BBT大学のアバター授業~「生身」と「分身」の学生がディスカッション~
第24回オンラインシンポジウムレポート・前半

活動報告|レポート

2020.12.22 Tue
BBT大学のアバター授業~「生身」と「分身」の学生がディスカッション~</br>第24回オンラインシンポジウムレポート・前半

概要

超教育協会は2020年11月4日、ビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)経営学部グローバル経営学科 学科長 教授の谷中 修吾氏を招いて、「BBT大学のアバター授業〜「生身」と「分身」の学生がディスカッション〜」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、谷中氏が実施した「アバター卒業式」と、そこで使用した「アバターロボット」の概要と効能について説明し、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子氏をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「BBT大学のアバター授業
~「生身」と「分身」の学生がディスカッション~」

■日時:2020年11月4日(水)12時~12時55分
■講演:谷中 修吾氏
ビジネス・ブレークスルー大学
経営学部グローバル経営学科 学科長 教授
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

谷中氏(写真1)は、約30分の講演において、まず、BBT大学が3月に挙行した「アバター卒業式」とアバターロボットの概要について、その後にアバターロボットを使ったハイブリッド授業と、アバターの将来にについて説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

▲ 写真1・BBT大学 グローバル経営学科長・教授の谷中修吾氏

 

ビジネス・ブレークスルー大学、通称「BBT大学」は、今年で10周年を迎えた文部科学省認可の100%オンライン大学で、世界110カ国に在学生と卒業生がいます。教員の大部分は、起業家、経営者、コンサルタントなど、ビジネスの現場最前線で活躍する実務家です。私自身も、新規事業を生み出すビジネスプロデューサーとして活動しながら、大学ではマーケティングやスタートアップ系の科目を教えています。

 

今回、アバターロボットを活用してビジネス教育に取り組むきっかけとなったのは、コロナ禍の2020年3月、BBT大学の卒業式の開催が難しくなったことです。当校はオンライン大学ですが、それだけに卒業式は対面形式で行うことを大切にしてきました。しかし、緊急事態宣言の発令により、対面の卒業式は断念せざるを得ない。これを何とかしたい、という思いで私が「超速」でプロデュースしたのが「アバター卒業式」でした。

 

アバター卒業式(写真2)とは、卒業生が自らの分身となる「アバターロボット」で卒業証書を受け取るという企画です。卒業生は、自宅からパソコンでアバターロボットを操作して大前研一学長の元にたどり着くと、卒業証書を授与されます。そして、御礼の言葉を述べ、一緒に記念撮影を行いました。

 

▲ 写真2・BBT大学「アバター卒業式」の卒業証書授与

 

このアバターロボットは、航空大手のANAホールディングスが開発したプロダクトです。アバター卒業式で活用したのは、「newme」(ニューミー)という量産型のアバターロボットで、操作する人の顔をタブレットに映しながら四輪の足で動きます。コロナ禍において、「newme」を活用したアバター卒業式の開催は、世界初の取り組みとなりました。

 

▲ 写真3・卒業式で活躍したアバターロボット「newme」

 

このノウハウを多くの団体や教育機関に伝えて活用していただきたいと思い、私の専門とするデジタルマーケティングを駆使して世界中に拡散しました。その結果、3月下旬の一週間ほどで、5大陸で約300社の海外メディアに紹介され、数カ月の間に、アメリカ、中国、フィリピン、インドネシアなど、世界中の教育機関でアバターを使った式典が実装されました。

 

▲ 写真4・谷中氏の発信から世界中で開催された「アバター卒業式」

 

アバター卒業式を経て、今回、全く新しい教育を実現する目的で、BBT大学とavatarin株式会社(今春にANAホールディングス初のスタートアップとして独立)で、アバターロボットをビジネス教育にインストールすることを目的とした「教育デザイン・ラボ」を発足させました。

 

▲ 写真5・BBT大学とavatarinが設立した「教育デザイン・ラボ」

 

私が立ち上げた「アバター授業」(写真6)も、このアバターロボットを活用したラボ活動の事例です。

 

▲ 写真6・「生身」と「分身」がディスカッションするアバター授業

 

アバターロボットは、見た目の新規性と独特な雰囲気が注目されますが、単に面白おかしければいいという話ではありません。まず、アバターロボットの価値をしっかり理解していただくことが最大のポイントになります。

 

