教育データ利活用への期待と不安
オンラインシンポジウム~緊急企画~「新時代の学びを支える教育データの活用推進に向けて」レポート・後半

活動報告|レポート

2021.1.29 Fri
教育データ利活用への期待と不安<br>オンラインシンポジウム~緊急企画~「新時代の学びを支える教育データの活用推進に向けて」レポート・後半

概要

超教育協会は202117日、文部科学省初等中等教育局学びの先端技術活用推進室長の桐生 崇氏、Japan Digital Design株式会社CTOの楠 正憲氏、戸田市教育委員会教育長の戸ヶ﨑 勤氏、東京大学大学院教授・理化学研究所革新知能統合研究センターの橋田 浩一氏の4氏を招いて、「~緊急企画~ 新時代の学びを支える教育データの活用推進に向けて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。


2021年の初回となったシンポジウムの前半では、教育データの活用実態とその将来像、マイナンバーカードとの関連について、橋田氏、戸ヶ﨑氏、楠氏、桐生氏の順にプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>>前半のレポートはこちら

 

■日時:202117日(木) 12時~13

■講演:

文部科学省 初等中等教育局学びの先端技術活用推進室長

桐生 崇 氏

Japan Digital Design株式会社 CTO 

楠 正憲 氏

戸田市教育委員会教育長

戸ヶ﨑 勤 氏

東京大学大学院教授、理化学研究所 革新知能統合研究センター

橋田 浩一 氏

■ファシリテーター:

石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

講演会の後半は、ファシリテーターの石戸奈々子が、参加者から寄せられた質問に自身の疑問も交えて問うかたちで行われた。

 

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた超教育協会理事長の石戸奈々子

 

教育データの利活用推進のために 今、議論すべきこととは

石戸:「本日ご登壇いただいた皆様は、文科省の『教育データの利活用に関する有識者会議』のメンバーでいらっしゃいますので、そこで行われている議論を共有いただきたいと思います。

 

今回、マイナンバーと教育データの紐付け報道を踏まえて賛否両論の議論が起きた理由の一つに、『教育データが何を指しているのかが曖昧』ということがあると思います。例えば個人の練習データなどは本人にとっては非常に有益な価値あるデータですが、それが社会的に流通するのは困るわけです。一方で、社会的に使われることが適切なデータもあります。皆様が教育データを議論するにあたり、どこまでを検討のスコープに入れているか、もしくは、ここから先は検討のスコープに入れないという境界線を決めているのか、その辺りを教えていただければと思います。いかがでしょうか」

 

桐生氏:「現時点で有識者会議は、各メンバーや専門家から、それぞれの立場からの見解を披露しています。具体的には、前々回は、学校現場でどのように活用しているのかという観点で、戸ヶ﨑教育長はじめ自治体や学校現場の皆さんから見えている教育データにはどのようなものがあり、どのような活用をしていて、どのような課題があるかといったようなことを、前は、研究者の視点から、研究をしていく上でどういった教育データを活用していくことが必要なのか、ビッグデータ化した時にどういった限界・課題があるのか、といったようなことを議論しました。今後は、それらの内容を論点整理し、教育データの中で共有すべきものは何か、あるいは標準化をさらに進めていくべきことは何かなど、もう少し詰めた議論をしていく段階に移行していきます」

 

石戸:「もう一つ、教育データの活用に誤解というか否定的な意見が出た背景に、『学習データは誰の物なのか』が曖昧だったということもあると思います。私自身は、学習データは学習者自身のもので、個人が利活用できる形で安全・安心な環境を用意すべきだと思います。『データは誰のものか』という議論が行われたのでしょうか」

 

橋田氏:「データは有体物ではないので所有権は存在しませんが、『利活用する権利』は本人にあるべきです。それによって、本人に対する価値の創出が最大化されることになり、社会的な価値も最大化するという意味で、本人が自分のデータを自由に使えることが望ましいと言えます。加えて、場合にもよりますが、自分のデータを『こういうふうには使うな』ということも言える、そういうことをいかに担保するかが重要だと思います。そういう基本的な考え方に立って政策が進められていることをもっと説明した方がいいと思います」

 

楠氏:「ここは、『自己情報コントロール権』と法律で明示的に言われているものとは違います。歴史的にみても、例えば医療は教育よりも議論が先行している分野ですが、カルテは患者のものかというと、かつてはそうではなくて、ほぼほぼ病院と医者のものでした。実際、患者が読もうにもドイツ語はよく分からないし、見せて欲しいと裁判を起こしてもなかなか見せてもらえませんでした。

 

