「役に立つ人材」から「楽しめる人材」へ
第79回オンラインシンポレポート
【前半】学びをエンターテイメントにできるか

活動報告|レポート

2022.3.25 Fri
「役に立つ人材」から「楽しめる人材」へ<br/>第79回オンラインシンポレポート<br/>【前半】学びをエンターテイメントにできるか

概要

超教育協会は2022216日、株式会社コルク 代表取締役会長兼社長CEOの佐渡島 庸平氏を招き、「マンガが教科書よりもすごい理由」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

佐渡島氏は、講談社で『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などのヒット作を担当した後、クリエイターのエージェント会社コルクを設立、『漫画 君たちはどう生きるか』などのヒット作を生み出している。

 

その佐渡島氏に、「マンガは教育に欠かせないコンテンツとなるか」をテーマに、ファシリテーターを務める石戸 奈々子との対話や視聴者からの質問に答える形で行われた。その前半の模様を紹介する。

 

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第79回オンラインシンポ「マンガが教科書よりもすごい理由」

■日時:2022年2月16日(水)12時~12時55分

■講演:佐渡島 庸平氏
株式会社コルク 代表取締役会長兼社長CEO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

佐渡島氏:「今回は、突然ですが、プレゼンではなく、石戸さんとの対話を通して、お話ししていきたいと思います。今はVUCA(先行き不透明で予測困難な状態)の時代や、STEAM教育などと言われていますが、これらは一方的に教えないということだと思います。僕は、すべての時間が、自分にとっての一期一会であるようにしたいと考えています。僕が(視聴者に)一方的に話すと、僕の知識を伝えるだけで、一期一会ではありません。視聴者との関係性でしか起きなかったお話をしたいので、(オンライン会議でも)コメントや質問をもらいたいし、みなさんもチャット欄を使って同時に会話しながら聞いてもらえたらと思います」

教科書をエンタメ化する

石戸:「私も対話形式にすることはいま言われた話ですので、シナリオは一切ありません。最初に、ヒットコンテンツと教育教材の共通点についてお聞きしたいです。人の心に届くヒットコンテンツを作ることと、人をやる気にさせる授業や教材を作ることは、共通点があると思うのです」

 

佐渡島氏:「『ドラゴン桜』は教育系ですし、『宇宙兄弟』も理系を増やすのにかなり役立っているマンガだと思います。これは、かなり意図的に作っています。川上 量生さんが『コンテンツの秘密』という本で、『脳が気持ち良いと思うのは何か』について書かれています。脳が気持ち良いのは、生物にとって意味がある状態だそうです。新しい知識を得てシナプスがつながったら、気持ちが良いわけです。例えば、『ドラゴン桜』だったら教育に関する知識、『宇宙兄弟』だったら宇宙など宇宙飛行士に関する知識が広がって、知らなかった部分のシナプスがつながっていく感じが、気持ち良いとなります。

 

だから、基本的に『学び』というのは、本来すべて楽しいものだと思います。それなのに、学校教育では、『我慢してインストールしないといけないもの』になってしまっています。これを変えるには、教科書というコンテンツをエンタメ化する、つまり、教科書に載っている知識が本来持っている面白さを、子どもたちに伝えていくことだと思います。

 

そこで僕は、20214月から採択が始まった公共の教科書を編集しました。教科書を全部エンタメ化した方がよいと主張していたので、僕に『公共の教科書を作ってください』と頼んできた人がいて、それで作りました。

 

依頼人である鈴木 寛氏(元・文部科学副大臣)と一緒に公共の教科書を作りました。なぜ、公共かというと、意思決定をするときには小さいコミュニティごとにコンセンサス(合意)を得ないといけない、立場の異なる板挟み状態で話し合って前に進んでいくことを学ぶ必要がある、ということで公共の教科書になったのです。

 

これは、マンガのストーリーの作り方とまったく一緒です。主人公をどうやって板挟み状態にできるのか、説得力のある板挟み状態に主人公を落とし込むために、設定を一生懸命に打ち合わせします」

 

石戸:「説得力のある板挟み状態とは、どういうものですか」

 

佐渡島氏:「例えば『宇宙兄弟』だと、事故に遭って酸素が少ししかなく、でも自分ともう1人いる。2人とも助かるのか、自分が生き残るようにするのか、どっちなの?ということです。今のコロナ禍の状況も似ています。自分のために外に出るのか、家にいるのか、外出しながらもみんなのことを考えるのか…。

 

例えば、親は『身の回りの人に優しくしなさい』と言いますよね。そこで、公共の教科書に、4コママンガを入れます。『身の回りの人に優しく接しなさい』と親は言うのだけど、子どもが街中で浮浪者をじっと見ていたら、『じっと見てるんじゃない』と言って、親が子どもを連れていく。そして子どもが、『あの人は身の回りの人じゃないのかな』と考える4コママンガです」

 

石戸:「考えるきっかけを提示しているわけですね」

 

佐渡島氏:「そうです。問いだけを示して、『身の回り』とは何なんだろう、という話から、国境などの話へと移ります。なんで国境が必要なんだろう、国境はどうやって決まったんだろう、と続くように教科書ができています」

