概要
超教育協会は2020年10月28日、北米教育eスポーツ連盟(North America Scholastic Esports Federation:以下、NASEF)のeスポーツ戦略室チーフの内藤裕志氏を招いて、「日米の教育現場における、eスポーツの可能性~NASEFの取り組み~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では内藤氏が、教育におけるeスポーツの可能性について、NASEFの取り組みを交えて紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交えて参加者からの質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「日米の教育現場における、eスポーツの可能性~NASEFの取り組み~」
■日時:2020年10月28日(水)12時~12時55分
■講演:内藤裕志氏
北米教育eスポーツ連盟(NASEF)eスポーツ戦略室チーフ
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
内藤氏は約30分間の講演において、北米教育eスポーツ連盟(NASEF)の紹介とeスポーツ推進活動の内容、アメリカの教育現場や地域社会におけるeスポーツの活用の様子などを具体的に紹介した。主な内容は以下のとおり。
【内藤氏】
NASEFは、eスポーツと教育をどのように掛け合わせられるのか、eスポーツを通じた教育を中心に活動を行っているアメリカ登記のNPO団体です。
eスポーツとは、コンピュータゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技としてとらえる際の名称です。eスポーツはゲームの中でも、「切磋琢磨し、勝ち負けを通じて何かを得る」というスポーツの要素が強いものをさします。国内でもプロ野球eスポーツリーグ「パワプロ」、サッカーゲーム「ウイニングイレブン」、格闘ゲームの「ストリートファイター」などが知られています。
アメリカで8割以上の子どもがゲームを 子どもに最もリーチする教育ツールは「eスポーツ」
NASEFでは、「教育的eスポーツ(Scholastic Esports)」という考えで、学習や教育的価値と、ゲームが持つチャレンジして楽しむことを掛け合わせ、融合する取り組みを進めています。スポーツ要素の強いゲームを学習や教育を促進するための効果的なツールとして活用することを考えています。
アメリカでは80~90%の子どもたちがゲームをし、ゲームを通じてパソコンを操作しています。そこで「芸術や音楽、普通の勉強よりも、幅広く子どもたちにリーチできるのはゲーム、eスポーツではないか」と考えたのが、我々の活動の始まりでした。
我々は、ゲームを広げるためにeスポーツを広げているのではありません。ゲームをツールとして活用しながら、教育の質をどのように高めていけるのかに取り組んでいます。どのようなツールやコンテンツを提供すれば生徒たちが興味を持ってトライし、生徒たちの成長につながるのかを考えています。
▲ スライド1・学習とチャレンジして
楽しむことの融合が、教育的eスポーツである
NASEFでは「次世代に届けたい本質的要素」として、「Ikigai生きがい」を重要視しています。
「What you love?(あなたは何が好きか)」、「What you are good at? (あなたは何が得意なのか)」、我々は常にこのようなことを考えながら、eスポーツというツールを使い、子どもたちの背中を押すような教育を提供しています。
▲ スライド2・NASEFの本質的要素は、
「生きがい」を切り口に次世代を育てること
NASEFの取り組みを具体的に説明します。まずは、コミュニティの形成です。そして、カリキュラムの開発と提供、他にも学校や教育現場でのクラブ活動の活性化や支援もしています。
▲ スライド3・NASEFは
「コミュニティの形成」「カリキュラムの開発・提供」
「クラブの支援」に取り組んでいる
対象の生徒はアメリカでいうハイスクール、グレード9から12の生徒で、これは日本の高校生にあたります。最近は、中学生に対してもカリキュラムを提供しています。また、大学や地域、地域の団体コミュニティの方々とも連携して活動しています。
集中力や問題解決能力などを eスポーツを通じて学び高める
NASEFの設立は2017年で、以来、さまざまな研究所や高等教育機関と連携してリサーチや研究を進めています。eスポーツ、ゲームを通じて得られる学習効果として期待しているのは、「集中力や俯瞰力を向上させる」、「問題解決スキルを高める」、「科学的推論を促進する」、「数学・数式、頭の使い方を学ぶ」といったことです。その他にも、言語学習の視点から「非言語的なことを通じて海外の方々とコミュニケーションを取る」、また、「テクノロジーやデジタルのリテラシーを高める」といった効果にも着目しています。これらの効果を高められるようなカリキュラムを作っています。
▲ スライド4・NASEFが考えるゲームを通じて
得られる学習効果
また、eスポーツと教育機関との関係、学校教育に活用する観点で考えると、学校のブランディングや経営に関しても活用できると考えています。さらに、スポーツを通じて個人が成長する、学校への満足度を高める、卒業率を高める、生徒の粘り強さや努力する力を養うといったことも、教育機関で行われていますが、アメリカではこのようなこともeスポーツでできないかと考えられています。
eスポーツで「どんな能力が上がった」のか 学校で実施したリサーチ結果
さて、eスポーツによりどう能力が高まり、どのような効果があったのか、学校にリサーチした結果を紹介します。我々としては、人間の左脳での「論理的に物事を考える力」や「科学的調査と分析」、「数学的な問題解決」、「推論」、「知識の応用」などの能力が向上するのではないかと、推論を立てながらリサーチしていました。
