概要
超教育協会は2022年3月2日、初代デジタル大臣で衆議院議員の平井 卓也氏を迎えて、「平井卓也初代デジタル大臣に聞く~デジタル庁発足で変わる日本の教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
デジタル庁の立ち上げを率いてその道筋を付けた平井氏に、デジタル庁が何を目指し、日本の教育のデジタル化をどう進めていくのか、を中心に質問する形で座談会を行った。その前半の模様を紹介する。
>> 後半のレポートはこちら
>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画
「平井卓也初代デジタル大臣に聞く~デジタル庁発足で変わる日本の教育」
■日時:2022年3月2日(水)12時~12時55分
■登壇:
平井 卓也氏 初代デジタル大臣・衆議院議員
中村 伊知哉 超教育協会専務理事
菊池 尚人 超教育協会常務理事
■ファシリテーター:
石戸 奈々子 超教育協会理事長
デジタル庁の成果と課題
石戸:「本日はデジタル庁初代大臣の平井先生をお迎えしました。スタートアップのような迅速な意思決定の下、国として行政システムを最適化し、誰1人取り残さないデジタル社会の実現を目指して発足したデジタル庁。平井先生は、その立ち上げから牽引し、道筋をつけられました。デジタル庁が何を目指して、日本の教育のデジタル化をどう進めていこうとしているのか、をテーマに議論したい考えです。
早速ですが、平井先生に聞いてみたいことがあります。デジタル庁の設立は、想定通りに進んだのでしょうか。上手く進んだ点や積み残した課題について教えてください」
平井氏:「上手くいった点は、想定通り、9月1日にスタートできたことです。実質11カ月であれだけの法律を通し、人を集めて、組織をスタートできた。私のミッションとして一番重要だったこの点は、上手くできたと思います。
ただ、人の問題や組織のあり方に関しては、想定外が多々起こったこともあり、スタートアップになぞらえれば、アーリーステージ段階だと思います。デジタル庁という立派な役所ができてすぐに機能すると思われがちですが、実際は走りながら考える組織なのです。
デジタル庁の組織のあり方については、アジャイルで変えていく必要があります。組織文化が一番大事ですが、自分が離れてみて感じるのは、だんだんと普通の役所になりつつあること。現場は仕事に追われて、疲弊しているのではないでしょうか」
石戸:「DXでは、X(トランスフォーメーション)を起こすためのマインド変容が大事です。デジタル庁においても、この点が課題になりつつあるのですね」
平井氏:「加えてデジタル庁は、『役人のポテンシャルを解放する』ことが大事です。上から与えられた仕事を確実にこなしていくのではなく、課題解決型の組織を目指しています。民間の人の刺激を受けて、役人のマインドセットも変わってきたなとは思います」
石戸:「中村さん、菊池さんは、デジタル庁をどのように見ていますか」
中村:「僕は、デジタル庁を作るのは20年遅かったと思っています。それでも今、法律も人も予算も付けて発足したということに、元気づけられました。
僕が役所にいた20年前は、官僚はもっと自由で元気でした。デジタル庁が突破口となって、霞が関にもう一度、自由で元気な文化が広がると良いなと思います」
菊池:「デジタル庁の中にいる人は、自分たちを過少評価していると思います。デジタル庁の設立は、社会的にもこの1年で最大のニュースであり、とても重要です。(デジタル庁の)中にいると、他の役所との調整といった細かい話になりがちですが、20年先を見据え、デジタル敗戦の根本を変えるような、アジェンダセッティングに取り組んでもらいたいと思います。
そのうえで、デジタル庁からデジタル省になるといったように、アジャイルで成長していく初めてのモデルになってほしい。民間から来た人と役所からいる人が上手く混ざって、次の10年20年を描けるかどうかが、重要なのではないでしょうか」
▲ 写真・菊池 尚人
超教育協会常務理事
スタートアップ庁の必要性と教育
平井氏:「デジタル庁は、規制改革の象徴であると同時に、成長戦略の柱を担います。ただ、今取り組んでいるDXで手一杯です。なので、私の次の提言は、スタートアップ庁の創設です。今のタイミングでやるしかないな、と思っています。なぜなら、新しいことを始める人を増やしていかないと、成長戦略は描けないからです。
このスタートアップ庁も、デジタル庁と同様、省庁横断じゃないと実現できないのです。また、『社会そのものを変えていく』という起業家精神については、教育プログラムにも入れるべきです」
石戸:「超教育協会でも、スタートアップに取り組んでいます。学校の枠組みを超えた、起業家教育カリキュラムの作成・提供や、起業家支援体制の整備に取り組み始めています」
平井氏:「政府がスタートアップ5カ年計画を打ち出しますが(注:岸田首相は2022年2月10日、スタートアップ企業を創出するための5カ年計画を同年6月までにまとめることを明らかにした)、『高めの要望』を出そうと考えています。その中に、スタートアップ庁を入れようと。そうした取り組みがないと、皆が本気にならないでしょう。
子どもたちの心に火を付けることも大事です。これについては、超教育協会に期待します」
