学校現場のさまざまな情報を教育・福祉分野に活かす
第90回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2022.7.8 Fri
学校現場のさまざまな情報を教育・福祉分野に活かす</br>第90回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2022525日、前大阪府箕面市長の倉田 哲郎氏を招いて、「データ利活用による個別最適な支援~箕面市の取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、倉田氏が、学校で蓄積した有用性の高いデータを、子どもの成長の把握や教員の指導力向上、さらには課題を抱えた子どもの支援などに活用する取り組みについて講演し、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「データ利活用による個別最適な支援~箕面市の取り組み」

■日時:2022年5月25日(水)12時~12時55分

■講演:倉田 哲郎氏
前大阪府箕面市長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

 

箕面市長を312年務めた倉田氏は、約30分間の講演において、市長時代に実施した子どもの教育及び生活に資するデータの利活用方法について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

箕面市は、いわゆるベッドタウンで、住民の多くが大阪市内に通勤しています。私は、総務省時代に箕面市役所に出向したことが縁で2008年から2020年までの312年、市長を務めました。その間、特に子ども・子育て関係に注力し、結果として市長時代に箕面市の人口は1割近く増加しています。今でこそ、子ども関係への取り組みは全国の市町村で盛んですが、その先駆けと考えています。

 

▲ スライド1・箕面市は大阪府の中でも
子どもが傑出して増えている

 

人口増加はさまざまな施策の結果ですが、中でも学校環境を含む教育政策は子ども・子育て関連の本丸ですので、学校の組織改革には力を入れてきました。

 

▲ スライド2・学校の組織改革で
不登校も少ない水準を維持

 

私が市長に就任した当初、多くの先生は昭和の時代とあまり変わらない職員室で仕事をしていました。せめて今なりの、「普通」のビジネス環境で仕事ができるように、先生方のビジネス面での情報化もかなり早い時期に実施しています。

 

子どもたちについては、情報の定量的な把握に務めました。いわゆる全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)は、毎年同じ学年を対象に実施されますが、箕面市では平成24年度から毎年、小学校・中学校の全9学年を対象に、全児童・生徒の学力のみならず、体力・生活状況を含めた全方位調査を実施しています。同様の取り組みは、今では埼玉県などいくつかの自治体も実施していますが、まだまだ少数派です。

 

この取り組みを「箕面市子どもステップアップ調査」と呼んでいますが、箕面市では、こうして蓄積されていった小・中学校全9学年、10年分の膨大なデータを学校教育の改善などに活かす取り組みを行ってきました。

 

▲ スライド3・小・中学校の全学年で
毎年調査を実施している

毎年の全数調査で子どもの状態を継続的に把握

小学校6年生と中学校3年生を対象に毎年実施されている「全国学力テスト」は、その学年の学力水準を測ることはできますが、対象となる子どもは毎年変わるので、子どもたちの成長を測る役には立ちません。前年より今年のテスト結果が良かったとしても、たまたま今年は勉強の得意な学年だっただけかも知れないのに、それに大人が一喜一憂して果たして意味があるのか疑問に思っていました。そこで箕面市では、特定の学年だけでなく全学年を毎年調査して、一人ひとりの子どもの成長を追えるようにしました。

 

また、小・中学校では毎年または隔年でクラス替えが行われますから、ある6年生のクラスでテスト結果が良かったとき、このクラスは元々勉強が得意な子が集まっていただけなのか、それとも去年から伸びたのか、そのままでは同一の集団でないため判断できません。しかし、全数調査なら子どもたち一人ひとりの点数が分かりますから、別々のクラスだった5年生の時はどうだったのか、今のクラスに組み直して平均値や偏差値を簡単に算出できます。つまり、個人の成長に加えて、集団としての変化も追うことができるわけです。

 

▲ スライド4・全数調査することで
クラス替えが調査の障害にならない

 

例えば、ある6年生の子どもの成績で算数の偏差値が大きく上がっていた場合、過去の成績を同じ集団に組み直せば、前年度の5年生時には偏差値があまり高くなかった集団であることがわかります。さらに前年度の4年生時に遡ってみると今度は高くも低くもないまあまあの数字というように、毎年大きく変遷していることがわかります。ではその原因は何かと考えれば、おそらく担当した先生の指導力に負うところが大きいのではないかと推測されるわけです。

 

