概要
超教育協会は2021年2月10日、NTTe-Sports 代表取締役副社長の影澤潤一氏を招いて、「『eスポーツ』で人は育つのか~NTTe-Sportsのゲームレッスン『ユニキャン』の挑戦~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、影澤氏が「eスポーツ」と呼ばれるコンピューターゲーム市場の現状と課題及び同社の取り組みに関するプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その模様を紹介する。
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「『eスポーツ』で人は育つのか
~NTTe-Sportsのゲームレッスン『ユニキャン』の挑戦~」
■日時:2021年2月10日(水) 12時~12時55分
■講演:影澤 潤一氏
NTTe-Sports 代表取締役副社長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸が参加者から寄せられた質問を紹介し、影澤氏が回答するかたちで質疑応答が行われた。
ゲームが子供にもたらす影響に保護者の高い関心ユニキャンの効果にも高い期待
石戸:「早速、視聴者の方から質問が届いています。まず、『eスポーツ×教育を進める上で、最近は高校生を対象とする全国大会などが展開されていますが、小中学校に対しては今後どのようなアプローチを実施する予定ですか』という質問です。対象年齢に関しては他にも質問がきています」
影澤氏:「対象学年は、小中学校から高校生までを主要なターゲットとして想定しています。具体的には、教育事業の対象としては小中学校がメインで、高校では部活動などでの環境づくりから支援させていただくという考え方です。
対象年齢については、学びたいゲームの指定年齢によりますので、受講年齢について特に『何歳から』と明示してはいません。もちろん、保護者の方の同意は必要ですし、必要に応じて保護者の方も一緒に受講してもらう形でも実施しています」
石戸:「次に『自己管理力や課題解決力の養成に成果の高いゲームのジャンルはありますか』という質問です。ゲームのジャンルに関しては『ご自身が多くのことを学んだゲームのタイトルは何ですか』、『人生において大事なことを学んだゲームに関してはありますか』といった質問もきています」
影澤氏:「自己管理力という意味では、講義内容に『ゲームをする時間の管理』なども含めているので、タイトルにはよらないと思います。課題解決力については、どちらかというと個人戦メインのタイトルがいいと思いますが、全体的な戦略性になってくるとチーム戦メインのタイトルが、コミュニケーションも含めて必要になってくると思います」
石戸:「自己管理に関しては、さらにいくつか質問がきています。『ゲームと勉強の配分を自己管理できる年齢は何歳くらいでしょうか』というものです」
影澤氏:「小学校高学年ぐらいからですね。その質問に対する回答としては、サンプル数が少なくて恐縮ですが、私の体験と、私の子どもたちの状況、それに私の周りで同世代の子どもを持つ親御さんの話などを総合してそう思います」
石戸:「関連して『中学生でゲームに集中しすぎて不登校になってしまう、いわゆるゲーム依存の問題に対してどのような解決の切り口がありますか』という質問です。かなり切実に感じている家庭もあってこういう質問がくるのだと思いますが、いかがでしょうか」
影澤氏:「まず、『ゲームに集中しすぎてしまった原因』があると思います。『ゲームが好きだから』という理由だけでのめり込み、学校へも行かず友達にも会わず、自分がコントロールできなくなるまで没頭するとは考えられません。ある意味『逃げ場』になってしまった原因を探る必要があると思います。
実際に不登校になってしまった子どもに対する対処としては、同じような境遇の子どもたちとゲームを通じてコミュニケーションを取り、現状が『いい状況ではない』ということをきちんと自覚させた上で、自分にできる次の一歩、何を踏み出せばいいのかを大人と一緒に考える体制を作ってあげることが大事だと思っています」
石戸:「次の質問は、私も興味があります。『ユニキャンに子ども自身が興味を持ち、やりたいと思うのは理解できますが、参加させる保護者のモチベーションはどこにありますか。やはりゲームに興味がある保護者の方が多いですか』というものです」
