概要
超教育協会は2021年11月17日、神山まるごと高専(仮称) 発起人/理事長候補・Sansan株式会社 代表取締役社長/CEOの寺田 親弘氏を招いて、「起業家が創る人間の未来を変える学校~神山まるごと高専(仮称)」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では寺田氏が、2023年4月の開校に向けて認可申請中の高等専門学校「神山まるごと高専(仮称)」設立の経緯や、同校の「『テクノロジー×デザイン』で人間の未来を変える学校」というコンセプト、独創的な教育カリキュラムについて紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。
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「起業家が創る人間の未来を変える学校
~神山まるごと高専(仮称)」
■日時:2021年11月17日(水)12時~12時55分
■講演:寺田 親弘氏
神山まるごと高専(仮称) 発起人/理事長候補
Sansan株式会社 代表取締役社長/CEO
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
寺田氏は約30分間の講演において、2021年10月に文部科学省へ学校設立の認可申請を行った私立の高等専門学校「神山まるごと高専」開校プロジェクトと、教育カリキュラム、予定講師陣、校舎の様子、求める学生像などを具体的に紹介した。主な内容は以下のとおり。
【寺田氏】
「神山まるごと高専(仮称)」開校プロジェクトの発起人は、NPO法人グリーンバレーの創設メンバーである大南 信也氏、株式会社2100 CEO/Creative Directorの国見 昭仁氏、Sansan株式会社 代表取締役社長/CEOの私、寺田 親弘です。
▲ スライド1・「神山まるごと高専(仮称)」
発起人。左から大南氏、寺田氏、国見氏
徳島県神山町は、地方創生の領域では広く知られた町で、大南さんはNPO法人グリーンバレーで20年来、町おこしに尽力され、例えば、海外からアーティストに移住してもらう取り組みも進めてきました。神山町は、移住したアーティストの作品が点在する「アートの町」としても有名です。
Sansanは10年前に神山町の公民館にサテライトオフィスを開設しました。神山町は、「サテライトオフィスのメッカ」ともされ、クリエイターや建築家など才能溢れる人たちが出入りするようになって、この10年は若者が増えて待機児童が増えるなど、ある意味で「奇跡的な状況」になっているといえるでしょう。そうした中で、Sansanが手がけるビジネスでは届きにくい、「社会課題に個人としてできることはないか」と考えて「学校を作ろう」という構想が浮かびました。そこで、大南さんに「この町に高等専門学校(以下、高専)を作ってエンジニアリングを核とした起業家を育成したら面白いのではないか」と相談し、国見さんやクリエイター、建築家など10名ほどの方々を集めて、2018年に「神山まるごと高専(仮称)」開校プロジェクトがキックオフしました。2019年6月には、「町と一緒に学校を立ち上げる」記者会見を開催し、2021年10月末には1,000ページを超える書類を作り、文部科学省に認可申請を提出するという大きなマイルストーンを越えたところです。
テクノロジー×デザイン×起業家精神で「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育成
「神山まるごと高専(仮称)」のコンセプトは、「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」です。高専は、モノをつくる人材を生み出してきた日本独自の学校ですが、21世紀において「モノをつくる」とは、テクノロジーとデザインを使いこなすことだと考えます。
▲ スライド2・コンセプトは
「テクノロジー×デザイン」で人間の未来を変える学校
育てる学生像は「モノをつくる力でコトを起こす人」です。モノをつくれる人になって、誰かの下で働くのではなく自らアジェンダを立て、未来を変える起業家になっていってほしいという思いも込められています。
▲ スライド3・育てる学生像は
「モノをつくる力でコトを起こす人」
つまり、「テクノロジー×デザイン」と「コトを起こす」起業家精神を育む学校です。これは、工業系の学部と美術など芸術系学部、そして経営学部の3つを合わせたようなイメージで、そうした学習環境で5年間集中して「モノをつくる力でコトを起こす人」を育んでいきます。
▲ スライド4・5年間でテクノロジー教育、
デザイン教育と合わせて起業家精神を育み、
「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育成する
カリキュラムの中核をなす「神山サークル」という重要な概念
カリキュラムの根幹には、「神山サークル」という重要な概念があります。「エンジニアはデザインができない、デザイナーは数字が分からない」ではなく、全てできる人材を育成することが鍵だと考えています。「モノをつくる力」を「デザイン」と「テクノロジー」に分け、さらにデザインを「絵に強くなる」と「言葉に強くなる」に、テクノロジーを「プログラミングに強くなる」、「数字に強くなる」という要素に分けて考えます。
そして、それらの要素を「社会と関わる力」として「人と一緒につくる力」、「隣人と生きる力」、「コトを起こす力」と掛け合わせ、生徒像を具体化していきます。
▲ スライド5・カリキュラム構想は、
5年間で21世紀の「人間力」を育てる内容
文部科学省への申請書類でも明記していますが、神山まるごと高専(仮称)のカリキュラムは一般科目、テクノロジー、デザイン、起業についてバランスよく授業が行えるようになっています。
▲ スライド6・文部科学省への申請に提出した
カリキュラムの抜粋
プログラミングやデザイン、ビジネスの領域も理論から実践まであり、IT、投資、教育、美容、デザインについてはビジネスのトップランナーである起業家と触れ合える授業も実施予定です。
