世界自然遺産の地で日本の教育の課題解決に果敢に取り組む
第87回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2022.6.24 Fri
世界自然遺産の地で日本の教育の課題解決に果敢に取り組む</br>第87回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2022年4月27日、屋久島おおぞら高等学校校長で脳科学者の茂木 健一郎氏と、同校副校長の菊池 亮平氏を招いて、「みらいを描くために必要な直観力と共感力を磨く、屋久島おおぞら高校の教育とは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、茂木氏が日本の教育の課題を鋭く指摘した後、菊池氏が「なりたい大人になる」を実践する同校の教育方針に関して講演し、後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「みらいを描くために必要な直観力と共感力を磨く、屋久島おおぞら高校の教育とは」

■日時:2022427日(水)12時~1255

■講演:
茂木 健一郎氏
屋久島おおぞら高等学校校長、脳科学者

菊池 亮平氏
屋久島おおぞら高等学校副校長

■ファシリテーター:
石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

茂木氏は、約15分間の講演で自身の教育への関わりと屋久島おおぞら高校の特徴について説明し、日本の教育への持論を展開した。主な講演内容は以下のとおり。

 

 

▲ 写真1・屋久島おおぞら高等学校校長
脳科学者の茂木 健一郎氏

 

【茂木氏】

屋久島おおぞら高校は非常にユニークな成り立ちの高校です。実際に屋久島に行くのは年に1度、1週間程度のスクーリング(単位修得に必要な面接指導)だけで、普段は全国各地にある「おおぞら高等学院」というサポート校で学んでいます。

 

他の通信制高校と比べてユニークな点は、本校ではサポート校の「先生」を身近な存在として「コーチ」と呼んでいます。そういうヒューマンタッチを重視しているところが一つの特徴です。

 

もう一つの特徴は、「なりたい大人になる」ためのキャリア教育です。通信制でも東京大学などへの進学実績を売りにするところはありますし、もちろん本校でも東大受験を希望する生徒にはそういうサポートを行いますが、進学一辺倒ではなく生徒一人ひとりの希望する生き方をサポートする、つまり「子供を肯定する」ことを最も大切にしています。そのために設けているのが「コーチ」で、生徒が在学中の3年間は基本的に同じコーチが手厚くサポートし、さまざまなアドバイスを行います。

 

今年の入学式で私は、「おおぞら高校は世界一の高校だと言い切ってしまいましょう。理由はその後で考えましょう」と提案しました。これは意外と面白いアプローチで、こう宣言することで、「世界遺産・屋久島でのスクーリングを行っている本校は、在学中の3年間で生徒の自己肯定感が最も高く成長する高校」と、みなが認識できるようになると考えました。本校には中学校で不登校だった子供も多く入学してきますが、そういう子が本校のコミュニティやさまざまな学びを経て学校へ行きたくなる、その変化率は一番高い学校だと思っています。

「日本ならでは」の温かみある教育を考えよう

私はかつて、Times Higher Education誌の「世界大学ランキング」のエッセイで、「日本の大学はもっとランキングを上げなければいけない」と書いたことがあります。しかし今では、これは英語圏の大学が客観性を装って英米の大学を上位としたスキームを作り、「両国にとって重要な輸出産業である大学」に、高い学費を払う外国の生徒を呼び込もうとするビジネスモデルであると、非常にスケプティカル(skeptical:懐疑的)に考えています。だから私は東京大学でも京都大学でも早稲田大学でも慶応義塾大学でもよいから「ウチの学校は世界一」と言い切ってほしいのです。理由はそれから探しにいくというアプローチでかまいません。

 

