デジタルアーカイブは可能性が広がる「未来の教科書」 第19回オンラインシンポ「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」レポート・前半

活動報告|レポート

2020.11.6 Fri
デジタルアーカイブは可能性が広がる「未来の教科書」 第19回オンラインシンポ「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」レポート・前半

概要

 超教育協会は2020年9月23日、国立情報学研究所/東京大学/NPO法人連想出版の高野明彦氏を招いて、「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。講演会の前半では高野氏が、日本における書籍、文化・芸術的資料のデジタル化と海外の動向について説明し、デジタルアーカイブの活用が自発的な学びにもたらす可能性を示した。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交えて参加者からの質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
  
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「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」
■日時:2020年9月23日(水)12時~12時55分
■講演:高野明彦氏 国立情報学研究所/東京大学/NPO法人連想出版
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長

 
 高野氏は約40分間の講演において、「法隆寺金堂壁画」のデジタル化の取り組みや、日本国内の貴重な書籍、文化・芸術的資料を検索できる「ジャパンサーチ」、世界中で発信される日本文化に関する画像データを検索できる「Cultural Japan」について紹介。国宝の美術品や絵画などのデジタルアーカイブをデジタル教科書や教材に活用することで、「自発的な学び」につながる可能性について説明した。主な内容は以下のとおり。

  

【高野氏】
 法隆寺は日本最古の木造建築であり、中の壁に描かれた金堂壁画は、第一号国宝に近い価値があります。Google で「金堂壁画」と検索すると写真がたくさん出てきて、切手などで見覚えのある有名な画像も出てきます。実は本物は昭和24年に焼失してしまっており、現在は複製の絵が飾られています。
  
 昭和10年に撮影された写真ガラス原板が現存しており重要文化財に指定されています。最近2年間をかけて丁寧にスキャンされ、デジタル画像として利用できるようになりました。昨年、奈良国立博物館でそれに関する展覧会が開催される際に、「デジタルビューア」を作成しました。
 

▲ スライド1・法隆寺金色壁画のデジタルビューアも見られる

 
 デジタルビューアでは、法隆寺金堂の建物の中で12面の壁面に描かれていた壁画の超高解像度画像を見ることができます。
 

▲ スライド2・博物館内を3Dデジタルビューアで見られる

 
 法隆寺金色壁画を原寸大で記録したガラス原板由来の超高解像度画像を使って、任意の場所をズームして細部を確認できます。大きな壁では300億画素の画像を利用しています。例えば、中央の観音様の手の中に何か書いてあることまで分かります。
 

▲ スライド3・ガラス原板をズームイン表示、「手の中に何か書いてある」まで分かる

 
 このような文化の記録や私たちの日々の記録を遠い未来に届けるためには、その時代に使える先端的なメディア技術を恐れずに使い、記録していく必要があると考えます。法隆寺を建てて壁画が描かれたときは、木と壁が「メディア」となり仏の世界を伝えたいと考えられたのだと思います。そして、昭和10年頃にはコロタイプ印刷の技術が発達したことで、当時の最先端技術を使ってガラス原板で写真を撮って記録しなおされました。その後、現物は火災で失われてしまいましたが、ガラス原板の情報が現代の私たちに届き、このように、デジタルビューアで見られるようになっているのです。

デジタルアーカイブは「未来の教科書」 「教科書から飛び出して」学べる

 私たちは、500年後や1000年後の未来に大切な記録を残すために、デジタル技術を活用していこうと取り組んでいます。そして、デジタルアーカイブの技術を教科書にも応用することを考えています。
 
 私が所属する国立情報学研究所の広報誌では、「可能性を広げる『未来の教科書』」としてデジタルアーカイブを紹介しています。現在の紙の教科書では、「学びの範囲が限定されてしまう」気がしてしまいます。新しいスタイルの教科書を追求していけば、「教科書から飛び出して」学びの範囲を広げていけるのではないかと考えています。教科書をデジタル化するメリットとして、保存性が高まり、検索できることに加えて、学習者が求めている絶妙なタイミングで情報と出会えることもあります。
 
 先に説明した法隆寺金堂壁画のデジタルアーカイブは当初、奈良国立博物館での「展覧会の会場で見る」ためのサービスでした。しかし、その後、新型コロナウイルス感染症の拡大で東京国立博物館での法隆寺展が中止になり、「何とか公開する方法は」ということになり、特別にWeb公開が実現しました。デジタルアーカイブだからこそ、求められるタイミングで情報を公開できたのです。

国内の貴重な書籍、文化・芸術的資料を 検索できる「JAPAN SEARCH」

 次に「JAPAN SEARCH(ジャパンサーチ)」をご紹介します。1年半前にベータ版、本年8月25日に正式版が公開になりました。このサービスでは、国立国会図書館、国立公文書館、国立美術館、全国の資料館などが所蔵する資料や所蔵品など、2128万件の情報が検索できます。自由なライセンスで利用できる画像イメージも82万件程、動画もあります。
 
