日本でも本格化する才能教育への取り組み
第94回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.8.19 Fri
日本でも本格化する才能教育への取り組み</br>第94回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は202276日、愛媛大学学長特別補佐・教育学部教授の隅田 学氏を招いて、「一緒に考えよう、ギフテッドの子どもたちが輝く教育と社会」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、隅田氏が、特定分野に突出した才能を持つ「ギフテッド(才能児)」と呼ばれる子どもたちへの教育について講演し、後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「一緒に考えよう、ギフテッドの子どもたちが輝く教育と社会」

■日時:2022年7月6日(水)12時~12時55分

■講演:隅田 学氏
愛媛大学学長特別補佐・教育学部教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの超教育協会理事長の石戸 奈々子が参加者からの質問も織り交ぜながら、質疑応答を実施した。

現に苦労している保護者から質問が相次ぐ

 石戸:「視聴者からは切実な質問が数多くきています。まず、ASD(自閉スペクトラム症)とギフテッド傾向のある子の保護者の方から、『ASDとギフテッドの違いの見分け方、教育手法の違いなどがあれば教えてください。実際、日々の生活でとても四苦八苦しています』という質問がきています。ほかにもギフテッドと発達障害を併せ持つ子どもへの対応に関する質問が複数きていますがいかがでしょうか」

 

隅田氏:「これはアメリカでもよく誤診があり難しいと言われるところです。自閉症ももちろんですが、ADHD(注意欠如・多動症)で多動なのか、それとも非常に意欲があるのかの違いも、障害と才能を併せ持つTwice Exceptional2E)もいるので見分けるのが難しいのです。私としては、幼い段階であまり診断を急がない事をお勧めします。成長・発達に伴って変わってくることもありますので、行動特徴を見ながら何かできるかを考える、いわゆる行動でのスクリーニングあるいはチェックぐらいでよいのではないでしょうか。

 

それでそうなったときには、特に軽度発達障害や2Eとの関連で、『読み書きが苦手』とか『集中できない』など、まず苦手な部分に目が行くと思います。それで、そこにサポートをつけて一生懸命やらせることが多いのですが、もし医学的な原因があるなら子どもにはかなり苦痛の可能性があります。従って、得意分野を伸ばすこととセットで考えるべきです。私が理科をやったのも、例えば、読み書きが苦手でも、大好きな植物の成長日記ならすごく緻密に書けるとか、計算は苦手でもその成長の値をグラフにするのはできるとか、統合的にやりやすいと考えたからです。

 

また、理科は観察・実験があって全てが座学ではないことや、友達と一緒にやることが多いので座学よりも仲良くなりやすく、自分の得意分野であれば比較的寛容になれる部分もあります。これは診断にも言えることですが、特定分野に特異な才能のある子どもに対する教育であっても統合的で広範な視点重要です。

 

男女差が関係している可能性もあります。その辺りも含めて今回試しにウィンタースクールは女子だけでやってみましたが、こういうところも少し気になっています」

 

石戸:「今の質問と同様に苦労されている保護者の方々から、『ギフテッドの子どもが大変なことは十分理解していますが、親も本当に大変で支えてくれる場所がないと親子共倒れになると感じています。その支援についてどう考えていますか』、『公教育の中で孤立してしまう子どもを支える保護者に対してできることはありますか』など、保護者支援やギフテッドの子ども達を公教育以外でどのように支えるかという視点での質問が多数きていますが、いかがでしょうか」

 

隅田氏:「考え方は2つあって、1つはカウンセラーのようなものを育てることです。私は教育学部の授業科目として才能教育論をスタートさせましたが、それをもう少し発展させて集中的な研修のようなものが行えると、専門知識を持って相談に乗れる人を増やせます。そういう人がある程度いれば違ってくると思います。

 

もう1つは、保護者にも子どもにも言えることですが、学校以外で同じような傾向がある子とネットワークを作ることが大事です。そのプラットフォームとして私はキッズ・アカデミアを作りました。コロナ禍も経験し、今はWebベースなので南九州から北海道まで、さらには海外在住の子もいます。キッズ・アカデミア以外にもこういうものができて、交流会や保護者相談会をしたり、同じ悩みを持つ人同士でネットワークを作っていったりすることが必要と考えます。

 

それと、アメリカでは全米才能教育学会の出版物に『ペアレンティング』と言う保護者としての関わり方についての雑誌が出ています。そういう分野でメルマガやニュースレターなど、思いだけではなく根拠を持って発信できるところがあるとよいですね」

 

石戸:「ゆくゆくはそういうカウンセラー育成やプラットフォーム構築が求められていくと思いますが、質問を見ていると、今、切実に困っている保護者が多いようです。そのような方々に現時点で何かアドバイスできることはありますか」

 

隅田氏:「才能ある子どもが身近にいたら、もちろん、よい大学へ進む、お金持ちになる、社会的に成功する様々に考えるかもしれませんが保護者の方が切に願うのは、子どもが生活を楽しんでくれること、健康であること、それに正しく生きることだと思います。そういうところ、Less is Moreではありませんが、子どものやる気や問題を考慮しつつ、まず、『ここだけは』を絞って、優先順位を付けて一つずつやっていくことだと思います。

 

現代は家族にもいろいろな形態がありますし近くに相談できる人がいないケースもあります。その中で今すぐの対応といえば、このような優先順位をつけてできるところからやるしかありませんが、特に重要なのは健康やウェルビーイングに関わるところだと考えます。能力ある子は、身近な大人以上に自分でできる部分もありますその成長の邪魔をせず、健全に育つために何ができるかを考えるということではないでしょうか」

 