同様に、通信簿の問題ひとつとっても、生徒に教育の履歴をすべて見せて良いのかも含め、いろいろな議論があるはずで、どこかで断ち切って個人のものにできるかは難しい問題です。行政が持っているデータも同様で、極端な話をすれば、警察の捜査情報は操作対象の犯罪者のものなのかと言うと極めて難しいと思います。

 

橋田先生が言われたように、データは『物』ではないので所有権の問題ではなく、いわゆる『データコントローラー』としてデータを処理しているのが誰なのかということになります。そして、教育データは学習者本人のものであると同時に、先生の『教えている行為』に関するデータの一部でもあるわけで、パキッと折ってここまでは誰の所有物と分けられるものではありません。あらゆる物事には複数の側面があり、歴史的にもいろいろな経緯があって、実質的にコントロールをしている人がいれば、それを踏まえて対応していくことが必要だと思います」

 

戸ヶ﨑氏:「今のお話を聞いていて、学校現場や教育委員会としての立場で感じるのは、皆さんがよく使われる『評価』という言葉は、5段階で先生が子供の成績を付ける『評定』に近いイメージがあるということです。この、どちらかというと管理的な『評定』データから、子供自身がデータコントローラーとなって教育のために使える『評価』データへシフトしていくことが大切だと思います。プレゼンで申し上げた『学びのお薬手帳』計画で、子供が学校だけでなく学習塾や家庭教師からも適切な助言をもらえるようにするためにも重要だと常々感じています」

 

石戸:「私も今回、『そういえば成績表とは誰のものなのか』と考えました。今までは評価・評定された結果のデータしかなかったかもしれませんが、今後は、学習プロセスのデータも取れるようになると、『利活用できるデータ』の幅が変わってくると思います。確かに明確に切り分けられるものではないかもしれませんが、教育データの中で、『ここは誰にコントロール権がある』と、きちんと細分化された丁寧な議論が必要なのかなと思います。それがなく『教育データを活用します』と漠然と言われると、どう活用されるのかも、誰に活用されるかも分からず不安ばかりが先行してしまうのだと思います。

 

別の質問が寄せられています。『教育におけるユニバーサルIDは何が候補になっていますか』という質問です。マイナンバーは、候補として挙がったのでしょうか」

 

楠氏:「そもそも教育にユニバーサルIDが必要なのか、慎重な議論が必要だと思います。まず『健診情報』は健康情報なので社会保障分野の一つと言えますが、『学習情報』は社会保障・税分野ではないので、現行法ではマイナンバーを利用できません。マイナンバーカードとの紐付けも言われていますが、マイナンバー自体とはリンクできませんから、マイナンバーにおけるデータ連携の基盤も利用できません。

 

ただ一方で、学校が変わった場合などに円滑にデータを引き継ぐためのアイデンティファイアは必要なので、そこは公的個人認証のシリアル番号などでやろうという話を進めています。企業からは、『マーケティングのために何にでも使えて変わらないIDが欲しい』とよく言われますが、そこには本人の意図を超えた名寄せや悪用のリスクも伴います。したがってユニバーサルなIDではなく、例えば『転校した時にどうやってデータを引き継ぐか』といった具体的なニーズに応じて、できるだけプライバシーインパクトが小さい方式を考えることが私たちの仕事であり、あまり何にでも使えるものを用意しようという考え方は持たないほうがいいと思います」

 

桐生氏:「今の話にもありましたが、『何のためにそれが必要か』をまず確定してからだと思います。実際、『こういう目的で使う』というユースケースもないのに、『とにかくこういうものがあればいい』というアイデアは、教育データを議論する時に数多く出てくるのですが、それを全部やっていく必要はないと考えています。例えば、『研究のために全国の子供の名寄せがしたい』というのであれば、確かにユニバーサルIDのような仕組みがあった方が便利でしょうが、果たしてそれが本当に必要なのか確認すると、決してそうではないという回答が多いのです。もし、『転校生の確認に使いたい』ということであれば、そもそも転校する生徒は特定できているわけですからユニバーサルIDが本当に必要なのか確認する必要があります。このように、ユースケースに応じて必要なものは変わってきますので、そういうものをまず特定したうえで議論を進めていく必要があると考えています」

 

石戸:「教育データの活用は非常に重要と考えますが、その一方で『現場レベルでは乗り越えるべき壁もたくさんあります。日本の場合、今日のような大きな話よりも、まず各学校レベルで有効な教育データ活用を考えることが先決と感じます』という意見がきています。戸ヶ﨑さんが取り組まれていることはその辺りですね。

 

