教育データの活用にどう取り組み、エビデンスに基づく教育を実現するか 第32回オンラインシンポ「教育データの利活用とエビデンスに基づく教育の実現に向けて」
レポート・後半

活動報告|レポート

2021.2.19 Fri
教育データの活用にどう取り組み、エビデンスに基づく教育を実現するか 第32回オンラインシンポ「教育データの利活用とエビデンスに基づく教育の実現に向けて」<br>レポート・後半

概要

超教育協会は2021119日、京都大学 学術情報メディアセンターの緒方 広明氏を招いて、「教育データの利活用とエビデンスに基づく教育の実現に向けて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、緒方氏が、「ラーニングアナリティクス」と同氏のグループが開発している基盤情報システム「LEAF」に関するプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに視聴者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半はこちら

 

■日時:2021119日(火) 12時~1255

■講演:京都大学 学術情報メディアセンター 緒方 広明 氏

■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半は、石戸奈々子をファシリテーターに、参加者から寄せられた質問をもとにした質疑応答が実施された。

 

教育データ利活用の実践に高い関心 データの権利や管理方法にも注目が集まる

石戸:「『昨今話題になったマイナンバーと成績の連携は、データ分析の観点では効果的なのでしょうか』という質問があります。前回、文部科学省の方も含めて教育データの活用に関するシンポジウムを開催した背景には、誤解も含まれた情報発信によって、ネットで懸念や不安の声が大きく上がってしまっていたことがあります。本来、データの有効活用は教育の質の向上に大きく寄与できるにもかかわらず、しっかりとした議論をする前にたたかれてしまうのではないか、という懸念から企画しました。その視点から、この質問に関連して『今回の世の中の反応をどうとらえたか』と『マイナンバー活用をどう考えているか』という2点に関してお考えをお聞かせください」

 

緒方氏:「マイナンバーに関する報道が流れる前の2020930日に、日本学術会議から『教育のデジタル化を踏まえた学習データの利活用に関する提言』出されました。その中では、教育データを『名寄せ』して個人と紐付けることをいきなり実施するのは危険ではないか、と問題提起されています。マイナンバーとの連携とは、名寄せして個人とデータを紐付けることですから、同じことが言えると思います。

 

つまり、教育データについては、すでに成績データを持っている学校内部での活用はいいとして、外部へ出す際には学校や教育委員会が匿名化を行ったものを共有しましょうということです。これだと、当然名寄せはできませんが、そういう状態でもある程度の効果的なデータ分析は可能です。

 

まずは、そういう形でデータ活用を実現して、『それでは不十分。やはり小・中・高校・大学のデータと個人を名寄せした11の情報が必要』ということになれば、その時にマイナンバーの活用を考えればいいでしょう。まずはそのための準備を兼ねて、現行の個人情報保護法の範囲内で行えることを予備的にやってみてはどうかと思います」

 

石戸:「データ活用については、『収集されたデータの所有者は誰になるのか』が気になります。『データのあり方と実データの所有者はどのように定義づけられていく想定なのでしょうか』という質問も来ています。前回のシンポジウムでも、『データのコントロール権は誰にあるのか』という話の中で、同じような議論があったのですが、先生の研究の中ではどのように位置づけられていますか」

 

緒方氏:「私たちの研究は基本的に『まず公教育』というスタンスで、学校を中心にLMSや教材の閲覧システムを提供しています。そのシステムを使った教育・学習活動、具体的には先生が教材を作り授業を行った中で得られる学習データについては、まずは学校がデータをしっかり管理してより良い教育のために分析を行います。もちろん、システムの利用者である学習者が希望すれば、自分のデータをダウンロードして利用することもできます。

 

つまり、データは教育を提供する側の先生のものでもあり、教育を受ける学習者のものでもあると言えます。『どういう教育を提供したらどういう学習をしているか』ということも教育データの一部ですから、教育を提供する側がそのデータを使わせてもらうことは必要ですし、教育を受ける側は自分の学習データですからそれをダウンロードして利用できることは非常に重要です。学術会議の提言にも書かれていますが、まず、公教育でのデータ管理をしっかり確立し、その後で私教育も含めたデータの相互流通ができるようになればいいのではないかと思っています」

 

石戸:「収集された学習データの管理方法について、『学校側での一括管理ですか、生徒側での分散管理ですか』という質問もきています。ここまでのお話ですと、学校側での一括管理になるようですね。