現在、観光、医療、宇宙開発など、さまざまなシーンでアバターロボットは活用されています。自らの分身であるアバターロボットを介して、世界中のあらゆる場所に瞬間移動できるというコンセプトは、応用できるフィールドが非常に広い。教育分野における活用は、非常にポテンシャルが高いと言えます。

 

アバターロボットが持つ最大の価値は、「物理的に現場介入できる」ということです。オンライン授業も、単なるディスカッションならば、Zoomなどのオンラインツールで十分であり、敢えてアバターロボットを活用する必要性はありません。しかし、今回、「アバター授業」を思いついた背景には、アバターロボットの「物理的に現場介入できる」という価値が、グループワークで存分に活かされると考えたことがあります。

 

離れた場所にいる人が、アバターロボットで現場のグループワークに参加するとどうなるか。Zoomとの違いは、アバターロボットは前後に進んだり、左右に回転したり、自分で自由に現場を動くことができるということです。PCの十字キーによる操作でアバターロボットの前進・後退・左右回転を行うという非常にシンプルな仕様ですが、PCの画面上という2次元の世界で話していた人が、アバターという3次元の物理的な実体を持って現場に現れるということになります。そのため、リアル参加の人は相手が本当にそこにいるように感じられ、アバター参加の人は現場に介入している実感を得られます。たったそれだけのことに、すごく大きな価値があるのです。

 

グループワークのように参加者が顔を突き合わせて討論する現場では、メンバーのちょっとした仕草や、その人のパーソナリティが感じられる時、偶発的に「何か」が生まれてくることが多いものです。つまり、現場ならではの接点から、会話が生まれ、笑いが生まれ、信頼関係が生まれ、結果として議論の質が上がるのです。実際にアバターロボットを交えてグループワークを行った参加者からは、「本当にここに人がいるみたい」、「話しかけたくなる」といった感想が得られています。

アバターが授業におけるチームビルディングを促進

アバター授業では、必ずと言ってよいほど、グループの会話が盛り上がります。皆さんも、先ほどまでZoomで会話していたメンバーが、突然アバターロボットで現場に登場するシーンを想像してください。「わー、○○さん!」と盛り上がるわけですね。

 

ただ、私の狙いは、コミュニケーションのしやすさではありません。もし、コミュニケーションのしやすさを求めるなら、Zoomミーティングで十分です。あえてアバターロボットを使う狙いは、「チームビルディングの効果」にあります。

 

リアルでグループワークやワークショップを行う時、面白いアイデアは、その場の雰囲気や、チームメンバーのちょっとした仕草やひとことから生まれることが多いものです。ZoomでPCの画面をじっと眺めながら行うディスカッションより、その場にフィジカルな実体を持つアバターが登場した方が、「○○さん面白いね」とか「ちょっと動いてみて」とか会話が弾み、相互の信頼関係が醸成されてチームビルディングが進みます。結果として、ディスカッションを加速させ、議論の質をあげていくことが、アバター投入の狙いです。実際、グループワークの現場では、その効果が検証されています。

 

アバター授業のもう一つの効能は、「学生のフォローアップ」です。この場合、アバターに入るのは、グループワークに参加する学生ではなく、授業をサポートする「ラーニングアドバイザー」です。BBT大学では、通称「LA」と呼んでいます。一般的に、グループワークの授業では、多くのグループが構成されます。1人の講師で全てのグループの個別対応を行うのはなかなか難しく、学生は質問したくてもできない状況になりがちです。そういう時に、リモートからアバターで参加してくれるLAが現場を巡回して、講師がカバーできない学生をフォローアップしてくれるわけです。

 

例えば、ハリー・ポッターの衣装を身に纏ったアバターロボットを操作するLAが、グループワークで学生の元にスーッと寄ってきて、「議論は順調ですか?困っていることはありませんか?」と話しかけることができます。LAは自宅からアバターインすることができるため、国内外の様々な地域に住むLAにお願いすることが可能となり、授業の運営としては大変便利です。

▲ 写真7・アバターのアドバイザーが学生をフォローアップ

 

まとめると、グループワークにアバターロボットを導入することで、2つの付加価値が生まれます。1つは、グループワークの現場に来られないメンバーがアバターインすることで、リアルとオンラインのメンバーのチームビルディングを促し、ディスカッションを加速すること。もう1つは、対面のグループワークや研修において、教務側のサポートスタッフがアバターインすることで、講師がカバーできない学生や受講生をフォローアップできることです。

