VR/ARシミュレーターでの疑似経験が防災意識を変える
第36回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.4.2 Fri
VR/ARシミュレーターでの疑似経験が防災意識を変える<br>第36回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は202133日、神奈川歯科大学歯学部 総合教育部 教授 板宮朋基 氏を招いて、「VR/ARもしもの災害に備える~防災におけるITの役割や可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では板宮氏が、「AR災害疑似体験アプリDisaster Scope®」や「VR津波体験ドライビングシミュレーター」の防災訓練への活用事例とその効果を紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

 

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VR/ARもしもの災害に備える

~防災におけるITの役割や可能性」

■日時:202133日(水)12時~1255

■講演:板宮朋基 氏
神奈川歯科大学歯学部総合教育部教授

■ファシリテータ:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸より参加者から寄せられた質問が紹介され、板宮氏が回答する質疑応答が行われた。

 

VR/ARを利用することの身体への影響や防災以外の教育への可能性に質問多数

 石戸:「最初の質問です。『リアル感はどの程度なのでしょうか。防災訓練で座り込んで遊んでいる生徒の映像を見て、水害の怖さを軽んじてしまうのではないかと懸念を抱きました』というものです」

 

板宮氏:「事前事後のレクチャーが必要と思います。防災イベントなどでこのレクチャーなく見せてしまうと『傍から見ると遊んでいるようだ』と、捉えられることもあります。防災教育をこれだけで完結するのではなく、あくまでも導入として、体験して本当の災害の怖さを学んで、今まで防災に興味がなかった人たちが、興味を持つきっかけになればと思っています。

 

リアル感はかなり上がっています。あとは『足に当たる感覚』ですね。物理的なものなので、先ほどの流動床や風で表現するなど研究中です。ただ数十人単位の防災訓練では、コストがかかるのでそこまではできません。事前事後のレクチャーとARをうまくフィットさせられれば、教材としての相乗効果は生まれると思います」

 

石戸:「逆のパターンはいかがでしょう。本当の災害はトラウマも残しますよね。子供がトラウマになることはないのでしょうか」

 

板宮氏:「これまでは、怖くてショックだったといった例はないです。トラウマにならず、かつ教育効果が生まれるような適切な表現を追い求めているところです。ARは現実の風景も見えていますので、今起こっていることではないと分かってくれます。VRの方が没入してしまうので、トラウマにならないように表現をマイルドにしたり上手く説明したり、さじ加減が必要だと考えています」

 

石戸:VRARで、低学年の生徒にはVRがいいとか、効果の比較はいかがでしょうか」

 

板宮氏:「地震はARで表現するのは難しいので、没入型のVRがよいと思います。浸水は、ARのほうが自分の身の回りの風景に重なって相対評価ができます。『目の前にいる友達や先生が沈んでしまう』のでインパクトは大きく、教育効果も高いと思います。煙に関してもやはり現実の風景に重ねたほうが、説得力あると思います。

 

VRは、知らない場所だとピンとこなくて効果が低い可能性はあります。被災地の映像を見ても他人事だけれど、自分が知っている場所や知っている人が映るととたんに自分事として実感します。ARのほうが、人間の感覚としてのスイッチが入りやすいと思います」

 

石戸:「教育現場で利用することを考えると、導入側の負担にARVRでは差がありますか」

 

板宮氏:「地震のVR動画は無料配信していますが、例えば地域を特定して作るような依頼を受けると100万円規模になってしまいます。

 

ARならアプリはできていますので、その場所に持って行けば、細かな調整もいらずすぐ運用できます。コストを含めてもARの方が安価だと思います」

 

石戸:VRの利用には年齢制限や、保護者承認、適度な休憩といった利用条件があると思います。『小学生からの防災訓練でのVR体験の低年齢化についてご意見を伺いたい』という質問です」

 

板宮氏:「以前Facebookのオキュラスが13歳以上という制限を設けましたが、任天堂がVRを出してからは7歳になりました。VRもステレオで見る二眼タイプとモノラルの一眼タイプがありまして、目への負担は二眼のほうがややかかってしまいます。

 

『浸水』は一眼なので目の負担は少ないですし、『煙』は二眼ですが7歳以上のガイドラインに沿っています。今のところ健康被害のような報告はないです。長時間見ることでの目の負担よりも、興奮してつけたまま走り回ってしまい転んで怪我をするリスクの方が高いですね。小中学校で利用する場合は、事前に特別な配慮に関する調整も十分してから行っています」

 

石戸:「次も目への負担など健康への影響に関する質問です。VRARの教育への利用は海外の方でも進んでいると思いますが、身体への影響への議論は、国内外問わず行われているのでしょうか」

