子どもたちがネットやゲームを「使いすぎない」ように大人たちができることは?
第70回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2021.12.24 Fri
子どもたちがネットやゲームを「使いすぎない」ように大人たちができることは?<br>第70回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は20211124日、児童精神科医・愛知県医療療育総合センター中央病院 子どものこころ科 部長の吉川 徹氏を招いて、「子どもが社会から孤立しないために~ネットやゲームとの付き合い方」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では吉川氏が、子どもたちのインターネット利用実態、ICTリテラシー、子どもを孤立させないために大人たちにできることなどについて、自身の家庭での取り組みを交えて説明。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「子どもが社会から孤立しないために
~ネットやゲームとの付き合い方」

■日時:2021年11月24日(水)12時~12時55分

■講演:吉川 徹氏
児童精神科医
愛知県医療療育総合センター中央病院
子どものこころ科 部長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

吉川氏は約30分間の講演において、子どもたちのインターネット利用実態、子どもと大人に必要なICTリテラシー、子どもを孤立させないために大人たちにできることについて説明した。主な内容は以下の通り。

 

【吉川氏】

総務省の「令和1年通信利用動向調査」の「年齢階層別インターネット利用率」では、中高生では当たり前のように、12歳以下の子供でも8割以上がインターネットを使う時代になっています。

 

▲ スライド1・12歳以下でも
8割以上がインターネットを利用

 

内閣府の「令和2年度青少年のインターネット利用環境実態調査」による「平日のインターネット利用時間の推移」をみると、1日平均で小学生が2時間以上、中学生が3時間以上、高校生は4時間以上インターネットを利用し、小学生では12時間、中学生で23時間、高校生では5時間以上利用している児童・生徒が最も多いことがわかります。

 

一方、GIGAスクール構想の進捗状況は、20217月時点での文部科学省の速報値によると96%の自治体で「11台端末」が整備済みですが、持ち帰り学習実施・準備状況では、実施している自治体は25%程度にとどまり、自治体間格差がかなりあるようです。

 

▲ スライド2・持ち帰り学習実施・
準備状況では
自治体間格差がある

 

デジタル世界の進歩は早く、児童・生徒のデジタルとの付き合い方も多様で、「子どもたちはこういう使い方をしている」と十把一絡げに把握することはできません。周囲の大人が、それぞれの子どもの使い方を知ることが大切です。

 

それでは、子供たちは、どのような使い方をしているのか。文部科学省科学研究費助成事業の研究者がまとめた「子どものネット使用実態」では「コンテンツを受け取って楽しむ」、「コミュニケーションで使う」、「創造的な活動をする」など、子どもたちがさまざまなことにネットを利用しているのがわかります。

 

▲ スライド3・SNS、ネット小説や
ウェブコミックの閲覧など子どもたちは
さまざまにネットを利用している

 

日々の診療の中でも、大人たちがゲームとネットの世界を本気で面白いと認めなければ、子ども達と話が通じなくなるであろうことを感じます。現在のネットには、一昔前には無かった非常に重層的な構造があり、相互的・継続的なコミュニケーションも行われていることは大人も知っておかないといけない。何より、時代が後ろに戻ることはないので、ここは前向きに考えないといけません。

 

▲ スライド4・ネットの中には
大人が知らない豊かな世界が存在している

「使えるリテラシー」「使いすぎないリテラシー」「安全に使うリテラシー」の3つを考える

私は診察室で患者本人やご家族と面談するとき、よく「リテラシーの三要素」の話をします。これは、「使えるリテラシー」、「使いすぎないリテラシー」、「安全に使うリテラシー」の3つです。精神科の医者として興味があるのはこのうち「使いすぎないリテラシー」です。

 

▲ スライド5・ネットを「使える」リテラシー、
「使いすぎない」リテラシー、
「安全に使う」リテラシーの3つがある

 

「使いすぎない」リテラシーを考えるときに大切なことは、「モラル・パニック」という言葉があるように、大人たちは昔から新しく出てくるものを怖がってきたということです。過去には「小説なんか読むと馬鹿になる」と言われた時代があり、クロスワードパズル、マンガ、テレビ、そして今のゲームやネットと、新しいものが出てくるといつも同様の反応は起こってきました。

 

また、ネットの「嗜癖」が問題になりますが、まだ広く合意された定義すらありません。ネットがあまりにも多様な使われ方をするため、「健康的な使用」と「病的な使用」をどこで分けるか、研究者の間でも合意できるラインが引けていないのです。定義できなければ研究も進まないというのが現状です。

