キャンパス全体を研究成果に社会実装する実験場に
第93回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.8.5 Fri
キャンパス全体を研究成果に社会実装する実験場に<br>第93回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2022629日、金沢工業大学学長の大澤 敏氏を招いて、「全国の学長注目度No.1 金沢工業大学の教育DXと社会実装教育とは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では大澤氏が、金沢工業大学が取り組む「プロジェクト型実践教育」と、文部科学省が公募するDX 施策「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」に採択された教育DXの取り組みについて紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「全国の学長注目度No.1 金沢工業大学の教育DXと社会実装教育とは」

■日時:2022年6月29日(水)12時~12時55分

■講演:大澤 敏氏
金沢工業大学学長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの超教育協会理事長の石戸 奈々子が参加者からの質問も織り交ぜながら、質疑応答を実施した。

「大学の枠を越えた取り組みがなぜできるのか」に参加者から多くの質問が寄せられた

石戸:「学科や学部だけではなく、大学と企業、さらには時間や場所の枠を超えて、超教育を実現していることに非常に感銘を受けました。同じ大学の異なる学科のコラボレーションさえ難しい中、なぜこれだけ枠を超えた、産学連携を実現できたのか、もう少しお聞かせください」

 

大澤氏:「本学園は2022年で65年周年ですが、建学の綱領には『人間形成、技術革新、産学協同』とあり、これが土台になっています。先生たちも企業と協同しないと新しい社会実装のアイデアが出てこないことは、理解しています。

 

もう1つのポイントは『人』です。教員の採用は『アカデミックな人』と『産業界から大学の先生になった人』をだいたい半々ぐらいにしています。すると学内に半分産業界出身者がいることになるため、時間を追うごとにきちんと融合していきます。

 

今は、いろいろなところからイノベーションを起こさなければならない社会の流れがあります。いろんなつながりを作るためにも産業界との共同研究、それと採用の2つを意図的に行っていることがポイントです。

 

建学の綱領から始まり、採用のときの産業界とアカデミックを半々にすること、社会実装の場を作ることだと思います。補助金によって新たな取り組みを実施すると先生方の教育・研究活動も活性化します。よい学生がそこへ行きたがり始めたことも、加速する要因だと思います」

 

石戸:「産学連携の場を別途設置していることと同時に、キャンパス全体がそもそも実験場でラボであるという設計も非常に特徴的ですね。一般的には、『とはいえ、危険なものもあるから』、『とはいえ、セキュリティ上問題があるから』などの声が大学内からあがり、なかなか実現できないものだと思います。やはりご苦労はありましたよね」

 

大澤氏:「それはありました。インクルージョンの考え方でいかないとなかなかうまくいきません。基礎研究に集中される先生方もいますが、そこから派生して社会に実装することがあれば協力していただくことなどを考えています。まずは共感する先生、職員、学生とで実施してみることがよいと思います」

 

石戸:「今のお話に近い質問が2つきています。1つめは『社会と協同してDXに貢献しても、それは論文に結び付かないという意見が出ることはないのか』2つめは、『尖った研究は、短期的な視点ではなかなか採算が取りにくい。バランスはどう考えているのでしょうか』というものです。インクルージョンが大事というお話がありましたが、どのように捉えていらっしゃいますか」

 

大澤氏:「まず、社会実装的と基礎研究的、両極端な研究テーマがあるとすると、その中間を結ぶ研究テーマも実はあります。それはシーズ(Seeds)かもしれません。そうした研究テーマに取り組むには、研究所単位で独立しているとできません。社会実装と基礎研究を結びつける場所が重要になります。

 

そのうえで、基礎研究はとても大切だと考えています。日本の大学には学問がなくなりつつありますが、私は大学に学問がなくなったら終わりだと思っています。基礎研究をする先生が活躍できる場を設けることがとても大事です。基礎研究と応用研究、それぞれが大切で、どちらも推進する姿勢であることを大学が示しておかないといけないと思います」

