Withコロナ、Postコロナ時代に「教科書」は どう変わっていくのか 第18回オンラインシンポ「光村図書に聞く~ポストコロナ教育時代のデジタル教科書が拓く新たな学びの世界」レポート・前半

活動報告|レポート

2020.11.4 Wed
Withコロナ、Postコロナ時代に「教科書」は どう変わっていくのか 第18回オンラインシンポ「光村図書に聞く~ポストコロナ教育時代のデジタル教科書が拓く新たな学びの世界」レポート・前半

概要

超教育協会は2020年9月17日、光村図書出版株式会社 専務取締役/一般社団法人教科書協会 デジタル教科書政策特別委員会 座長の黒川 弘一氏と光村図書出版株式会社 執行役員 ICT事業本部 副本部長の森下耕治氏を招いて、「光村図書に聞く~ポストコロナ教育時代のデジタル教科書 が拓く新たな学びの世界」と題したオンラインシンポジウムを開催した。講演会の前半では、黒川氏がコロナ禍を踏まえたデジタル教科書の将来のあり方について説明し、森下氏がデジタル教科書の機能を具体的に紹介した。後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
 
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■日時:2020年9月17日(木) 12時~12時55分
■講演:黒川 弘一氏 光村図書出版株式会社 専務取締役
一般社団法人教科書協会 デジタル教科書政策特別委員会 座長
森下 耕治氏 光村図書出版株式会社 執行役員 ICT事業本部 副本部長
■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長
 
黒川氏(写真1)は、約40分間の講演において、まず「デジタル教科書」の歩みと現状、続いて「ウィズ&ポストコロナ」の教育現場におけるデジタル教科書・教材のあり方について説明した。その後、森下氏による学習者用デジタル教科書の実演を挟んで、今後10年間におけるデジタル教科書を取り巻く教育市場の動きを展望した。主な講演内容は以下のとおり。

教科書が子どもにとって 「自分のもの」になるように作られたデジタル教科書

▲ 写真1・光村図書出版株式会社 専務取締役の黒川弘一氏

 
【黒川氏】
教育現場で使う教科書は今、大きな変化の時を迎えています。2019年4月1日に成立した「制度化されたデジタル教科書」は、内容が「教科書と同一」であること、それにより「検定が無い」こと、また「紙の教科書との併用」を前提としていることが特徴です。問題は、教科書にもかかわらず「有償」ということで、日本は教科書が無償制ですので、ここが紙の教科書との大きな違いです。
 
「学習者用デジタル教科書」(以下、デジタル教科書)は、内容的には「紙の教科書」と同一ですが、制度的には「教科用図書代替教材」という位置づけです。その多くは、動画・朗読・ワーク・QRコードコンテンツなどを含む「学習者用デジタル教材」と連携し、一体活用されることを想定して作られています。さらに、すでに小中学校で広く使われている「指導者用デジタル教科書」と連携すれば、より効果的に使うことができます。
 

▲ スライド1・デジタル教科書の位置づけ

 
デジタル教科書の発行比率は、今年4月からスタートした小学校用で94%、来年度から使用される中学校用で95%(予定)と、ほぼすべての教科で発行されています。しかし、有償である上に、新型コロナウイルス感染症の問題が重なり、ほとんど現場には届いていません。同時にGIGAスクール構想もスタートしましたので、環境整備が優先されており、正直まだまだ、というところです。
 
デジタル教科書の目的は主に2つです。1つは、従来の紙の教科書のような「知識や技能の習得」にとどまらない「新たな学びの実現」です。「1人1台端末」と「デジタル教科書」の組み合わせで、新学習指導要領のスローガンである「主体的・対話的で深い学び」という視点からの授業改善を行い、教科書が子どもにとって「自分のもの」になっていくことを重視しています。
 

