日本でも動き出した学歴証明のデジタル化がもたらすものは?
第28回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2021.1.8 Fri
日本でも動き出した学歴証明のデジタル化がもたらすものは?<br>第28回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2020123日、東洋大学教授 芦沢 真五氏と公益財団法人未来工学研究所主席研究員 中崎 孝一氏を招いて、「海外人材獲得に必須~学歴証明のデジタル化」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、まず芦沢氏が、学習歴の認証に関する国際的な枠組みについて、続いて中崎氏が「学修歴証明書デジタル化」のプロジェクトについて説明し、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

「海外人材獲得に必須~学歴証明のデジタル化」

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■日時:2020123日(木) 12時~12時55分

■講演:
芦沢 真五氏
東洋大学教授
中崎 孝一氏
公益財団法人未来工学研究所 主席研究員

■ファシリテーター:
石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

芦沢氏は、約10分間の講演において、学修歴を国際的に相互認証する仕組みと、そのデジタル化の重要性について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

 

▲ 写真・東洋大学の芦沢 真五氏

 

【芦沢氏】

外国人の学歴書類や大学の卒業証明書を読み解く際のポイントは書類が正式に発効された本物かどうか、という「真正性」の確認が第一の課題です。また、「同等性があるか」、つまり、外国で教育を受けた人が日本に来た時に日本で教育を受けた人と同等に扱っていいのかという問題も、外国の学修歴評価の重要な課題です。

 

海外では外国学修歴を審査する専門家がいて、書類の同等性、言い換えると「実質的な差異」の有無を、一定の判断基準を持って行うことが定められています。具体的には、ユネスコが旗振り役となって、1997年、欧州諸国を中心に策定した「リスボン協定」に基づき、さまざまな資格基準を読むための手法とツールが用意されているので、各国の専門家がそれを使って評価をしています。

 

このリスボン協定のアジア版としてユネスコが作ったのが、2018年に発効した「東京規約(Tokyo Convention)」で、もちろん日本も批准しています。


東京規約で定められていることはまず、外国の成績などを認証する権限を持つ「権限ある承認当局(Competent Recognition Authority)」という概念の導入です。日本の場合は主に文部科学省ですが、実際に書類を受け付ける高等教育機関なども、それらを審査する権限を持っています。

 

基本原則として、「資格の評定及び承認」は公平、公正に行い、差別的な扱いを絶対してはいけないことや、「不服申し立て」ができることなどを定めています。
 情報開示のルールも定められていて、仮に「あなたの学歴は日本の基準に照らすとここが足りない」ということがあれば、その内容を説明しなければなりません。今までは、外国人に対してそういう説明責任はない、と考えている組織も少なくありませんでしたが、今後は説明責任が伴うことになります。

 

また、「部分的な修学」の原則承認や、「非伝統的な資格」に承認の道を拓くことも定められていて、例えばホームスクールなどで勉強してきた人が外国から来た場合に、学歴として認める道を開かなければなりません。さらに、証拠書類を持っていない難民(Undocumented Refugees)にも、資格審査を受ける道を開かなければいけないことになります。


こういう東京規約について、日本では、「独立行政法人大学改革支援・学位授与機構」が国内情報センター(ナショナルインフォメーションセンター)として、適切な情報を提供するなどの役割を担っています。

学修歴の電子化を定めた「フローニンゲン宣言」

このように、海外の人の成績証明を認めると共に、日本から出ていく人の成績も海外で正当に評価されなければならないというバックグラウンドがあるので、より確実に執行する手法として電子化の重要性が高まっています。証明書が電子化されると、ブロックチェーン技術などで発行元までトレーサブルになり、改ざんや捏造も不可能なので成績証明書が本物かどうかという真正性の審査は非常に簡単になります。

 

同時に、Equivalency(同等性)について、どういう手続で審査を公明正大に行うのかを決めなければいけません。そのために、電子的な証明書のやり取りをどう行うかの国際的な取り決めが、「GDN(フローニンゲン宣言ネットワーク※)」で、このGDNが世界標準を定めています。※Groningen Declaration Network(オランダ語の「G」は「フ」と発音)

個人が持っている学修歴を適切に自己管理できるようにする

このような、電子的な証明書を世界的に認知していく取り組みが日本では行われてこなかったので、私たちは「一般社団法人 国際教育研究コンソーシアム(RECSIEResearch Consortium for the Sustainable Promotion of International Education)」では、フローニンゲン宣言に日本で最初に加盟し、実証実験を行って電子証明書を日本に導入しようとしています。

 


▲ スライド1・日本で始めてフローニンゲン宣言に加盟したRECSIE

 