 

それに付随して『学習ログの取り扱い方針を決める上で、現行の関連法規制のうち注視しなければならないものは何でしょうか。学習ログ分析ツール開発事業者、導入学校現場のそれぞれの観点からご教示いただければ』という質問もきています」

 

緒方氏:「学習者の人権や尊厳が脅かされることがないようにすることは原理原則です。その意味で、学校でデータを管理する場合も、学習者や先生の人権を阻害しないようにしっかり管理することが一番大切だと思っています。

 

ただ、現行の個人情報保護法について、数年に1度程度行われている改正を含めて従っていればそれでいいというものではなく、教育データをどう管理していくかについては、学校・学習者・保護者・教育委員会などさまざまなステークホルダーが集まって議論し、取り決めていく必要があると思います。

 

もちろん、データをうまく活用して教育改善・学習改善に利用して行くこととある意味トレードオフの面はあると思いますが」

 

石戸:「少し違う観点で、『教育データの活用と言っても、勉強する習慣を身につけることが必要な小学校低学年と、深く考えることが求められる高等教育では、収集すべきデータも、データ分析の目的も異なると思います。年齢に応じたデータ収集・活用のポイントはありますか』という質問です。小学校から大学まで教育データを収集されていますが、学年ごとに何らかのポイントがあれば教えていただけますか」

 

緒方氏:「大学も含めて学校にはそれぞれ独自の目標があり、『どういう人材を育てるか』という考え方も異なりますから、教育データを集める場合にも、教育機関ごとのカスタマイズが必要になってきます。私たちのシステムも、「基本セット」はありますが、これに各学校それぞれのニーズに従って随時カスタマイズを重ねていくことが必要になります」

 

石戸:「諸外国との比較での質問です。『データやエビデンスに基づく教育が進んでいない原因には何があると思われますか』という質問です」

 

緒方氏:「最大の理由は、小学校から大学まで、教育業界全体でデジタル化が遅れていたことでしょう。デジタルの端末も教科書も普及率が低く、先生だけが端末を使いこなして授業をするといった、インフラ整備の低さが大きいと思います。

 

ただ、今後はGIGAスクールで全国に端末が行き渡りますので、教育データの利活用やエビデンスに基づく教育が国全体で進みます。そうなれば、ここまで全国規模で展開して、しかも詳細な学習データまで蓄積できる仕組みを取り入れている国はほとんどありませんので、一気に世界ナンバーワンに躍り出ることもできるのではないかと思っています」

 

石戸:「イギリスなどでは教育分野でのデータの活用が進んでいるとのことですが、こういう研究を進めるにあたり、国内外を問わず参考にしている国・地域や学校はありますか」

 

緒方氏:「オンラインの大学なので少し質問の趣旨と外れるかも知れませんが、イギリスの『オープンユニバーシティ』には、ラーニングアナリティクスに関するデータの研究者がいて参考になります。国で言えば、オーストラリアには、イギリスを含め多くの国から教育データの利活用に関する研究者が集まっています。

 

この背景には、オーストラリアが教育産業に力を入れていることがあると思います。オーストラリアの輸出は、1位の鉄鉱石など鉱物、2位の観光業に次いで3位に教育産業でが入るほどで、中国などから多くの留学生を受け入れています。そのため、教育を改善するためのシステムに非常に熱心で、国を挙げてこういう教育データの利活用をしていると、知り合いの研究者から聞いています」

 

石戸:「教育データについては、『こう利用したいというニーズは少なく、こう使えるのではないかという利用例の話に止まることが多いと感じています。日本の教育において、データの利活用に関する本当のニーズはどこで得られるものでしょうか』という質問です。実際の現場ではこういうところにニーズがあるのではないか、こういう活用方法から進めると良いのではないか、ということがあれば教えていただけますか」

 

緒方氏:「私たちの研究は、一貫して現場の先生方と一緒に進めていて、そこにあるニーズに対して『こういう解決方法がある』と言える提案を研究しています。中にはこちらから『こう使えるのではないか』と提案した事例もありますが、多くは先生方からのリクエストや相談に始まる現場起点の事例です。

 

