概要
超教育協会は2021年8月25日、参議院議員/立憲民主党/政調筆頭副会長 石橋 通宏氏を招いて、「教育におけるICT利活用の現状と課題~GIGAスクール構想推進への次の一手~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半は、石橋氏が「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」の活動内容、教育現場でのICT活用の課題、「学校教育の情報化の推進に関する法律」について解説し、後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「教育におけるICT利活用の現状と課題~GIGAスクール構想推進への次の一手~」
■日時:2021年8月25日(水)12時~12時55分
■講演:石橋 通宏氏
参議院議員/立憲民主党/政調筆頭副会長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸 奈々子より参加者からの質問やコメントが紹介され、石橋氏が答える形で質疑応答が実施された。
デジタル教科書のための法整備や
「GIGAスクール時代の予算あり方」への質問が相次ぐ
石戸:「本日は、議連のアドバイザー、文部科学省の方、GIGAスクール構想の協力企業、教科書会社等デジタル教科書関係者も、多数視聴されています。視聴者の皆様からは、質問のみならず、要望等もありましたらご意見を頂きたいと思います。まず、教科書会社の方からのコメントをご紹介します。『デジタル教科書の検定を行う文部科学省の体制を強化しないと、紙の他に音声やコンテンツ内容を含めた検定をすることはできないと思います。議員連盟から提案していただかないと、文部科学省からは提案しにくいと思いますので、よろしくお願いいたします』というコメントです」
石橋氏:「デジタルならではの教科書、紙ベースではできなかった創意工夫も含めてどう検定していくのか、その能力が問われるというのは全くおっしゃる通りです。検定制度のあり方、検定の進め方も含めて見直していかなければならないと思います。教科書会社の方、現場で問題課題を理解している方々にも参画いただいて、デジタル教科書の正規化を進めていくべきだと認識しています」
石戸:「紙の教科書との併用についての考え方についての質問です。『これまで、デジタル教科書は2分の1までとの規制がありましたが、このたび外れて、デジタル教科書の存在は今後大きくなってくると思います。先生のご意見はいかがでしょうか』という質問です」
石橋氏:「個人的な意見も含みますが、国が一律に決めるより、最終的には現場でベストなミックスを選べる環境が整えられるとよいのではないかと思います。デジタル教科書だけでよいというところもあり、紙をベースにデジタルのよいところを併用したいところもあるかもしれません。予算にもよりますが、紙とデジタルの併用が可能になるのがベストだと思っています。
アメリカを視察した際、デジタル教科書を使った授業中に、紙の方が勉強しやすいからと、紙の教科書を使っている子供もいて、先生は『これで普通です』とおっしゃっていたのが非常に印象的でした。子供たちが選べる環境は素晴らしいと思いました」
石戸:「コメントとして、『デジタル教科書を使い始めた学校では、児童生徒中心の授業、学習に変化してきています。ただし、全教科で導入したいとの要望が多くなっています。ぜひ予算的な裏付けを進めてください』という要望がきています。このこともお伝えしておきます」
石橋氏:「我々も全く異論なく、その観点で政府にしっかり要求していきたいと思います」
石戸:「次は、『GIGAスクール時代の予算のあり方について詳しく教えてください。将来的に端末整備は自治体で予算を取ることを想定すべきなのか、BYODなのか。またコンテンツについても検討すべきことを教えてください』という質問です」
石橋氏:「予算改革のあり方は、発展的になると思います。これまで補正予算で巨額の予算がついてGIGAスクールが一斉に始まりました。今後は、例えば1人1台端末の環境整備・維持を国の予算でやっていくのがよいのか、ゆくゆくはBYODがよいのか、別の形がよいのか、それは今後議論を深めていかなければならないと思いますし、それが今後の予算のあり方にも影響してきます。
今の段階で、GIGAスクール時代にふさわしい予算立てが完成形として見えているわけではありません。まず、来年度予算で何が最低限必要か、そこから始めて、再来年以降、現場からの要望も取り入れて、GIGAスクール時代にふさわしい学校教育予算を徐々に立てていければよいのではないかと思います。
文部科学省には、GIGA時代のスタンダードとして、どのようなものを盛り込んで要求していくべきかを検討して欲しいと要請しています。例えば通信費をどうするのか、更新やメンテにかかる費用、教員の方の恒常的な教育訓練費なども、今後は一般会計に盛り込むべきではないかと考えています。皆さんのご意見をモニターして、議論を深めていきたいと思っています」
石戸:「BYODのお話がありましたが、『今回小中学校でGIGAスクールが進んだことによって、高校は相対的に遅れを取っているのではないか』というご指摘がきています」
石橋氏:「我々も同じ問題意識です。2021年4~5月段階で『高校をどうするのか』との課題をいただいていました。BYODは現場にいろんな端末、いろんなOSが混在してしまうことで混乱が生じます。何かトラブルがあったときに、先生が異なる環境に応じた対応をしなければならない、パフォーマンスに問題があって統一的な授業ができない、などの問題は現場から聞いていました。
