概要
超教育協会は、2021年9月15日、つくば市立みどりの学園義務教育学校の校長を務める毛利 靖氏を招いて、「つくば市立みどりの学園の先進的ICT教育の実践~開校3年目でeラーニングアワード受賞」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半は毛利氏が同校で進めてきた教育へのICT導入の取り組みについて解説。後半には、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
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「つくば市立みどりの学園の先進的ICT教育の実践
~開校3年目でeラーニングアワード受賞」
■日時:2021年9月15日 (水)12時~12時55分
■講演:毛利 靖氏
つくば市立みどりの学園義務教育学校 校長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者からの質問に毛利氏が答えるかたちで質疑応答が実施された。
テストのための学習ではなく自分の学びを深めることが生徒の達成感に繋がる
石戸:「最初は、ICTを活用した授業は最初からうまくいったのか、また先生方はICT活用の知見をどのように得ているのかという質問です」
毛利氏:「教員研修はもちろん大事ですが、できることからやるというのが基本だと考えています。みどりの学園では、最初はデジタル教科書と大型掲示装置を入れました。実際に使ってみると、これらは本当に便利でした。特に指導者用デジタル教科書はよくできています。これまで先生方が紙で作っていたものが簡単に作れるので便利です。まずできるところからやってみました。
また、SDGsのプログラミングなどは得意な人がやるようにしています。適材適所です。それを授業中に他の先生たちが覗きに行ったり、放課後に知見のある先生から教えてもらったりしながら、楽しくチャレンジできればよいと思います。最初から高いレベルに手を出すと苦しいので、一歩ずつでも楽しく進めていけたらよい。まずはやってみて、よさを自分で実感した上で、色んなことにチャレンジできたらよいと思います」
石戸:「どんな失敗があったのか教えてほしいという声が届いていますが、いかがですか」
毛利氏:「2020年4月からの休校では、まだ1人に1台の端末がありませんでした。先生たちがユーチューバーのようになって、電子黒板を使って授業を配信しました。教育委員会は、そういう使い方をするとは思っていなかったので、サーバが一夜にしてダウンしてしまったのです。それまでは、『校外学習の様子を見たい』といったニーズへの対応でしたので、多くても1日200アクセスくらいでしたが、一気に1万6,000アクセスになって、全てのサーバがダウンし他の学校にも影響しました。さすがにこれはまずいということで、サーバを増強してくれたので、今はダウンすることなく使えています。
ダウンしたらどうしようや、これをやったら駄目ではないかと思って最初からやらないのではなくて、取り敢えず実践してみることが大切です。もし失敗しても、『想定内だ』と落ち着いて受け止めればよいのです」
石戸:「次は、先生方が試行錯誤を共有する仕組みはどのようにしてるのか、という質問です」
毛利氏:「MicrosoftのTeamsで情報共有していますが、それだけではだめだと思います。うまくいかない時に、隣のクラスの先生や違う学年の先生にどうやったらよいのか聞くなど、コミュニケーションがとれるような組織づくりが大事です。
みどりの学園では、よく先生方同士でミニ研修をやっています。例えば道徳が得意な先生が、この日に道徳の授業をやっているから見に来てくださいと言って、放課後に見に来た先生同士で研修をして、ICTのこういう機能の使い方を教えるので、放課後苦手な先生は集まりませんかなど、声を掛け合って行っています。大学の有名な先生が講演に来るのもよいですが、それだと聞いて終わりになってしまう。でも先生同士なら、分からないことを言い合うなど相談できます」
石戸:「みどりの学園の予算や入校希望者が殺到した際の対応についての質問がきています」
毛利氏:「みどりの学園はつくば市の公立学校なので、1人当たりの予算は他の学校と一緒です。つくば市内のどこの学校に行っても設備も同じ、定員はありません。公立なので、みどりの学園の学区に住んでいれば定員に関係なく入れます。今は生徒が1,600人で、来年は400人増えて2,000人になる予定です。
当校の敷地は広いので生徒が増えても問題はありません。入学試験もないので、みどりの学園で教育を受けてみたい人は、つくば市のみどりの学園の学区に住めば誰でも入れます。ただ、つくば市内は同じ教育をしているので、つくば市の教育はみどりの学園でなくてもどこの学校に行っても受けられます」
石戸:「次の質問です。『学年を超えた交流や学びの機会はありますか。また、学びの質の保障として定期試験を実施していますか』というものです」
