社会も教育現場も「ここを外してはならない」
第45回オンラインシンポ「GIGAスクール構想が見失ってはならないデジタル社会の基本理念」
レポート・前半

活動報告|レポート

2021.6.18 Fri
社会も教育現場も「ここを外してはならない」<br>第45回オンラインシンポ「GIGAスクール構想が見失ってはならないデジタル社会の基本理念」<br>レポート・前半

概要

超教育協会は202156日、内閣官房デジタル庁準備室/理化学研究所の高谷浩樹氏を招いて、「GIGAスクール構想が見失ってはならないデジタル社会の基本理念」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、高谷氏が、20214月から本格的にスタートしたGIGAスクール構想について「デジタル」視点に立ったプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

■日時:202156日(木)12時~1255

■講演:高谷浩樹氏 内閣官房デジタル庁準備室/理化学研究所

■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長

 

高谷氏は、約40分間の講演において、GIGAスクール構想が動き出したことによる教育現場での課題について、20215月に可決された「デジタル社会形成基本法案」との関連を中心に説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

 

【高谷氏】

GIGAスクール構想の「11台端末」が、4月から全国で開始されたことを受け、文部科学省でもICTの利活用に向けた取り組みがさまざまな分野で加速しています。11台の端末導入率が90%以上に及んでいる一方、先生方は目の前にやるべきことがあまりにも多く、混乱と不安が現場に広がっていることを危惧しています。ICTというと「これができる、あれができる」という積み上げばかりに議論が集中しがちで、そもそもICTの導入とはどういうことかという本質が、見失われつつあるように思えるのです。本日は、GIGAスクール構想を「デジタル化の視点」に立って、「ここは絶対外して欲しくない基本」について話していきたいと思います。

 

▲ スライド1・本日のプレゼンテーションの内容

 

社会のデジタル化に向けた動きの中では、令和31月に国会に提出された「デジタル社会形成基本法」が重要です。「基本法」とは文字どおりさまざまな分野の基本を定める極めて重要な法律で、教育界でいえば「教育基本法」に相当します。デジタル社会の形成をどう進めて行くべきかに関しても、この法律が基本になります。

 

この法律には、デジタル社会を形成していくための「基本理念」が述べられています。GIGAスクール構想でどういうことに気をつけなければいけないか、忘れてはいけない「基本」が全て挙げられているこの法律を中心に話を進めていきます。

「デジタル社会形成基本法」における情報の活用を考えることが大切

「デジタル社会形成基本法(以下、基本法)」は、第一条で法律全体の目的、第二条で言葉の定義、第三条以降で具体的なデジタル社会の基本理念を定めています。

 

その第三条には、「デジタル社会の形成は、全国民がネットワークを容易に、かつ主体的に利用するとともに、情報通信技術を用いた情報活用を行うことにより、その情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会が実現されること」と書かれています。つまり、「情報活用」がデジタル社会のネックと言えます。

 

一般に、会社や学校など組織運営に必要な資源は、「ヒト」「モノ」「カネ」に「情報」を加えた4つと言われますが、今では、国レベルでも、情報は石油や鉱物、農作物、工業資源、人的資源などと並ぶ重要資源と位置づけられています。

 

▲ スライド2・「情報」はヒト・モノ・カネに並ぶ重要資

 

教育ではどうでしょうか。一人一人に最適な学びを与える「個別最適な学び」は、GIGAスクール構想当初からの目的であり、中教審の答申でも大きな柱の一つになっています。この実現には、各端末から学習記録などビッグデータを収集・分析し、デジタル教科書や教材など、さまざまな教育コンテンツを付加して一人一人へ最適なフィードバックを行うために「個別の情報」が必須になります。当然と言えば当然なのですが、GIGAスクール構想が進む中で、この考え方が少しブレたり、見失われかけているのではないかと危惧しています。

 

もう少し具体的に言うと、文部科学省などが個人情報活用のために進めている施策に、まず「学習指導要領コード」があります。これは、教科書・教材の内容を個人の学習データと紐付けられるように学習指導要領にコード番号を付けるもので、個人の学習度合いや将来的には習得度合いのデータ化に不可欠な作業であり、当然、教科書・教材もこのコードと連携させていく必要があります。ただ教科書をPDF化するのではなく、このような形で子供の学びと関連付けられなければ、真のデジタル化とは言えないのです。

 

