高校の新教科「情報Ⅰ」が企業DXにもたらす影響
第86回オンラインシンポレポート
【後半】日本の情報教育が遅れた理由と今後の課題

活動報告|レポート

2022.6.17 Fri
高校の新教科「情報Ⅰ」が企業DXにもたらす影響</br>第86回オンラインシンポレポート</br>【後半】日本の情報教育が遅れた理由と今後の課題

概要

超教育協会は2022420日、早稲田大学名誉教授で東京通信大学名誉教授の筧 捷彦氏を迎えて、「企業DXを進める解決策となるのか?~『情報』が大学受験科目に~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「企業DXを進める解決策となるのか?~『情報』が大学受験科目に~」

■日時:2022年4月20日(水)12時~12時55分

■講演:筧 捷彦氏
早稲田大学名誉教授、東京通信大学名誉教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

質疑応答:なぜ日本の情報教育は遅れたのか

石戸:「これまでの経緯と現状を分かりやすく整理して説明いただき、理解を深めた方も多いと思います。ここからは事前にいただいた質問に基づいた質疑応答です。冒頭、私から質問したいのが、情報教育の遅れについてです。日本が情報教育で極めて遅れたのは、なぜだと思われますか」

 

筧氏:「これは難しいですね。ポイントを一つ挙げると、日本の情報産業の人たちが一生懸命頑張った結果のような気がします。

 

どういう意味かというと、『お客様は神様です。だから情報をうまく活用できるシステムを作るのは、専門職の私たちがやります。皆さんは分からなくて大丈夫です』という雰囲気ができてしまったことです。私がとても心配しているのは、DXについても『大手のIT企業に丸投げして頼めばできる』という発想になることです。

 

もう一つポイントを挙げるとすれば、恥ずかしながら、2003年に学習指導要領で初めて高等学校に情報科が設置されたとき、これについて情報処理学会の人たちが何人知っていたでしょうか。皆無に近かったように思います。小学校・中学校・高等学校を含めて皆のレベルを上げなくてはいけない、そのための教育をしなければいけない、というところまで、(情報処理学会の人たちが見る)余裕がなかったのだと思います。

 

2003年のときは、教育工学の人たちが主に関与して高校教育での情報教育の枠組みができました。それに対して、後追いで意見をいうのは簡単です。『せっかくやるのだったら、こういう具合にプログラミングを入れるべきだったんじゃないか?』という声がさまざまに出てきました。そうした社会の動きもあって、プログラミングを含めた情報教育がようやく2022年に学校現場に持ち込まれることになったわけです」

情報教育の課題と解決策について

石戸:「今年からようやく、初等中等教育段階から情報教育に本腰を入れられるよう状況が整いつつあります。一方で、『誰が教えるのか』『ICT環境の整備』など、さまざまな課題が指摘されているのも事実です。すべての子どもたちに情報教育を定着させるための課題、およびその解決策について、ご意見をいただけますか」

 

筧氏:「私自身の体験から、大学の先生が小学生に情報教育を教えるのは無謀だと悟りました。中学生、高校生までは、授業を工夫すれば、なんとか付いてきてくれました。しかし、小学生に対しては、彼らの興味が続かないこともあり、子どもたちを束ねる術(すべ)のない人が教えられるものではないとしみじみ思いました。こうした経験から、学校での情報教育は、そのやり方を身に付けておられる(各学校の)先生方が中心になるべきだと思います。

 

情報教育に関しては、『人に「何かを教え込む」のは教育じゃない。人が「何かをやる」のをうまくプロモート(促進)するのが教育である』と言われたことがあります。この意味に従うと、教室の中で飛び抜けてできる人が出てきたときに、『うまく周りの友だちを引っ張っていって』というように、見守る姿勢が適切だと思います」

 

石戸:「視聴者から次の質問がきています。先ほど『情報Ⅰ』について詳しくお聞きしましたが、旧教育課程との違いは端的にいうとどこでしょうか」

 

筧氏:「『情報Ⅰ』に限りませんが、学習指導要領が『問題発見・解決に力を付けることが大事である』という方針を打ち出したのが、これまでと一番異なる点です。大学の入学試験のための力ではなくて、もっと広く基本的な力を養おう、というところがまず違います。

 

次に、これまでは、2003年からの『情報A(情報機器の活用)』と『情報B(情報の科学的理解)』と『情報C(情報社会に参画する態度)』、そして2013年からの『情報の科学』と『社会と情報』のように、学習内容が細分化していました。情報全体をカバーするような構成で生徒に教育が施されていなかったのです。これを改善しようということで、『情報Ⅰ』に一本化されたのだと思います」

STEAM教育および世代間ギャップについて

石戸:「STEAM教育に関して日本はどうすべきか?という質問もきています。先ほど、新しい『情報』の特徴として、探求学習と組み合わせる、という話がありました。さらにSTEAMにコンピュータサイエンス(計算機科学)の領域が入ってきたこともあり、STEAM教育といまの情報教育は関連性があると思います。これについてはいかがですか」

 

筧氏:「とても難しい問題だと思います。STEAM教育については、しっかりやっていく必要があると思います。ただ、大学においては、入試科目が特定の科目に限られていますし、入学した後も文系理系に分かれるように、幅広く学ぶ機会が少ないのが問題であるように思います」

 

石戸:「最後の質問です。情報教育を受けてきた人たちが社会に出てくるにあたって、その世代とそうでない世代のギャップについて、どう思われますか。社会人への情報教育について一言いただけますか」

 

一番いけないのは、今の大人が、新しい情報教育を受けてきた人を恐れたり、見くびったりす­ることです。『後生畏るべし(注:若い人は可能性に満ちているから、見くびってはいけない)』ということわざは、その通りだと思います。大人としては、新たに社会人になる人たちは自分たちとは違う発想や力を備えていると捉えて、『しめた、教えてもらおう』と構えられる勇気の問題だと思っています」という筧氏の言葉でシンポジウムの幕は閉じた。

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