 ジャパンサーチは、内閣府知財戦略本部の「デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会」が運営しています。私は検討委員会の座長として、収録方針やライセンスの管理方法などを検討しています。今後は国内のさまざまな団体が参画できるようにしていこうと考えています。
 
 世界でもジャパンサーチと同様に、国の重要なデータをデジタルで整理・保管する活動が進んでいます。ヨーロッパでは10年前から「Europeana(ヨーロピアーナ)」というプロジェクトが進行中で、5000万件のデータが集まっています。アメリカの「DPLA(ディーピーエルエー Digital Public Library of America)」では4800万件のデータが蓄積され、その他にも、オーストラリアでは国立図書館が「Trove(トローブ)」というサービスを運営し、ニュージーランドでも「Digital NZ(デジタルニュージー)」が整備されています。このようにデジタルアーカイブは、国を挙げて整備していく時代になりました。

海外にある日本文化に関する貴重な「お宝」を 検索できる「Cultural Japan」

 デジタルアーカイブを活用したこれからの活動について考えたとき、各国や各地域が独立したサービスを立ち上げているので相互検索ができないことは課題です。また、そもそもそれらのデジタルアーカイブ構築に参加してない美術館や博物館も多くあります。
 
 この問題の解消のため、私たちが作ったのが「Cultural Japan(Cultural Japan)」です。世界中で発信されている「日本文化に関する情報」100万件を検索できるサービスで、さまざまなデジタル素材の発見と活用のプラットフォームといえます。「日本文化に関する文化財情報」を世界から集めるという視点で取り組んでいます。国のプロジェクトでも国立情報学研究所のプロジェクトでもなく、6人の仲間が個人として集まってプライベートに始めたサービスです。
 

▲ スライド4・「Cultural Japan」のサービスサイト

 
 このサービスでは、ジャパンサーチ、ヨーロピアーナ、DPLA、さらには画像を自由に流通させるための国際組織「トリプルアイエフ(iiif)」ゆかりのもの、その他にも大英博物館やメトロポリタン美術館、MoMA(モマ)など、39団体と連携してデータを検索できます。ジャパンサーチ同様に、集めたものを使いやすい形で発信する仕組みとし、組織や団体を超えて、まるでひとつのデータベースであるかのように検索できることが大きな特長です。大英博物館と東京国立博物館のものを並べて見ることが簡単にできる訳です。
 
 トップページに並んだ検索例から、例えば「根付」をクリックすると、ストックホルム東洋美術館、メトロポリタン美術館といった世界中の美術館博物館から「根付」のデータが集まってきます。実際に検索してみると気づかれると思いますが、各美術館や博物館のデータのサムネイルが遅れて表示されます。これはそれぞれのオリジナルのサーバからユーザーのブラウザ画面に、直接データが取り寄せられて表示されているためです。Google の画像検索のように画像のキャッシュをしていません。処理能力の高いサーバーを用意することができないこともあり、毎回、オリジナルを読み込む方法で表示しています。
 

▲ スライド5・「Cultural Japan」での「根付」の検索結果表示例

 
 各サムネイルをクリックすると、アイテムについての記述が表示されます。タイトルを機械翻訳で日本語表示するなどして、統一感がある形にしています。
 

▲ スライド6・サムネイル画像をクリックするとアイテムの記述が表示される

 
 例えば「メトロポリタン美術館が40万件の高解像度画像をフリーで公開しました」とニュースが出ても、美術館のサイトは英語のみの場合が多く、一度はアクセスして見ても「日本のものも結構あるね」といった感想を持つ程度で終わってしまうでしょう。実際に所蔵品や公開された絵画などについて詳細を調べたくてもなかなかうまくできないというのが実情です。そこで、Cultural Japanのようなサービスがあることで、知りたい情報にアクセスできるだけではなく、新たな発見や気づきがあることも多いのではないかと考えました。

自発的な学びにつながる機能 自分の美術館を作る「セルフミュージアム」

 デジタルアーカイブの活用という視点では、「Cultural Japan」では検索結果で表示されたデータを使って、自分だけのための美術館を作ることもできます。建物が3D表示されて、作品を所蔵している美術館や博物館から直接届いた画像データを壁にかけて、美術館の中を歩くように見ることができます。
 
 このセルフミュージアムはなかなか面白いということで、海外からも多くの利用者がアクセスしてくれています。

 

▲ スライド7・検索結果一覧の画像で、「セルフミュージアム」を作れる

 
 今後、トップページにある活用例を充実させていきます。自発的な学びにも活用していただければと思います。セルフミュージアム以外にも、自発的な学びに結びつくようなユニークなサービスを立ち上げようと取り組んでいます。
 
>> 後半へ続く

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