次に「データの標準化」。これも文部科学省が有識者会議を運営しています。子供の各種データについて、異なるOSやソフトウェアでも汎用性を確保し、横方向に関連付けられるように、標準化していくための概念整理を文部科学省で取りまとめており、今後、具体化していくことになります。

 

そして「学習者のID付与」。あるデータが何のデータなのか、誰のデータなのかを一意に識別するには、学習者ごとに異なるIDが「主キー」として必要になります。従来の「3人に1台」程度の端末環境では、学習者単位のID付与は難しいことでしたが、「11台」環境では学習者IDを付与して、一人一人のデータをしっかりフォローしていけるようになります。

 

▲ スライド3・情報活用に向けたデータの整理項目

 

デジタル庁でも、国や自治体の情報システムについて「共通のデジタル基盤」を構築する一環として、全国規模のクラウド移行に向けた標準化・共通化を進めています。さまざまなデータを標準化することで、必要なときに誰もが使えるようにするものです。教育についても「準公共部門」と位置づけ、情報システム整備を統括管理していくことになります。

 

このような個別最適な学びの実現のために、個人の情報やデータの重要性・必要性を是非ご理解いただいた上で、その活用を前提とした準備を進めていただきたいと思います。もちろん、GIGAスクール構想が本格的に動き出した今年度中の完全な実現は困難ですが、そういう方向に向かって進めていることを是非皆様方には、基本として押さえておいていただきたいと思います。

 

▲ スライド4・教育も準公共部門として情報活用が本格化

個人情報の適切な保護・管理はデジタル化の大前提

第三条には「ネットワーク」のことも書かれています。ネットワークは、情報活用のために必須であるばかりか、中教審の「協働的な学び」や、新学習指導要領の「社会に開かれた教育課程」でも重要な役割を果たします。子供たちがICTを使って学ぶためには、友達や先生とつながっていることはもちろん、社会に向けても開かれていなければなりません。

 

ネットワークを細かく見てみると、日本は「基幹ネットワーク」では進んでいるのに、「末端」の学校や家庭で個人がつなげられない、いわゆる「ラスト1マイル問題」が問題でした。ネットワークはいわば情報の「血管」です。単に情報が「流れる」だけではなく「詰まらない」ように、端末をストレス無くつなげることが「急務」です。この4月以降、各地で「クラスで繋げられない」「容量が足りない」「家庭での利用に制限がある」といったトラブルも出ていると思いますが、「ネットワークをしっかり繋げる」という基本をしっかり押さえておいてください。

 

▲ スライド5・ネットワークは情報が流れる「血管」

 

「情報活用の必要性」と「ネットワーク」に関連して必ず出てくるのが「個人情報保護」です。基本法でも第十条に「個人及び法人の権利利益の保護等」に、「個人及び法人の権利利益等が害されることのないように、信頼性のある情報の自由かつ安全な流通の確保が図られなければならない」と書かれています。

 

個人情報の適切な保護は大前提であり、不十分なセキュリティによって個人の学習履歴等が漏洩することは、当然ながら防がれなければいけません。しかし、私が危惧しているのは、そういう不安を言い訳になんでもガチガチに守り、そこで終わったとしてしまうことです。こういう最悪の事態にならないためには、情報流通の必要性を理解し、その重要度に応じた適切な扱いが求められます。

 

デジタル改革の関連法案では、「個人情報保護法」も改正されます。具体的には、地方公共団体の制度について全国的な共通ルールを設定し、所管を国の個人情報保護委員会に一元化するというもので、自治体ごとに個人情報がバラバラという、いわゆる「2000個問題」がここで一旦解消されることになります。

 

教育関係者の皆様には、保護と活用のバランスを常に念頭に置いていただきたいと思います。「情報活用やネットワークが重要だそうだから一気にネットワークを通そう」と、情報担当者もよくわからないままに個人情報保護を緩めてしまえば、トラブルに巻き込まれてしまうかもしれませんので、ここは慎重に対処していく必要があります。参考になるのは「先行事例」です。

 

教育ICTを導入している自治体には、先行で導入している学校もあると思いますので、そういう事例を参考にしながら具体例を積み重ねていってください。それで保護者の理解を得ると共に、先生や情報担当者の経験値を上げて、児童生徒が安全に、安心してデジタル化に参加できる環境を目指し、学校ICTGIGAスクール構想を推進していただくのが私の願いです。

 