▲ スライド2・学習者用デジタル教科書の2つの目的

 
もう1つは、「誰もが学びやすい教科書」であることです。紙の教科書だけでは学習が難しい特別支援の児童・生徒や、増加傾向にある外国人の児童・生徒を、誰ひとりとして教育の仕組みから取りこぼさないことは非常に重要な課題で、「学習者用」のデジタル教科書は、特にこの2番目の点を重視して作られています。

デジタル教科書で 授業の風景も変わっていく

ある小学校では、国語の授業で各児童がマーカー機能等を使って教材を読み込み、その考えを他の児童と対話的にやり取りしながら、自分の考えを深めています。タブレット端末の画面なら視覚的に分かりやすいので意見交換がスムーズになります。
 

▲ スライド3・自分の考えを書き込んだタブレットで意見交換を行う

 
また、自分で書き込んだ内容を皆に発表するのにも活用されています。
 

▲ スライド4・自分の考えを、タブレットの紙面を示しながら発表する

 
デジタル教科書は、特別支援に関するさまざまなカスタマイズ機能を備えていることも紙の教科書にない特徴です。「紙面の拡大・縮小」や「文字色・背景色の変更」をはじめ、外国人の子どもにも有効な「ふりがな表示」、弱視の子ども向けにフォントサイズ等を変更できる「リフロー表示」、機械音声を使った「音声読み上げ」などを設定することができます。
 

▲ スライド5・カスタマイズ機能が豊富なデジタル教科書

デジタル教科書とコミュニケーションツールで 「新たな学びの様式」をスタートさせる

次に、コロナ禍におけるデジタル教科書の動きについて説明します。本年4月から5月にかけて、国内はもとより海外の日本人学校や補習校でもロックダウンに伴う休校措置が実施され、当社を含む多くの発行社には教科書のデジタルデータを求める問い合わせが殺到しました。各社では、著作権者や関係団体にもご協力いただいて特別に許諾を得るなど5月の連休も総出で対応して、さまざまな学習用コンテンツをホームページから発信できるようにしました。
 
文部科学省が4月16日時点で集計した、臨時休校中の家庭学習に関する調査では、「デジタル教科書やデジタル教材を活用」して家庭学習を実施した学校が30%近くに達しています。同時期の新聞報道で「オンライン指導を実施した」学校が5%とされていることと比べても、デジタル教科書やデジタル教材への注目の高さがうかがえます。
 
コロナ禍が学校現場にもたらした影響を考えると、まず、学びを止めないためにも、オンライン授業や家庭学習において、「1人1台端末」と「ネットワーク整備」に加え、「デジタル教科書/デジタル教材」が求められていることが明確になったと言えます。幸い、今年度からのデジタル教科書はすべてWeb技術で制作されていますので、基本的にインターネットとブラウザだけで活用することができます。
 
同時に、分散登校による少人数学習や個別学習などにより、従来型の対面授業と、個別学習や家庭学習との組み合わせの重要性が認識されたことです。これは重要なポイントで、単に学びを止めないだけでなく、「主体的・対話的で深い学び」という「新しい学習様式」への移行と捉えることができます。言い換えると、「個別最適化された学び」へ取り組むチャンスです。チェンジの時はチャンスであり、チャレンジしなければならない、そういった段階に来ているのだと思います。
 

▲ スライド6・ポストコロナで加速する教育コンテンツのデジタル化

 
教育コンテンツ一般についても、今後はデジタル化が加速していきます。その理由として、まず「いつでも、どこでも」使えることが挙げられます。学校でも家でも使うためにはクラウドで配信・活用でき、個別学習や家庭学習に対応した教材作りをしなければなりません。将来的にはここに、自己評価機能等の開発が加わってくるでしょう。
 
GIGAスクール構想で導入される端末では、さまざまな「コミュニケーションツール」を利用できます。従来、「授業支援ソフト」との連携を想定していた部分が、デジタル教科書とコミュニケーションツールの連携が標準的になることで、「新たな学びの様式」をスタートできると考えています。

