VR空間でアバタとなることで自分の能力がさらに高まることも
第38回オンラインシンポ「本来の能力を引き出すためのツールVRのさらなる可能性」
レポート・後半

活動報告|レポート

2021.4.16 Fri
VR空間でアバタとなることで自分の能力がさらに高まることも<br>第38回オンラインシンポ「本来の能力を引き出すためのツールVRのさらなる可能性」<br>レポート・後半

概要

超教育協会は2021317日、東京大学大学院情報理工学系研究科准教授 鳴海 拓志氏を招いて、「本来の能力を引き出すためのツールVRのさらなる可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半では鳴海氏が、自分のアバタをVR空間で活用することの効果、別人のアバタを使うことで自分の実力以上の能力をVR空間で発揮できるようになる事例などを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子氏をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「本来の能力を引き出すためのツールVRのさらなる可能性」

■日時:2021年3月17日(水)12時~12時55分

■講演:鳴海拓志氏 東京大学大学院情報理工学系研究科准教授

■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸が参加者から寄せられた質問を紹介し、鳴海氏が回答する質疑応答が行われた。

 インクルーシブな環境構築や教育に役立つ可能性に多くの質問が

石戸:「教育でのVR利用には可能性を感じています。アインシュタインになりきると視点が変化して天才になれるといった他者視点を得ることの効果も、以前から注目していました。このような臨場感溢れる体験以外のVRの活用方法を『教育現場で』活用されている事例は国内外問わずどのようなものがあるのでしょうか」

 

鳴海氏:「例えば鉄道会社では、危険な状況になった時にどう振舞えばよいのか、VRシミュレータをトレーニングに活用している事例があります。

 

視点の変化の活用例は、海外であります。例えばNPO団体で、ドメスティック・バイオレンスの加害者を更生させる目的でVRを活用している事例があります。加害者にVRで、か弱い被害者の立場を体験させると、『自分は相手にこんな思いをさせていたのだ』と気づいてDV再発が減る傾向になるようです」

 

石戸:「教育現場では例えばいじめ問題、いじめる側といじめられている側の双方の立場を経験することなどに活用できるかもしれませんね。

 

私は、インクルーシブな環境構築に役に立つのではないかと思っているのですが、そのような視点での実用化の例はあるでしょうか」

 

鳴海氏:「白人がVRで黒人になった体験をするなど、インクルーシブな社会のためにVRを活用している例はアメリカにあります。身体が違うだけでこんな体験をしていると理解することが、差別意識の低減につながります。それを世の中に広めていこうとしている人たちがいます。興味深い取り組みだと思います」

 

石戸:「視聴者の方々からの質問をご紹介します。『他者の体を使うことで能力が上がることは素晴らしい一方で、逆に認知の歪みにつながることはないのでしょうか。弊害やデメリットとして考えられることはありますか』というものです」

 

鳴海氏:「やはり薬になるものは、毒にもなるものだと思います。洗脳に近くなったり、自分が見たいものだけを強調することにつながったりする恐れもあるとは思います。ただ、今は知見を積み重ねている段階で、それが問題になるほどまでは進んでいません。分かってきていることをどう活用するかについては、今後研究者以外も含めて語り合っていく分野だと思います」

 

石戸:「仕組みに関する質問です。『他者アバタや再デザインされた自分のアバタを通じて自身の能力拡張を実現できるのは、人間が脳内で視覚情報を重視して情報処理を行っているからなのでしょうか』という質問です」

 

鳴海氏:「普段、人は見た目で多くのことを判断していると思います。話している相手は、見た目で最初の印象がほぼ決まり、その影響を受けます。自分のことに関しても、『このぐらいごはんを盛ったらおなかがいっぱいになる』と見た目で判断できます。このように見た目の判断は信頼性が高いので、影響力が強いと言えます。ただ、薄暗い場所では視覚の影響は下がります。その環境で何が一番『もっともらしい』情報を与えているかが重要です。基本的には視覚の影響がたいへん強く、情報の上書きもされやすいと言えると思います」

 

石戸:「次の質問です。『小・中学生へのVRによる教育について、パーソナライズされた究極の学習環境が作れるという期待がある一方、自我の認知が確立しない成長期の子どもの身体に再デザインの概念が入ってしまうことへの懸念もあります』というものです。いかがでしょう」

 

鳴海氏:「これまで、個人でできる、できない、のばらつきがあるのに一律に教育してきたことを、パーソナライズして教育できることは大きな可能性だと思います。子供の発達にどれぐらい影響があるのかについては、まだ全く分からないところです。アイデンティティの問題と関わってくると思います。

 

私も、研究したいのにどう研究していいか分からないのですが、アバタの研究をしている人たちはよく『なりたい自分になれる』というキャッチコピーを使います。これは『なりたい自分』がある人にとってはいいですが、発達過程の子供では、何になったらいいのかよく分からないのではないかと思います。

 

自我が確立してから使ったほうがよいのかもしれませんが、発達過程から関わることで、現在は考えられない新しいレベルの『自分のあり方』を獲得できることもあるかもしれません。今の私達とは理解し合える関係ではなくなるかもしれませんが、それぐらい『人間の人格とは』『自己とは』に新しい視点をもたらしていくと思います。