▲ スライド5・クラス替えがあっても
過去に遡って成績の比較が可能

先生ごとの指導の得意不得意や傾向も分析

次に、担当した子どもたちの成績がどう変遷してきたかを先生ごとにみてみます。私たちは、絶対的な子どもの偏差値の高さよりも、どう伸びたかを重要視しています。たとえ偏差値が低くても前年度より伸びれば素晴らしい成長なので、そういう「変化率」を、担当した先生別に数値化しました。

 

▲ スライド6・先生ごとの
得意/不得意を客観的に把握できる

 

この事例では、A先生のクラスは算数の成績は5.8ポイント上昇しているが社会は0.8ポイント下がっているので、A先生は算数を伸ばすのは得意だが社会はそれほどではない、B先生のクラスは算数がそこそこ伸びているけれども社会は4.4ポイントも下がっているので社会を教えるのは苦手なようだ、というようなことが見えてきます。

 

もちろん、単年度の結果だけで先生の指導力を決めつけることはできません。それでも、毎年の変化を追っていくことで、「算数の指導が得意」というような先生ごとの「傾向」が確実に見えてきます。それを先生側にフィードバックして、先生が自身の指導力や適性を客観的に把握し、苦手分野へ取り組むことにも役立ててもらえるようにしました。

 

▲ スライド7・先生の
得意/不得意を数値として見える化

 

学力以外についても、生活状況などの調査データを記録しています。例えば、「学級の絆」や「学級の規範意識」に関連する質問を、毎年2回、つまり同じクラスの間に2回ずつ実施していますが、その数値がどのように変化しているのかを見ていくと、クラスの安定度を探るヒントになることが分かってきました。

 

▲ スライド8・先生の学級経営力も数値化できる

 

学校の先生も人間ですから、得意/不得意があって当たり前です。学力のように数値化が容易なものばかりではなく、クラスを良い状態に保ち、まとめて行く指導力に関しても数値化できれば、先生がそういうことに長けているのかどうかが見えてきますので、それを活かすことにも取り組みました。

 

また、前述の「学級の絆」や「学級の規範意識」の数値をプロットしてグラフ化すると、異常値で変化しているクラスが発見されます。これは学級崩壊の兆候と考えられるため、異常値が出ると、教育委員会から学校へアラートを出す試みもしています。

 

▲ スライド9・学級崩壊の兆候を
数値から早期に把握

 

こうした仕組みを使うと、いわば「先生の通信簿」も作れるのですが、これを先生の賞罰などに使うというのを考えたことはありません。根底にあるのは「指導力の高い先生の教え方は参考にされるべき」「全体の指導力の底上げにつなげるべき」という考え方です。もちろん、授業の方法や子どもへの接し方にはさまざまな要素があり、一律に「こうやればうまくいく」というものは教育の世界にはありません。ただ、その中から「良いモデル」を探し出せれば、それを参考にして他の先生たちも自分の力を伸ばしていけると考えたのです。

 

この仕組みを始めた最初の2年間、情報のフィードバックは校長先生だけに行っていましたが、校長先生からは「だいたい思っていたとおり」という感想がありました。それまで、「この先生は多分ここが苦手だろう」と思っても、根拠がないため自信を持って指導できなかったが、こうしたデータ的な裏付けがあれば「ここはもう少し変えた方がよい」とか「あの先生を見習った方がよい」と、自信を持って指導ができるというコメントでした。

 

そうした校長先生の評価も踏まえて、3年目からは全ての先生に「あなたはこういう結果でした」と情報をフィードバックすることにしました。幸い先生方からの大きなハレーションはなく、真面目に子どもたちのことを考え、ときに自分を見つめ直し、自信をつけていくというサイクルが続いています。

 

▲ スライド10・評価結果は
全ての先生にフィードバックされる

子どもの自己肯定感の分析にもデータを利活用

このデータを使うことで、より広範囲の分析を行うことができます。例えば、子どもの自己肯定感に関する分析です。

 

▲ スライド11・自己肯定感は通う
中学校によって変わってくる

 

これは私が国の教育再生実行会議に参加したときに、「子どもたちの『自己肯定感』をどう上げていくか」というテーマだったため、参考として作成したもので、平成27年度の中学3年生の調査から自己肯定感に関連しそうな質問項目を抽出して、各学校の生徒の割合をグラフ化しています。これによると、例えばα中学校はほぼ全ての項目において他の学校を上回る結果を出しているし、β中学校もコンスタントに高い一方で、ほとんどの項目が平均以下という学校もみられます。

 