起業家と触れ合える授業は「成功者からありがたいお話を聞く」のを目的とするのではなく、むしろ「なんだ、起業家といっても、その辺にいるようなお兄さん、お姉さんと変わらない」と親近感を持ってもらうことを目的としています。一緒にご飯を食べ、一晩話をする中で、起業家の精神性を感じて欲しい、そんなことを大切にした設計です。
▲ スライド7・起業家講師として
授業を行う予定の講師陣
講師陣は1年かけて募集し、日本全国からさまざまな背景を持つ、志のある優秀な21名が集まりました。正式決定は認可後になりますが、一般科目のいわゆる高校教師的な役割を担う方が10名、専門科目は大学や高専の教授や准教授です。彼らの大半は神山町に移住してこのプロジェクトに参画することになっています。
▲ スライド8・学校教員は21名。全国各地から
神山町に移住してこのプロジェクトに参画予定
高専卒業後のキャリアパスは就職、大学編入、起業と3つの選択肢
高専は、15歳から社会の学びに直結する学びを得られる、日本独自の学校制度です。高専の就職希望者は就職率100%、大学編入を希望すればさまざまな大学に編入できます。そこで、神山まるごと高専(仮称)のキャリアパスとしては、大学編入もオプションとして用意し、メインは20歳で起業していくことを掲げて、「40%起業家」としています。卒業直後ではなくてもいずれ起業してもよく、学校としても支援していきたいと考えています。
▲ スライド9・卒業後のキャリアパスは、
起業40%、就職30%、大学編入30%の見込み
神山町は基本的には過疎の町ではありますが、社会課題に対して向き合う意味では最適なフィールドでもあります。勉強にも集中できるうえ、人の出入りがあって面白い町です。町から見ても、この学校ができることは非常に大きな意味があります。社会実験としても有意義であると考えています。
多くのイノベーションを起こしてきた意欲のある地方の町に、日本全国から200人の若者が集まる場所をつくる、これによって起こる化学反応を私たちは期待していますし、町もそこに期待してくれています。
▲ スライド10・いろんな意味で、
新しい高専設置に最適な地として神山町を選んだ
一方、実際の授業の形式では、オンライン教育が花盛りの現在において、あえて「オフラインでの授業」を行おうとしています。キャンパスは現在の神山中学校を譲り受けて寮に改装し、川向こうの土地に校舎を建てる建築計画が進んでいます。イメージとしては、景観を邪魔しない平屋建てで、中は解放感がありのびやかにモノをつくる、講堂にみんなが集まって起業家講師の話が聞く姿が浮かんできます。
▲ スライド11・校舎内部の教室のイメージ
神山町ではさまざまな面白いプロジェクトが進行していて、超一流のシェフを呼んで地産地食を推進するレストランもあります。全寮制ということで、これと組んで食もデザインし、教育に取り込んでいきたいと考えています。単においしいだけでなく、その地に根差した循環型の日本一美味しい給食の提供を実現しようとしています。
学校設立資金21億円はクラウドファンディングや企業・個人からの寄付、ふるさと納税で集めた
資金が集まったことで文部科学省へ認可申請を提出しましたが、学校設立資金は21億円必要です。主にクラウドファンディングサイトのMakuakeで資金集めをしました。
新設の学校は同窓会がないため卒業生からの寄付は期待できません。当プロジェクトは現在、各分野の専門家約60名が自分の専門知識や経験を生かして社会貢献として参画するプロボノで運営していますが、参画し応援したいけれどスキルがマッチしない方や一般の方々からも応援したいとの声が多かったため、「一口3万円で先輩になりませんか」と始めたところ、1,000人の枠が売り切れました。そしてこの1,000人がさらに全国で先輩コミュニティを主導してくださり、ありがたいことに6,000万円近い資金が集まりました。
他にも会社や個人から多く寄付をいただきました。1,000万円以上寄付いただいた方もいます。テックカンパニー、大企業、銀行、個人ではテクノロジーベンチャーの代表、ベンチャーキャピタル協会、日本を代表する大企業の会長。このような方々に、この学校に創業から携わっていただくことにも大きな意味があると考えています。
「起業版ふるさと納税」も活用しました。これは上限があるものの納税額の9割が控除される素晴らしい制度です。1億円以上寄付してくださっても企業としては1,000万円の負担で済みます。
ふるさと納税で学校をつくるケースも初めてではないかと思います。個人的には起業版ふるさと納税の認知が進み、教育に活用されればよいなと思っています。今回は神山町と内閣府で調整し、企業が神山町へ寄付したときに結びつくようにしました。
「20年がかりのプロジェクト」 神山町を「未来のシリコンバレーに」
開校は2023年4月を予定しています。順調に進めば来年8月に認可が下りて、学生の募集を開始して開校という流れです。クラスは40人1学年、5学年200人の少数制です。高専としては日本最小で、私立の独立系高専も日本初です。
このプロジェクトは2018年に開始し、学校ができるのが2023年、最初の卒業生は2028年、彼らが社会的な評価が出てくるのが10年後だとして2038年。20年プロジェクトです。
▲ スライド12・開校に向けたこれからの
スケジュール。学生の募集は認可後の
2022年8月から
「神山町から未来のシリコンバレーを生み出す」私達はこれを本気で信じています。私はシリコンバレー駐在経験があり、神山町に来てこの小さい田舎町が変わっていく姿を見たとき、ここにシリコンバレーにあるようなスタンフォード大学のように、「ミニスタンフォード大学ができたら、シリコンバレーと同じになれるのではないか」と思いました。全国から起業家の卵が集まってくる、起業家講師や投資家が出入りする横の連携もあります。卒業生が起業する、この地に戻ってくる、エコシステムができることを夢見ています。
「学校をつくる」とは、成功者が晩年にやるイメージがありますが、実はそうではなく、私のような「未完成の起業家」がつくることに、大きな意味があると考えています。神山町からシリコンバレーを生み出すために、素晴らしい高専をつくっていきたいと思います。
>> 後半へ続く