概要
超教育協会は2021年4月28日、株式会社ジョリーグッドemou担当ビジネスプロデューサーの竹内 恭平氏を招いて、「社会実装が進む発達障がい支援教育におけるVR活用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半では竹内氏が、同社が開発・提供する、VRによる発達障がい者向けの教育コンテンツ「emou(エモウ)」の詳細とサービス、具体的な導入事例などを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「社会実装が進む発達障がい支援教育におけるVR活用」
■日時:日時:2021年4月28日(水)12時~12時55分
■講演:竹内 恭平氏
株式会社ジョリーグッド emou担当ビジネスプロデューサー
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸が参加者から寄せられた質問を紹介し、竹内氏が回答する質疑応答が行われた。
小中学校への導入実績やインクルーシブ教育での活用可能性に多数の質問
石戸「ありがとうございました。初めてこのサービスを知ったとき、非常に興味深く、今後の可能性を感じたため、今回講演をお願いしました。
施設への導入の他に、個人の家庭で利用したい方もいるのではないか、というお話を以前させていただいたことがあります。今日のお話でオンラインでの利用も可能になったとありましたが、個人へのサービスとしても提供可能になったのでしょうか」
竹内氏:「そうですね。この1年でemouの活用ニーズが広がっていることがわかりましたので、会社として個人向けのサービスを始めています。特定の学校や福祉施設へのサービスも、改善を重ねながら引き続き提供する考えです」
石戸:「これからの大きな展開を感じます。それでは、視聴者の方からの質問です。『発達障害の人たちが見えている世界、困難を感じている世界、発達障害の子供の困り感を家族が理解するためのコンテンツはありますか』というものです。何を困っているのか、なかなか理解しづらい故に対応が難しいことがあると思うのですが、それを補完するコンテンツはあるのでしょうか」
竹内氏:「現状はないです。しかし『当事者としての体験をしたい』との声は多いですし、年間数十のコンテンツを作っていますので、今後作る可能性はあると考えています。今でこそ開発中のものも含めて140のコンテンツがありますが、当初は数10のコンテンツしかなく、使っていただきながらニーズを調査して対応し、改善を重ねながらサービスを成長させてきました」
石戸:「それによって発達障害に対する理解も、社会的に広がることを期待します。次の質問です。『コミュニケーションではなく、作業や行動をサポートするようなコンテンツもあるのでしょうか』という質問です」
竹内氏:「仕事の体験のコンテンツは複数あります。本屋さんの接客の体験で、お客さんが来たときに、どのタイミングでどんな声かけをするのか、おつりを渡したとき何と言うか、といったコンテンツもあります」
石戸:「私からの質問を挟みます。日本でVRを使ったソーシャルスキルトレーニングのサービスは、これが初めてと認識していますが、海外の状況はいかがですか。海外には同種のサービスがあるのでしょうか」
竹内氏:「把握している限りでは、発達障害の教育が目的のサービスで、これだけ規模が広がっているものは他にないと認識しています」
石戸:「日本発世界に展開できるコンテンツということですね。次の質問です。『発達障害の子供がVRを利用する際の課題や問題点について教えてください』、『VR酔いは起きないのか』という質問です」
竹内氏:「emouの対象年齢は7歳以上としていまして、VR酔いについては、今のところ150以上の機関で導入されている中では、特に報告はありません。私自身も30都道府県ぐらい、導入支援にお伺いしていますが、感覚過敏でゴーグルがつけられないということは、実際にありました。でも数えるほどですし、そのような方には、iPadでみんなと同じ画像を追う使い方で解消していただいています。
我々はテレビ局向けに技術提供を行っている会社で、VR制作チームも優秀ですので、なるべく酔わずに心地よい体験ができるVRを作る技術はあると、自負しております」
石戸:「続いて、『行動の選択肢が提示されていましたが、選択肢は教師や指導者がカスタマイズ可能でしょうか』という質問です」
