児童・生徒の力を最大限に引き出すために
教育データの効果的な利活用を促進していくことが必要
第74回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|データWG

2022.2.4 Fri
児童・生徒の力を最大限に引き出すために<br/>教育データの効果的な利活用を促進していくことが必要<br/>第74回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2021年12月22日、同協会に設置した公開データワーキンググループの所属メンバーを招いて「個別最適な学びと協働的な学びを実現するために~公開データワーキンググループ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムでは、デジタル庁より教育データ利活用ロードマップの検討状況が公開されたのを受け、デジタル庁や関係省庁、民間企業が教育DX実現に向けた公開ディスカッションを実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画

 

「個別最適な学びと協働的な学びを実現するために
~公開データワーキンググループ」

■日時:2021年12月22日(水)12時~13時

■講演:

浅野 大介氏
経済産業省 商務・サービスグループ
サービス政策課長 兼 教育産業室長

板倉 寛氏
文部科学省 初等中等教育局学校デジタル化プロジェクト
チームリーダー

桐生 崇氏
文部科学省 大臣官房文部科学戦略官・総合教育政策局
教育DX推進室長

吉田 宏平氏
デジタル庁 統括官付参事官

小木曽 稔氏
一般社団法人 新経済連盟渉外アドバイザー

安浦 寛人氏
一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会 (JMOOC)
副理事長

橋田 浩一氏
東京大学大学院教授 理化学研究所 革新知能統合研究センター

柳瀬 隆志氏
嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長

中村 伊知哉氏
iU 学長

菊池 尚人
超教育協会 常務理事

■ファシリテーター:
石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では、石戸 奈々子(▲写真5)ファシリテーターに参加者を交えての質疑応答は実施された。

 

▲ 写真5・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

GIGAスクール構想で1人1台端末が実現した後は利活用のフェーズに入っていく

まずは、2021年11月25日に超教育協会からデジタル庁に提出したパブリックコメントについて、超教育協会 常務理事の菊池 尚人氏(▲写真6)が説明した。

 

▲写真6 超教育協会 常務理事 菊池 尚人 

 

菊池:「『教育データの利活用について』と題してデジタル庁に提出したパブリックコメントは、分散管理を大原則とするという内容です。方針として、学習eポータルに関して、API標準化とPDSに対する開示の義務付けで分散型にしてAPIにアクセスするのは個人端末のアプリケーションとします。学習歴の電子証明も含む教育データを、他のパーソナルデータと合わせてデータ主体本人が管理活用すること、学習者の保護者や教職員が属する組織もデータ主体本人の同意や法的根拠に基づいて教育データ管理運用できる、ということを指針としています。

 

具体的に設問が2つありますが、1つめの『教育データを利活用する上で留意すべき点はなんだと思いますか』という点については、教育データの定義ということを、教師、学習者、保護者教育機関、民間機関などの関与するデータの明確化をしましょうと言っています。

 

2つめの『教育データの蓄積・流通のアーキテクチャ構築に当たって必要なことはなんだと思いますか』という点については、個人の認証、個人の関係性の認証、機関の認証などを含めた認証のあり方と、データの帰属・改変・閲覧に関する権利、データへのアクセス権の整理、標準化に向けた取り組みの指針の策定など、シンプルで分かりやすいアーキテクチャの概念を示すべきだと言っています。これらをパブリックコメントに載せて提出をしています」

 

石戸:「安浦先生、ご質問はありますか」

 

▲ 写真7・一般社団法人日本オープンオンライン
教育推進協議会 (JMOOC) 副理事長 安浦 寛人氏

 

安浦氏:「活動情報の中で、主体情報や内部情報はこれまでマイナンバーカードやカリキュラムを作ってきた文部科学省の経験から、しっかりやられていると思います。ただデジタルのポイントは、教育や学習の過程をきちっと取れるというところです。教育・学習過程をデータとして、どうやって取って何を残していくかということは、今後議論していかないといけないと思いますが、そのプロセスとして捉えていただきたいですね。

 

特に生徒と教師のコミュニケーション、あるいは生徒同士のコミュニケーション、これは教育・学習の中でも重要になりますので、それをいかにデータとして取り込むかが大切です。それによって児童・生徒は学び方を自分で計画し変えていきます。教師も同様に教え方を変え、データをもとに自分の教育を変えていくというデータの活用ができる仕組みを作っていただきたいと思います。

 

学習者と教師の間ですぐに行えるフィードバックと、指導要領まで遡ってグルっと回ってくるフィードバックがあります。後者は数年かかるフィードバックですが、毎日毎日の教育の中で行えるフィードバックも非常に重要になってきますので、そのフィードバックの大きさを分類して、それに合うような仕組みを複数フィードバックの仕組みとして入れていただければと感じました」

政府でシステムを整備し民間でサービスを展開するという切り分けをしていく必要性

石戸:「小木曽さんには、新経済連盟側からの立場でのご意見、質問などをお願いします」

 

▲写真8・一般社団法人 新経済連盟
渉外アドバイザー 小木曽 稔氏

 

小木曽氏:「新経済連盟の会員企業と話をしている中で、端的に教育を科学にすることはないということをおっしゃる方が複数いました。スポーツ科学はありますので、教育を科学する教育科学が最終ゴールという気はしています。

 

学習したことが正当に評価される社会を目指していくべきだろうと思っており、それが生涯学習も含め学校で学んだことだけでなく、家庭で学んだこと、学校を卒業してから社会で学んだことが全部評価され、自分の経済活動の中で積極的に評価されることで、例えば会社の採用でうまくマッチングができるようになるなどにつながっていくと思います。