私たちが目指すのは、個人が持っている学修歴を適切に自己管理できるようにすることです。「自己主権型アイデンティティ」(Self Sovereignty IdentitySSI)と呼ぶ概念で、きちんと「検証可能な資格」として国際通用性を持たせていくことが最終的な目標です。

 

▲ スライド2・自己主権型アイデンティティと検証可能な資格

 

具体的には、個人のスマートフォンの中にアイデンティティを確認する上で必要な書類が電子的に格納されていて、入学先・就職先・病院などで必要に応じて提出し、情報の管理は自分で行うという形を目指しています。これを大学だけではなく、高校から大学、中学から高校と「縦」にも広げていき、初等中等教育から学修歴をきちんと自己管理し、人に伝えていけることを目指す世界的な流れに歩調を合わせて行きます。


ここから先は、RECSIEで電子証明の取り扱いを中心になって進めている未来工学研究所の中崎さんから説明してもらいます。

OECD加盟国で学習履歴がデジタル化されていないのは日本だけ

中崎氏は、約20分間の講演において、国内で進められている「学修歴証明書デジタル化」のプロジェクトについて説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

▲ 写真・未来工学研究所の中崎孝一氏

 

【中崎氏】

未来工学研究所の中崎です。私からは、現在RECSIEで進めている「学修歴証明書デジタル化」のプロジェクトについて紹介いたします。

 

芦沢先生から説明があった「東京規約」では、第3章に「透明性、一貫性、信頼性及び公平性を有した資格の評定と承認を合理的な期間内に行う」ことが規定されています。

 

▲ スライド3・東京規約で定められた学修歴デジタル化の意義

 

この締結国責務を果たすには、証明書の迅速なやり取りを可能にすることはもちろん、信頼性や公平性を備えたやり取りの手段や方法論を国際的に共有していかなければなりません。そのためにデジタル化は非常に重要な役割を果たします。

 

実際、そうしたニーズから、学修歴証明書のデジタル化は世界中で進んでいます。最も早かったのは90年代からデジタル化を進めた北欧で、中国がこれに次ぎ、現在では少なくとも42カ国以上で証明書がデジタル化されています。

 

▲ スライド4・学習歴証明書のデジタル化実装国

 

特に、日本へのインバウンドが多い中国や韓国は世界的にも証明書のデジタル化先進国で、中国の場合はすでに、紙の証明書は基本的に発行せず、オンライン証明書が正式なものとして法制化されています。今年7月の調査でも、OECD加盟国で証明書のデジタル化がされていない国は日本だけという状況でした。

 

世界の学修歴証明書デジタル化の状況を概略します。まず北欧は、国営もしくは大学コンソーシアムなどが所有するIT企業が元々中央集中的に運用してきた学生情報システムを基盤に、1990年代から学習歴証明書のデジタル化が進んできました。中国も同じような経緯で2000年代に入ってすぐデジタル化が進みました。

 

▲ スライド5・主要国の証明書デジタル化の状況

 

一方で、南欧のスペイン、イタリア、ギリシャなどは少し状況が異なり、大学個別あるいは大学コンソーシアムでデジタル化を進めていますが、実装の度合いは北欧や中国に比べてずっと低い状況です。

 

北欧や中国と対極にあるのがアメリカで、すでに85%の大学で証明書のデジタル化が行われていますが、いずれも大学が個別に採用した商業的プラットフォームベンダーの主導によるものです。両者の中間にあるのがカナダやオーストラリア/ニュージーランドで、つい最近までアメリカのように大学が個別・散発的にデジタル化を進めていましたが、オーストラリア/ニュージーランドでは2018年にナショナル・ネットワークに統合され、カナダでは今年からナショナルネットワークに統合するプロジェクトが進められています。

90%以上の企業が学修歴証明書の「デジタル化は必要」

国内の状況ですが、デジタル化の必要性について今年初めに実施したアンケート調査で、学修歴証明書のやり取りが最も多い大学と採用企業との間で認識に非常に大きなギャップがあることがわかりました。

 

▲ スライド6・デジタル証明書の必要性の認識度

 

例えば、デジタル証明書の必要性について、供給サイドの大学側では、「必要である」という回答が約11%しかなかったのに対し、需要サイドの採用企業側では、90%近くが「とてもそう思う」あるいは「そう思う」と認識していました。


▲ スライド7・デジタル証明書の準備状況

 

今年23月の時点での準備状況をみると、供給側では「検討中」の大学が1.3%しかなかったのに対し、需要側では「デジタルの証明書をすぐにでも受け付けられる」企業が90%を超えていました。供給側の大学のアンケート調査は、独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構(NIAD-QE)が今年2-3月実施したものですが、半年以上経ている現時点で再調査すれば、私たちの取り組みによる効果もあり、検討中の大学が2030%、実装間近の大学が10%程にはなっていると思われます。