 

石戸:「哲学対話のような感じですね」

 

佐渡島氏:「まさにそうです。そういう感じで、マンガと同じように教科書を作りました。ただ、対話ばかりだと議論ばかりで教えづらいので、当初は僕らの作った新しいところの割合を減らして、改定するごとに増やしていこうとしています。この教科書は、すでにN高が採択してくれるなど、喜んでもらえているようです。今は、道徳の教科書づくりを手伝っています」

全教科をマンガで学べるか

石戸:「公共や道徳は、対話を通して最適解を導き出すことがイメージしやすいと思います。教材会社で働く視聴者からの質問で、『小学校や中学校で学ぶ基本知識を、どうすれば楽しく学んでもらえるか悩み続けている』とあります。佐渡島さんが、算数、国語、理科などの教科書をつくるとしたら、どうしますか」

 

佐渡島氏:「韓国では、アニメや漫画で学ぶことが一般化しています。僕は、(日本でも)全教科で楽しく学べると考えます。そのため、コルクは今、探究学舎と一緒に、楽しく学べる教科書ができないかを話し合っています。

 

探究学舎が良いと思うのは、先生たちが授業を面白そうにしています。僕はもう、それに尽きると思っています。面白く思わない人が、面白さを伝えられるわけがない、と思うのです。

 

例えば、学問の面白さは、面白さがわかっている人が動画で教える。学校の先生は、子どもに寄り添うというか、子どもの成長を促す役割を果たす。このように、先生は(教科ではなく)子どもを見る専門家になっていく方が、学びが面白くなると思います」

 

石戸:「例えば、歴史マンガで学んだ人は多いですよね。視聴者からのコメントにもあるように、『科学漫画サバイバルシリーズ』の人気もすごいです。全部の教科書でマンガという選択肢もありですね」

 

佐渡島氏:「マンガの問題は、情報量が少ないことです。なので、マンガを導入にして、どういうふうに知識を伝えるかが、カギになります。僕はマンガとYouTubeの組み合わせでも、教材として十分だと思います」

 

石戸:「視聴覚教育でテレビを見るのも、初めの動機づけですよね。まずは関心を持ってもらうという動機づけが、難易度が一番高いと思うので、そこにマンガを使うというのは良いですね」

「役に立つ人材」から「楽しめる人材」へ

佐渡島氏:「教育では、これまで、『どうやって役立つ人材になるのか』が重視されていたと思います。しかし、今はロボットやAI(人工知能)によって、人間は役立つ人材にならなくても生きていけるようになっていきそうです。役立つ人材になるよりも、社会を楽しめる人材の方が必要になってくるのかな、と思います。なので、石戸さんが取り組んできた『どうしたら創造力が鍛えられるのか』などが重要になります」

 

石戸:「でも、『とはいえ』みたいな話も結構多いじゃないですか。社会が大きく変わるまでには、どうしてもタイムラグがあります。みんなの意識を変えるところにも、エンターテインメントが貢献できる部分は多いのはないでしょうか。例えば、月9ドラマで取り上げられると人気が高まる分野が出てきたりなど」

 

佐渡島氏:「教育は、それがすごく難しいと思っています。なぜかというと、みんな、なんだかんだ自己肯定しています。自分が受けた教育が良い教育だと考えて、子どもに押し付けたくなる。だから、タブレットがなく育った僕らは、子どもがタブレットを触り過ぎると良くないのではなどと、思い過ぎてしまいます。

 

教育において、先生たちが苦しくなっているのは、親への説明責任を果たさなければいけないからだと思います。説明責任を求められると、『教育』が『管理』になってしまう。例えば、嫉妬が生まれないように高い鉛筆を持ってきちゃダメというように、持ち物についても制限がありますよね。先生が、そうした『管理』ができているかという、ルールをチェックする人みたいになっています。

 

また、教育がお店で受け取るサービスのようなものだと親が捉えていることも理由のひとつだと思います。『教育』とは、来年の受験に役立つというような即時性のあるものでなく、あの先生の話は良かったよねと20年後に気づくような、時差で受け取るものだと思います」

 

石戸:「教育は効果が出るまで長期戦であるし、その花の開き方も多様で、なかなか一様には語りにくい側面もありますよね。

 

教育におけるICTの導入が遅れた背景に、社会全体の漠然とした不安感がありました。過去の自分の価値観を否定されることに対する漠然とした不安は、おそらく強い。一方で、その価値観は、どれだけ長い歴史を踏まえたものなのか、というと、実はそうでもない。この辺りを正しく認識できるかどうかによっても、不安の感じ方が大きく変わるのかなと思います」

 

佐渡島氏:「現状維持など既得権益から抵抗される場合はあっても、教育全体は穏やかに良い方へと変化している、というのが僕の実感です。今回の大学入試改革にしても、高校教育と大学教育を変えていくという意味において、理にかなった社会の変え方だと思います。民主主義の中でやれることを順々に変えており、素晴らしい改革だなと考えています」

 

>> 後半へ続く

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