個人の適性や学習の進捗に応じた教育を
第58回オンラインシンポ>レポート・後半

活動報告|レポート

2021.9.24 Fri
個人の適性や学習の進捗に応じた教育を<br>第58回オンラインシンポ>レポート・後半

概要

超教育協会は、2021818日、東京大学教授でEd-AI研究会会長の越塚 登氏を招いて、「Ed-AI研究会:AI技術と教育データを用いたテイラーメイド教育を目指して」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半は、越塚氏がEd-AI研究会の基本的なビジョンや、教育データを活用する上での課題などについて解説。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画

 

「Ed-AI研究会:AI技術と教育データを用いたテイラーメイド教育を目指して」

日時:2021818日(水)12~1255

講演:越塚 登氏 東京大学教授・Ed-AI研究会会長

■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターとして、参加者から寄せられた質問に越塚氏が答えるかたちで質疑応答が行われた。

Ed-AIの実現に向けて、
まずは教育現場でデジタルを活用するところから

石戸:「はじめの質問です。敢えてデータではなくAIにフォーカスしたのは、テイラーメイドにある数理的な手法を導き出したいというところに一番の目的があるからという理解でよろしいでしょうか」

 

越塚氏:「はい、そうです。単にメディアや情報流通ツールとしてのICTではなくて、もう少しインテリジェントなことができると、教育の面で支援できるかなと思いました。ここまで研究会を立ち上げて皆さんと議論していくなかで、今言ってきた問題が顕在化してきたと思います」

 

石戸:「なかなかテイラーメイドに合う数理的な手法のイメージが持てないでいるのですが、具体的にどういう道筋が見えているのか聞きたいのと、海外で同じようなことに取り組んでいる大学や研究機関はあるのかについても教えてください」

 

越塚氏:「今日の話で取り上げたことは、海外でもまだできていないと思います。やろうとしたら、今僕らが感じている問題と同じものにぶつかるでしょう。テイラーメイドを捨てて、みんな同じプログラムにすればいいのならできます。しかしテイラーメイドを目指した時、データの処理のところは根本的にまだできません。例えばある学校のあるクラスで試験をやって、点数などのデータが出る。そのデータを隣のクラスで活用しようと思ったら、全く別の試験をやっていた。これではデータを使いようがありません。日本中で違う試験をやっています。テイラーメイドがそういう状況です。予備校はKPIがはっきりしていて、目的は学校に入ること。それで全員同じ試験を受けます。だからこれはテイラーメイドとはいえません。しかし目的が大学に入ることとはっきりしている予備校では、AIがどんどん使われていくと思う。ビジネスのモデルが数理的にやりやすいからです。一方で公教育では、先生にもある程度裁量を持たせてテイラーメイドなことをやろうしていますが、それをサポートしていきたい。AIを生かすために裁量を持たせるのをやめようとかカリキュラムを統一させようという方向に行きたいのではなくて、テイラーメイドに合うような技術を開発したいと思っています」

 

石戸:「視聴者から質問がきています。『AIを使った教材が最近民間で出ていますが、それはテイラーメイド教育と言えますか。だとしたら今日のプレゼンのなかで、そのような教材はどのように位置づけされていますか。講演の中で、Ed-AI1.01.5という話がありました。今、巷で出ているAI教材はEd-AI1.5に位置づけられますか』というものです」

 

越塚氏:「まだ十分ではないかもしれませんが、Ed-AI2.0に向けて取り組んでいると言っていいと思います。テイラーメイド教育ですが、ここからはテイラーメイドでここからはテイラーメイドではないと線引きはできません。カリキュラムを統一するのはテイラーメイドではないという言い方も乱暴な言い方で、例えば地球上にある全てのカリキュラムを包含したような、地球上の人がみんな考えているようなメタなカリキュラムが作れたら、それは統一されているけれど多様性もあるということになります。教材を広げていって色んなことに対応できるように多様化を進めていけば、十分テイラーメイドと言えます。それが狭ければ狭いほど、これしかだめみたいな統一された教育になる。カリキュラムは決めても、それが広ければ理論的にはテイラーメイドと同じことになっていきます。たくさん広がって多様になれば、テイラーメイドに近づいてきたということになって、狭ければ統一されて同じことしかできないとなるということです」

 

石戸:「次の質問です。『Ed-AIはまだ実用化は遠いとのことですが、実用化までにどのくらいの時間がかかると思いますか。また実現するために解決すべき最も大きな課題は何でしょうか』という質問です」

 

越塚氏:「まず、AIそのものの進展も必要ですし、教育現場でデジタル機器の導入があまり進んでいないという事情があります。AIが教育現場に広く普及するまで到達するにはまだ少し時間がかかるでしょう。学校の現場でも、先生に聞くとデジタル化で手一杯でAIどころの話ではない。現場にゆきわたるには、加速して10程度かかると思います。課題は色々ありますが、最大の課題は、みなさんが学校現場の中でデジタルを使うことの障壁をどうやって乗り越えるかです。GIGAスクール構想で一人1台端末が導入されましたが、それを活用する上での課題も色々あります。しかし解決できない課題ではないと思います。ただ机上の空論はだめで、使わないといけません。初歩的でもいいのでまずはデジタルを使うところの最初のブレイクスルーが一番大事。使い始めると、使ったものを高度化するのは日本人が得意なので、最初を踏み出せばあとはうまく進むと思います」

 

石戸:「次の質問です。裕福なインドの学生で、ずっとテイラーメイドの教育を受けて大学に来た学生の話がありましたが、学校というコミュニティーの中で、集団で学んでこなかったことによる弊害はないのでしょうか」

 

越塚氏:「お金があるので、コミュニティーが必要だと思ったら作ってしまうのではないでしょうか。学校が必要だと思ったら学校に行くし、家庭教師もつける。桁違いに裕福だと、何でもできてしまうという感じがします」

 

石戸:「多様性すらお金で作ってしまうということですね」

 

越塚氏:「工学的なことをやる上で、最初に考えた方がいいのが、お金のことを一切考えずに最適なことをしたらどうなるかということです。その一つの端的な事例として、インドやヨーロッパの貴族的な人たちがあります。日本では考えられないようなこともなされているので、頭の体操的には、大変参考になります。お金に糸目をつけない人たちが何をやるのかは関心があって、それを知った上でどうやってコストを現実に合うようにするのかは、エンジニアリング的な考え方です。ただ、目指す理想がお金をたくさんかけたからといって実現できるとも限りません。個別教育ではなく学校へ行った方がいいかもしれないということもあります」

 

最後は、石戸の「テイラーメイドの教育が理想というのは、当然指摘されてきたことですが、その実現のためのコストを下げてくれるのがテクノロジーですね。先ほどEd-AIには10年かかるという話でしたが、実現までにかかる時間を縮めていくこと、そして研究成果を現場に繋げていくことを本研究会に期待したいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る