一人ひとりの「人生のバランスシート」を最良化するために
第92回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.7.22 Fri
一人ひとりの「人生のバランスシート」を最良化するために</br>第92回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は202268日、マネックスグループ株式会社 取締役会長 兼 代表執行役社長CEOの松本 大氏を招いて、「マネックスがSTEAM教育事業を始めた理由」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、松本氏が、オンライン金融サービスを事業の柱とするマネックスが教育市場に参入した経緯と今後の展開について講演し、後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「マネックスがSTEAM教育事業を始めた理由」

■日時:202268日(水)12時~1255

■講演:松本 大氏

マネックスグループ株式会社
取締役会長 兼 代表執行役社長CEO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者からの質問も織り交ぜての質疑応答を実施した。

 マネックス×STEAM教育が「生み出すもの」に視聴者の興味が集中

石戸:「マネックスがSTEAM教育に取り組むというニュースに大変驚き、その背景をぜひお伺いしたいと思い、本日のシンポにお声がけしたのですが、松本様の個人的な強い思いも大きく関係していたことがとてもよくわかりました。

 

講演では『論理的思考をどう育むか』というところからSTEAM教育に行き着いたというお話がありました。ひと口にSTEAM教育と言っても、手掛ける組織・人によって目指しているものには違いがあると思います。御社の場合は『論理的思考を育む』ことが最上位にきていることでしょうか」

 

松本氏:「私の思いはそうです。ただ、ヴィリングの中村は教育学部出身で、MITメディアラボをはじめアメリカで行われているSTEAM教育の各種理論を全て読んで消化したほどの専門家です。彼は数年かけて巨大なカリキュラムを作り上げているのですが、それは必ずしも論理的思考に偏ったものではなく、より包括的な内容です。親会社の経営者である私がカリキュラムや教育内容に横槍を入れることは良くないと考えています。

 

ただ、私が論理的思考を重視する元々の動機は、弊社の役員・社員が金融の仕事に携わっているにもかかわらず必ずしも論理的思考を持っているわけではないという考察が基になっています。私は論理的に考えない人々を排除するつもりはありませんが、論理的な考え方を一つの部品として具備しておくことはよいことだと思っています」

 

石戸:「日本の教育は、その『論理的思考力を身につける教育』とともに、『お金に関する教育』が欠けていると言われます。まさに御社の得意とするところですから、教育市場への参入には金融教育から入る選択肢もあったのではないかと思います。そうではなくSTEAM教育を選ばれた背景を知りたいと考え、冒頭の質問をしたのですが、いかがでしょうか」

 

松本氏:「実は投資教育は創業の頃からもう20年ぐらい、『マネックスユニバーシティ』という組織を作ってやっています。ただ、それを受講する人は『大人』です。論理的思考は幼少時に具備するもので、それができる人とできない人では、投資教育や金融経済教育を受けても全然理解度が違ってきます。『投資やお金や金融はそれほど重要ではない』と私が言うと乱暴な物言いと受け止められるかもしれませんが、それよりも論理的思考の方が遥かに重要です。

 

お金の増やし方については各種理論を勉強した方がよいですが、『お金の使い方』には先生など要りません。例えば小学生をデパートに連れて行って1万円渡し、『何か買ってきなさい』と言ったら、おもちゃや本など好きなものを買い、500円くらいはお母さん向けのものを買って次回への布石とするような『ベストポートフォリオ』をしっかり作ってきます。でも、同じ子どもに100万円を渡したら、どうでもよい50万円のソファーを買ってきてしまうかも知れません。小学生では100万円のイメージトレーニングができていないからです。

 

日本はそういうお金のトレーニングをしないまま官僚になった人が、いきなり1兆円規模の予算を預かるから使い方を間違えてしまうのです。本来は小学生なら1万円、中学生なら100万円、高校生なら1千万円や1億円のイメージトレ-ニングを重ねていくべきで、それも先生は不要、自習でやれば良いのです。その中に投資に使う子がいたり、寄付をする子がいたりすると、『投資って何』、『寄付って何』とどんどんお互いの知識を吸収し合って勉強が進んでいきます。それよりもその構成要素となり、素材となる論理的思考をしっかり身につけた方が良いと感じています」

 

石戸:「お金の教育など上に乗るものをしっかりした形にするために、まず思考のベース、汎用的なスキルに注力されたいということですね。

 

もう一つお伺いしたいのは、講演で言われた『ソーシャルインパクトを生み出すためには規模を作る必要がある』ということについてです。私もまったく同感です。約20年前からこの分野に携わっていますが、最初の8年間は、公益団体として論理的・創造的な学びを育める環境作りに取り組んできました。しかし、それで届くのはせいぜい50万人に過ぎませんでした。