例えばプレゼンで紹介した、手書き回答の分類も、元々は先生が紙ベースでやっていたことです。紙ベースではタイムラグがあって時間内で回答を見せられず、次の時間になってしまうとどう解いたか覚えていない子も出てきますが、その場で瞬時に典型的な回答を見せられれば『こういう回答方法もある』ということが理解できます。このように、先生が現場でやってきたことを元に解決策を提案できれば、喜んで現場で使っていただけると思います」

 

石戸:「プレゼンの最初の方で、データ活用の研究目的として「学習効果の向上」と「教員の負担軽減」をあげていました。『「成績が上がった」『学習にかかる時間が減った』という具体的なデータはありますか、また、『教員の負担が軽減した』ことを示す事例はありますか』」

 

緒方氏:「学習効果の向上に関しては個々の研究について論文を作成していて、その中で、データ分析によってどれくらい学習効果が上がったか、成績が上がったかを検証しています。『教員の負担軽減』は、実際に先生の横にいて計測しているわけではなくアンケートベースですが、プレゼンでも触れましたように、最大2時間程度かかっていたグループ編成が過去のデータを分析することで瞬時に行え、本当に負担軽減や時間削減につながっていると言われています。また、先ほどの手書き回答の分類も、今までは先生が時間をかけて全員の問題をチェックし、典型例を選んでいた作業が瞬時に行われることで、かなりの作業負担軽減につながっていると思います」

 

石戸:「負担軽減という観点では、もう2つほど質問です。1つは『分かりやすいと回答の多かった授業を他校の教員が研究したりすることは可能ですか』というもの、もう1つは『データの分析者と、分析結果を使って指導を行う教師の間にどういう役割や機能があれば教師のデータ活用が進むと思われますか』というものですが、教師が自分の授業を改善していくためにこういうデータを活用している、という事例や使い方はありますか」

 

緒方氏:「先ほどの『手書き回答の分類』は数学の授業の事例ですが、提案した先生はまず自分の授業の中でツールを使ってみて、うまくいけば他の数学の先生にも展開するということをやっていますので、同じ科目を担当している先生同士の横のつながりの中で広がっていくところはあると思います。ただ、情報端末を使った授業に対する得意・不得意もあって、こういう手法を積極的に取り入れていく先生と、そうでない先生がいますので全員一律は難しいと思います」

 

石戸:「今回は『知識習得型』の学びに関するデータの利活用の話が多かったと思いますが、いわゆる『資質能力(コンピテンシー)』に関してデータ活用の必要性を感じています。『それらのデータの収集分析をされている実績はありますか』、また、『それはどのような手法で分析収集されていますか』という質問です」

 

緒方氏:「コンピテンシーというのは、コミュニケーション力とか課題解決力といったスキルのことでしょうか。それであれば、簡単なものですが、グループ学習の中で『発話・発言をどれぐらいしているか』を客観的なデータとして収集し、所属グループに対してどれくらい貢献できているのかといった評価は実施しています。

 

あとは『ピア評価』ですね。ルーブリックを用意してグループ内やグループ間で学生同士の相互評価を行い、主体的に学ぶ能力や対話的に学ぶ能力といったコンピテンシーを調べる研究は今まさに進めているところです」

 

石戸:「最後に『エビデンスの蓄積と利用のサイクルについて具体的な利用例があれば教えていただきたい』という質問です。いかがですか」

 

緒方氏:「エビデンスに基づく教育の具体例として挙げられるものに、先生が学生に対し、どういうタイミングで、どういうメッセージを送ると、どういう結果になるかという『介入』があります。例えば、夏休みに課題として40の問題を出した時、11問ずつコツコツやっていく学生も、ギリギリになってまとめてやる学生も、休みの最初にすべてやってしまう学生もいますよね。2学期になってからこの課題に対してテストを実施したところ、最も成績が良かったのは、1度最後までまとめてやってしまい、正解できなかったところだけもう1度見直しをした学生でした。ある意味当たり前とも思えますが、先生方は毎日コツコツやるのが一番いいと思っていたのでそういう意味では意外でした。

 

これが昨年の話です。今年の夏休みはシステムが介入して、1回最後までやった学生に対し「もう1回確認しましょう」という趣旨のメッセージを送ってみた結果、そういった介入を行ったグループは、そうでなかったグループよりもテストの成績が良くなったという結果が得られています」

 

最後は、石戸が「実際の研究データに基づく説得力のあるお話から、今後の教育分野におけるデータ活用の可能性の広がりを感じました」という言葉でシンポジウムを終えた。

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