生涯学習の全ての記録を真正に記録し 学習歴社会を実現するブロックチェーンの可能性
第21回オンラインシンポ「ブロックチェーンで実現する学習歴評価の仕組み。今後の課題と金融サービスへの接続」レポート・前半

活動報告|レポート

2020.11.20 Fri
生涯学習の全ての記録を真正に記録し 学習歴社会を実現するブロックチェーンの可能性</br>第21回オンラインシンポ「ブロックチェーンで実現する学習歴評価の仕組み。今後の課題と金融サービスへの接続」レポート・前半

概要

超教育協会は20201014日、株式会社techtec(テックテク)代表取締役の田上智裕氏を招いて、「ブロックチェーンで実現する学習歴評価の仕組み。 今後の課題と金融サービスへの接続」と題したオンラインシンポジウムを開催した。講演会の前半では、田上氏がブロックチェーンの概要と教育分野での活用、ブロックチェーンを使った学習評価と金融サービスの連携について説明。後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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■日時:20201014日(水) 12時~12時55分
■講演:田上 智裕氏 株式会社techtec代表取締役
ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

田上氏は、約30分間の講演において、まず、教育分野でのブロックチェーンの活用、同社が展開するブロックチェーンを活用したeラーニングシステム「PoL」を活用した学習評価と金融サービスとの接続、さらに学習評価への応用の可能性について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

 

【田上氏】

techtecの主事業は、教育分野におけるブロックチェーン活用で、学習するほどトークンがもらえる全く新しいeラーニングシステム「PoL(ポル)」を運営しています。

 

▲ スライド1・techtecのeラーニングシステム「PoL」

 

本日は、まず「ブロックチェーンとは何か」、「教育分野におけるブロックチェーンの活用」、その後に「教育から金融サービス『DeFi』への接続」、最後に「今後の課題」と、大きく4つのテーマに分けて説明します。


このうち「DeFi」について少し補足しますと、「分散型金融」と呼ばれる、非常に注目されているブロックチェーン技術を使った金融サービスです。そこに「教育をどのようにつなげていくか」、について後ほど詳しく説明いたします。

ブロックチェーンとはデータの編集・複製・削除が「極めて困難なデータベース」

「ブロックチェーンとは何か」を一言で説明するのは難しいですが、「記録されたデータの編集(改ざん)・複製(コピー)・削除が極めて困難なデータベース」と解釈しています。その特徴として、「特定の管理者が存在しないこと」と、記録されたデータが完全にオープンで誰でも閲覧できるので「編集・複製・削除の即時検知が可能であること」が挙げられます。よく誤解されていますが、ブロックチェーンがデータを編集(改ざん)できないというのは誤りで、誰でもブロックチェーンの記録を改ざんすることはできます。ただ、改ざんしたことがすぐに検知される仕組みになっています。

 

このブロックチェーンを教育分野でどのように使っていくのか。2018年に弊社と経済産業省は約半年かけて、学位/卒業証明書や研究データをブロックチェーンで管理することで不正や改ざんを防ぐ取り組みについて研究しました。日本ではまだまだこれからですが、海外ではすでに多くの国の大学や民間で取り組みが進んでいます。

 

例えばアメリカのBlockcerts社は、ブロックチェーン基盤の卒業証明書を管理するアプリケーションプラットフォームとして知られています。キプロスのニコシア大学のように、同様の取り組みを大学が自ら行うケースも多く、国内でも慶応大学などが実証実験を進めていますが、ここで問題になるのが「オラクル問題」です。

 

▲ スライド2・海外での主なブロックチェーンの活用例①

 

オラクル問題とは、「ブロックチェーンに記録されたデータを改ざんすることが不可能でも、そもそも記録する前の段階でデータが改ざんされていたらブロックチェーン全体が意味をなさなくなってしまう」ことを指し、今のところどの国のプロジェクトも解決できていない、ブロックチェーン業界の非常に大きな課題となっています。

 

この課題に対し、有効な解決策を示しているのが弊社のPoLです。PoLでは、最終学歴の学位や卒業証明のみならず、学習の全てのプロセスを5ステップでブロックチェーンに記録していきます。

 

▲ スライド3・教育データをブロックチェーンで管理するプロセス

 

具体的には、図中の12で、ユーザーの学習行動に応じた独自のトークン(PoLトークン)を発行して学習履歴をデジタル化します。もちろん、この段階で暗号化も行うので改ざんは不可能になります。その結果をブロックチェーンに記録し、その情報に基づいて学位や学習証明を発行することで「オラクル問題」を回避できると考えています。

 

弊社はこうしたアプローチですでに2年の運営実績を持ち、学習プロセスまで全てブロックチェーンに記録している世界唯一の実用例と考えています。さらに弊社では、PoLの仕組みが社会に受け入れられていくことで、4つの大きな課題を解決できると考えています。

 

1が「学位・研究データの不正」対策です。ブロックチェーンがプロセスまでしっかり管理するので、より信頼性の高い学位や学習履歴が発行できます。

 

2が「人事部の管理コストの削減」です。大企業では毎年数百人規模の新卒者を採用しますが、人事部では全員の出身校に連絡して当該生徒の卒業を確認しています。これは「学位が詐称されている」という性悪説を前提とした、本来は不要なコストです。学位の不正がないことをブロックチェーンで証明できれば、こういうコストを削減できます。