戸ヶ﨑さんには、『データの活用は学びの質の向上につながると思いますが、評価やそのフィードバック方法について、具体的にどのような方法を考えていますか』、『データを活用できる人材の育成という話がありましたが、そういうようなことも国は政策として考えているのでしょうか』といった質問が届いています。後者はあるいは桐生さんへの質問なのかもしれませんが、そのあたりについてはいかがでしょうか」

 

戸ヶ﨑氏:「まず、前半部分への回答ですが、学びの質を上げるということは評価の質も上げることだと思います。指導と評価はまさに表裏一体です。その中で、評価の質を上げることに関心を持たれている方が非常に多いのですが、そのために何をやるかと言うと私は大きく二つあると思います。

一つは、指導の質を上げないと評価の質は上がらないということです。適切な評価ができる指導でなければ、そもそも評価ができません。さらに、評価をするための適切なデータをいかに素早く入手できるかということも重要です。本市では一つの例として、教員や子供の発話をデータ化・可視化する実証研究を検討しています。どういう発問をしたときに、どういう盛り上がりがあったのかが記録されているので、教員が発問を工夫するのに役立ちます。

 

もう一つは校務支援システムにも関連しますが、採点支援システムを入れています。今までは観察でしかわからなかったものが、小テストで自動的にデータとしてフィードバックされ、授業の成功の度合いがどのくらいかわかったり、普段はつまずかないところでつまずいている子供をクローズアップしてピンポイントで指導を行うこともできます。このような形で、指導と評価、学習者と教師を一体化した形で進めていきたいと考えています。

後半部分の人材の育成については、本市の場合、教育行政のプロ採用という形で、大学などでデータ活用に取り組んできた人材の採用を行っています。ただ、それを広げていくのはなかなか簡単ではないので、複数の自治体が共同で行う必要もあると考えています」

 

石戸:「そろそろ終わりの時間ですが、もう一点だけお伺いします。橋田さんから、学習データの活用にしっかり取り組めている国はまだないという、お話があったと思います。校務データだけではなく、学習データも含めての取り組みにおいて、海外で参考になる事例はないのか。また、楠さんが話されていたヘルスケアや医療など、データ活用が進んでいる分野で、教育分野の参考になったり、応用したりできる活用事例はあるのか、今後のヒントのために教えていただければと思いますが、いかがでしょうか」

 

橋田氏:「フィンランド・エストニア・台湾など、医療や教育のデータを国が管理していて、それを各国民が利活用できる体制が整っている国はあります。フィンランドなどは、国が管理している学習データを本人が民間の事業者に開示してサービスを受けるようなこともできるようになっていますが、それはあくまで政府が用意したプラットフォームで管理されているデータの活用であって、民間のデータは含みません。民間データも含めて本人が集約して管理・活用できる状況にはどの国も到達していないと思います。ただ、政府主導であってもそういうシステムが用意されているという意味では、医療でも教育でも、日本より進んでいる国は随分あります」

 

石戸:「桐生さんのところで進められている学習指導要領のコード化は、整備されれば民間教材などとの連携も容易になるという意味で大きな一歩になると感じられますが、そのあたりも想定しての展開ですか」

 

桐生氏:「例えばイギリスのように、国が作ったプラットフォームに全学校が参加する仕組みで学習データを活用しているところはありますが、我が国のように、学校の先生だけではなく民間事業者も含めて学習指導要領に則った形で良質な教材を提供している、いわば公と民が一緒になってうまくやっている初等・中等教育の例は、海外にはほとんどありません。

 

そもそも学習要素のコード自体、アメリカの一部の州でカリキュラム統一のために作った例はありますが、全ての教材に学習指導要領のように内容を反映させている国はないでしょう。そういう世界でも最先端の展開になりますので、もちろん各国の事例を参照することは重要ですが、あまり参考になる前例はありません。まさに各分野の皆様が総出で知恵を出し合い、作って行く必要があると思っています」

 

シンポジウムの最後に、石戸は「日本から『世界初』の、新しい教育のあり方の提案ということですね。産官学連携でしっかりと取り組んでいくべきテーマだと思います。今回寄せられたコメントには、『話が壮大過ぎてどこから切り込んで行けばいいのかが分かりづらい』というご意見もありますし、それが故に、誤解を含んだ情報が伝わってしまうこともあると思います。引き続き、文科省からも議論内容を一次情報としてしっかりと発信していただきたいと思いますし、私たちもそのような場を引き続き用意していきたいと考えています」とコメントした。続けて「超教育協会のデータワーキンググループでも同様の議論を継続して行なっています。データ活用をテーマとしたシンポジウムも今月中にまた行いたいと思いますので、よろしければご参加ください」という石戸の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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