石戸:「次は『依存』に関する質問で、これも複数の方からきています。例えば『はまると突き詰める一方で、ある一定以上の知識を得ると次にどんどん興味・関心がシフトしていく。現状ではゲームにはまって一日中ゲームをしている』など、特にゲームやデジタルに没頭していることを心配する声が上がっています。特性上、何かにはまりやすい、没頭しやすいことが依存的なものを引き起こす可能性について心配されての質問と推測しますが、その辺りについて先生のお考えやアドバイスはありますか」

 

隅田氏:「幼い時期より特定のことに対して集中力が高い子もいるでしょうそこで保護者の方にお願いしたいのは、少しの時間でよいので、できるだけ多様なことに声掛けをすることです。子どもがすぐ飽きてもよいし、外に連れ出して嫌がったらすぐ帰ってもよいのです。子どもの頃に多様な経験をしてを通して、特定のことに関する学び豊かになります

 

これは味覚と同じです。子どもが好きだからと毎日同じものだけ出していたら他のものを食べなくなります。そのうちに飽きて食べなくなるかもしれません。辛い・酸っぱい・塩っぱいなどいろいろなものを食べるから甘さを感じることができます、甘いものしか食べていなかったらの豊かさが実感できません。後になって、やっぱりやってみようと思ったときに手遅れにならないように、少しでも経験しておくことが大事思います」

 

石戸:「次は、『ギフテッドの子どもが個別の特殊な教育を受けた場合と受けなかった場合で長期的にどのくらい差があるのか、客観的に計測した研究があれば教えてください』という質問ですが、教育効果を含めていかがでしょうか」

 

隅田氏:「何を指標とするかにも拠りますが、例えばアメリカで中学校時代に何らかのギフテッドのプログラムに参加していた子を追跡し、30歳ぐらいの時に学位やパテントの取得率が明らかに高いことを調査した研究はあります。逆に、科学オリンピックなどで賞を取るような子どもの幼い時に遡って、何かに没頭していたとか、何かを調べて夢中になっていたとか、そういう経験を調べる研究もあったと思います

 

石戸:「参加者の方々からは、『カウンセリングしていただいても限界があって日々の生活が本当に困っている』といった切実な声が数多く届いていますが、『聞きたいのはギフテッドに育てることではなく、高学年になって才能があるのに不登校になってしまうケースが非常に多い。そういう子にどのように対処していけばよいのか』というような質問もいくつか上がっています。いかがでしょうか」

 

隅田氏:「ギフテッド担当の先生にインタビューしたとき、『通常児担当の先生から、能力が高い子を相手にするギフテッド担当の先生は楽でうらやましいと言われるが、実際には質問攻めに遭うし、対応もしっかり見られて大変です』と言っていましたから、24時間・四六時中一緒にいる保護者の方はなおさらそう感じると思います。でも、振り返ってみるとずっと聞いてもらえるのは、ある程度の一定期間だけです。そのうちに親に聞いてもどうにもならないから専門家やより詳しい友人に聞くようになるなど、高校生・大学生になると、あるいは社会に出るとかなり変わってきます。

 

私が相談に乗った中にも、小学校低学年の頃はまだ『少し変わった子』くらいだったのが、高学年になると周囲が中学受験を控えてストレスが溜まる中であまり考えなくても成績が良くて、親が知的欲求を満たすつもりで行かせた塾でいじめがあって大変だった子どもがいます。それでも、中学校、高校、大学と進学するに連れて、より似たような意識を持った子と接する機会が増えて変わっていきました。そのための準備期間と思ってください。大変でしょうけれども、その子の一生を考えれば本当に貴重な時期です

 

石戸:「学校に対して、今後このようなギフテッドの子たちがいるという前提でどのような対応を期待したいですか」

 

隅田氏:「講演でも触れた私の才能教育講習のようなものを受けていただければよいのですが、それができなければ、ギフテッドの子がいた時にどう接すればよいか、どこに問い合わせればよいか、どこにアクセスすればよいか、といったリソースのデータ集を作るべきで、これを皆で作って共有していけば内容もどんどん豊かにになります。キッズ・アカデミアのホームページでそういうリソースを発信できれば、そこに先生がアクセスすると『こういう子にはこういうところを紹介すれば良いのではないか』などと判断できるようになりますから、できるだけ早くできるように頑張ります」

 

石戸:「最後は、『先生が講演で紹介されたカリキュラムは、ギフテッドのみならず多くの子どもたちにとっても大切なカリキュラムなのではないか』という質問です。先生が示されたような探究型の学習をより多くの子どもたちに広めていくために、今考えていらっしゃることはありますか」

 

隅田氏:「いわゆる通常児への波及・展開については、『8歳までに経験しておきたい科学』の本なども含めて全ての子どもに学んでいただきたいです。ペースや学年は変わるかもしれませんが、誰もが楽しめる、実りあるプログラムです。実際、アメリカで共同研究していたウィリアムアンドメアリー大学のグループは、その才能教育センターが開発した才能児向けのカリキュラムが通常児の子どもたちにも効果があるという研究結果を示しています。

 

私も、今研究でやっているカリキュラムの一部を公開して、まずは会員メンバーからでも配布してどんどん使ってもらえばよいと考えています。野依科学奨励賞に応募したときは授業の指導案的なインストラクションまで作っていたので、見直しながら公開していこうと思います」

 

最後は石戸の「本日は切実な思いのこもった質問がとても多くありました。隅田先生からは『本来はこういうものがあればよい』というご提案をいくつかいただいたので、それをできるだけ前倒しすることを先生にお願いすると共に、私たちもできることに尽力したい」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る