 

これまでは『自己が確立している人がカッコイイ』が、社会的な価値観でしたが『フレキシブルに何にでもなれるほうがいい』という違う価値観も出てきました。最初からこのフレキシブルを目指して発達する人たちは、人間や社会に対する考え方が違うかもしれません。

 

教育は『社会との整合性をどれぐらい重要視するか』によると思います。今は『自由な自己感を持たれては困る』社会なのだとしたら、この価値観に合う教育が必要だと思います。ここは難しくて答えが出ません。発達への影響は、必ず研究しなければならないテーマだと考えています」

 

石戸:VRの教育効果としては、体験できないものを体験できるだけではなく、学習時間を大幅に短縮して習得できる期待もあります。また、ソーシャルスキルに関しても、今までは学習が難しかったと思うのですが、VRを使うとやりやすくなる可能性を大いに秘めていると思います。

 

一方で影響が大きいということは、マイナスの影響も想像できるわけで、そのあたりをVR研究者の方々がどう克服していくのか、私も非常に関心があります」

 

鳴海氏:「ソーシャルスキルを習得するとか、自閉症などで特殊な行動パターンを持っている人がそれを活かしながら何かを獲得したり、社会に合う形に学習したりするには、インタラクティブな学習環境、没入感のある学習環境はすごく役に立つと思います。ただし、ゲームやバーチャルは、現実の人なら相手にしないようなことも、機械ですから必ず返事を返してくれます。それに慣れてしまったときに、現実の人は相手にしてくれないからもういいや、となる可能性もあります。そういう意味ではきちんと検証して考えていかなければならない領域だと思いました」

 

石戸:「最初に私が申しあげたインクルーシブな学習環境構築の話には、ポイントが3つあります。1つめは、発達障害をお持ちの人や特性がある人たちが、特性の調整をしてコミュニティに入りやすくなるのではないかということ。2つめは、特性のある人たちはどう見えているのか、他の人が理解しやすくなることにも活用できるのではないかということ。そして3つめは、そんな人たちにソーシャルスキルトレーニングができるのではないかということです。この分野の教育にVRは貢献できる可能性が高いと思います。

 

次の質問をご紹介します。『バーチャルでの印象が強くなり、現実の人とのイメージのギャップが大きくなった場合、受け入れ側が混乱してしまうのではないでしょうか』というものです。いくつもの人格を持てるようになったとき、どう世の中で生きていくかについては、以前から議論をしています」

 

鳴海氏:「私は開き直っていてこういう時代、バーチャルだけで会って、バーチャルで仕事ができる人なら、対面はなくてもいいのではないかとも思います。ギャップをどうするかという意見も確かにあります。

 

ビデオチャットの顔の見た目を少し変えて、相手の信頼度を高めることができるかの研究では、最初のビデオのよい印象が強いと、対面で会ってもがっかりされにくいことが分かっています。ギャップが生まれないためにどの程度まで変えていいのかは、考えていく必要があります。

 

ある出会い系サイトの運営として研究している人に聞いた話ですが、プロフィールに多大な細工をした写真を載せると、いきなり会ったときにはがっかりされるそうです。そこで、会う前1週間ぐらいかけて徐々に本当の顔に戻して現実とマッチさせる、そうすると会ったときにもがっかりされないそうです。現実とバーチャルのよいトランジションをつけてあげると、ギャップはなくなるかもしれないです」

 

石戸:「自分の中でのギャップに関する質問も来ています。『理想の能力を持った自分と現実の自分との格差に絶望することもあるのではないでしょうか』バーチャルの中で理想だけを手に入れてしまうと問題になりますよね」

 

鳴海氏:「そうですね。アバタを通さないと、現実ではその能力を出せない、では残念です。ただし多少のギャップも、心の安定の面では良いこともあります。昨日あるところで講演をしたときに、客席にバーチャルYouTuberの方がいました。やってみた感想を聞いたところ、『現実でどんなに嫌なことがあっても、ここに来れば幸せでいられることが分かっているから、現実でも心に余裕ができて、いろいろなことに冷静に対応できるようになりました。やって本当によかったです』とおっしゃっていました」

 

石戸:「私も基本的には鳴海先生の考えと同じです。今後についてですが、『視覚以外の他の感覚からのインプットが加わると、どんな世界ができるのか、そのような研究の予定はあるのでしょうか』というものです」

 

鳴海氏:「私はもともと触覚や嗅覚の領域の研究をしてきて、最近この領域に辿り着いています。身体感覚が強まれば強まるほど影響は大きくなります。次の研究ターゲットは触覚です。ものを触った感覚が再現できるようになれば、扱える体験の幅も広がって、能力を伸ばすことや心を安定させられる領域も大きくなっていくと信じています」

 

最後は、石戸の「次回のオンラインシンポジウムは『触覚×教育』がテーマです。触覚など視覚以外のインプットがどのような影響を与えるか、その研究もとても興味深いです。また是非、お話をお聞かせ下さい」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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