概要
超教育協会は、2021年7月14日、探究学舎代表の宝槻 泰伸氏を招いて、「探究学舎が実践する“興味開発”のエッセンス」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、子どもが好きなことを見つけて主体的に学ぶための「興味開発」について宝槻氏が説明し、後半は超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
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「探究学舎が実践する“興味開発”のエッセンス」
■日時:2021年7月14日(水)12時~12時55分
■講演:宝槻 泰伸氏 探究学舎代表
■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸 奈々子が参加者からの質問を紹介し、宝槻氏が回答するかたちで質疑応答が実施された。
子どもの「驚きと感動」を探究まで高める
保護者の関わり方に質問が多数
石戸:「最初の質問です。探究学舎としては、子どもたちの驚きと感動を、さらに探究へ繋げていくためにどういう工夫をしていますか」
宝槻氏:「その質問に対する重要なキーは『保護者』です。高校生や大学生だったら自分で探究しますが、小学生の場合は、そこにお父さんお母さんがどう介入するかが重要になるのです。よって、探究学舎では保護者会を数多く実施しています。お父さんお母さんに悩みを持ちよってもらい、どうすればいいかをお互いに学び合う場作りをしています。そして保護者の方には、持続的に探究をサポートしてくださいとお願いしています」
石戸:「ちょうど今、驚きと感動を持続するには親はどうしたらいいですかという質問が入ってきました。ヒントになるような具体的なアドバイスがあれば教えてください」
宝槻氏:「一番効き目があるのは、親も一緒に楽しむこと。驚いたり感動したことは、人はシェアしたいと思います。シェアすべき対象は親です。一緒に楽しんでくれるお父さんお母さんになると、子どもたちの探究は持続します」
石戸:「好きなことを大事にしましょう、好きなことを仕事にしようなど、そういう論調が増えれば増えるほど、『好きなことが見つかりません』、『本当にやりたいことと出会えません』という悩みが出てくる子どももいます。私自身は、好きなことというのを長期的にやり続けなければいけないなど、ハードルを上げているがゆえに、好きなことに出会えないと思ってしまう面もあると思っています。毎日好きなことが変わるのも、ある意味では好きということではないでしょうか。そこで、『好き』をどう捉えているのか、また子どもたちから好きなことが見つからないと言われたときにどういう風に答えているかお聞かせください」
宝槻氏:「これはハードルの高い相談です。私が最近やっていることでは、キャリアや仕事に関する授業をオンラインで配信していて、その授業の中で今の質問のような内容を扱っています。例えば、『登山型の人生』という考え方があります。好きなことや得意なことを見つけて、頂点を目指して駆け上がっていく。だけど、目標がないと登山は始まらない。つまり、何の山を上ったらいいのか分からないという悩みと、好きなことが分からないという悩みを、ほぼ同義の悩みだとしたときに、『大丈夫、散歩型の人生もあるよ』と私は言っているのです。
特に好きなことや目標などもわからず、ぷらぷらとその時その時を楽しむ。そうやって道を歩いていると、あっとめぐり会うこともあって、そこから登山が始まることもあります。しかも、その登山のスタートが30歳の人もいれば40歳の人もいる。だから焦らなくていい。好きなことややりたいことが早いうちに決まらなくても大丈夫と言っています」
石戸:「同調圧力がかかりがちな世の中だからこそ、みんなが好きなものを見つけなくていけないという風潮を子どもが察知してしまうのかなと感じることがあります。この延長線上の質問で、子どもの好きが、親がどんなに盛り上げても長く続かない、深く掘り下げられない時は、どこまで掘り下げるのか、それとも他の興味を見つけるべきか。どのようにアプローチしていますかという質問がきています」
宝槻:「子どもにも大きく2種類のタイプがあります。『一筋タイプ』と『ころころタイプ』。ひとつのことを極めようとすることに性質が合う子がいます。そういう子は放っておけばいい。飽きたら違うことに乗り換えるけど、またぐっと深堀していく。一方で『ころころタイプ』は好奇心旺盛タイプともいえて、色んなことに目移りしていく。だから浅く広くなって深くならないことが、客観的に見ていて悩ましいこともあると思います。
ただし、色々なことを深く掘ってほしいと考えてしまうのは、大人のエゴです。うちの子はひとつのことにしか興味を持たない、もっと色々なことに興味を持ってほしいと悩んでいる親がいると、その横にいる親はうちの子は色んなことに興味を持つけれど、ひとつのことを深堀りしないと言う。どっちもどっちで他人の芝生は青いみたいな状態。私はどちらでもいいと思っています」
石戸:「親が、自分の価値観を子どもに押し付けない方がいいということにもつながりますね」
宝槻氏:「そうです。登山型の人生で一筋タイプは分かりやすい。そこに成功体験もあるので、子どもにもその成功体験を求めがちになります。逆に散歩型の子どもが目の前に表れると、自分と違うから違和感がある。そうするとそのギャップに悩んだり押し付けたりけしかけたりする。でも散歩しながら自分の人生の道を切り開いていく人が現実にいるのは事実なので、それを見た時にどうやって関わっていけばいいか工夫してほしいと思います」
石戸:「次の質問です。保護者会の話が興味深かったのですが、一方で最近の親世代は子どもに関わりすぎるように感じています。それが子どもにとって、好きなことを見つけなければならないというプレッシャーになっていないかとも思います。保護者には、どのような話をしているのでしょうか、というものです」