毛利氏:「異学年交流は、教師が仕組む時代ではありません。生徒間で自主的に行われています。休み時間に低学年が6年生にプログラミングを教えてもらったり、中学生が優しく、小学生にさまざまなことを教えてあげたりしているのが普通の光景です。
定期テストについて、茨城県では県の学力診断テストを実施しています。ただ私は、テストのための学習はあまり意味がないと思っています。学んだことを確認するテストは、自分の成果を測るものでもあるので、それは大切な指標として実施しています。学習において大切だと思うのは、学ぶのが楽しいことや、やる気が出るということです。例えばプログラミング学習や、問題解決の学習はやればやるだけ深くなるし、他人と比較してではなく、自分がここまでできたという達成感が生まれるので、どこのレベルの子でもやった分だけ満足できます。子どもの能力に応じた学習ができるので、プログラミングや問題解決学習をたくさんやって、子どもたちのモチベーションが上がればよいと思っています」
石戸:「次は、子どもたちのポートフォリオ、学びの履歴は把握しているかという質問です」
毛利氏:「つくば市では30年くらい前から教育用グループウェアを筑波大学と開発しており、それは1年生から9年生までずっと持ち上がりできるようになっています。電子掲示板で全校生徒の履歴が見られるなど9年間のポートフォリオができています」
石戸:「いじめ問題で、ICTがそれを助長しているのではないかという議論もある一方で、本来はそういったことを防いでくれる使い方もある。それについてはどうお考えですか」
毛利氏:「大人ですら誹謗中傷に使いやすい側面もありますが、要は使い方だと思います。昔は包丁やカッターを子どもに使わせてはいけないという時期がありました。本来、生活を豊かにするものであるのに、ほんの少数が悪用するから100%の人が使えなくなるのは違うと思います。
自動車も一緒で、自動車が普及し始めた頃は、使い方が悪くて2万人以上の人が事故で亡くなった。今では普及台数に比較すると交通事故で亡くなる人は減っています。それと同じで、ICTを小学生・中学生に使わせないのではなく、危険な側面があるからこそ小学生・中学生に早いうちから正しい使い方を身に着けさせる必要があるのです。
小中学校ではICTにまったく触れないで、高校からいきなり全部自由となった時、高校の先生に正しい使い方のレクチャーを全部押し付けるのは無理があると思います」
石戸:「ICTを使うことによってより仲良くなった、お互いに分かり合えていじめが減ったという話が出れば、さらによいと思いました。そういうところはまだ調査はしていませんか」
毛利氏:「そういう調査は必要です。例えば東日本大震災の時は、茨城県も被害が大きく水も電話も止まりました。もしネットがなかったら、家族や友人に電話をかけまくっても繋がらなくて、1日心配し続けたと思います。ICTやインターネットは人と人を繋ぐものだということを、道徳でも教えたい。道徳では悪いことよりもよいことを伝えているのが多いので、そういう教材があったらよいと思います」
石戸:「最後に2つ質問です。ローカル5Gを導入した実験もなさっていましたが、より進んだ技術を導入した実践を通じてのご感想や今後の展望について。もう1つは、筑波大学の存在も大きいのではないかという指摘もきていますが、高等教育機関や地域のさまざまな組織体との連携について。その2点に関して、お考えを聞かせてください」
毛利氏:「5Gの教育利用は日本初で、世界でもほとんど例がありません。本当によかったというのが感想です。6年生は一人ひとりが別々にテレビ会議で福岡の学校と繋いでいますが、何のストレスもなく使えています。4Kの動画もサクサク動きます。去年はコロナで遠足に行けなかったのですが、電子黒板を多目的ホールに集めて、色々な地域の4K動画を流すという試みをやりました。水族館の動画などを流したら、1年生などは楽しそうに見ていました。また、9年生は昨年、卒業式で合唱ができなかったのですが、今年は5Gを使って、一人ひとりが自分の端末で歌った歌をタイムラグなく合わせて合唱にすることができました。それを録画して卒業式で流したのですが、大変感動しました。
2つ目の質問は、筑波大学が近くにあるのは連携できてよいのですが、オンラインがあれば距離は関係ないと思います。理科の研究をしている生徒が、同じような研究をしている北海道の先生に繋いでもらえないかと言ってきたこともありました。今の時代は近くの大学だけでなくて、どんどん遠くの大学でもチャレンジしたらよいと思います。断られても他の大学がたくさんあります」
最後は石戸の「今日の一貫したテーマは失敗を恐れずに挑戦してみるということでした。オープンなチャレンジ精神があるからこそ、大学や企業など様々な組織とのコラボレーションが生まれるのだと思いますし、今後の展開にも期待します」という言葉でシンポジウムが幕を閉じた。