リアル授業とオンライン授業、それぞれの価値を探りハイブリッドに
第22回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2020.11.27 Fri
リアル授業とオンライン授業、それぞれの価値を探りハイブリッドに<br>第22回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2020年10月19日、静岡聖光学院中学校・高等学校の平本直之氏と中村光揮氏を招いて、「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに 新たな教育の形を模索するための教室プロトタイプ~ 未来の教室プロジェクト」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では平本氏が、静岡聖光学院中学校・高等学校で実践したオンライン授業のためのICT環境の整え方と活用ポイント、同校でのリアルとオンラインの壁をなくす授業の実践について紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質問をもとにした質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに 新たな教育の形を模索するための教室プロトタイプ~ 未来の教室プロジェクト」
■日時:2020年10月19日(月)12時~12時55分
■講演:平本直之氏
静岡聖光学院中学校・高等学校
未来の教室プロジェクト 代表
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では参加者から寄せられた質問をもとに、ファシリテーターの石戸と平本氏、同じく静岡聖光学院の中村光揮氏に交えての質疑応答が行われた。

 

▲ 写真・中村光揮氏 静岡聖光学院中学校・高等学校 教員

 

オンライン授業をリアル授業の「代替案」ではなく「あえてオンラインで授業する」メリットを追求する

石戸:「さっそく参加者から、リアルとオンラインを組み合わせた教室についての質問です。理科の実験など、どうしても『モノがありき』の授業はどのように実施されていますか」

 

平本氏:「リアルの教室で実験を行い、手元を映してオンラインの生徒に見せたり、オンラインの生徒には事前に資料やものを送っておいて、リアルの教室と同時に実施したりする形を取っています」

 

中村氏:「その他の『モノがありき』の授業、例えば、プログラミングの授業では、生徒が持っているiPadでプログラミングを学ぶ形にしています。本校のYouTube公式チャンネルにも実授業の様子を載せていますので、それで様子をご覧いただけます。美術の教員が家にあるものを使って授業をしたのはすごく面白い内容です。『マスクを作りましょう、使っていないハンカチや布、はさみを持ってきてください』と自宅だからこそできる授業です。たしかに理科の教員からは専門的な実験ができない、大変だという声が聞かれますが、オンラインだからこそできる授業もたくさん生まれています」

 

石戸:「確かに『対面でしかできないこと』『オンラインだからできること』をしっかり設計していく必要があると思います。次の質問です。オンラインでグループワークを行っているということですが、『工夫された点など教えて下さい』という質問です」

 

平本氏:「休校中で全オンライン授業のときは、ブレイクアウトルームというZoom機能でセッションを行っていました。全体では恥ずかしがって発言しない生徒も、ブレイクアウトルームの中では積極的に発言したりなど、ここはオンラインならではの気づきだったと思います。今はリアルとオンラインが折衷状態なので、ディスプレイ越しに話をしながら、リアルの生徒もオンラインの生徒も両方顔が見える形で、グループワークができるようにしています」

 

石戸:「オンライン授業の生徒の遅刻や欠席はどう扱っていますか、という質問もきています」

 

平本氏:「朝のホームルームや授業の時間割は基本的に、すべて普段通りに行っています。オンライン参加の生徒は事前に保護者から連絡をいただいていて、オンラインに参加したと確認できれば出席扱いとして記録をしています。朝のホームルームのときにいるかどうか、Zoom上に顔を出してもらって出欠を取る形にしています。各授業の最初にも出欠確認をして、『リアル何人、オンライン何人』と記録しています」

 

石戸:「生徒からは、オンラインとリアルのメリットの違いの具体的な声は挙がっていますか。例えば私が教えている大学の学生からは、友達と会いたい、プロジェクト型の学習は対面でやりたいというニーズはあるものの、講義型の授業については『オンラインが便利』という声もあります」

 