 

こうした状況を踏まえて冷静に考えると、本当に問題となっているのはゲームやネットの「嗜癖」なのかも曖昧です。実際、診察室を訪れる患者には、ネットの嗜癖よりももっと大きな問題、例えば「不登校・ひきこもり」や「抑うつ・社交不安」、「教育虐待」、すなわち「大人がやらせたいだけ子どもが勉強しない」ことなどがあります。

 

▲ スライド6・本質的な問題はネットの嗜癖なのか、
冷静に考える必要がある

 

ネットの嗜癖をはじめ、さまざまな依存症は「孤立の病」とも言われます。アルコールや薬物など「物質」の依存の原因に孤立があり、同様にもし「子どもの孤立」がゲームやネットの嗜癖につながっているのであれば、その回避を考えなければなりません。仮にゲームやネットの嗜癖を「疾患障害」として考えるなら、ゲームやネットへの依存により「子どもがさらに孤立を深めてしまう」ことが絶対にないようにしなければならないのです。

 

現代の子どもにとって「デジタルゲームが果たす機能」は多岐にわたっています。娯楽や退屈しのぎ以外にも、勉強や部活で下がった自己効力感、不安、抑うつに対する対処にゲームを使う子どもがいます。また、コミュニケーションツールとしては、ゲームを介してオンラインコミュニケーションをとっている子どもと、逆に、ゲームのことを学校で友達に話すリアルコミュニケーションが登校動機になっている子どもがいます。

 

さらに、プロeスポーツプレイヤー、プログラマー、ゲーム開発者などを目指す子ども達も現実に少なくありませんから、職業準備性の向上につながっていると言えなくもありません。

 

また、精神科の領域では、「注意欠如多動症(ADHD)」の「不注意症状」がデジタルゲームで改善できると言う研究があり、アメリカFDA(食品医薬品局)では正式に承認されて処方できるようになっています。デジタルゲームはいろいろな機能を果たしているのです。

 

▲ スライド7・デジタルゲームには
さまざまな「効用」もある

子どもたちを孤立させないために大人たちにできること

その中で「大人にできること」を考えてみましょう。医者の立場で言えば、インターネットやデジタル機器は、使い過ぎや犯罪被害の危険性を考えると、そもそも子どもが安全に使えるものではありません。一方で、大人になるまでに必ず使い方を覚えておかなければならないものでもあります。

 

つまり「使わせる前が大事」なのです。まず、何らかの約束をするなら購入して使い始める前にすること。問題が起こってから約束を後付け追加するのは困難な上、失敗することが多いので、先回りしておいた方が効率的です。

 

また、最初に約束しやすいように、「機器は親が所有し、子どもに貸し出す」形にすることもお勧めしています。ゲーム機本体は親が買うので、サンタクロースへはソフトをリクエストしなさいと子どもを誘導するのです。そして、機器を所有する以上は親も遊ぶべきです。親が全然使わないでいると「自分に使わせないために親のものにしている」と子どもに見抜かれてしまいます。子どもが「それだけ遊ぶならお父さんのだよね」と納得するぐらい、親も遊びましょう。

 

▲ スライド8・デジタル機器を
買い与える前の「約束」が大切

 

それでは、いつから使わせればよいのでしょうか。デジタル機器への接触に「早すぎる」はないと考えられますが、学術的な根拠はまだほとんどありません。逆に、「早いと危ない」と主張する研究者はいますが、早く使っている人は「重症の場合が多い」、「ゲーム嗜癖の有病率が高い」といった横断面の情報ばかりで、「早く与える」と「ゆっくり与える」の両方を長期的に追いかけてどうなるかといった質の高いデータが非常に少ないため、学術的な結論は出せていない段階です。ただ、どうせ使い始めるなら、「完全な大人のコントロール下」での利用開始が望ましいと考えます。

 

いつから使わせればよいかに関するWHO委員会のガイドラインでは、画面を見ている時間(スクリーンタイム)は0歳代~1歳代は「0分」を、2歳代~4歳代は「60分以下」を推奨しています。ただ、これに対しては、「60分」というラインに科学的な根拠が無いことや、デジタル機器の肯定的な側面が無視されているといった批判も少なくありません。後者は、現在24歳の子どもが1020年先にデジタル機器を使いこなす能力をどのくらい求められるのかを考えると、そのスキル獲得につながるポジティブな側面を無視してよいのかという主張です。

 

