データの活用が教育の変革をもたらす
第57回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.9.17 Fri
データの活用が教育の変革をもたらす<br>第57回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は、202184日、東北大学大学院情報科学研究科教授/東京学芸大学大学院教育学研究科教授の堀田 龍也氏を招いて、「データ駆動型の教育を目指して」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半は、堀田氏が学習データを利活用で教育がどのように変革するか、データ駆動型教育の可能性と実現に向けた課題を解説。後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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日時:202184(水)12時~12時55分

講演:堀田 龍也氏

東北大学大学院情報科学研究科教授/東京学芸大学大学院教育学研究科教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子

超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターとして、参加者から寄せられた質問に堀田氏が答えるかたちで、質疑応答が行なわれた。

後半は質疑応答
ゴールを想定して進めていくこと重要

石戸:「まずは、私からの質問です。データ駆動型教育の実現には、あとどのくらいかかるとお考えでしょうか」

 

堀田氏:「データ駆動型の教育がどういう状況になったときに実現した、完成したと言えるのかは、ちょっと分かりません。学校の現場ではまだ紙の教育です。それをPDFにする、ウェブにするというところから始まると考えると、私が生きているうちにできればいいなというくらいの感じです。ただ、デジタル教科書も、石戸さんたちが最初に法案を出したときには『これはいつできるのか』と思いましたが、何年後かにはできています。先にイメージを出して、それをひとつのゴールとして進めていくやり方は、社会を動かしていくのに大切です。10年くらいかけて、ぐっと進めていかないといけないことだと思っています」

 

石戸:「視聴者からの質問です。『生徒の学習データを公立・私立またいで持ち越せるようにするとき、障壁となるのはどのようなことで、それを克服するアイデアがあれば教えてください』というものです」

 

堀田氏:「学校の設置者は公立だけでも1800くらいあります。私学はそれぞれが法人です。私学同士は取り決めをすれば実現できると思いますが、公立学校まで含めて考えると、その市や町の中では学習データをうまくやり取りできるかもしれませんが、市をまたぐと行政体を超えるので役所が責任を持てなくなります。これは国がやるべきことだと思っています。

 

一番簡単なのは、溜まった情報は卒業時には本人に返し、その人が次の中学校や高校で新しい設置者に提供して、『これに繋げてください』と依頼するかたちです。また、学校外学習と学校内学習を繋げるのは、すぐにはできないことだと思います。例えば、1カ月したらデータを出せますという仕組みはできるかもしれませんが、それではほとんど意味がなく、リアルタイムでいつでもデータが出せる仕組みが期待されますが、すぐには難しいと思います。リアルタイムが理想だということは提示していくべきですが、現状では、まだ公教育データとして何を集めてどこに置くかすら決まっていないのです」

 

石戸:「学習指導要領コードについても質問がきています。『何回ほどの改定を想定したコード体系になっているのでしょうか。また将来的に新たな教科が出現する、また今ある教科がなくなることを想定された体系なのでしょうか』という質問です」

 

堀田氏:「学習指導要領は改定がつきもので、10年に1回でなくてもっと早いサイクルで部分改定をしてもいいものです。次の学習指導要領、また次の学習指導要領と出てきても大丈夫なようにコードは作られています」

 

石戸:「海外の状況に関する質問です。『海外の動向や海外の組織との連携について教えてください』ときています。いかがでしょうか」

 

堀田氏:「個人情報についての取り扱いは欧米の方が厳しいです。ただ、匿名化した情報についてはかなりマクロに捉えていて、それをEBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)で政策に反映させるというのは、ヨーロッパの方が進んでいると思います。日本にいながらアメリカの学校に留学するみたいなことが、これからの時代は普通になっていくことを考えると、個人に学習データの管理の権限を渡すことが大事だと思います。ただ義務教育の段階で、保護者と生徒のどちらが権限を持つべきかの答えはまだ出ていません」

 

石戸:「次の質問です。『個人情報とされる教育データが目的外利用されてしまうことを防ぐには、利用目的の明確化と利用に関する許諾が必要だと思いますが、その辺りの方針や取り組みがあればご紹介ください』という内容です」

 

堀田氏:「目的限定はある程度しないといけないと思いますが、かといって限定を狭くしすぎると結局、使えなくなってしまうので、限定範囲を広めにする必要があるでしょう。子どもに許諾判断ができるのかという問題もあるし、学校で集まる情報については、例えば『今日、この児童はちょっと顔色が悪いな』といったことを日々、先生は見てさまざまな対応をしていますが、こういう情報は許諾を取って取得しているのではないし対応も多様であることを考えると、どこまで許諾を要求するのか、答えまだでていません。ぜひ、みなさんで議論にしていただいて、それで国が動くような形に繋げてほしいです」

 

石戸:「次は『デジタル教科書のプラットフォームについて、いつ頃までに決めていくなど方針が決まっていたら教えてください』という質問です」

 

堀田氏:「デジタル教科書の今後の検討については、国の会議体でワーキンググループを作って、そこでインターフェースレベル、あるいはプラットフォームレベルである程度の統一はしようということになりました。ただ横書きと縦書きの教科で、同じインターフェースにできるのかという問題はあるし、同じ社会科でも教科書会社の独自性を表現の自由との関係性でどこまで許可するのかが難しいところで、今のところできるところから少しずつ統一していくという感じです」

 

石戸:「最後に私から質問です。データの活用にとどまらず、AIを活用してより個人に合ったものを提供することが進んでいるかと思いますが、民間でそれが進めば進むほど格差の問題が出てくると思います。データの活用のみならず、それ以外のさまざまな先端技術を導入した新たな教育のあり方に関しても、議論を進めていかなくてはいけないと思うのですが、その辺りも踏まえて国では議論が進んでいるという理解で正しいでしょうか。具体的に議論されていることがあれば教えてください」

 

堀田氏:「その理解で正しいと思いますが、温度の違いがずいぶんあります。学校は紙中心だから、デジタルにすること自体でまず揉めます。『データを取るなんてイメージできない』というのが正直なところなので、まずは学校をデジタルにしていくような運動をやって、先生たちの気持ちを『デジタル化は重要』という方向に向けていく取り組みが大切だと考えます。社会との格差ができればできるほど、学校が信用されなくなるので、それはよくないことだと思います。学校が少なくとも世間並になることが今の目標です」

 

最後は、石戸の「データを活用するとどういう利便性があるのかを丁寧に伝えていくところから始めていく必要があると思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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