生徒一人ひとりにも、「自分が世界一の理由を探そう」と強く推奨しています。私自身の「世界一」としては、ソニーコンピュータサイエンス研究所で脳の研究をしながら大学で教えていること、子供の頃に蝶の研究をしていたこと、赤毛のアンが好きなこと、それに最近は英語の本を書いていることが挙げられます。「The Little Book of Ikigai」は日本の文化を英語で紹介したもので29言語、31カ国で出版され、第2弾として聖徳太子の十七条憲法から抹茶アイスまで和みの原理を幅広く紹介した「The Way of Nagomi」も、明日428日に発売されます。こういう経歴を持った脳科学者は世界でおそらく私一人しかいませんから「世界一」なのです。そういうさまざまな個性のパラメーターを組み合わせていくと、おそらく全ての人が世界一なのではないか、ということを、最近、本校でお伝えしています。

 

今の高校生と接して強く感じるのは、自己肯定感が低いことと、この国の未来に対して明るいビジョンを持っていないことです。特に感じるのは、日本からヒューマニズムが欠けてしまったことです。例えば、最近若者の間で「神」ともてはやされている人たちの言説には、人間としての温かさが感じられません。そういう方向に日本の若者が惹かれていくのは、自分たちが大事にされてこなかったからです。この国の教育は「人間を温かく応援する感じ」を教えないのです。

 

先日、アカデミー作品賞を受賞した「コーダ、あいのうた」という映画を見ました。この映画は、聾者役を実際に聾者の俳優が演じたことで話題になりましたが、内容も人間を肯定する気持ち、個性を伸ばす気持ちにあふれた素晴らしい映画です。また、これも映画になった「ビリギャル」で坪田 信貴先生が偏差値38の女子生徒を慶応義塾大学に合格させられたのは、1年半もの間、徹底的に彼女に時間とエネルギーと愛情を注いだからです。それだけで人は変われるのに、今の日本の教育にはそれが欠けているのです。

 

もちろん、デジタル教育は重要で、国の教育指針としてデジタル教科書やIT教育を推進するのは素晴らしいことですが、より大事なことは、一人ひとりの個性にいかに投資してあげるかということです。

 

そういう思いで私は屋久島おおぞら高校の校長をさせていただいています。

 

最後に、私はTwitterでは言いたい放題を言っていますが、屋久島おおぞら高校の校長のアカウントは極めておとなしく、そこは人格を分けて発言しています。今回は、校長としての発言と個人としての発言が混在していますが、視聴者の皆様が日本の教育を変えられる方々と聞いていますので、あえて刺激的な言葉も絡めて今の思いを語らせていただきました。

 

屋久島おおぞら高校の校長としては心から、「よい学校にして行きたい」、「日本の教育に良い影響を与えていく場にしていきたい」と思っています。

 

屋久島おおぞら高校は、ITはともかく人間教育や屋久島の自然環境教育ではおそらく世界一のレベルに達しています。詳しくは副校長の菊池から説明させていただきます。

つながりを重視し、生きる力を育む「センバス教育」

続いて登壇した副校長の菊池氏は、約10分間の講演において、同校で展開している「センバス教育」と「つながり」を重視した教育内容について説明した。主な講演内容は次のとおり。

 

▲ 写真2・屋久島おおぞら高校
副校長の菊池 亮平氏(背景は同校校舎)

 

【菊池氏】

おおぞら高校は、学校法人KTC学園が運営する通信制高校の「屋久島おおぞら高等学校」と、サポート校である「おおぞら高等学院」が一枚岩となって運営している学校です。

 

私たちが標榜するのは「なりたい大人になる」ための学校です。屋久島を取り巻く環境の中で人間力を高め、なりたい大人になる教育を展開するために私たちが設定しているカリキュラムが、屋久島おおぞら高等学校の「つながる学科」とおおぞら高等学院の「みらい学科」です。ここからは屋久島おおぞら高等学校の「つながる学科」について、その設立の背景も交えご紹介していきます。

 

▲ スライド1・「おおぞら高校」とは?