影澤氏:「保護者の方のモチベーションは大きく2つに分かれます。1つは、自身がゲーム好きで子どもとも遊びたいが自分では教えられない、あるいは、自分と子どもで好きなゲームが違うので教えてあげて欲しいといった、ゲームの中身に寄った考え方の人。もう1つは、ゲームに対してネガティブな見方があって、子どもがゲームばっかりしているので取り上げたりもするのだが、実際どこまでゲームをやらせてもいいのか塩梅が分からないので、ユニキャンのようなサービスで管理してもらいたいというような考え方の人で、両者の比率はほぼ半々ですね。受講者数については原則的に公開していませんので、個別にお問い合わせいただければと思います」
石戸:「次の質問は、『子どもがやりたいというゲームをやらせて伸ばすのが良いのか、学びや成長に適したゲームがあるのでそちらに導いていくのが良いのかが気になっています。極端な話、よく槍玉に挙げられるソーシャルゲームを続けさせても学びにつながるのでしょうか』というものです。前回eスポーツを取り上げた時もタイトルに関する質問は多く、『どんなゲームでも学びの要素を入れられるのか』、『eスポーツを教育に使うという観点で推奨されるゲームはあるか』など、皆さん気になるポイントなのかなと思いますが、いかがでしょうか」
影澤氏:「ソーシャルゲームの善悪については、『良いものもあればダメなものもある』としか申し上げられません。ただ、『ダメなもの』とする要素としては、自己顕示欲や射幸心を煽るようなもの、お金を使わせてキャラクターを増やし、たくさん持っていることがステータスに見えるものは良くないと思っています。違う意味で社会勉強にはなるかもしれませんけどね。
また、そういうソーシャルゲームでなければいいのかというと必ずしもそうではなく、大勢が一斉に参加するタイトルは言葉遣いの乱れとか、『俺が何やってもいいだろう』という考え方に陥ってしまう懸念があります。そういうタイトルが好きな子どもには、ゲームの中身を教える前に、『こういうことを言われたら嫌だよね』など、ネットでの付き合い方を自分のことと考えられるように教えています」
石戸:「eスポーツの教育利用という観点でユニキャンを始められたと思いますが、『教育効果の具体的な指標はどのようなものを設定していますか』という質問がきています。サービス概要を見ても、コミュニケーション力、チームワーク、分析力、思考力などが書かれていますが、教育的な効果は具体的にどういう指標で測っているのか、その評価はどうフィードバックされているのかについて、もう少しお伺いできますか」
影澤氏:「細かいところまでは申し上げられないのですが、簡単にイメージしていただけるのは『性格診断テスト』のようなものですね。それを受講開始時と一定期間ごとに受けてもらった結果と実際のゲーム内の評価、それにゲームを通じたコミュニケーションといった目標に対してどれだけ達成できているのか、講師側でチェックシートのようなものを用意していて、それを基にフィードバックしていくようになっています」
石戸:「私から海外でのeスポーツの教育利用について2つお伺いします。1つは、中国や韓国の大学で設立されているというeスポーツ学科が『eスポーツ関連の人材育成を目指しているのか、それともeスポーツを通じた何らか別の目的があるのか』ということ。
もう1つは、以前NASEF(北米教育eスポーツ連盟)の人から聞いたのですが、アメリカでは高校などでeスポーツのプログラムを通じた分析力やコミュニケーション力の育成をカリキュラムに入れているそうです。そのような『eスポーツを通じて、初等中等教育で21世紀型スキルを育むような学びは他の国でも進んでいるのか』ということ。いかがでしょうか」
影澤氏:「1つめは、eスポーツ関連の人材育成だけではなく、あくまで学科の中のカリキュラムの1つとして、プレイヤーになるコース、プレイヤーのコーチを目指すコース、eスポーツのシーンを作るコースなどを選択できると聞いています。日本だと、こういう流れはどちらかというと専門学校で取り組まれていることが多いですね。
2つめの、初等中等教育でeスポーツを取り入れている国として聞こえてくるのはアメリカくらいですね。日本の学校は、どうするか周囲を見渡して検討中というか、言葉を選ばず言うと、少子化で減る学生に自校を選んでもらうための『飛び道具的』な扱いとのところが増えてきているように思われます」