ところが結果として高まったのは、「社会的感情」の学習効果でした。我々は、この社会的感情について、現代のような予測不能な社会を生き抜くために最も重要なスキルと考えています。
例えば、その場の状況を鑑みて、仲間とともに自分が「どのようなコミュニケーションを取るべきか判断する」、仲間と目標や目的を一致させて「自分の役割や行動を決め、チームを動かし達成する」といった能力です。eスポーツのカリキュラムを通じて、こうした能力が最も向上したというリサーチ結果が出ました。
▲ スライド5・リサーチの結果、
棒グラフのオレンジの部分
「社会的感情」の効果が最も高まった
こうしたリサーチの結果をもとに、我々は次世代の教育には何がマッチするのか、さらなる学術的研究を進めていきます。研究を元にカリキュラムも作成していきます。
アメリカの授業でのeスポーツ活用例 将来の仕事や社会的役割を学ぶカリキュラムも
次にカリキュラムにおけるeスポーツの活用の例を紹介します。アメリカは州によって教育基準が異なるのですが、NASEFのあるカリフォルニア州では、公的な基準にのっとっていれば、担当教員が自分でアレンジしてカリキュラムを提供することを推進しています。
カリフォルニア州のある学校では、ELA、日本でいうと国語の授業、つまり英語を学ぶ授業でアクティブラーニングを実践するのにeスポーツが活用されています。
「English 9」とはいわゆる高校1年生で、そこからひとつずつ上がって「English 11」は4年生です。1年目は、「ゲームってなに?」から始まります。本質やコンテンツを勉強しながら、2年目になると「eスポーツを使って社会に何ができるか、どのような授業できるか」をみんなで考えていきます。3年生では、「実際にプランニングして、マーケティングする」ことを考えていきます。4年生には「実際にイベントを実施し、社会や地域の人たちにどう受け入れられるのかやってみよう」という流れになっています。
▲ スライド6・アメリカの学校での
eスポーツ活用カリキュラムの例
また、ニューヨークのカリキュラムでは、将来どのような仕事や役割があるのかを考えて、自分の目的意識を養う授業にeスポーツを活用しています。ニューヨークはアメリカンフットボールが人気なので、NFLリーグの中でどんなキャリアがあるのか、スポーツチームの中にどのような仕事があるのかを皆で考えて洗い出します。そして自分の得意なもの不得意なもの、社会的にチャンスがあるもの、克服しなければならないものなどを分析して、自分の可能性に当てはめていくというカリキュラムです。このように、地域性も巻き込んだ独自カリキュラムに活用されている例もあります。
eスポーツを授業に活用する 教員や顧問のバックアップも
NASEFでは、活動を支援してくれるフェローシップを作り、教員たちのシラバスを共有しながら一緒にカリキュラムを考えていける環境も提供しています。現在は「Discordディスコード」というボイスチャットを使い、オンラインプラットフォーム上でコミュニケーションを取っています。また、どんな授業をしてどんなリアクションがあったのか、とりまとめられるプログラムを作るといった取り組みもしています。
こうした活動を通じて、FASEFでは「学習・研究機会の提供」、eスポーツの大会や学校同士や組織同士、生徒同士のネットワーク作りを通じた「大会やネットワークへの参加」、「コミュニティの参加と部活支援」、ゲームタイトルの選定やキャンプの実施などに取り組んでいます。
▲ スライド7・NASEFが提供する
eスポーツ活用のためのミッションと価値
生徒だけでなく教員へのバックアップとして、顧問に向けたセミナーも毎週実施しています。「Concerns」、つまり、「心配事」としてあるのは、ゲームに依存してしまう生徒たちをどのようにケアするのか、シューティングゲームでは暴力的な行為があるがどのように説明するのかといったことも検討します。顧問や教員らと一緒に作り上げていけるように、セミナーやシンポジウムを行っています。
▲ スライド8・顧問、教員に向けた
セミナーやシンポジウムの内容
生徒たちが輝ける場所や目標としてトーナメントを開催 eスポーツリーグリーグの立ち上げも
eスポーツを行う生徒が目指すべきものについては、生徒たちが輝ける場所や目標を作ってあげる意味で、トーナメント式のリーグ戦などを開催しています。教育環境に適切であるように基準を厳しく設定してタイトルを選出しています。
我々の拠点は、カリフォルニア州オレンジカウンティのアーバイン市にありますが、オレンジカウンティ教育委員会と連携して、2018年4月時点で28校38チームからなる「オレンジカウンティハイスクールeスポーツリーグ」を立ち上げました。ちなみに、NASEFに加盟している学校はアメリカ48州900校以上のほか、カナダやメキシコにも広がり、加盟生徒数は5000人以上です。アジア圏ではシンガポールに広がっています。
私は日本の窓口をして戦略などを立てていますが、日本でも自治体、学校、特に高校生から興味があるとのお話をいただいています。日本でも具体的なプログラム提供や組織化の準備をしているところです。
日本国内でも徐々に浸透 eスポーツの教育への活用例
日本での事例もご紹介します。高校生eスポーツ大会「STAGE:0」(ステージゼロ)は、毎日新聞社が主催し3回を迎えた全国大会です。高校生の活躍の場が広がっています。教育現場でも、徳島県の阿南工業高等専門学校では既に部活動で、eスポーツを通じて人間力をどのように向上させるか、地域の活性化をどう図るかに取り組んでいます。また、別の福岡市の事例では、キャリア教育にeスポーツを活用しています。
このように日本でも徐々に教育にツールとしてeスポーツを活用する事例が増え始めています。今後、eスポーツの社会的価値が変容してきて、活用方法も広がっていくと考えています。
▲ スライド9・日本国内で、
eスポーツが教育に活用されている例
NASEFの取り組みとeスポーツについては、noteでも情報発信していますので、ぜひご覧ください。
▲ スライド10・noteでも情報を発信している
>> 後半へ続く