばいじめの早期発見につながったり、子どもたちの心身の状態など、総合的に把握しやすくなったりすると思います。この先どこまでの範囲のデータを取り扱うことになるでしょうか』というものです。

 

2点目は個別最適化、最初の質問にもつながると思いますが、タイトルにもなっている『個別の最適な学び』が苦手分野の克服とはイコールではない中で、『どのような個別最適な学びを目指したいのか』というもの。具体的には、『子どもたちの個々の興味関心をくみ取るようなデータ取得方法も検討されているか』ということです」

 

石黒氏:1つ目のご質問に関しては、我々だけでできることではないと思います。幸い、今回の試みを表に出すことで『我々のシステムではバイタルデータを持っているのですが、(協業の)お話をしてみませんか』といった話も複数いただいています。我々としてはデータの活用に主眼を置いて、どんなデータでも活用方法を一緒に考えさせていただくスタンスで取り組んでいます」

 

原田氏:「個別最適な学びについてのイメージ、皆さんはもうお持ちだと思います。問題は先生が1人で子どもが30人も40人いること。必ずしもずっとその教室で授業をしているわけではないし、さまざまな子どもがいる中で、先生が見切れない子どもに対して個別最適な学びをすることは不可能です。そこをデジタルとテクノロジーで可能にする。例えば『話す』という人間的なインターフェースだと10分もかかってしまうところを、AIだと10秒でできるわけです。時間短縮できることで先生の時間が増えて、子どもたちと個別最適な理解ができ、その学びを届けることができるわけです。我々には『個別最適な学びとは何か』を定義づけることはできません。個別最適は子どもの数だけあるからです。このシステムで個別最適な学びを提供するのではなく、個別最適な学びを提供する環境を作り、現在の状況での個別最適な学びを先生方と一緒にお届けする、そのご支援ができればと思います」

 

最後は、石戸の「さまざまな企業と連携しながら多様なデータを活用しながら分析されていくとのこと、このサービスが個別最適な学びを実現する学習環境を科学的に分析して構築していくことにつながることを期待したいと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

 

▲ 写真3・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

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