中学校まではよい環境で学べていたのに、高校に入った途端になくなるのではいけません。高校ではむしろより高度なICTを活用した教育を実践できる環境を整えていだきたい。今後の予算立て次第ですが、例えば高校にも公的に1人1台端末の環境整備をすることも、1つのやり方だと思います。各家庭に対応をお願いするのであれば、丸投げではなくせめて端末やOSを規定して、選んで用意できる改善が必要だろうと、通常国会の段階では議論させていただいていました。高校のベストなあり方については、9月以降に議論を進めていきたいと思います」
石戸:「続いて、教員についてご質問ご意見です。『教員のアップデートが必要です。免許更新制度を廃止するのであれば、何らかの新しい講習制度、スキルをアップデートするような新制度の導入をご検討ください』」
石橋氏:「これも、我々もずっと問題意識を持っています。国が責任を持って、教職課程の中で、ICT教育をさらに高度化していくためのハブとなるような拠点を大学院に整備し、ICT教育ができる人材を育成するためのスペシャリストを育成して、全国の現職の教員の方々へ教育できるようにするシステムを作っていくべきだと、議論してきました。非常に重要なことだと認識しています。文部科学省と引き続きしっかり責任をもってやっていきます」
石戸:「遠隔教育についての質問をまとめて2つ取り上げます。『マッチング制度は非常に重要と思いますが、離島対応などでは自治体の枠を外した特例制度が必要と考えます。個別自治体対応では、継続性に課題が出てくるのではないでしょうか』という質問です。
もう一つは『遠隔授業には、情報端末や通信環境、対面授業に比する質の保障やコミュニティの形成など、ハード・ソフト両面に課題はありますが、ポストコロナではハイブリッド化が継続できると認識しています。議連のお立場から、ポストコロナ時代の遠隔教育のあり方について、マッチング制度も含めてご教授いただければと思います』という質問です」
石橋氏:「アドバイザーの皆様から、既によい取り組みを行っている現場の実践例をいただいています。自治体、教育委員会、また大学を拠点に大学の先生方に協力いただいた例もあります。課題としては、小さな自治体単位で行うのか、より広域に行うのか、マッチングや遠隔教育のスキームをどう開発していくとよいのか、ご意見をいただきながら、発展形で対応を進めていきたいと思っています。
全国的なプラットフォームを一気に完成形で提供することはできないと思いますので、当面は実証にも国の予算をしっかり取って進めていくことになると思います。将来的なプラットフォームの整備、自治体の枠のあり方を含めて遠隔教育のすすめを、議連として考えていきたいと思っています」
石戸:「このシンポジウムにも、通信教育関係の方々にご登壇いただいてきましたが、『遠隔教育と通信教育の相違がこれからどうなっていくのか』といった質問もありますし、制度設計上のポイントなのかもしれません」
石橋氏:「今の段階ではあくまで、学校教育において効果的な形で、遠隔教育を選んで活用いただくことです。通信教育的なものとは線引きがされると思います。子供たちへの教育の質的な保障、新たな学びの環境の保障として遠隔教育を効果的に活用する位置づけで、議論していきたいとは思っています」
石戸:「次の質問です。『実際の端末は、GIGAと名乗るには到底及ばないスペックだという高校生の新聞投稿が話題になりました。実態の把握はどうされていますか』、もうひとつは『教科書をデジタルか紙か選ばせるというお話ですが、デジタルにネガティブな印象を持つ現場任せにしておくと、紙が選ばれることが増えるのではないか。国がある程度デジタルの利用方針を示さないと難しいのではないか』という質問です」
石橋氏:「2つめから回答します。デジタルにふさわしい、よい教科書ができれば、現場は選ぶと思います。デジタルに対するネガティブはこれまでにもありました。でも、『紙ではできなかったこんなことがデジタルならできる』となれば『ぜひ子供たちに使わせたい』となり、子供たちも『デジタルのこれを使いたい』となっていくと思います。よい教科書ができるように引き続き応援していきたいと思っています。
1つめに関しては、今回のGIGAスクール対応端末スペックを決めた段階で、私達もこれは低すぎると文部科学省に提言しました。しかし予算的な面もあり、45,000円の端末で問題なく使えるGIGAスクール仕様に工夫したうえで、今回このようになったのです。まずは、これでスタートして、この端末で問題なく動いていくかどうか、文部科学省と議連とでモニターチェックしていきます。端末スペックの問題なのか、ネットワーク環境の問題なのか、さらに実践導入が進んでいく中で対応していきたいと思っています」
最後は、石戸の「ようやく教育現場でもデジタル化が進み始めました。法律が果たした役割は実に大きいと思います。一方でこれから先はデータをどのように活用していくのか、さらにはAIなどSociety5.0を代表するような新しい技術を教育にどう反映させていくのか、といった『教育DX』実現に向けた議論も重要になってきます。ぜひ議連でも教育DXへの議論がさらに充実していくことを期待したいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。