竹内氏:「今のところは我々がVR映像を作り込んで提供していますので、選択肢をカスタマイズして変えることはできません」
石戸:「次は、『学校では、どのようなコンテンツが人気ですか』という質問です。ニーズの傾向があれば教えていただけますか」
竹内氏:「学校での事例は、まだ集まり始めたばかりですが、緊張する場面を体験する自己紹介や、学校でありがちなトラブルを先に体験してディスカッションするものには、ニーズがあると思います。これらは、先生方にも授業に使いやすいという理由も、あるかもしれないです。最近は、中高生の女の子向けに『学校の外で不審な人に遭遇したらどう対応しよう』といったコンテンツも作っていますので、学校で導入の分母が増えてくると、傾向がより明確になってくると思います」
石戸:「学習者の視線のデータを取得されていたようですが、他にはどのようなデータを記録し、どのように活用されているのでしょうか」
竹内氏:「今のところは、視線と情報として入力による文字のコメントを指導者の考察を残せる機能があります。現段階では以上です」
石戸:「この分野の専門の新聞記者の方からのご質問です。『小中学校の現場では現在何校ぐらい導入されているのでしょうか。いじめの防止などにも活用できるのではないかと思いますが、特別支援学級ではなく、通常学級でも使われている事例はありますか』というものです。まさに私も、他者視点で理解できるVRはいじめの防止に非常に有効なツールだと思っていますが、いかがでしょうか」
竹内氏:「具体的な納入数はすぐ出てきませんが、通常の学級で使われている事例は、今のところないです。というのは、emouはそもそも生きづらさを抱えている方、障がいをお持ちの方に向けて作ったサービスだからです。お問い合わせはありますので、今後活用の趣旨を変えて広がる可能性は、十分にあると考えています」
石戸:「参加者からは、『使用して効果が見られない場合、視聴コンテンツを変えるのでしょうか。それとも使用期間を延ばしたり、指導方法を変えたりするのでしょうか』という質問もきています。効果に関しては、私も質問したいのですが、コミュニケーション力やソーシャルスキル改善の効果は、どのようは指標で計られているのでしょうか」
竹内氏:「現時点で検証しているのは、既存の教材との効果の違いです。サービスを始めて2年なので、指標に基づいて長期的な変化を見るようなことは、これから具体的な取り組みをしていきます。すべての状況を把握しているわけではないですが、なかなか効果が表れないときには、似たような別のコンテンツを使うような事例が多いかと思います」
石戸:「続いては、『利用者側コンテンツの作成をサポートするサービスはありますか』、『学校独自のものとして、制作を依頼することは可能ですか』という質問です。現状では、作られたものを提供するのが主なのかと思いますが、今後も含めて依頼があった時にオーダーメイドで作る可能性はあるのか、もしくは、利用する施設側がコンテンツを簡単に作れるような、なんらかのプラットフォームのようなものが提供されるのか。そのあたり、現状はどう考えていらっしゃいますか」
竹内氏:「今のところは自社で作ったものを提供する形です。我々は、高度な制作技術を活かしながら、どれだけ多くの人にVRを届けられるかをテーマに、サービスを作っています。さきほど、専門のチームがいる話をさせていただきましたが、これだけVRを作り込んで提供していますので、それ以外の方法で個別の施設で作ったVRを、サービスの一部として責任を持てるのか。検討が必要であると考えています」
石戸:「最後に、今後の展望や今抱えていらっしゃる課題などについてお話いただければと思います」
竹内氏:「我々の会社の強みは、先端技術をたくさんの方に届く形で提供することです。医療・福祉・教育のプロフェッショナルではないと認識していますので、さらなる成長に向けては専門家のパートナーの方、この取り組みに賛同いただける方と協力しながら、エビデンスを取ったりサービスの改善につなげたり、していくことが不可欠であると考えています。それと、もしVRゴーグルで体験してみたいという方がいらっしゃいましたら、無料のレンタルも設けておりますので、ぜひお問い合わせいただければと思います」
最後は、石戸の「このサービスを欲している人たちはたくさんいると思います。私たち超教育協会でもお手伝いできることがあればぜひ、協力させて頂ければと思います」という言葉で、シンポジウムは幕を閉じた。