概要
超教育協会は2021年12月2日、クラスジャパン小中学園 代表の中島 武氏を招いて「『旅するクラスルーム』で不登校生が日本中を縦横無尽に駆け巡る!~クラスジャパン小中学園」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では中島氏が、全国の不登校生の実態と課題、代表を務めるクラスジャパン小中学園のオンライン学習の様子、文部科学省認可の不登校特例校などについて詳しく紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子氏をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「『旅するクラスルーム』で不登校生が日本中を縦横無尽に駆け巡る!~クラスジャパン小中学園」
■日時:2021年12月2日(木)12時~12時55分
■講演:中島 武氏
クラスジャパン小中学園 代表
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸 奈々子より参加者から寄せられた質問が紹介され、中島氏が回答する形で質疑応答が実施された。
不登校生の多様な学びの可能性や環境を整えることへの課題などに多数の質問
石戸:「素晴らしい活動だと改めて感銘を受けました。超教育協会は、実は『超学校』にしたかったです。全国一律で学べることはオンラインでやりつつ、学校の枠を超えて各地の特色ある学びを、自分で選択しながら学ぶことができる環境を作りたい思いがあったのですが、これはまさにその『超学校』を実践されていると思いました。
特に、以前お伺いしたときに気になっていた、心に傷があって学ぶところまでいけない子どもたちが、学びにもう一度向かえるファーストステップから支える仕組みにブラッシュアップされていると感じました。
参加者からの質問をご紹介します。『不登校の子どもだけではなく、通常の学校でもできたらよいのではないかと思います。通常の学校とのコラボレーションは考えていますか』というものです」
中島氏:「通常の学校へ提供することも考えています。ただし、先生方が頑張っている今の学校教育を否定したくはない。そこでまず、手を差し伸べにくい不登校生から、新しい学びの選択肢を与えて事例を作っていきたい。違う選択肢の中から子どもたちが成長できることを先生方にお伝えしたい。一時期別のところで学んでまた戻ってきてもよいよ、という理解につながってほしい。そのためのソフトランディングが必要だと思っています」
石戸:「学校から認められないことで傷ついている子どもたちがたくさんいるのに、認められていないところで学ぶような気持ちにさせてしまうのは、かわいそうだと思います。だから学校と対立関係にならずに連携することは必須と思います。
続いては『家族での移住は、テレワークに対応しない会社がまだ多いのでハードルが高いと思います。子どもたちだけ寮生活や下宿するようなことは考えていらっしゃいますか』という質問です。
私も多拠点生活を始めたところですが、親も含め生き方や働き方が多様化しているとはいえ、まだ少数派だと思います。家族で転々とするのが難しいときには、どんな代替案がありますか」
中島氏:「教育だけで考えるとなかなか難しいのですが、ワーケーションを合わせて考えると代替案はあります。ワーケーション事業を行う企業(スカラパートナーズ)と一緒に自治体を回っていますが、ワーケーション設備を提供している自治体は、働く場所だけでなく住む場所も用意しています。それも家族で住むことだけではなく、子どもが単独で住めるまさに寮のようなところやホームステイなど、その地域が第二のふるさとになるように用意されているところもたくさんあります。ぜひ子どもだけでも来てください。週末や月一度ご両親も来て一緒に過ごし、場合によっては子どもとお母さんだけでも受け入たり、いろんなところがあります」
石戸:「地域特例校についての質問です。『長期、短期とこれだけ柔軟に対応しようとしたら、採算を取るのが難しいのではないでしょうか。義務教育の位置づけでOKということですか』資金面をどうしていますか」
中島氏:「地域特例校には設計母体が2つあり、ひとつは市町村立です。公立の義務教育となるので学費が無料です。地域創生の予算は割と取られていること多いので、住む場所と生活費、暮らしのサポートはしやすいかもしれないです。もう一つは、私立の学校法人でこちらは学費がかかります。保護者の負担になりますが、これも各地方自治体の教育助成がありますし、現在文部科学省だけでなくこども庁など子どもの新しい学びを作る、私学助成も組み入れる、といった動きがあります。事例をたくさん作っていくことが必要です」