 

これを、日本にいる小・中学生約1,000万人に届けるには、事業として規模を拡大することと、公教育に働きかけることの二つの手法が考えられます。私は12年前に後者を選択し、松本様は今回、前者を選択されたわけですが、この二つの手法についてお伺いします。まず、松本様が選択された『教育分野でビジネスをする』ことの可能性についてどう考えているか、お聞かせいただけますか」

 

松本氏:NGONPOというものがありますが、私は、理想的なNGOとは上場する株式会社であるべきと考えています。上場企業は株主がどんどん変わっていくことで永久資本(パーマネントキャピタル)を持ちます。一方、特定の人が集まって経営するNPOや閉鎖会社も、出資者を見つけていければ継続できますが、本質的にパーマネントな仕組みではありません。また、上場企業は外部からの牽制を受けますので、問題ある経営者は株主によって替えられてしまいますが、NGO等だと、リーダーの価値観が世間からずれて社会的使命を果たせなくなっても、その人を替えることはできません。

 

私は、大義名分のようなものはビジネスにならないとか、NGOは上場企業のフォーマットには合わないというようなことはないと思います。教育に限らずさまざまなNPONGOがサステナブルに運営されていくためには、ガバナンス面などでしっかりしたデザインがなされていればよいのです。常に『寄付をお願いします』でやっていくのではなく、付加価値に対する対価があるからつながっているという方がインデペンデンシーを保てますし、公的部門からお金をもらうより自力で稼げるものがあるほうが、自分たちの目指す価値観に合った教育やNPO活動ができます。決して大儲けするためではなく、サステナブルかつインデペンデントであり続けるために、しっかりしたビジネスとして回ることが重要ではないでしょうか。教育もビジネスになり得ると思います」

 

石戸:「私たちもNPOとして、活動資金は寄付金や国から受け取るお金は最小限に留めていました。最近は、『自分たちの事業』と捉えてサステナブルな運営を行うが、それで利益が出た場合はそれを次のパブリック事業に投資するという考え方で運営する団体も増えていますので、その事業をさらにスケールするような仕組みを作っていければよいですね。

 

もう一つ、私が選んだ『公教育への働きかけ』については、今の公教育にどういう課題があり、今後どう取り組めば良いと感じていらっしゃるか、教えていただけますか」

 

松本氏:「公教育に関してはコメントしづらいですね。というのも私は史上最低の生徒だったのです。何しろ小学校を2年で退学になり、56年の頃には先生が黒板に向かっているすきに最前列で踊り出し、廊下に立たされると壁をよじ登って上から覗き込み、しまいには机も椅子も没収されて教室の一番後ろにある木製ロッカーの上に座らされ、テストもそこで書くため鉛筆が木に挟まってテスト用紙を穴だらけにするなど、とにかく『超ウルトラ問題児』でした。

 

救いは先生がすごくよい人だったことで、PTAで私の母親が帰るのを見計らった同級生の母親たちから『松本君をどうするのですか』と迫られたときも『あの子は悪い子ではない』とかばってくれたそうです。あの先生がいなかったら私の人生はずいぶん違うものだったでしょう。

 

とはいえ大学でも1年自己留年した専門課程の3年間に出た授業がたった2時間でしたから、本質的に公教育とはフィッティングが悪かったのでしょう。それでいて、ルビ付きの本を読みまくっていた幼少期からずっと、自分で読むことや自分で調べることが好きで、性に合っていたようです。そういう問題児でしたから、公教育についてはよくわからないのです」

 

石戸:「私は、今後は『自学自習ができる子ども』が増えていくことが大事だと考えています。人生100年時代は、学び続けることが必要な生涯学習時代でもあるからです。そこで学び続ける力とは、学ぶことが楽しいと実感していること、そして『学び方を知っている』ことだと考えると、かつての松本様のように自学自習ができる子どもを育てることがこれからの公教育の役割なのではないかと思います。

 

次は視聴者の方からの質問です。『金融教育で中高生が1,000万円を扱うことをレベル感の目安とすると、STEAM教育では中高生ではどのくらいのレベル、あるいはどのくらいの規模の内容を考えていますか』というものですが、いかがですか」

 