中村氏:「講義型の授業は非常に聞きやすいという声はあります。自分一人だと集中して聞ける、質問もチャットでできますので、一生徒と教員がつながることができて便利という意見です。ブレイクアウトルームを使うディスカッションでは時間制限があるので、時間になると強制的に『ここまで』となります。『メリハリがあっていい』という生徒もいます」

 

石戸:「オンラインだからできる授業、逆にリアルでないとできない授業はどういうものでしょうか」

 

平本氏:「自宅にあるものを使った美術の授業、企業の方に講演してもらう授業や企業と連携したワークショップなどはオンラインでなければ実現しなかったと思います。体育など実技の授業は、リアルでなければ難しいですが、オンラインの体育の授業は音楽を流して各自ダンスを踊ったり運動したりと、体育の先生は工夫されていました。人とのかかわりが必要なものはやはりリアルでなければならないと思いますが、普段、『学校にないもの』を使うときにはオンラインが便利かなと考えています」

 

石戸:「宿題や課題について、回収や添削はどのようにされていますか。オンラインで完結できる教材も使っていますか。という質問も頂いています」

 

平本氏:「本校は、入学した当初に買い上げる形で一人一台iPadを持っていますので、現在は、ロイロノートやClassi(クラッシー)というプラットフォームを使って各教員から課題配信、回収するのが主な形です。紙媒体でのテスト等に関しては、事前に自宅に郵送して、当日Zoomで開きながら監督をしながら実施する形をとっています」

 

石戸:「ハイブリッド形の授業を継続していらっしゃいますが、ハイブリットにすることによって授業方法は変わりましたか」

 

平本氏:ICTに抵抗がある先生方は当初、警戒感がありましたが、『始めてみたら普通に板書も説明も伝わるし、あまりストレスなくできる』という声が聞けました。オンラインとリアル両方を使えることに新たな可能性を感じて、企業や海外とのやり取りを授業に取り入れるなど、かなり授業内容を変化させた教員もいます。変えなくてもいい部分と、変えて行った方がいい部分、両方が少しずつ動いているかなというところです」

 

石戸:「ハイブリットにすることによって、授業の質は向上したと捉えて正しいでしょうか」

 

中村氏:「向上したと思います。資料もデジタル化されることで、ペーパーレスにもつながります。生徒の意識も変わり、質問も積極的にチャットに打ち込んで残すようになってきました。自分の中にログが貯まり、何が分からなくなったのかも整理されていきます」

 

石戸:「次は、『オンライン授業がより進むと、通信制の学校と変わらなくなっていく可能性もあり、全日制の学校の存在意義につながる課題のような気もします』という質問です。何か考えていらっしゃることはありますか」

 

平本氏:4月に全ての授業をオンライン化したとき、『学校に行かなくてよくなるのでは』と言った生徒がいて、私もドキッとしました。ただ、人と人とがリアルに接することで人間関係も学べますし、人がいるからこそ何かができるというところは、オンラインでは難しいと思います。あとは実技、実験、その場の匂いや目で見たことを共有する感覚は、リアルの学校でやること自体に意味があると考えます。オラインが進めば進むほど、リアルでやることの意義も考え続けなければいけないと思います」

 

中村氏:「本校は、休校中の全オンラインと、分散登校中のハイブリット、両方とも経験しました。今はリアルでやることの代わりとしてオンラインを充てている形ですが、本校が考えているのは『代わり』ではなく『あえてオンラインにする』ことがポイントです。『学校に来られないからオンライン』とは意味が異なります。ハイブリッド授業が大事だとするのは、コロナが終わったあとも、例えば距離があるから話ができなかった海外の生徒と、オンラインがあるから週に1回ペースで国際交流ができるとか、オンラインで学校間の交流が深まるとか『あえてオンライン』の方にスポットを当てているからです」

 

石戸:「リアルとオンラインの学習効果についてお聞きします。デジタルを使うことによって生徒の学習状況のデータを収集できます。データの活用をされていますか?もしくはオンラインを活用することで学習効果が表れていますか」

 