石戸:「初めの方にあった、ITを使って学ぶと出席扱いになり成績もつけられる制度は、以前からありましたが、ほぼ使われていなかったのが実態だと思います。この問題意識からガイドラインを作られたと思いますが、『ガイドラインを作ったことで変化はあったのか』と、『コロナを経て学んだ学校や自治体の意識の変化は見られたかどうか』についてお伺いしたいです。いかがでしょうか」
中島氏:「ガイドラインを作って1,741の自治体に送ったあと、すぐに評価の基準として活用いただいたり、勉強会で使ったり、これをカスタマイズしてそこの教育委員会独自のガイドラインを作ったところもありました。効果はあったと思います。このコロナ禍で、自宅で学ぶことが圧倒的に増えましたので、学校としてもオンライン学習を正式に認めていくかという議論が出てくるよいチャンスではないかと思います」
石戸:「これまでのクラスジャパン小中学園は、なかなか認めてくれない学校に保護者に代わり説明してあげる役割も大きかったと思いますが、その理解は広がったということですか」
中島氏:「少しずつは広がってきています。メディアにも取り上げられるようになって、社会全体、認めたほうがよいのではないかというムードになってきたのではないかと思います」
石戸:「フリースクールに通っていても出席扱いされないなど、残念な思いをしてきた子どもたちもたくさんいるので、広がっていくといいですね。
次の質問です。『海外に地域特例校のような例はありますか』、学校制度がかなり違いますし、フリースクールやホームスクーリングの広まり方も違うので、なかなか比較は難しいと思いますが、こんな事例を参考にしたなど、良い情報はありますか」
中島氏:「海外では、ホームスクーリングを認めることは当たり前です。個人の価値観での多様な学び方を認めることは、欧米だけでなく世界的に割とオーソドックスな考え方です。だから地域特例校や不登校特例校は、海外では作る必要がありません。
日本の義務教育はホームスクーリングを認めていません。逆に言えば、地域に特化した、そこでなければできない学校を日本で作ることができれば、世界に類のない事例になると思います。まちづくりと学校が一体になるような教育をしている国はないですよね」
石戸:「例えば、軽井沢に教育目的で移住される方が増えていますが、住む場所を変えようと考えたとき、子どもの教育環境は大きな決め手のひとつだと思います。教育を通じたまちづくりをしていくのは、非常におもしろい試みだと思います。イタリアに、教育で有名になって世界中から視察者が訪れるレッジョ・エミリアという町があります。私も、教育の旗を1本掲げることで町を作っていくこと、やっていきたいと思っていたので、モデルができて全国に広がるとよいなと思います。
次の質問です。『オンラインでの旅行体験以外で、今後どのようなオンライン体験、教育を考えていますか』という質問です。いかがでしょうか」
中島氏:「北海道や沖縄と住んでいる場所は離れていても同じ価値観を持った子どもたちが、一つの学問を深く学んでいこうとするとき、オンラインはすごく向いていると思います。教科学習というより、学術的な大学のゼミのようなものを、義務教育の段階でやらせてあげたら本当に面白いと思います。オンラインだったらそれができると思います」
石戸:「そろそろ時間ですので、最後の質問です。『クラスジャパンで学んでいる生徒はどのぐらいいますか』ということと、『卒業後の進路はどこが多いですか』という質問です。さきほどの50%の生徒は学校に戻るということでしたが、ずっと学び続けて卒業を迎えた子たちがその後どうなっているかを教えていただければと思います」
中島氏:「小中学校合わせて860人ぐらいです。中学生の方が少し多いです。そして半分ぐらいは在籍校に戻っています。卒業まで元の学校に戻らずにクラスジャパンで学んだ子どもたちの進路は、普通高校、通信制の高校が多いです。専門的な高等学校、面白いところでは海外のハイスクールに行く子も多いです。進路は、一般的な中学校よりも多岐に渡っています。面白い傾向だと感じます」
最後は石戸の「これから先、この仕組みによって自分らしい生き方、自分らしい学び方が可能となり救われる子がたくさんいるだろうと思います。いろいろとご一緒できればと思います」との言葉で、シンポジウムは幕を閉じた。