概要
超教育協会は2020年8月20日、atama plus株式会社代表取締役 稲田大輔氏を招いて、「一斉休校で変化した塾・予備校業界の役割 ~atama plusの今後の展望~」と題したオンラインシンポを開催した。
シンポジウムの前半では、稲田氏がAI教材「atama+ (アタマプラス)」の概要と塾・予備校での活用、それらを踏まえて見えてきた新たな教育への取り組みを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「一斉休校で変化した塾・予備校業界の役割 ~atama plusの今後の展望~」
■日時:2020年8月20日(木)12時~12時55分
■講演:稲田大輔氏
atama plus株式会社 代表取締役
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
稲田氏は約30分間の講演において、AI教材「atama+」の機能と塾・予備校での活用、導入効果を紹介し、新たな教育スタイルの可能性を示した。主な内容は以下のとおり。
atama plusは、生徒一人ひとりの理解度にあわせて学習を最適化するAI教材「atama+」を、開発・提供している会社です。「教育に、人に、社会に、次の可能性を。」 というミッションのもと、AIで生徒の「基礎学力」の習得にかかる時間をできるだけ短くし、「社会でいきる力」を養う時間を増やすことを目指しています。
さて、過去から現在まで、日本において教育がどのように変化してきたのか。まずは、そこから考えてみましょう。150年前の社会と今の社会を比較したスライド1を見てください。いずれも、その時代の最先端を行く企業です。
左側は富岡製糸場です。ここで働く女性たちは当時、マニュアルに従ってミスなく糸を作り続けることで活躍していました。右側は現在の最先端の会社、GoogleやAmazonなどGAFAといわれるような会社のイメージ画像です。ここで活躍している人は、新しいアイデアで仲間を集め、新しいプロジェクトを世に生み出しています。
その時代の社会で活躍していく人を育て輩出するのが「教育の役割」だと考えると、社会が激変したこの150年間で教育はどう変わったのか。授業の様子を見てみましょう(スライド2)。右側が現在の中学校の写真ですが、先生が黒板の前で生徒に向かって授業をする「お馴染みのスタイル」は変わっていません。
150年間で、これだけ社会が変わっているにもかかわらず、日本は同じ教育を続けています。「これからの社会で活躍する人を増やすために、教育も変わっていくべきでは」と、疑問を持ったことで生まれたのが、atama plusです。
AIで基礎学力習得にかかる時間を短くし 創出した時間で「社会でいきる力」を習得
私は、前職の三井物産にて、ブラジルでの教育事業立ち上げを行っていました。皆様にとってブラジルの教育レベルはどのようにイメージされるでしょうか?例えば、全世界で15歳を対象にした学力測定テスト「PISA」のランキングを見ると、日本をはじめアジア諸国は常に上位である一方で、ブラジルは最下位に近いレベルにおり、日本の方がブラジルよりも進んでいると想像される方も多いのではないでしょうか。
しかしブラジル郊外の裕福ではない地域にある公立中学校を視察して、驚きました。
教室の中に黒板や白板がなく、みんなパソコンやタブレットに向かっていました。席の配置も日本の教室とは全く違い、丸テーブルが並べてある形で、生徒たちはここに集まってグループディスカッションをすることもあります。そのとき先生は、教えるのではなくファシリテーションをしていました。PISAでランキングが低いと言われる国でも、このようにテクノロジーを活用した新しい教育は既に始まっていたのです。ブラジル以外の国の教育も視察しましたが、同様のスタイルの学校が多くありました(スライド3)。日本は、教育先進国だと思っていたのに、テクノロジーの活用やこれからの社会で必要な力を身につける教育という観点では、「後進国になってしまうのではないか」と危機感を持ちました。