松本氏:「数学やエンジニアリングはある意味、音楽に通じるところがあります。音楽の世界では、天才と呼ばれる人に年齢は関係ありません。例えば私と同世代で、今でも好きでよく効くアンネ=ゾフィー・ムターという天才バイオリニストがいます。彼女は14歳のときにカラヤンとの共演でモーツァルトを弾き、そのCDがグラモフォンから出ているのですが、とにかく素晴らしく、ほぼ完成しています。そう考えると数学やエンジニアリング、もしかしたらアートも、天才は12歳頃までにある程度、完成してしまっていて、そうでない人は40歳になっても、60歳になっても、敵わないのかも知れません。だから、年齢でどのレベルというよりも、子ども一人ひとりに応じて、その子が行けるところまで行けるような流動性のある教育体制が望ましいのですが、日本はやたらと枠に入れ込もうとしてそういう自由度が低いことが問題だと思います」

 

石戸:「個人によって学ぶ進度も、学びたい内容も、適した学び方も違う中、それぞれにあったSTEAM教育を提供していく、いわゆる個別最適化された学びが理想的ということですね。

 

ちなみに『総ルビ図書館に賛成です』、『是非、実現して欲しい』といった意見も添えて結構きています」

 

松本氏:「ありがとうございます。例えば私はよく美術館や博物館へ行きますが、作品や展示品の説明文に読めないものが少なくありません。それなりに教養はあるつもりですが、特に日本の古典などは読めない漢字が多すぎます。もちろん、私が知らない用語や人名の場合もあり、読めることに必ずしも意味があるわけではないのですが、読めないと全然頭に入ってこないのです。

 

ところが、説明文には大体、英文も併記されていますから、人名や建物名はそちらを読むとわかり、頭に入るようになります。これは本当に無駄な労力で、最初からルビを振ってくれればよいのです。そういう美術館や博物館の説明にはルビを振るべきだし、さまざまな図書や新聞についても同様です。私は子ども新聞もスマホの中に入れています。物ごとを根本から説明してくれて面白いからです。さすがに新聞はルビがなくても読めますが、読めない漢字が多ければわかりやすい説明も台無しになってしまうでしょう。

 

とにかくルビをもっといろいろなものに振ってほしいのですが、なぜ振らないのでしょう。文部科学省の方ならやらせることもできるでしょう。教科書や美術館・博物館の説明にルビを振るのは、その重要性と比べれば大した労力ではないと思います。本日ご視聴の教育関係の皆様にも、総ルビ図書館に賛成の方にはバックアップをお願いいたします」

 

石戸:「私もミュージアムによく行きますが、特に日本の美術館の場合、予算をみても海外と比べて教育普及に対する優先順位が低いと痛感します。海外の美術館は教育の場所としての位置付けが大きく、子どもたちが授業で作品を模写する光景もよく見ますが、日本ではそういうシーンはもちろん、ワークショップの開催、美術教材の販売なども少ない印象ですね。そういう『誰に対して届けていきたいのか』という根本のところから変えていかないと、ルビを振るという考え方が広がっていかないのかもしれませんが、それこそ生涯学習の時代においては、ミュージアムがもっと学びの場所として活用されるべきですね」

 

松本氏:「もう一つ言わせていただくと、高校生までは国立の美術館や博物館は無料にすべきです。そのための費用など国家予算から些細なものなのに、1,000円など取るから誰も行かないのです。建物自体は存在しているから新たな予算は必要ありませんし、元々来ていなかった子どもたちが新たに来るようになるだけなので収益が減るわけでもありません。それでいて将来を見据えた情操教育としてはすごく重要ですから、なぜやらないのかと思います」

 

石戸:STEAM教育の内容に関する質問が、たくさんきています。具体的な活動の中身はヴィリングのホームページをご参照いただければと思います。

 

そのほか、『マネックス傘下に入ったことでいっきに本格的にビジネス展開をするのか、それとも何かしらのマイルストーンを検討されているのか』といった質問がきていますが、いかがでしょうか」

 

松本氏:「ヴィリングは100%子会社であり、完全に同じ会社の扱いですから、私たちが持つさまざまなネットワークのコネクションやリレーションシップを提供しています。私もクライアントの大企業と金融の話をしているときに、『ところでESGや教育にはご興味がおありですか』などとヴィリングの話に誘導したりしています」

 

石戸:「しっかりと融合がなされているということですね。最後に今後の展望、抱負など一言いただけますか」

 

松本氏:「ヴィリングはパッションを持って教育を追求してきた会社です。マネックスとは全く違う畑から来たわけですが、だからこそ新しい視点に立った新しい展開ができると考えています。元々証券会社は、発行体と消費家をつないでいくのが生業です。新しくグループに入ったヴィリングという会社と、本来は接点のなかった公教育やさまざまな企業をマネックスグループが媒体になってつないでいくことで、社会に新しい展開を起こしていきたいと思います」

 

最後は石戸の、「マネックスグループが参入することで、STEAM教育が全ての子ども達に届く規模に拡大することに大いに期待し、これからの展開を楽しみにしています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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