中村:「私も、生徒全員がスタートアップに取り組むiU 情報経営イノベーション専門職大学を創立しました。イノベーションを起こす起業家を育てたいのです」
平井氏:「起業家育成に向けて、学校で教えてもらいたいことが4点あります。
1点目は、デザイン思考。言い古された言葉ですが、マインドセットを変える意味で、課題解決のプロセスを一生懸命に考えることは大事です。デザイン思考はまた、失敗する恐怖を小さくする可能性があります。
2点目は、アントレプレナーシップ、つまり、起業家としての心構えです。これは、マインドセットによる部分が大きいと思います。
3点目は、必修化したプログラミング教育。今、配布している端末では、仕様上プログラミングがしにくいです。せめて高校からは、もっとハイスペックな端末を渡してほしい。
最後は、グローバルなチームを率いる人材という観点から、やはり英語です。アジアや中東、中南米といったインターナショナルなチームを率いる人材を作らなきゃいけない。そのときの共通言語は英語です。使える英語を身に付けてほしい」
中村:「これらは、うちの大学のカリキュラムの柱そのものです」
石戸:「国際社会で真のリーダシップを取れる人材を育成する、というイメージですね」
▲ 写真・中村 伊知哉
超教育協会専務理事
教育DXへの期待と懸念
石戸:「視聴者の一番の関心事項は、デジタル庁が、行政DXに加えて、教育DXにどのくらい踏み込むかです。これについてはいかがでしょう」
平井氏:「小中学校で端末一人一台を実現しました。ただ、小中でプログラミング教育を実施して、高校で途切れてしまってはいけません。高校もシームレスでつながるようにするべきです。
また、端末は配ったものの、学校から持ち出せないところもある。家に持って帰ってはダメというのは、私には想定外でした。家に持って帰って壊れたとしても、端末はそもそも消耗品です。小学校低学年なら、端末を落としたり、ベタベタ触ったりするのは当たり前。保険でカバーするから壊れてもよい前提で、常に使えるようにしなければいけない。
さらに、経産省が取り組んでいるEdTech。非常に先進的な取り組みもありますが、文部科学省と連携していないのが問題だと思います。
全般的に、まだちょっと堅いというか、もったいないと思います。通信インフラが全国に整っていて、やる気のある子どももたくさんいます。小学生で起業した井上美奈さんもいるし、小学生のNFTアーティストもいる。中学生の起業も多い。省庁がクリエイティブでチャレンジングな施策に取り組むことで、こうしたチャンスを皆に与えられるようになってほしいと思います」
石戸:「プログラミング教育に20年ぐらい前から取り組んでいて、全国小中学生プログラミング大会などを開催しています。そこで見る子どもたちは、ICTを使いこなして、社会解決型の新しいサービスを提案しています。そのレベルがとても高い。ですので、この子たちがどんどん起業して、新しい社会を築いてくれるのが一番いいのではないかと思います」
後戻りではなく、前進あるのみ
石戸:「先ほど、教育における課題として、『高校との接続』、『家庭との接続』、そして『文部科学省との接続』が挙がりました。特にコロナ禍においては、個々の家庭におけるICT環境の整備が大きな課題になったと思います」
中村:「その通りです。現在は、全国2万もの学校のICTをどうするか、から、1,000万世帯の家庭のICTをどうするか、に移っています。これは文部科学省というより、総務省や経産省を交えた、国として総力を挙げて取り組むべき課題です」
平井氏:「そうですね。やはりラストワンマイルは問題だと思いますし、すべての家庭に一定品質の回線が届くまで端末を持ち帰ったらダメとしてしまうと、その解決までに時間がかかってしまいます。なので、できる人から(端末を)持ち帰ってほしいと思います」
石戸:「平等とは何なのか、を考えさせられます。環境が揃わないので皆でやらないことが平等なのか、環境がない人に手厚くケアすることで、皆でできるようなることが目指すべき平等なのか」
平井氏:「そうですね」
石戸:「コロナ禍でオンライン教育を率先した地方自治体では、首長がとても熱心に取り組まれています。そういう取り組みを見ていると、『とりあえず、やれることすべてに取り組む』という姿勢が大事と思います。
一方で、学校の設置基準においては、キャンパスがないと大学は作れない、体育がなくても体育館が必須など、チェレンジを阻む規制があります。そうした規制を、オンラインファースト、デジタルファーストを重視して、一度取り払うことも必要ではないでしょうか」
平井氏:「これについては、(デジタル改革や関連規制などに関する横断的課題を検討し、改革実現を狙う)デジタル臨時行政調査会に持ち込んでいただくとよいのでは、と思います。
また、遠隔教育や遠隔医療、そしてテレワークもそうだと思うのですが、コロナ禍が落ち着き始めると、先進的な取り組みを元に戻そうという動きと、生産性が上がったから先に行こうという動きに分かれていきます。それでも、一度デジタルを経験してしまえば、アナログを捨てるということではなく、デジタルの経験の延長線上に進みたいという動きが増えてくるでしょう」
石戸:「今が正念場。後戻りするのではなく、前進あるのみということですね」
平井氏:「はい。その通りです」
>> 後半へ続く