AI教材で「勉強って本当は楽しい」がわかる
第15回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2020.10.16 Fri
AI教材で「勉強って本当は楽しい」がわかる<br>第15回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2020年8月20日、atama plus株式会社代表取締役 稲田大輔氏を招いて、「一斉休校で変化した塾・予備校業界の役割 ~atama plusの今後の展望~」と題したオンラインシンポを開催した。

 

シンポジウムの前半では、稲田氏がAI教材「atama+ (アタマプラス)」の概要と塾・予備校での活用、それらを踏まえて見えてきた新たな教育への取り組みを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「一斉休校で変化した塾・予備校業界の役割
~atama plusの今後の展望~」
■日時:2020年8月20日(木)12時~12時55分
■講演:稲田大輔氏
atama plus株式会社 代表取締役
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半は、参加者から寄せられた質問がファシリテーターの石戸より紹介され、稲田氏が回答する質疑応答が行われた。

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

AIを教育に活用するには 『×人』が非常に重要

石戸:「早速ですが、質問です。他のAI教材と御社の教材の違いや特長を教えていただけますでしょうか」

 

稲田氏:「我々のプロダクトの特長は『アダプティブラーニング(Adaptive Learning)』、つまり、個別最適化学習で、一人ひとりに合わせた教材を自動的に作成することです。世界にはたくさんのAI教材がありますが、アダプティブラーニングには2つのパターンがあると考えています。1つはあらかじめ人間が定めたシナリオに従ってレコメンドするもの、『Aの問題を正解した人は次にBに』というもの、もう一つが、正誤データだけでなく、目標や学習履歴、忘却度など生徒のいろんなデータに基づいて、次に取組むべき教材をレコメンドするパターンです。当社のプロダクトのやり方は後者で、これほど多くのデータを分析してレコメンドを作る仕組みは、世界でも数社しかないと思います」

 

石戸:「国語の記述式問題の回答にもAIが活用できるという話を聞きますが、対応しようと思えばできるという理解で正しいですか」

 

稲田氏:「そうですね。アルゴリズムはだいぶ異なることになると思いますが、いいエンジニアがいればできると考えています。記述式問題かどうかに限らず、教材の科目はどんどん広げていきたいです」

 

石戸:「現在は塾へ導入されていますが、学校への導入は考えていますか?」

 

稲田氏:「atama+の学校への提供は予定していません。日本では平均して約半数の子どもたちが塾にも通っており、教育における塾の役割は、大きいと考えています。このため、今は塾業界の皆様にご満足いただくプロダクトを開発して支援していくことが重要であると考えています。ミッションとしては、日本及び世界の教育を変えて新しい社会を作ることを目指しているので、この先いろんな領域に広げていこうと思っています」

 

石戸:「ターゲットの話に関連して、『一定の基礎学力がある生徒の応用学力の向上を狙ったほうが、AIとは親和性が高いのではと思いますが、基礎学力にフォーカスした理由はなんですか』との質問です」

 

稲田氏:「我々は教育改革をしたいのではなく、日本全体の教育を変えることで新しい社会を作りたいのです。一部のトップ層の教育を変えるのではなく、皆の役に立てる教育を作っていきたい。基礎学力は全員に関連するので、応用学力よりまず基礎学力と考えました」

 

石戸:「すべての子どもたちの学力向上を目指すなら、(塾よりも)学校教育がポイントだと思います。今の学校教育のどういう点を変えていくと、学校で『基礎学力』『社会でいきる力』両方を醸成できるとお考えですか」

 

稲田氏:「私は学校領域の専門家ではないですが、学校も含めて日本の教育が変わっていくためには、いろんなことをやらなければならないと思います。学校だけでなく政府や制度も変わらなければいけない。我々だけでできるのではなく、皆で改革を目指す必要があると考えます。

 

塾は民間企業ですので学校よりも柔軟性があると考えています。だからその中で『AIで学習すれば効率的に学力を上げられる』という新しい常識をまず作りたい。これが我々にできる改革の第一歩だと思っています」

 

石戸:「先生の役割が変わるという話がありましたが、大手塾がこれまで培ってきた独自の指導方法に変化は起こりますか。各塾が今後AI教材を取り入れてブランドを高めていくためには、どんな変化をすればよいのでしょうか」

 

稲田氏:「目指しているのは『AI×人のベストミックス』で、AIの領域はatama plusが作りますが、人の部分がとても大事です。この部分は塾が担当することになります。
これまで塾が培ってきたことはむしろ、今後一番大事な領域になっていくのではないでしょうか。ただ、時代は『AIをどう活用するか』に大きく変化しますので、これまでと同じやり方では通用せず、新たな教育を作るとしてこれまでのノウハウを生かす必要があると思います。それが差別化になると思います」

 

石戸:「AI教材を使う際に気を付けたほうがいい点はありますか。例えば、これまではつまずきの原因を自分で試行錯誤して、学び方を学んできた側面がありますが、AIがすべてお膳立てしてくれると、この力が落ちる懸念もあります。より効果が高まる使い方もあれば教えてください」

 

稲田氏:「先ほども申しあげましたが、「×人」が非常に重要です。非常にうまくお使いいただいている塾で共通しているのは、講師の方々がatama+を使いこなし、『新しい学び方』を理解したうえで、人の動きを設計していることです。
丸投げできて楽、AIは儲かりそうだし、みたいなスタンスで使うと絶対にうまくいきません。AIに任せきりにはしない方がいいと思います」

 

石戸:「基礎学力 と 社会でいきる力、の『社会でいきる力』について。この部分のAI教材を開発する予定もあるのでしょうか」

 

稲田氏:「社会でいきる力は、仲間と働く力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、いろんな力があって全部必要になってくると思います。必ず取り組んではいきますが、着手は2~3年先になると思います。

 

まずは子どもたちが社会に出ることにワクワクして、その上で社会で生きる力を習得するのがステップだと考えています。中学生・高校生と話すと、みんな大学には行きたい、でも社会人にはなりたくないと言う生徒が多く、悲しい気持ちになります。『社会人は、お給料をもらうために嫌なことをやらなければいけない』という認識のままでは、『社会でいきる力』を身につけようとも思わないのではないでしょうか。

 

実際には、社会に出て楽しく自分の人生を生きている大人は多いと感じるので、そういう大人と子供が触れ合う機会が増やすことも考えたいです」

 

石戸:「最後になります。日本の教育はこれからどうしていけばよいのか、稲田さんの視点でお聞かせいただけますか」

 

稲田氏:「冒頭で、教育後進国になりつつあるのではとお話ししましたが、日本は、EdTechが育ちやすい環境ですから、憂うことは全くありません。この先数年で、特にコロナの影響を受けてデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するでしょう。このタイミングで日本も変わることができれば心配ないと思います。我々も頑張って、塾業界が大きく変われば、それに伴って学校業界も変わってくるのではないかと期待しています」

 

最後に石戸の「最後はすごく明るくなるお話でよかったです。日本の教育が大きく変わるエンジンに、御社がなるのだろうと期待しています。新たなサービスも楽しみしています」という締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る