自己肯定感については、小学校でも違いが見られます。平成27年の小学校6年生への調査ですが、やはりE小学校やA小学校など全般的に平均値を上回っている学校と、平均以下の学校があることがわかります。これがE小学校やA小学校だけでやっている特徴的な取り組みがあってそれが効いているのか、あるいは小学校には学区があり居住地域による所得格差なども影響しているのか、このデータだけでは読み取れません。しかし、教育活動を改善していくヒントや材料になるだろうと捉え、これらの小学校の特徴的な取り組みを抽出して行く試みも行っていました。

 

▲ スライド12・小学校にも同様の傾向がみられる

 

さらに、小学校1年生と、出身の幼稚園・保育所とを紐づけた分析も実施しました。

 

▲ スライド13・出身幼稚園・保育所に
紐づけた分析も可能

 

箕面市内6カ所の幼稚園・保育所の平成25年~27年の3カ年の自己肯定感の推移では、3カ年とも有意に高いところ、3カ年とも比較的低いところ、年度によりばらつきがあるところがあり、各幼稚園・保育所で取り組んでいる「何か」が影響していることが推測されます。いったい「何」が影響しているのか、についてはアナログ的に試行錯誤しながら探っていくしかありませんが、このような分析もありえるという一例です。

 

▲ スライド14・幼稚園・保育所にも
みられる自己肯定感の格差

「勘と経験」だけに頼らない教育データによる「子ども成長見守りシステム」を構築

さらに次の段階として、こうして集めた教育関係のデータを、貧困など家庭での課題を抱えている子どもたちの支援に活用することを考えました。

 

市役所には、小・中学校の学力・体力・生活状況など教育関係のデータのほか、所得や生活保護・児童扶養手当・就学補助などの各種支援措置に関するデータも存在しています。それらのデータを集約して子どもに結びつけ、変化を追跡できる「子ども成長見守りシステム」を構築しました。

 

▲ スライド15・市役所に集まる
子どもの情報をデータベース化

 

データの変化から要注意の因子を抱えていると判断された子どもに対しては、直接ではなく、学校や地区福祉会などを通じて気をつけて見守っていきます。そして、データの数値に異常な変化が見られるようであれば、子どもがしんどくなっている兆候と判断し、担当セクションに重点的にアプローチして支援するよう指示し、効果が出ているか継続して見守っていく取り組みも行ってきました。

 

この「子ども成長見守り室」をハブとする仕組みを原型として、全国の自治体でも同様の取り組みができないか、現在、デジタル庁(今後、こども家庭庁に移管予定)が中心になって検討が進められています。

 

▲ スライド16・「子ども成長見守り室」を
ハブとする支援の仕組み

 

調査結果については、大学の先生の協力も得て、どういう数値データが積み重なったときに、支援が必要な状態と判定すればよいのか、ロジックを作りました。

 

▲ スライド17・支援が必要な子どもを
数値データから総合判定

 

その結果、「総合判定1」はSOSを抱えていて重点支援が必要と思われる子ども、「判定2」はそこまで至らないが予防的措置が必要と思われる子ども、「判定3」は見守りが必要と思われる子どもというように分類しました。

 

実際、総合判定1とされた477人について市役所から学校に伝えたところ、この事例では、過半数の265人は学校側で何らかの兆候をつかんでいて既に支援や見守りの対象でしたが、212人は学校では全くノーマークだったため、見守り支援の対象に加えました。どういう子どもがノーマークだったかはいろいろですが、例えば「おとなしい印象で大きな課題を抱えているようには見えなかった」といったケースなどがあったようです。もちろん「データ上は支援が必要とされたが実際には必要なかった」子どももいましたが、それでもデータ分析により初めて発見された困難を抱える子どもが実際に存在することは、システムの有効性の一端が示されたものと感じています。

 

▲ スライド18・学校で見過ごされていた事例を
データ分析で発見

 

システムの運用にあたっては、個人情報保護条例の変更まで行いました。

 

先述した教育データの存在は大きなものがあり、支援を必要とする子どもたちを、「完全に」とは言えないまでも、かなりの割合で浮かび上がらせることができると感じています。

 

学校のような子どもたちを育てていく世界は、これまで「勘と経験」に大きく依存してきました。もちろん「勘と経験」も非常に重要であるということは、今回の取り組みで「勘と経験」と「データ」が合致するケースが多かったことからも裏付けられます。しかし、それだけでは見落とされてしまっていた子どもたちがいたり、子ども達のために良かれと思ってやったけれどうまくいかなかった取り組みがあることもまた事実。「勘と経験」と「データ」の併用で、子ども達が少しでも力をつけられるのなら、こうしたアプローチを進めていくべきと考えています。

 

>> 後半へ続く

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