宝槻氏:「関わりすぎなのか、そうではないのかのあんばいは、正直、答えがないと思います。過干渉なのか放置なのかは本人が感じることです。私たちができるのはコーチング的なことです。お父さんとお母さんの心の安定を保つことに近いです。親が不安を感じながら関わっているのか、それとも安心や期待をもって関わっているのか、これは全然違うと思っています。だから保護者会では、いかに親の不安を和らげるか、そして期待や感動、喜びを膨らませるかが仕事だと思っています」
石戸:「おそらく探究学舎に来る保護者の方々は、探究学習型の教育に関心、理解のある方々と思います。一方で、旧来型の教育にしか関心のない保護者もいると思います。そういう関心がない保護者に対して、どういうアプローチ方法を考えていますか」
宝槻氏:「私が考えていることを言うと、政策提言や指導要領の改定にはいっさいアプローチしないで、その代わりに市場原理を使って民間の教育市場における変化を作り出すというものです。そのプロセスから、関心のない親や子どもにも届けられるようになったらいいという戦略を採用しています。
具体的にいうと、イノベーターとかアーリーアダプター層が来てというところから始まり、アーリーアダプター層が温まってくると、マジョリティー層も関心を持ち始めて、体験を買うようになる。一番最後に教育に無関心な層が、何らかの機会を通して受け取ることになります。既存の学習塾は興味開発をまだやっていません。能力開発と受験だけです。その教育市場の中に『探究や興味開発』が入っていくこと、つまりマジョリティー層に『売れる』ようになるということですが、そういう現象が起きるように取り組んでいます」
石戸:「受験に関する質問もきています。能力主義の象徴が受験だと思います。子どもに自分のペースで学んでもらいたいとなると、結局は私立の小学校や中学校を選択することになります。受験制度が変わらないと、保護者も『受験までは今のままの勉強の仕方で』となりがちです。受験に関してどう思っているのかということ、受験を変えないで保護者の意識を変えていく方法としてどういうアプローチを考えているかということをお聞かせてください、という質問です」
宝槻氏:「大学入試改革が2020年から始まり、単なる知識の暗記、再生だけではなくなっていくでしょう。AO入試では、自分の好きなことや経験から、大学でどのような研究をしたいのかというビジョンがあれば受かりやすくなります。これまでのように『良い点数を取れれば受かる』、そのための受験対策ではなくなってくると思っています。入試制度の改革は大事でインパクトがあることです。
一方で親の意識をどう変えるかは難しい問題です。実際には、私たちが変えるのではなく、その人が勝手に変わっていくものだと思っています。どういうきっかけで変わっていくのかといえば、やはり体験です。体験を受け取って、なるほどそういうことかと腹落ちして、意識が変わるのです。そこで、興味開発の体験を子どもだけでなく親子セットで受けてもらうプログラムも採用しています。具体的にいうと見学するとか、オンラインなら一緒に参加するといった方法です。そうやって、勉強するのも大切だが、探究するのも重要だなとじわっと湧き上がり、理解してもらえるようなアプローチをとっています」
石戸:「私も、感動にまさる体験はないと思います。一方で、体験をより多くの人に広げていこうというと、色々ハードルがある。探究学舎はオンライン活動に取り組んでいますが、リアルとオンラインで実際にやってみてどういう違いがありましたか、オンラインの方が体験価値としては下がってしまうのか、そうではないでしょうか」
宝槻氏:「オンラインとオフラインの体験価値は、質的に違うものであって、どっちの優劣があるということではないと結論が出ています。リアルは戦術が多いです。例えばボードゲームを出すとか演劇をさせるとか、色んな学び方の工夫ができます。それに対してオンラインの学習体験は選択肢が狭いので、工夫をしないとリアルの劣化版と思われてしまいます。僕たちはオンラインを2019年からやっていましたが、クイズを入れたり話し合いを入れたり、ジェスチャーを入れたりホワイトボードを入れたり色々することによって、そこにライブで参加している感じを味わえる、そういう工夫をしてきたので、一定の満足度は味わえると思います。でも、オンラインはインプット性が強いと思う。子どもが自分からアウトプットする学習体験は、リアルでないと難しいという構造は、数十年たっても変わらないと思います。よって、インプットを上手にやる装置としてオンラインを生かし、リアルで学び合うというハイブリッド型がスタンダードになっていくと考えています」
石戸:「最後に2つ質問を。好きなことに夢中になるというと、結局のところゲームやYouTubeになってしまう。そのことについてどう思いますか。もう一つ、探究学舎が今後子どもたちに普及させるために考えている戦略について聞かせてください、という質問です」
宝槻氏:「ゲームやYouTubeは難敵だと思っています。けれど全部が全部悪いとは思っていません。熱中は熱中だけど、中毒型の熱中を帯びている場合は危険です。ゲームのなかにも、主体的に熱中できるものもあります。同じゲームやアニメでも、違いがあることを理解して、今どっちなのかを観察して判断することが大事です。全て取り上げるのでは違うと考えています。中毒という体験も、本人の傷跡として残してあげればいいと思っています。こうやって人生が駄目になっていくんだと実感するのも学習体験なので、それもいいという考えです。
戦略については大きく2つあります。ひとつは探究学舎のハイブリット教室をフランチャイズ型で全国の自治体に作っていくことを今後、検討したいと思っています。もうひとつは、学校の先生に探究学舎的な授業の作り方を研修でばらまくというアプローチ。今、三鷹市で、30人くらいの先生を相手に8回くらいの研修を組んで、先生たちがその学びを経て授業を作るということをトライアルでやっていますが、うまくいけばこれをオンライン化して、全国の先生たちに受けてもらって、現場で知恵を活用してもらうのも、アプローチとしてはあると思っています」
最後は石戸の、「探究学舎の取り組みをオンライン化して全国に届けるというアプローチは、超教育協会の取り組みともリンクします。今後、ぜひご協力をさせていただきたい」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。