平本氏:「オンラインで授業を受けるようになってから、勉強する時間が増えたという話は何人かから聞きました。家からの移動時間がなくなって空いた時間で、自分で振り返りをして何かできるとか。授業を受けることだけでなく、例えば7時や8時にオンラインで『自習部屋』として開けておくと、一人ではなかなか勉強しなかったのに、みんながいると入ってきて、何か話すわけではなくても同じ意識で勉強する、といった活用ができている生徒もいます。オンラインだからこその『人とのつながり』を逆に感じて、勉強して向上した部分もあると聞いています」

 

中村氏:「講義の時間は、50分から45分に短縮されているのですが、進捗はリアルと比べてもずれていなくて、講義の授業に関しては効率が上がっていると、実感を持っている教員はいます」

 

石戸:「例えば、『生徒と先生の対面は週1回で十分』と考えると、それ以外はやりたいことを自由にできる通信制のほうが、アドバンテージを感じますがいかがでしょうか。対面でしかできないこともある一方で、週何回かは学校に通って、残りは家庭で生徒がやりたいことや学習ペースを大事にした学びを実現するという方法もありだと思います。という質問もきています。対面もハイブリッドもすべてオンラインも経験されて、どのようにお考えですか」

 

平本氏:「それぞれに良さがあり価値もあると思っています。今後どのようになるかは、まだまだ検討段階ですが、週1回『オンラインの日』を作り他の日は登校する、など今後の検討課題です」

 

石戸:「クラウドファンディングに関する質問も来ています。未来の教室を実現するにあたって、クラウドファンディングで資金調達されていますが、どうしてクラウドファンディングしたのか、これから学校でクラウドファンディングを行うときの留意点をアドバイスいただけたらと思います」

 

平本氏:「未来の教室プロトタイプは、作った教室環境を本校だけではなくいろんな方に伝えて、いろいろな方にご意見をいただいてバージョンアップして行けたらという思いがありました。そこでクラウドファンディングで皆さんに公開して、共感いただいた方から資金協力していただく形にしました。補助金や他の資金調達の選択もあったのですが、進捗報告やご意見をいただけることを含めて、共感いただいた皆様と一緒に作っていけたらという思いです。

 

協賛いただいた企業は、地元の田宮というプラモデルのメーカー、佐藤園というお茶のメーカーでした。もともと授業を通した交流もあって、一緒に教室づくりを盛り上げていきたいと協賛いただきました。ただ実際に集めることと発信する部分は難しいところがありました。保護者やOBからどう賛同を得るのかは難しかったですね」

 

石戸:「反応はいかがでしたか。応援の声が多かったのか、学校がクラウドファンディングという手段を使ったことに反対するような声もあったのでしょうか」

 

平本氏:「クラウドファンディングにはコメントが載るのですが、そこでは温かい応援のお言葉をいただきました」

 

石戸:「オンライン授業となって、生徒の学習方法、生活リズムは変わりましたかという質問です」

 

平本氏:「オンラインで自由度が高くなると、生活習慣としてはダレてしまうもあると思い、本校の場合は当初から『自宅にいても制服を着て参加するように』と決めていました。あとは、個別に時間を取って生徒とZoomで面談する際、直接会っていないオンラインの生徒には特別気にかけて対応するようにしていました。生活面のやり取りは多くできたと思っています。

 

教員の反応については、課題の出し方や授業のスタイルの変化もありましたが、授業進度は遅れることなく、オンラインで課題配信することで時間短縮もできると、オンラインに否定的な反応はあまりないです。今後は、ICTを活用した授業、社会と結び付けるための授業などテーマを持ちながら授業内容をデザインし、『未来の教室』から新しい形の学びを提供していければと思っています」

 

最後は、石戸の「今後は、オンライン授業をリアル授業の代替としてではなく、オンラインとリアルの『いいとこ取り』をした結果、より豊かな教育環境を構築することがポイントだと思います。それに向けた具体的な取り組みのお話を伺うことができました」という言葉で、シンポジウムは幕を閉じた。

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた超教育協会理事長の石戸奈々子

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