また、「いつ」に関しては「文が読めている方が約束を書いておけるからよい」や「数や時間の概念が獲得されている方が約束を作りやすい」ということはありますが、発達スピードがゆっくりな子どもや発達障害のある子どもは、必ずしもこれに限定されるわけではありません。適切な「いつ」は、大人がどれぐらいコストをかけられるのかによっても変わるかもしれません。ご両親の教育水準が高くてICTに関する知識もあり、手取り足取り教える余裕があれば早い時期に使い始められますし、逆に養育に全く余力がなく、与えたても与えっぱなしにするしかないならやむを得ず先延ばしにすることになるということです。

 

ただ、本当にそれでよいのでしょうか。私たちのように育児支援を行う立場としては、全ての世帯がデジタル機器教育を始められる余力があることを、育児支援の目標水準にする必要があると考えます。

 

▲ スライド9・デジタル機器教育を始める
「余力」を確保することがポイント

ネット利用の「約束」は大人が「守らせる」もの

もう一つ重要なのは、ネットやデジタル機器に関する「約束」は子どもが守るものではなく、大人が守らせるものだということです。私ですら、出版社の締め切りを後目にゲームを止められないのですから、あれだけ魅力的なコンテンツで子どもが約束を守れるわけがないのです。コツは「守らせることのできる約束をする」こと。大人が使える知識・気力・体力・時間の範囲内で、「この約束なら守らせることができる」というイメージを持って約束を相談するのです。

 

そう考えると早期から始めるほど守らせるのは容易です。保育園の年長に「ゲームは130分」の約束を守らせるのは難しくないけれども、中学生になってから初めてスマホを与えて約束を守らせるのは簡単ではありません。「守られない約束が放置されている」状況は約束がないよりも悪い状況で、「親子の約束」そのものの価値が切り下げられていってしまうことになります。

 

▲ スライド10・約束は「大人が守らせる」もの

 

約束を取り決めたら最初に大切なのは、最も難しい「おしまい」の支援です。はじめに「機嫌よくおしまいにできた」とか「おしまいにしてもそれほど辛くなかった」という成功体験をたくさん積ませ、「おしまい後のおやつ」や「次回のボーナスタイム」といった設定で補強していくのがコツです。

 

大人側に気力・体力・時間的余裕があれば、「60×1回」を「20×3回」にして、おしまいを複数回練習する手もありますが、これでは大人が大変です。特に、発達障害のある子どもの幼児期や学齢期早期の最大の支援のポイントになると考えます。

 

▲ スライド11・ネット利用などを
「どう終わらせるか」が大切になる

 

我が家では最初に、テレビやデジタル機器は「1時間やったら1時間休み」という約束を作りました。キッチンタイマーを自分でセットして冷蔵庫に貼ることにしていたのですが、やがて「タイマーを巻き戻す」という技が発明されてしまったので「開始時間をメモに書いて冷蔵庫に貼る」という約束が追加されました。

 

そのうち、「鉛筆書きのメモを消して書き直す」技も発明されたので「メモをボールペンで書く」という約束を追加して、これでまあまあやれています。また、食事や家族との行動は常に優先され、キリのよいところで必ず終わりにしなければいけないのが我が家の約束の特徴かもしれません。

 

▲ スライド12・食事や家族との行動は
常に優先されるのが特長という

 

また、きょうだいの年齢によって使わせるアプリやコンテンツを決める「ゾーニング」も重要ですので、ペアレンタルコントロールやコンテンツ視聴履歴の追跡機能も使った見守りが、少なくとも初期段階ではとても重要です。「履歴は消さない」「ログアウトしない」という約束を子どもが守ってくれているうちは、ゲーム・ネットトラブルの大半は、サービスの選択や適切な設定で予防・対処が可能です。ただ、これも子ども側に「大人に見守っていて欲しい」という気持ちがある間の話です。

 

iPhoneやIPadなら「スクリーンタイム」、Nintendo Switchなら「みまもりSwitch」などペアレンタルコントロールの仕組みは用意されているのですが、これらの使い方を保護者が子どもにどう伝えていくかです。チャンスは、子どもが「欲しい」と言い出した時です。諦めさせるより、欲しい理由をプレゼンテーションする機会と捉えるべきですし、「確かに面白そうだね」とか「使いたくなる気持ちもわかるよ」など、親も興味を持っていることを示すことが、話をより建設的に進めていくコツです。