▲ スライド6・ポイントは「保護」と「活用」のバランス

ICTは教育現場の業務を「楽にするための道具(ツール)」

ICTの導入に対し、「ただでさえやることが多いのに、教師や学校が忙しくなるだけ」という反論があります。しかし、ここで強く言いたいのは、そもそもICTとは業務を効率的、効果的にするための道具、言い換えると「楽にするための道具」だと言うことです。最初は不慣れで使い方もわからず、設定トラブルも起こりがちですが、これはどんなICT機器でも同じこと。初期導入期を過ぎれば負担は大きく軽減されるはずです。本来、基本法に書かれているとおり、「労働者がその有する能力を有効に発揮し、ゆとりと豊かさを実感できる」ものなのです。

 

とはいえ、これは何も教育分野に限ったことではなく、「社長が将来を見据えてICTを推進しても、社員がなかなか楽さを実感できない」の声のように世界中の多くの企業など他分野でも「ありがち」な話です。その原因としてまず言われるのが、紙のデジタル化、英語でいう「Digitization」は、第一歩に過ぎないということです。デジタルデータを活用して、業務そのものの廃止や担当の抜本的な見直しなど、全体業務の効率化を行う「デジタライゼーション(Digitalization)」に進んで行く必要があります。

 

学校現場で例を挙げると、担任が子供から紙で集めていた保護者の出欠票を、デジタルならメールなどで簡単に集計できるようになるので、その分業務は確かに楽になります。しかし、もう一歩先を考えるなら、学校全体の出欠票の担当者を定めて、そこで集約処理すれば、担任は出欠確認の業務から完全に解放されます。このようにデジタル化によって業務全体を効率化できれば、先生の業務も学校全体の業務も大幅に軽減できるはずです。

 

現場の先生方は、「ICT機器は便利になる道具」という基本を忘れずに、ゆとりを広げるための学校業務の抜本改革に取り組んでいただきたく思います。こういう「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」で業務プロセスを再編成すれば、デジタル化の恩恵はぐっと広がります。そしてBPRを進める際は、ぜひ若い先生方の声を取り上げてください。子供の頃から身の回りにデジタルがある「デジタルネイティブ」の若手教師こそ、最先端のアイデアで業務改革を進めることができるのです。

 

▲ スライド7・鍵を握るのは若い世代「デジタルネイティブ」

 

ところがこれもありがちですが、私と同世代、いわゆる「アラフィフ」の管理職がデジタル化をなかなか理解できず、これまでうまく回ってきたのだからと、せっかくのデジタル改革を否定してしまいがちです。それで結局何も変わらずに若手教師からは悲鳴が上がる、そんな職場に大学生は就職先として魅力を感じるでしょうか。デジタル化は、こういう悪循環を根本から変える千載一遇の機会です。ぜひ皆さんでどうすれば学校現場を楽にできるのかを考え、若手の活動を支援していただきたいと思います。

今後のICT教育は「民間主導」での進展に期待が高まる

しかし、こう言うと次に出てくるのは「そう言われてもICTはよくわからない。具体的に何をすればいいのか」という声です。

 

これについて、基本法第九条には、「デジタル社会の形成に当たっては、民間が主導的な役割を担う」と、しっかりと書かれています。続けて「国や地方公共団体は、民間の知見を積極的に活用しながら公共サービスにおける国民の利便性の向上を行う」、さらに第十一条で「情報通信技術の進展について的確かつ、積極的に対応しなければいけない」、第十二条で「社会構造の変化にも的確かつ、積極的に対応しなければいけない」と書かれています。つまり、「民間」にICTやデジタル化に主導的な役割を「担って欲しい」ではなく「担うことが原則」とされているのです。

 

しかし、GIGAスクール構想以前の教育ICTは、学校へのICT投資が進まなかったこともあって「極めて限定的」な市場でした。そこでは、先進的な取り組みを進める自治体の「極めて局地的」なオーダーに「極めて真面目」に対応するしかなく、そういうオーダーに忠実に沿った機能が、ベースの上にどんどん積み上げられていきました。その結果、当該自治体にとっては素晴らしいが全国展開が難しいシステムになり、その積み上げられたベース自体も身動きが取れず、その結果ICT技術の進展に柔軟に対応できなくなってしまい、硬直化した市場になっていきました。

 