 

板宮氏:「問題は、利用する時間の長さだと思います。長時間、ゴーグルをつけていると影響の可能性も上がります。

 

私が作っているシミュレーターなどは、長くても3分程度です。タイマーで区切って23分にして次のグループに切り替えるようにしていますので、健康的なリスクも少なく効果が得られます。大人がうまく運用の工夫をすればよいと思います」

 

石戸:「本日視聴されている方々は、先進的な取り組みを積極的に取り入れたいお考えの方々だと認識していますが、だからこそ実際の導入に際しての懸念に関する質問が続いてしまいます。『ARVRは、医療的側面から発達段階にある子供たちにはNGと聞いたことがあります。小学生に実行するときに配慮されていることがあれば教えてください』というものです。時間制限のお話がありましたが、他にはありますか」

 

板宮氏:「まず、行動を読めない未就学児には、管理ができる場であっても見せないようにすることが一つ。また、医学的や心理的にディスアドバンテージがあるお子さんに無理に体験させてしまうと、マイナスになることもあり得ます。ただ、これまで特別支援学校で行ったことも何回もあって、そこで問題になったことはありません。リスクはゼロではありませんが、体験することによって得られるアドバンテージはかなりありますので、知見や経験、ガイドラインも含めて運用するとよいと思います」

 

石戸:「次は、少し方向性が異なる質問です。『音に指向性を持たせることは可能でしょうか』というものです。さきほど、触覚のお話がありました。板宮さんとして今後、取り入れたい機能や要素があれば教えていただけますか」

 

板宮氏:「音の指向性は非常に重要です。立体音響は組み入れようとしているところです。触覚に関しては、グローブをして煙を触ったら熱く感じるなど、よりリアルに感じるように考えています。人間は83%視覚に頼っているとのですが、残りの17%の部分で触覚が増幅されるとかなりリアルに感じます。触感や皮膚感覚を得られるハプティクスの技術とこのVR/ARがうまく連動すれば、よりプラスになるのではないかと思います」

 

石戸:「国内外問わずVRの教育分野での活用は、今後、どのように進展していくとお考えでしょうか」

 

板宮氏:「実際にAR/VRが教育分野でどう活用されていくか、それについては『まだ限られている』と思います。教員の負担が問題で、なかなか利活用に手を上げられないこともあると思います。VR/ARを用いると教育がもっとよくなる、子供や生徒たちの満足度も上がるのだとアピールできて、予算も獲得できるとうまく回ってくると思います。

 

医学系では、講義はZoomでできますが、最近コロナの影響で医学医療実習は難しいので、そこがVR/ARの出番になっています。小中学校でも理科の実験や実習のところから入っていくのではないかと思います。

公立は予算も少ないので、国にも働きかけてうまく補助金など活用して実用化できればと思います」

 

石戸:「知見を貯めた先にさらなる普及がある気がしますね。防災以外のVR/ARコンテンツの可能性について『ストーリーがあり、道徳的なコンテンツなどは有り得るでしょうか』というものです。体験型は分かりやすいと思います。他人になりきってコミュニケーションの体験ができるといった面白い取組も聞きますが、教育において考えられる使い方があれば教えていただけますか」

 

板宮氏:「医療の事例ですが、認知症になったら、こういう行動をこう感じるというVRを作っている団体があります。精神的な病気をVRで体験してみる、車いすに乗っているような体験をしてみる、一過性の体験ではなく生活の中のストーリーとして、没入疑似体験できる仕組みは増えてきています。作るのにはコストもかかりますが、既存の教育の中にもうまく入ってくるといいと思います」

 

石戸:「他者視点を体験できることは、結果としてインクルーシブな社会デザインにもつながりますね。そうできるといいですね。

 

最後の質問です。災害発生時に逃げ遅れる例の多い、高齢者へのVR体験事例はありますか。小学生との反応の違いがあれば教えてください」

 

板宮氏:「津波の中の運転のシミュレーターは、最高90歳ぐらいの方にも体験していただきました。印象的だったのは、70代後半ぐらいの女性の方が、シミュレーション中に、もうどうしていいか分からないと、アクセル踏みっぱなしでパニックになられたことがありました。この状況が高齢者の交通事故の増加につながっているのだと感じました。

 

子供はゲーム感覚になってしまうこともありましたので、いろんな方の体験の反応によってアドバイスや、指導方法を変える必要性を感じます」

 

最後は、石戸の「これまでも超教育協会では、板宮さんとVR/ARの実証実験などをご一緒させていただいています。今後も新しい事業開発などに共に取り組み、教育分野での活用の可能性を広げていければと思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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