石戸:「そうすると、アメリカでは公益法人のNASEFが学校でのeスポーツ導入をサポートされているわけですが、NTTe-Sportsのように、ビジネスとして『eスポーツ×教育』を展開している企業は国内外問わず、まだ存在していないということですか」
影澤氏:「ゲームのコーチングやマッチングのサービスという意味では結構多くの会社が手掛けていますが、私たちが考えるような教育まで踏み込んでいる企業はあまりないと感じています」
石戸:「次の質問です。『eスポーツで育成される資質や能力を実世界に応用して社会貢献につなげられるマインドセットがあればとても素晴らしい活動になると思います。これまでに社会貢献に繋がる具体的な取り組みなどはありますか』というものです」
影澤氏:「身近な例としては、講演でも紹介した不登校の子どもたちの支援活動があります。好きなゲームを仲間たちと楽しむために部屋から一歩踏み出す、みたいなことは実際にできていますので、これをその先にどうつなげていくかが今後の課題だと思います」
石戸:「もうひとつ、『eスポーツは、その場その場での状況判断や、先の状況を想定しての戦略を自分で考え、予想し、実行する能力が養われると考えていますが、これらは日本の子どもたちに最も足りないと危惧しているところでもあります。こういった切り口での展開は考えていますか』という質問です」
影澤氏:「まさに私たちが目指す人材はそういう方々で、自分で目標を立て、それに対する自己分析を行い、どういう行動を起こせば最適かを考えて実践し、足りないところは他人に教えを請う。これは別にゲームに限った話ではなく、当たり前にできれば素晴らしいことです。それを自分たちに一番身近なゲームを通じて実現できるというのが、eスポーツの魅力だと思います」
石戸:「私もICTリテラシーやネットリテラシーの育成に長く携わっていますが、青少年が携帯電話を持ち始めて以来、長く続いている課題だと思います。これに関連して、『ネット安全教室のように、匿名性の高いフィールドでは何に注意してeスポーツに取り組むか、といった普及啓発活動を行うことは考えていますか』という質問です。ユニキャンでもeスポーツを通じたICTリテラシーやネットリテラシーの普及をこれから取り組む予定はありますか」
影澤氏:「これはユニキャンのようなサービスサイドでの切り口ではなく、企業全体で取り組む課題です。私たちとしては、せっかく『eスポーツ』という言葉でゲームの認知度や社会的地位が昔に比べて高まってきているのですから、それを続けていくために必要なこととして、匿名性が高い環境ではどういうところを注意したらいいのか、啓蒙活動を続けて行かなければならないと思っています」
石戸:「残り3つ質問があります。まずは『ユニキャンのサービスは対象が広いようですが、純粋にゲームを上達したい社会人に対してもサービスとして提供するのでしょうか』、次が『ユニキャンの講師は必ずしもゲームプレイヤーではないのか、イメージとしてはコーチングに近いのでしょうか』、最後が『eスポーツはプロとして仕事になるのか、世界ではどうでしょうか』というものです」
影澤氏:「予想より多くのご質問をいただきありがとうございます。まず1つめ質問ですが、ゲームを上達したいだけなら他のサービスも多くありますので、受講したい先生で選ぶのがいいと思います。その上で、これまでお話ししてきたような『ゲーム以外』の部分も考慮して弊社を選んでいただければ幸いです。
2つめの質問ですが、対象となるゲームを全く知らない人がコーチを務めることはありません。ただ、全体に共通するリテラシーの部分などは集合研修の形で、そのゲームをやっていない人が講師になることもありますが、もちろんゲームに対して理解がある人です。
最後の質問について、eスポーツを仕事としている人は日本にも一定数います。『プロとして』と聞かれている『プロ』が『JeSUのライセンス所持者』ではなく、『何らかのスポンサーを受けてゲーム活動で生計を立てている人』を指すのであれば、日本には1,000~2,000人程度いると言われています」
最後は、石戸の「eスポーツと教育に関する現状、課題、今後の可能性について視野が広がりました。影澤さんには超教育協会の活動にも既にご参加いただいていて、『超eSports学校』の講座がちょうどこれからスタートするところです。私たちとしても『eスポーツ×教育』の普及に尽力していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。