 

今の時代は、社会情勢の変化や学びの多様化によって「答えがない時代」と言われますが、私たちはこの状況を、「自分の未来を自由に描ける時代」とポジティブに受け止めています。

 

▲ スライド2・答えがない時代
=未来を自由に描ける時代

 

私たちが理念として掲げているのが「センバス教育」です。センバスとは、ラテン語で「感覚」を意味する「SENSUS」と「生活」を意味する「VIVUS」を掛け合わせた造語で、「生きる実感」を意味します。つまり、「答えのない社会で希望を描き『生きる力』を育む教育」が「センバス教育」です。

 

▲ スライド3・「生きる力」を育む
「センバス教育」

 

そのために必要とされるものが、五感を通して物事の本質を見極めて自分で判断する「直観力」と、コミュニケーションを通じて相手に寄り添い周りと協働する「共感力」です。私たちは、センバス教育を通じてこの2つの力を身に着け、育んでいくことを体現していきます。

 

▲ スライド4・センバス教育に必要な
「2つのチカラ」

 

2つの力を身に着けていくために必要なキーワードは「つながり」です。屋久島を「ハブ」として人・自然・社会・世界とつながりながら、直観力と共感力を身につけてゆく、そういったポイントを踏まえて展開しているのが、オンラインと直接対面(スクーリング)を組み合わせた「つながる学科ジブン探求コース」です。

 

▲ スライド5・「つながる学科
ジブン探究コース」とは

 

本コースには3つのオンラインサポートがあります。「卒業までのつながるサポート」はいわゆる学習サポートで、授業のオンデマンド配信や担当教員による直接コミュニケーションでサポートを受けられます。学習につまずくと自己の目標に対するアプローチもしにくくなりますので、そういったリスクや不安を少しでも軽減することが目的です。

 

「屋久島つながるゼミ」は、人・自然・社会・世界とのつながりの中で、通常の科目教育では取り扱わない内容にリーチした学びの機会を提供する講座です。屋久島の産業や人の営み、自然との共生などにアプローチし、地元の方々にも先生になっていただきながらリアルタイム配信を行います。

 

「つなげる実習オンライン」はその発展形で、双方向リアルタイムのオンライン実習です。実際に屋久島とつなげて配信し、教員が現場に足を運び、今起きていることをリアルに伝える臨場感が生徒にも人気の講座です。

 

▲ スライド6・オンラインその3
「つなげる実習オンライン」

 

そして、これらオンライン実習の集大成で、答え合わせ的な意味合いを持つのが、屋久島で行われる「つなげる実習」です。非日常の中で行われるこのスクーリングでは五感をフル活用して直観力や共感力を磨き、唯一無二の体験を通じて「なりたい大人」に向けたヒントをたくさん得られ、オンラインでつながった仲間たちとリアルに屋久島で会えることで楽しみも倍加します。人生の限られた時間ですが忘れられない時間になる「屋久島つなげる実習」を、多くの生徒が楽しみにしています。

 

これらの教育活動を通して「なりたい大人」になるための自己成長を続け、希望を描く力を身に着けた人になってほしいと考えています。

 

▲ スライド7・卒業時に目指すのは
「希望を描く力を身につけた人」

 

本校はタグラインとして「つながる場所、つなげる場所。なりたい大人になるために。」を掲げています。屋久島をハブとした様々な教育的取り組みを通じて、また開かれた環境の中で「つながる・つなげる」を実感してほしいと考えています。

 

▲ スライド8・屋久島おおぞら高等学校の
タグライン

 

本校の卒業式では、茂木校長が一人一人名前とメッセージを伝え、卒業証書を手渡しします。生徒や保護者からもこのような形で卒業証書を受け取れたのは初めてという声が多く聞かれました。また、地元の方々が来賓に来られたことも新鮮で、一人ひとりの存在を大切にするアットホームで温かみのある授与式になりました。

 

これから社会へ飛び立っていく生徒一人一人に対して担う役割は非常に大きいものがあります。これからも、日本の教育界へも影響力を及ぼす活動をしているという自覚を持ち、「なりたい大人になる」ための学校として邁進していきたいと考えています。

 

▲スライド9・2022年3月に行われた
卒業式の様子

 

>> 後半へ続く

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