 

石戸:「産業界の反応も伺いたいと思います。企業からすると、学生にコーオプ教育で給料を払うのは負担が大きいはずなのに、受け入れる企業が数多くあるのですね。受け入れた結果、企業はどのように反応していますか」

 

大澤氏:「コーオプ教育の話を企業に持ちかけると、最初の反応はほぼ100%『えっ、給料を払って学生の教育をして、企業は何もよいことないじゃないですか』です。そんな企業には、『産学協同で大学の先生と共同研究できることに加えて、先生がバックについた学生を雇用し実証研究のような形にしてはどうでしょうか』と働きかけます。例えばインターンシップを導入してもよい学生が来るかは分からないですよね。それに対し、先生と協同研究できる、先生がバックについた学生を雇える、実証実験できる、ということで企業にメリットがあり、Win-Winになる形にしたいと考えています。

 

学生は、雇用されていても結構自由に発言します。多様性の時代と言いながら、企業にはいろいろな意見を言う人材がいなかった。そういうことが、副次的な効果として起こってきます。課長や部長が実務家教員になり、入社34年目の方がメンターとして学生につきます。『その人がやりたいことを、学生を巻き込みながら社内でやってみてください』とします。

 

『工場でAIを活用するには』の例では、本学のAI専門の先生が共同研究している工場へコーオプ教育の学生が行き、メンターと一緒に工場のいろんな音声を測り、それを解析しました。すると『あと2週間でこの部品が壊れる』など、誰も分からなかったことも分かってきました。そんな成果が出てくると、ほとんどの企業は『次の学生をください』『学生をもう少しいさせてください』という反応になります。企業が実務的に大学の先生と協力して、チャレンジしたいことができるようになるのがコーオプ教育です。

 

企業としては、給料を支給することで、学生は真剣に取り組み成果を残してくれるし、研究テーマが未完成なら次の学生のコーオプ教育で継続もできます。大学がバックアップしていて、しかもテーマを決めていますのでリスクはそれほどないのです。インターンシップとは全く違うことを企業が実感してくれると、産学協同はどんどん進みます。企業だけでなく、自治体の金沢市からもコーオプ教育をやりたいという話が出始めましたので、期待しているところです」

 

石戸:「大学のあり方を抜本的に見直すべきとの気運が生まれており、現実的にもそうだと思いますが、大澤学長が国内外問わず、あり方に注目している大学があれば教えていただきたいです。すでにさまざまな改革をされて、これからの大学のありかたそのものを示してくださっているようにも思えますが、さらにこういうことをやってみたいという展望もあれば、最後にお願いします」

 

大澤氏:「端的に言うと、我々は『生涯学び続けることができる大学を目指す』方針です。日本は高等学校を卒業して大学に入る単線型の教育であるのに対し、ヨーロッパはマイスター制度などあって、複線型の教育です。アメリカでもリカレントなど、会社を辞めて大学で学びまた再就職することがあります。日本は18歳からの始まりで、26歳以上の学生が極端に少ない。同じ世代だけでやっていたら何も生まれません。

 

生涯に亘って学び続けられる大学は必ず社会と結びつき、社会で活躍した先輩がまた大学に戻ってくることは、学生にとって将来を見られる意味でもすごくよいことです。

 

また、海外の学生も学ぶことができる仕組みには、国際性もなければなりません。もちろん外国から日本に来ることもできますが、それがDXで実現できる。そういう新しい大学を企業、自治体、社会全体で作っていくと、その中にSociery5.0が目指す姿があります。『なぜスマートシティを作らなければならないのか』、にはWell-beingがあり、その自己肯定感を元に、日本の大学が今後発展していくことを願っています」

 

最後は、石戸の「明確な言葉でビジョンを示してくださることが共感を呼んで、たくさんの方々を巻きこめるのだろうと感銘を受けました」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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