他の教材との連携など 豊富な機能を備えたデジタル教科書

黒川氏に続いては、光村図書 執行役員ICT事業本部副本部長の森下耕治氏(写真2)が、デジタル教科書について具体的に紹介した。
 

▲ 写真2・光村図書出版株式会社 執行役員ICT事業本部副本部長の森下耕治氏

 
【森下氏】
デジタル教科書では、紙の教科書と同様のページめくりに加え、横方向にスクロールすることもできます。紙の教科書ではページをめくらなければならない、奇数ページから偶数ページへのつながりを、一つの画面で見ることができます。
 

▲ スライド7・ページめくりが不要なデジタル教科書の画面

 
画面の左下にはボタンがあり、「きく(聴く)」ボタンで文章の朗読を再生、「おおきく(大きく)」ボタンでは画面を拡大表示できます。「はる(貼る)」ボタンは、指定した位置にカメラやファイルから写真を貼りつける機能です。
 
「ほんぶん(本文)」ボタンは特別支援のためのリフロー表示機能で、本文の文字サイズや行間の拡大・縮小、振り仮名の表示・非表示、画面の白黒反転や文字色などを変更できます。「どうぐ(道具)」ボタンには、画面に付箋を貼り付けて文字を書き込める「ふせん(付箋)」や、画面にさまざまなマークを押せる「スタンプ」などの機能があります。「せん(線)」ボタンは、弊社が技術的に頑張った機能で、文字の上や横にずれることなくマーカーや線を引くことができ、色分けも簡単に行えます。
 
また、「まなぶ(学ぶ)」ボタンで、多様なデジタル教材と連携できます。学習のねらいにそったワークやアプリ、写真や動画などの資料を利用することができます。
 

▲ スライド8・デジタル教科書からリンクする多様なデジタル教材

 
次に、英語のデジタル教科書(スライド9)を紹介します。英語のポイントは「音声」です。特に小学校の教科書は、紙面に本文がなく、例えば「会話を聞いて、ニックが『できる』と言っているスポーツに○を付けましょう」というように、音声を聞いて設問に答えるスタイルの教科書になっています。校庭の様子を描いた風景の中にはいろいろな単語が表示されていますが、これらも全て音声で再生することができます。このように、教科書上に音や映像が盛り込まれていることが、英語のデジタル教科書の特徴です。
 

▲ スライド9・英語教科書の一画面。単語は全て音声再生できる

「授業時数の半分でしか使えない」「無償化は?」 デジタル教科書が抱える課題

森下氏のデジタル教科書の紹介の後、再び黒川氏がデジタル教科書の今後について説明した。
 
【黒川氏】
文部科学省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」では、いくつかの課題が示されています(スライド10)。
 
まずは、デジタル教科書が現在、「各教科の授業時数の2分の1までしか使えない」という問題です。その背景には子どもの目への悪影響など諸事情があり、この基準をどう考えるかということが課題です。
 
より重要な課題は、デジタル教科書を紙の教科書と併用が前提の「教科用図書代替教材」から、新たに法令上の「教科用図書」に位置付けるかどうかです。これは、教科書検定や採択のあり方、供給方法まで絡む、現行の教科書制度の見直しの必要性を問うものです。
 
そして最大の課題は、「無償化」です。有償のままでは急速な普及は見込めないため、もはや無償化を考える段階になっています。前回の検討会議のまとめ(2017年)では、「中長期的には普及・定着の状況も勘案しながら、選択性を含めた制度面の検討と併せて、紙の教科書とデジタル教科書のいずれか一方、又はその双方を無償措置の対象とすることを検討することが望ましい」と、結論を今回の宿題にしていました。現在のように「併用」のままとするのか、紙かデジタルかを「選択」するのか、それともデジタルへ「移行」していくのか、現時点では誰も明確な答えを持っていません。どれが適切か、皆さんで考えていただくことになるでしょう。
 