ペレンタルコントロールのあるゲーム機からキッズ携帯、タブレット、スマホへと段階的に

重要なのは、そういうメリットや魅力を十分理解している親が「それでも心配しているんだ」ということをはっきり伝えることです。そのためには、テレビ・新聞・ネットニュースなどでのさまざまなリスク事例を食卓の話題として普段から共有した上で、子どもはどんな約束だったら守れるのか、大人の腹の中ではどんな約束だったら守らせられるかを考えながら検討していくのが手堅いやり方です。

 

この話し合いには時間をかける価値があります。その目的は「ウチの親は困った時に相談しがいがある」と子どもに思ってもらうことです。ICTの知識も勉強する気もなく、隙あらば取り上げようとしている親に子どもがトラブルの相談を持ちかけるわけがありません。いざとなれば親が相談に乗ってくれるし、親がわからなければより詳しい人に相談してくれる、そういう信用を勝ち取ることが大切です。

 

また、いくら子どもが欲しがっても「一足飛びにスマホ」は難易度が高いです。スマホはできることが広すぎるし、どこでもつながるので大人が見守るのも困難です。最初はがっちりペアレンタルコントロールをかけた携帯型ゲーム機から始めて、キッズ携帯やガラケー、タブレット、そしてスマホと段階を踏んでいくべきです。親世代としてはその先にパソコンがあって欲しいのですが、最近の若者はあまりパソコンを使わないのが残念です。

 

▲ スライド13・段階的にデジタル機器を
与えていくことも大切

「使いすぎない」リテラシーだけでなく「身を守る」ためのリテラシーも大切

「使いすぎない」リテラシーだけではなく、子どもの「身を守る」リテラシー教育も、大人の介入を子どもが受け入れやすい「早いうち」から始めることが大切です。小学生の場合、LINEを親がいつでも全て確認できるようにしておくのは当たり前ですが、中学生が同じ約束でやっていると「うーん」と唸ってしまうし、高校生がそうだと「この子の自立心は大丈夫かな」と、児童精神科医としては別の心配が出てきます。

 

ゲームやネットに限らず厳しい制限で始めて緩い制限に移行していくのは子育ての大原則です。例えば外出なら、保育園は必ず保護者同伴、小学生は学区内、中学生は市区町村内、高校生なら都道府県内まで友達と外出可能といった具合です。

 

ICTは、大人が子どもより上手であり続けることが不可能な領域で、知識も、熱意も、時間も、場合によっては腕力でも上回る子どもを約束で縛ることはそもそもできません。約束で縛りきれなくなってきたら、約束を変更・廃止するなど徐々に退却させていくのがコツです。

 

デジタルを安全かつ自律的に使える中学生・高校生になってもらうための条件を考えてみます。一つは、「人生に必要なものごと」があまり嫌いになっておらず、できれば好きに、好きでなくても必要性を知的に理解できるようになっているということです。例えば歯磨きやお風呂が死ぬほど嫌いだと「ゲームはやめてお風呂に入りなさい」がどんどん難しくなりますし、これは学校に行くことや、勉強することでも同じです。何より大事なのは「自分の将来が投資に見合う価値がある」と思っていること。やけっぱちの状態でないことは大前提です。

 

また、もし大人がネットやゲームに興味なかったり、嫌っていたりしても子どもには教えないでください。ネットやゲームのことを訪ねても全然助けにならないばかりか、迂闊に話題にすると取り上げられてしまうから隠そうなどと思われないようにしましょう。

 

精神科医としては、依存・嗜癖にどう対処するかが実は一番関心があるところですが、今日は時間がありませんので、大原則として「『取り上げる』のは大抵無意味」を挙げておきます。これは、中学校で指導主事まで務め上げてから大学の教員に転じられた竹内和雄先生の言です。

 

「取り上げ」で状況が好転することはまれですし、しばしば暴力や家出にさえつながりますから、大人側で現状割ける時間、気力、体力、子どもとの関係を考慮して、現実的な約束を検討するのが堅実的な手法です。このあたりは拙著でも詳しく触れていますので、もし依存・嗜癖になった状態の対処など関心のある方は一読いただければと思います。

 

▲ スライド14・依存かなと思ったら、
取り上げるのは大抵「無意味」

 

デジタル機器・ネットの使用が避けて通れない時代が後退することはありません。大人ができることとしては、リアルの活動「も」楽しめるように子どもに働きかけていくことです。それには大人もネット・ゲームの世界に関心と知識を持ち、興味を持った子どもの世界を聞き取るべく、一緒にプレイしていけるとよいと考えています。

 

▲ スライド15・できれば一緒に
プレイすることも考える

 

>> 後半へ続く

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