それでは、今の社会で活躍する人材を育成するにはどのような力が必要とされるのでしょうか。大きくは2つの力があると考えています。まずは、英語、数学、国語といった「基礎学力」。もう一つは、「社会でいきる力」です。所謂受験では問われない力で、例えば仲間と一緒に働く力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力などです。
社会で活躍するためには両方の力が必要ですが、日本の教育はほぼ100%の時間を基礎学力の習得だけに費やしているのが現状です。そこでatama plusでは、テクノロジー、AIの力で基礎学力習得にかかる時間を短くし、新たに創出された時間で「社会でいきる力」を習得してもらうことを目指しています。
現在は、「基礎学力」の習得にかかる時間を短くすることに注力して取り組んでおり、そのためにAI教材「atama+」を提供しています。
一人ひとりの学習をパーソナライズする AI教材「atama+」
当社のAI教材「atama+」は、学習をパーソナライズし、一人ひとりに対して得意なところ、苦手なところ、伸びるところ、つまずくところ、集中するところ、忘れるところなどをAIで分析します。それをもとに各人に「自分専用レッスン」を自動的に作ります。
例えば、高校1年生の「数Ⅰ」で「正弦定理」という単元があります。ここでつまずく生徒は「どう学習したら良いのか」、あるいは、どう教えたらいいでしょうか。」従来の学習法では、正弦定理の説明を読み、例題を理解し、演習を繰り返す方法で学習していました。しかし、そもそも「サイン(sinθ)」の意味が分からない」生徒は、ずっと分からないままになってしまいます。
「atama+」では、ひたすら繰り返し学習するのではなく、つまずきの原因を特定し、理解度に合わせて適切な順番で、必要な教材で、必要な分だけ学習します。
具体的には、まず生徒に数問の問題を問いてもらい、「生徒の目標に対し、関連する単元のどこでつまずいていているか」をAIが診断します。その診断結果を踏まえて、生徒一人ひとりの理解度に合わせた「自分専用カリキュラム」が提案されます。ここで提案される教材は、生徒によって出題する単元も、設問の難易度も全て異なります。
「正弦定理」の例でいえば、生徒の理解度をAIが診断した上で、生徒に、中学範囲の「三平方の定理」や数Aの「三角形の外心」を学習しようといったレコメンドをします。そして、その生徒が「三平方の定理」や「三角形の外心」を理解するために必要な量・難易度の教材を、自動で提示します。演習問題や講義動画を通じて、生徒が「三平方の定理」や「三角形の外心」を理解できたところで、目標としていた「正弦定理」に進むといった流れで学習をすすめます。
このように、atama+では、一人ひとりの理解度に合わせて学ぶべき単元を変え、教材の中身も変えて、分量や難易度もすべてパーソナライズしています。作成された「自分専用カリキュラム」も、一度作ったら終わりではなく、生徒が問題を1問でも解いたらデータを更新し、自分専用のカリキュラムを作り替えるサイクルをずっと回していきます。
atama+は全国の塾・予備校を通して中高生に提供しているAI教材で、塾・予備校のニーズが高い科目から順次開発しており、現在は中学生向けには数学、英語、理科、高校生向けには数学、英語、物理、化学を提供しています。中学生向けの社会や高校生向けの生物なども作成中で、今後、科目を増やしていく予定です。修了時の基礎学力の習得レベルは、中学生なら公立高校の入試で8割程度は正解できるレベル。高校生なら旧センター試験、今後は「共通テスト」と名前が変わりますが、その8割相当を正解できる学力が身につくことを想定して設計しています。
ある学習塾で「atama+」を使ってもらい、利用した生徒にアンケートを実施しました。「時間はどのように感じましたか?」との問いには、「あっという間に感じた」という声が多くあり、3日間連続で使った生徒からは「3日間ではなく、もっとやりたい、このやり方がすごく好き」といった声もありました。
実際、「atama+」を利用中の教室は、しーんとしていてみんな黙々と勉強しています。子ども向けプロダクトには、ゲーミフィケーションと呼ばれる、子どものやる気を引き出すためにゲームの要素を取り入れることが多いのですが、「atama+ではそういった仕掛けを一切していません。シンプルに、問題が出るだけ、動画が出るだけです。しかし、生徒は集中して勉強に取り組んでいます。