 

3が、「外国人留学生による学歴詐称」の問題です。これは海外でも問題となっている課題で、留学生が卒業を主張する大学の国際的知名度が低い場合や、人事担当者が英語を話せない場合でも、ブロックチェーンに記録されていれば問題ありません。

 

4が「学歴社会の弊害」です。これは少々、定性的な目標ですが、テストの点数や学位ばかりで評価してきた「学歴社会」に対し、しっかりプロセスをみていく別の評価軸を確立していくことで「学習歴社会」を実現しようというものです。

 

▲ スライド4・PoLで解決が期待できる課題

PoLと金融サービス(DeFi)の接続でしっかり勉強した人は「低金利」に

次におもに教育の分野での活用を想定していたPoLを、どう金融サービスに結びつけていこうとしているのかについて説明します。PoLで収集しているデータは現状、弊社で収集した学習データだけですが、ゆくゆくは小・中学校・高校・大学や他のeラーニング事業者など、弊社以外で収集したさまざまな学習データをブロックチェーンに記録していきたいと考えています。

 

そして、「真に正しく」記録された学習データを前提に「ラーニングスコア」を作り、このラーニングスコアを、従来のクレジットスコア(信用スコア)に代わる評価軸とする構想を持っています。これを金融サービスと接続させれば、例えば、「しっかり勉強した人は低い利率で融資を受けることができる」といったサービスが可能になります。このように弊社ではPoLをベースにさまざまな領域でブロックチェーンの技術を活用できるようにするプラットフォームを構想しています。

 

▲ スライド5・ PoLをプラットフォーム構想

 

ここで、教育と直接的な関係はないのですが、ぜひ知っておいていただきたい「DeFi」について説明します。DeFiDecentralized Finance)は「分散型金融」と訳されています。ブロックチェーンを活用することで、既存の金融サービスから特定の管理者を排除し、銀行なしでの送金や証券会社なしでの上場を実現する概念です。

 

そこで、「ラーニングスコア」をDeFiにどう接続していくのかについて説明します。PoLの仕組みを活用し、利用者が学習すると、「PoLペイメントトークン」と「PoLベリファイトークン」という仮想通貨が発行されるようにします。それらをラーニングスコアとしてブロックチェーンに記録しておくことで、例えば、「通常は年利6%のところを、PoLでラーニングスコアを蓄積した利用者なら4%で借りられる」ようになります。これが、教育と金融サービスの接続イメージで、現在、サービスの検証を進めているところです。

 

ブロックチェーンの教育での活用 課題は4

ブロックチェーンを教育分野で活用していくにあたっての今後の課題・懸念として4点を挙げておきます。まず「オラクル問題」、すなわちデジタル化されていない学習行動のブロックチェーンでの取り扱いです。デジタル化されていない情報はブロックチェーンで全く管理できないので、教育データをいかにデジタル化していくかは大きな課題です。

 

2番目は、「学習歴による評価を採用する場面の増加」です。「学歴」が広く浸透しているのは、多くの企業が人材、特に新卒の採用における評価軸として利用しているためです。「学習歴」も同様に、企業の人材採用や、大学の合否判定といった「アウトプット」が出てこなければ浸透は難しいと思っています。

 

3番目は、「学習履歴をブロックチェーンに記録する事業者の増加」です。ブロックチェーンに学習データを記録するサービスが弊社のPoLだけではなかなか社会にインパクトを与えられませんし、記録の価値も出せません。賛同する事業者をどんどん増やしていく必要があります。

 

4番目は、「教育現場の方々との距離」です。私自身、もともとインターネット側の人間ということもあり、教育側への歩み寄りがまだまだ足らないことを非常に強く感じています。今回、せっかくいただいた機会ですので、一緒に取り組めることがあれば、と考えています。

学習評価にトークンを活用したい 教育現場からの相談も

このような課題を一つひとつ解消していくために、弊社ではさまざまな実証実験を実施しています。もちろん、いきなり全ての学習行動をブロックチェーンで管理するのは難しいので、団体・企業・組織の皆様とパートナーシップを組んで一歩一歩進めていくことになると思います。

 

こうした取り組みを進めていく過程で、例えば、小学校の先生から「テスト以外の方法で児童を評価するためにトークンの仕組みを活用したい」というものや、eラーニング事業者から「学習データもブロックチェーンに記録したい」という希望が弊社に寄せられています。

 

さらには「社内にブロックチェーンをわかる人材がいないが提携できるか」、「ブロックチェーンの基本的な仕組みを知りたい」など、さまざまな相談もいただています。弊社としては、より多くの人たちにブロックチェーンの良さを知っていただきたいので、気軽にご連絡いただきたく存じます。

 

▲ スライド6・ブロックチェーンやPoLに関する相談事例

 

なお、以下のサイトでは、ブロックチェーンや学習歴社会のことが詳しく説明されています。ご興味ある方はご一読ください。

教育分野で進むブロックチェーン活用。プロセス評価で学習歴社会を実現する。

 

>> 後半へ続く

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