同じICTでも、ゲームや中小企業向けの市場は競争が非常に激しく、新しいテレビCMが次々と流され、新しい技術を導入した新製品もどんどん登場しています。こういう競争原理が十分働いてこなかった教育市場に今回、GIGAスクール構想で全国一斉にICTが導入されたわけです。これからは社会全体の急速なデジタル化の一つの柱として、教育分野にも技術の進展に応じた的確な対応が求められます。私としては、さまざまな民間事業者が教育分野に参画して、牽引していくことに期待しています。

 

学校現場の方々は、これまでの教育ICTにいろいろな知見をお持ちかもしれません。しかし、デジタル庁でも自治体データをクラウド化する「ガバメントクラウド」を検討するなど、社会全体のデジタル化が急速に進んでいます。この急流に教育業界だけではとても対応しきれません。社会全体の動きにしっかり対応するためにも、さまざまな民間企業が参画して教育分野を牽引していただきたいと思います。

 

具体的に期待したいのは、まず「データの標準化」です。概念こそ文部科学省が出していますが、具体的にどう標準化を進めるのか。これまでの教育ICTはひたすら「待ちの姿勢」でしたが、これだけ技術革新が急速に進むと教育分野だけでは対応できません。ぜひ民間が団結して標準化・共通化を具体化していっていただきたい。もはや一企業だけ、特定の人たちだけ、という時代ではありません。

 

次に「UIUX」。教育現場での使いやすさにつながるユーザーインターフェースをしっかり考えていただきたいと思います。それから「トータルソリューションの展開」。「EdTech」と言うと、学習者用のソフトやアプリがまず浮かびますが、実はどうつなげるかというネットワークや、学習情報をセキュアに保管して、先生や子供たちがスムーズに取り出して活用できる仕組みが重要です。しかも学習情報は教育分野のみならず、将来的には、自治体の個人データとの連携も求められます。そういう他分野と連携した教育ICTのトータルソリューションを積極的に展開するために、競争原理を働かせていただきたいと思います。

 

▲ スライド8・民間の参入で加速する教育のICT化

 

そして、学校現場への「人的支援」。これまでの産業界は、教育ICTを「どう手伝えるか」という受身の姿勢がうかがえました。しかし今後は、GIGAスクール構想が円滑に進むことに主体的にかかわり、しっかり責任を共有してください。仮に5年後、GIGAスクール構想が停滞していれば、その責任は一義的に、学校現場や文部科学省で担当した私たちにあります。しかし産業界も、その責任の一端を感じていただきたい、それくらいの話になっているのです。

 

最後は「デジタル格差の是正」です。デジタル格差は、着実に改善されなければなりません。GIGAスクール構想は、デジタル社会に生きる子どもたちが経済的格差なくICTに触れられる機会を確保するために「11台端末」を整備しました。学校Wi-Fiなどで先行したアメリカも、貧しくてICTに触れられない子供たちが、学校に来ればICTに触れられることを目指したものです。

 

ところが今、日本では経済的な格差ではなく、学校間・教師間の格差が顕在化しつつあります。学校現場は,こういう格差を最も嫌うところだと思っていたのですが、実際にはここで格差が出始めているのです。これについては他の事例などを参考にしていただき、「まずは使ってください」と切にお願いするしかありません。

 

2025年からは、大学入学共通テストに「情報」が出題されます。個人的には、高校で情報を学んでICTを使いこなしてきた子供たちと、使ってこなかった子供たちの間でどういう結果が出るかについても、注視したいと思っています。

 

▲ スライド9・デジタル格差の是正

 

本日お話をしたことをまとめます。まず「情報活用」。中教審の答申にあった「個別最適な学び」や「協働的な学び」に向けた個人データの活用は、一朝一夕にできるものではありませんので、そのための準備をしっかり進めていただきたく思います。

 

次に「能力発揮」。ICTはそもそも業務を根本から楽にするものであり、ICTが入って大変だ、ではありません。いかに楽にするか、全力で考えていただきたいと思います。

 

そして「民間主導」。これまで教育界と産業界は接点が少なく、協調もうまくいかないことを私も直接担当して痛感しました。産業界との連携がうまく進んでいくよう期待します。

 

最後に「格差是正」。学校が子供たちのデジタル格差の原因を生むという本末転倒の事態を招かないように進めていただきたいと思います。

 

▲ スライド10・GIGAスクール構想に求められる

デジタル社会の基本理念

 

>> 後半へ続く

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