▲ スライド10・教科書制度の課題

 
文科省が示す工程表では、デジタル教科書の本格導入は、次の改訂教科書がスタートする2024年(令和6年)に予定されています。現在、「方向性の提示」と「教育データの標準化」の検討会議が行われるのと並行して、現場への普及拡大と実証研究を進められていくことになりますが、令和6年の「デジタル教科書の本格導入」をどう捉えて実施するのかがポイントになります。
 
すでに各発行者は新版教科書の編集がスタートしており、仮に令和6年度に、「教科用図書としての位置付け」を実施するなら、少なくとも来年(令和3年)度には「教科書制度の改訂」に係る法改正が実施されないと、翌年(令和4年)の次期検定に間に合いません。そういう緊迫した流れのため、今年から来年は非常に重要な段階にあると言えます。
 
また、令和7年(2025年)には、「新学習指導要領の改訂」が示されます。そのため、前年の令和6年にどういう教科書・教材ができているかが非常に重要で、それを踏まえて改めて教科書制度改訂が検討される可能性もあります。次の学習指導要領が適用される予定の令和11年(2029年)度にどこまでたどり着けるかも見据えながら、一つ一つ進めていかなければなりません。
 
こうしたことを踏まえて、教科書・教材の編集にあたって考慮すべきポイントとして3点を挙げたいと思います。まず、「デジタル化を前提とした教科書・教材の編集」です。単なる紙の教科書のデジタル化ではなく、デジタル化でより充実できる学びを教材化していくことが重要です。
 
次に、「多様な学習形態に配慮した指導計画を組む」ことです。これまでの多くの教科書は「対面による一斉学習」を中心に置いて作られてきました。今後は、より個別・協働学習を重視した教科書・教材作りが求められます。
 
そして最後に、「教科書だけで完結せず連携を想定していくこと」です。教科書に準拠した各種コンテンツの制作に重点を置き、音声・写真・動画教材を前提とした教材制作やQRコードの活用など、デジタル教材との関係を整理することが重要になってきます。

クラウド活用が前提のGIGAスクール構想では デジタル教科書と連携する教材の充実が重要

デジタル教科書の今後の在り方について考えると、まず、GIGAスクール構想により、「パブリッククラウドによる配信」が前提となります。次に、「連携するデジタル教材の充実」が非常に重要で、単なるドリルなどにはとどまらないものを作っていかなければなりません。さらに、「多様なデジタルコンテンツとの連携」を強化する必要もあります。デジタル教科書の今後を2つのフェーズに分けるとすると、このあたりまでが「第1フェーズ」として令和5年くらいまでに対応すべき課題です。
 
そして、現在進められている「教育データの標準化」や、さらにその先の「学習ログの収集・解析・活用」は、実証や検証を踏まえつつ、令和10年くらいまでの「第2フェーズ」で進めていくべき課題と考えます。
 
「2020年代の教育システム」を考えると、「教育クラウド」を前提に、教科書や教材など学校を中心とする「公共市場」と、通信型教育サービスなど家庭・塾向けの教育サービスを中心とする「一般市場(コンシューマー市場)」が、デジタル化によってどんどん近づいていく可能性があります。
 

▲ スライド11・2020年代の教育システム

 
デジタル教科書の普及促進に向けた課題をまとめると、まず、端末やネットワークなどの「環境整備」をしっかり持続・継続できるのかどうか。そのためには、新しい学習様式を「自治体・学校・家庭へ周知」して理解・定着を図り、国民のコンセンサスを得ることが重要です。そして、それを支えるのが「予算(公的支援)」です。これには、教科書制度(無償給与等)の再検討に加え、対象人数は少ないものの、非常に重要な課題である特別支援へのさらなる対応が必要だと思います。
 

▲ スライド12・デジタル教科書の普及促進に向けた課題

 
最後に、ポストコロナ教育時代に向けてのお願いです。まず、デジタル教科書・教材で新しい学習様式をスタートさせましょう。公教育における大きな変容の一歩として、授業や学習でぜひ使ってみてください。それから、学習ログの活用は非常に重要ですが、慌てず、着実に研究・検証を進めていきましょう。
 
>> 後半へ続く

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