 

会員と話してる中では、教育関連のオープンデータをもっと進めてほしいという声もかなりありました。

 

プラットフォームが乱立するところで官民の役割分担をどう考えていくのかということは大きな論点であると思っています。民間を活用するってことが前提だと思いますけれども、政府でシステムを整備し、その後は民間でサービスを展開していくというように、うまく切り分けをしていく必要があるのではないでしょうか」

 

石戸:「オープンデータの利活用の促進について桐生さんからは、学習したことを正当に評価される仕組みづくりについては浅野さんから、官民の役割分担については吉田さんからコメントいただけますか」

 

桐生氏:「私たちも、原則としてオープンデータはやっていきたいと思うのですが、様々な仕組みを超えなければいけない点がいくつかあって、例えば統計情報を二次利用するときの決まりは、ある程度法令で決まっています。それを研究者がもっと簡単に利用したいという話もあります。そこで、データの流れ方だけではなく、デジタル社会にふさわしい仕組みに変えていくという点で、データの相互流通の観点から論じていく必要があります。行政系データというのは教育データだけではありませんが、様々な統計情報であって、その仕組みとして二次利用が制限されるものはどのようにすればよいのかといった点も議論していく必要があると思っています」

 

浅野氏:「先日、九州の某県庁所在地の都市から300人が集まる小中学校の先生たちの研修会に呼んでいただき様々な議論をしてきたのですが、先生たちからたくさん寄せられた『デジタル教育って何だ』というような問いが印象的でした。『よくわからない新しいものが加わってきたけど、どうすればよいのだ』と捉えている先生たちはまだ本当に多いのです。

 

そうではなく『デジタルは道具だから。やるべきことは指導要領に書いてあるから』と。それを実現するために端末が目の前にあると話してきました。例えば、ログを残すのは、今回の指導要領にのっとった評価を実行たらしめるために使うわけです。目の前にある端末を抽象化して考えようとせずに、『そもそもこれは何をするための何なのだ』というレベルでのコミュニケーションが政府・自治体と学校との間で成立していかないと、今日、話題として出ている話とは凄まじく遠い話になることが改めて思っています。なので、そういうコミュニケーションが先になるということは正直思っています」

 

吉田氏:「統計データを二次利用できないというお話しがありました。その辺はデジタル臨調で議論しているデジタル5原則に関わってきますので、きちんとデータ連携するためには今の法制度自体を見直していかなければいけないですし、様々なこれまでのやり方を閉じた世界ではなく、横でつながるような形でやっていかないといけないと思っています。

 

官民連携については小木曽さんのおっしゃる通りで、国が手がけるのは手前のところまでで、そこから先のインターフェースは当然、民間サービスとの連携を前提にシステムを構築していかなければなりません。国が全部一気通貫でやり切るというのは相当難しい世界ですからね」

 

▲ 写真9・東京大学大学院教授
理化学研究所 革新知能統合研究センター
橋田 浩一氏

 

橋田氏:超教育協会からのコメント・提言が参加者にあまり伝わってないのではないかと思いますので、その点だけ少し追加してお話します。『分散管理を原則とすべし』という話ですが、世の中には教育DXを見て、『政府が子供のデータを集めて集中管理するのか』みたいに誤解して怒ってる人も多いと思います。『そうじゃないんだよ』ということをしっかり言うべきだというのが最初の原理です。

 

それは、浅野さんがおっしゃった『組み合わせを自由にしたい』ということにつながります。学習者か教師である各個人が、自分の教育・学習データを持っていることによって様々なデータを本人の手元で組み合わせられるようになるわけです。


このようなシンプルな世界を作っていきたいというのが先ほどの提言に込めた意味ですので、そこをご理解いただきたいと思います。それからまた新しいものが入ってきてごちゃごちゃするという話もありましたけれども、過渡期なので仕方ありませんが、本人のアプリだけでMEXCBTを含む様々なサービスを手元で組み合わせることができれば良いわけです」

 

石戸:「世の中の誤解が、変化・進歩の足を引っ張ることもありますので、社会全体を巻き込んだ丁寧な議論を繰り返しながら、教育のパラダイムシフトを起こしていけるとよいと思います。最後に柳瀬さん、中村さんにコメントいただいて、終了したいと思います」

 

▲ 写真10・嘉穂無線ホールディングス株式会社
代表取締役社長 柳瀬 隆志氏

 

柳瀬氏:「政府でやるべきこと、民間でやるべきこと、学校でやるべき部分など、役割分担は非常に大事で、政府がやるべきことは基本的なルール作り、例えば個人IDはマイナンバーにするのか何にするのかそこが決まらないとデータ連携もできないと思います。そのあたりの決め事をしっかり議論して進めていくことが大事だと感じました」

▲ 写真11・iU 学長 中村 伊知哉氏

 

中村氏:「今日は感激しています。こういう議論がやっとできるようになりました。1人1台端末というのは2年前まで夢みたいな話で、旗振る我々はずいぶん叩かれたのですが一気に実現しました。まず政府に感謝しています。

 

その前段となる教育情報化推進法案は全会一致で可決しました。それについては国会にも感謝したいと思います。現場には課題が当然ありますが、破裂しないでよくやってると思います。そこからのデータ利用ということで、専門家と称する方々も否定的で話が止まっていたのですが、デジタル庁もでき推進する方向になって、本日、共有した議論も進んでいます。へこたれないで前に進められるよう我々も応援していきたいと思います。教育システム全体が見直しになることを『超教育』と呼んでいますが、これからも後戻りしないで進んでいくことを期待しています」

 

最後はこの中村氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る