本来、勉強は楽しいもので、分からないことが分かるようになる喜びは、最高のエンターテイメントだと、我々は思っています。生徒たちも「自分の力でできた」という達成感を感じる体験を積む時間であったから、あっという間に感じたという声があがるのではないでしょうか。
「atama+」を活用し 短期間で劇的に学力が向上
「atama+」を使うと、短い時間で劇的に学力が上がるとの調査結果も出ています。ある学習塾で高校3年生を対象に、冬期講習中の2週間「atama+」の数学を使ってもらい、センター試験模擬試験と本番のセンター試験で数ⅠAが「どれぐらい点が上がったか」を分析しました。その結果、全員の平均の伸び率は約1.5倍で、全員が見事、第一志望の大学に合格したという実績もあります。
「atama+」は、従来の学習方法を変えているだけで、特別なことはやっていません。従来の学習方法である「パターン学習」が教科書の順番どおりに学習していくのに対し、「atama+」は順番を変えて、つまずきの根本の単元から学習していきます。「パターン学習」はテストに出るパターンをテスト直前に丸暗記するやり方ですが、「atama+」は基本概念を習得します。また、従来の学習方法は理解が不十分でも授業を履修してどんどん先に進みますが、「atama+」では完全に理解してから次に進みます。
医療の世界に例えるならば、従来の学習方法は「痛み止めを処方し続けている」治療法、「atama+」は「生活習慣から改善していく」イメージです。勉強の仕方をガラリと変えるので、短期間でも成績が上がると考えています。
「AI×人」のベストミックスが 新しい教育のかたち
我々はAIの会社ではありますが、AIだけで新しい教育は作れないと思っています。「AI×人のベストミックス」が、新しい教育のかたちになると考えています。
例えば、先生が1人で生徒が10人いる教室をイメージしてください。10人は学年も勉強したい教科もバラバラ、得意、不得意もみんな違います。そこに、「atama+」を活用すると、全員が同じ授業を受けるのではなく、一人ひとりにAIの先生がついて、理解度にあわせた学習をすすめることができます。
さらに、教室には必ず人間の先生もついて、生徒と一緒に目標を決めて、その目標に伴走しながら褒めたり、励ましたり、学習の仕方を指導するといった「コーチング」をします。ただし1人で大人数のコーチングをするのは難しいので、講師向けアプリ「atama+ COACH」を提供し、生徒の学習状況を可視化することで、人間の先生のコーチングをサポートします。
民間企業である塾は、教育スタイルの変化が学校よりも早く、1人の講師が一斉に大人数の生徒に教えるスタイルは、映像授業や個別授業に変化しています。「atama+」は全国の大手塾、トップ100といわれる中の3割以上の塾に導入いただいています。冒頭のブラジルの教室のように、黒板や白板がない代わりにみんなタブレットで学習していて、生徒の横にいるのは講師です。タブレットで生徒の状況をモニタリングしながらコーチングをしています。
「atama+」導入の影響により、塾・予備校業界も変化しつつあります。2020年7月には、大手予備校の駿台と共催で、オンライン模試「駿台atama+共通テスト模試」も開催しました。第1回の申込者は4万人を突破し、国内最大規模での実施となりました。
オンライン模試であれば、コロナ禍でも安心して受験可能です。結果もすぐ出て、分析結果を学習に活かして弱点を補強することができます。そしてまたいつでも模試を受けられて…という循環サイクルも可能になりました。
勉強とは「本当は楽しい」もの 生徒一人ひとりの可能性を広げたい
我々は、「Wow Students. 生徒が熱狂する学びを。」をバリューに掲げています。これを目指すことが、我々のミッションを実現する一番の近道だと思っています。
ここでいう熱狂とは、満足の進化形です。勉強とは本当は楽しいもの。勉強をワクワクするもの、自分からやりたいものに変えて、生徒一人ひとりの可能性を広げることに全力を注いでいきたいです。
>> 後半へ続く