 

私たちが進めている証明書のデジタル化は、こうした国内と海外のギャップや、国内での採用企業と大学の認識のギャップをこのまま放置できないという問題意識を持った芦沢先生と私を含む4人のチームが、ボトムアップで立ち上げました。具体的には、私たち4人が理事を務めております国際教育研究コンソーシアム(RECSIE)が運用母体となって日本での証明書のデジタル化を進めていくことになり、まずRECSIEとしてフローニンゲン宣言ネットワークに加盟し、そこに加盟しているアイルランドのIT企業、DIGITARY社をプラットフォーム・パートナーとする体制を整えました。

 

▲ スライド8・証明書デジタル化の運営体制とガバナンス

日本でも学修歴証明書のデジタル化が動き出す

これまでの歩みですが、2019年末に国際調査を開始し、国内外約10社の学修歴証明書プラットフォームベンダーの調査を行いました。20204月からはその結果に基づいて日本での学修歴証明書のデジタル化の要求仕様書(requirement specification)の作成、6月からはその要求仕様定義に基づくプラットフォームのベンダー選定作業を行い、結果として最終的にDIGITARY社を選定いたしました。

 

同時期に、シンポジウムやセミナーなどさまざまなコミュニケーションの機会を通じてプロジェクトへ賛同いただける大学を募り、9月に4大学で先行してパイロットプログラムを開始しました。先行する4大学で最も準備が進んでいる芝浦工業大学では、年内にも実際のデジタル証明書を発行する実装作業が進んでいます。続いてICU20212月、南山大学が同4月、東洋大学が同6月の予定で実装準備を進めています。

 

今回導入するプラットフォームは、フローニンゲン宣言の理念でもある「いつでも、どこでも、誰にでも」共有できる「学生データの携帯性」を最重要視して、現在の紙の証明書のワークフロー、ユーザーフローを変えずにデジタル化した設計になっています。

 

▲ スライド9・証明書データの真正性を担保する仕組み

 

卒業生や在校生は、スマホもしくはPCブラウザから証明書の発行請求を行い、発行された証明書を採用企業や他の大学にメールを介して共有します。それを受信した企業や大学では、専用のシステムやアプリをインストールすることなく、オンラインで証明書の真正性を確認できる形になっています。

 

「世界中の市民の学修・就転職の移動性ニーズに資する」という理念を体現する「フローニンゲン宣言ネットワーク」は、デジタル化のためのテクノロジーやガバナンス、プラクティスが各国の裁量で行われて閉鎖的にならないように、情報を共有しながら自然な形でコンバージ(融合)していく形のエコシステムです。こういう考え方で進めてきた結果、今年初めには海外事例を調査しに行く立場にあった日本が、最近では、急速にデジタル化を進めた先進的な事例として海外に紹介されるようになっています。

「自立分散的」アプローチで学修歴証明書のデジタル化を推進

今回のデジタル化を進めるにあたっては、「自律分散的デジタル化」というアプローチ(方法論)を採りました。参加大学が享受できるメリットは、証明書のやり取りをオンライン化できることで、卒業生向けのサービスや利便性の向上や、紙の証明書の事務処理コスト削減はもちろん、卒業生の海外赴任、海外での就・転職といった国際的な活躍の支援にもつながります。最近では、生涯教育の推進ということで、東京規約の締結国義務でもある「非伝統的な資格」を承認する道を拓けることもメリットに挙げられます。

 

▲ スライド10・学修歴証明書デジタル化のメリット

 

今後の展開では、まず、本プロジェクトに参加いただける大学は継続して募集します。また、現在実装中のシステムは成績証明や卒業証明など「プレーンな証明書」を電子認証で発行するものですが、来年4月からはDigital Trustや非中央集権IDなどと呼ばれる「ブロックチェーンの証明書」の発行や、マイクロクレデンシャル、デジタルバッジなど「学習歴ポートフォリオ」と呼ばれる生涯学習のための証明書機能も実装していきます。これらは、技術的にはすでに現行プラットフォームに装備されていますが、その社会実装を進めていくということで、最も先行している芝浦工大がこれを視野に入れながら実装作業を進めています。

 

▲ スライド11・証明書デジタル化の今後の展開

 

さらに、ユネスコが推進しているコロナ禍における高等教育の持続可能性のためのプラットフォーム、Internet of EducationIoE)についても進めていこうとしています。この分野ではユネスコの研究グループに参加している他、IEEEでもアジア・パシフィックのラボに参加していますし、あるいは韓国の大学とも国際連携しながらIoEのプラットフォーム開発を進めているところです。

 

>> 後半へ続く

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