現場の「疑似体験学習」でアバター授業の可能性がさらに広がる

アバター授業のさらなる拡張可能性として、「現場疑似体験」の事例をいくつか紹介します。一つは、沖縄の「美ら海水族館」におけるアバターの活用事例です。児童クラブの子どもたちが教室からアバターロボットを操作して、美ら海水族館の「現場に行ってみる」という疑似体験の機会が試行されました。

 

▲ 写真8・水族館の職員がアバターの小学生に解説

出所:https://www.anahd.co.jp/ana_news/

archives/2020/03/23/20200323-1.html

 

その他にも「地方在住の方が東京の『蔦屋家電』で本を買う」という事例があります。蔦屋家電に配置されたアバターロボットに地方からアバターインして、店内を探し回ったり、コンシェルジュに本を紹介してもらったりできます。地方在住の人にとって、オンラインで本を買うことも出来ますが、本屋の現場を体験できること自体に非常に大きな価値があるのです。

 

もう一つは「アバターロボットでリアルな釣りを行う」体験です。東京で釣り竿を動かすと、九州の釣り堀にいるアバターロボットがそれに呼応して動きます。九州で釣り上げられた魚はその場で配送手配され、東京で釣った当人に届けられる、そういう世界観を実現することができます。

 

▲ 写真9・東京からアバターで九州の魚を釣る

出所:https://avatarin.com/avatar/fishing/

 

アバターを使った現場の疑似体験は、実際の現場で体験学習が全く行えない状況であっても実施できるばかりか、その活動範囲を一気に拡張することができます。アバターロボットによる「疑似体験学習」は、ここまで述べてきた「グループワークの活性化」と共に、教育分野での新たな活用事例として注目されます。

 

本校とavatarinで発足させた教育デザイン・ラボは、アバターロボットの特性を活かして、教育分野で次々と新しい取り組みを進めています。先日は、東京で開催した懇親会に海外の学生がアバターで登場して交流する「アバター乾杯」や、卒論成果発表会のMVP受賞学生をアバターでリアル会場に迎えて讃える「アバター表彰式」を実施しました。近いうちに公開できると思います。

アバターで新しいプロジェクトを生み出す そのヒントは縄文時代にあり

最後に少し、「おまけ」の話をしたいと思います。アバターを活用した事業を次々と手がけていると、「どうやって新しいプロジェクトを量産するのか」とよく聞かれます。私は新しいビジネスを生み出すヒントを「縄文時代」から得ています。

 

1万5000年近く続いたと言われる縄文時代は、「自然との共存共生」を実践していた社会です。昨年、出版した「最強の縄文型ビジネス」という本で体系化したのですが、縄文時代の人々の活動をビジネス視点で捉えると、柔軟に行動する「直感的」、いろいろな人とコラボする「協調的」、自由な発想で新しい価値を作る「フリーダム」、感謝してご縁を紡ぐ「感謝オリエンテッド」という、4つの特徴を見出すことができます。これを「縄文型ビジネス」と定義し、私自身も縄文型を実践して様々な事業を手がけています。

 

一方、現代は、基本的に、KPIやPDCAやROIといった「管理型経営」の社会です。このモデルになったのは、縄文の次の「弥生時代」。いわゆる「稲作」に資本を集中投下した時代からです。端的には、「計画的」「競争的」「コンプライアンス」「期待オリエンテッド」という特徴があります。これを「弥生型ビジネス」定義しました。

 

現代につながる弥生型ビジネスにも、もちろん様々な良さがあります。問題は、弥生型ビジネスのみに傾倒してしまうと、思考も行動様式も画一的になって、新しい価値が生まれにくいということです。一方、縄文型ビジネスは、新しいビジネスを生み出す時に威力を発揮します。ビジネスモデルを持って直感的に動き、全てのステークホルダーと協業し、既成概念にとらわれず新しい価値を創造しながら、ご縁とともにビジネスを紡ぐ。0から1を生み出すポテンシャルを秘めています。

 

▲ 写真10・「縄文」と「弥生」の対比

 

縄文型ビジネスと弥生型ビジネスには、それぞれの長所があります。但し、いずれかに偏りすぎると、バランスがよろしくありません。教育業界においても、新しい世界を切り開いていくには、両者を組み合わせた「縄文×弥生のツインドライブ」が求められる、ということを最後にお伝えいたします。

 

 

>> 後半へ続く

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