概要
超教育協会は2020年7月27日、東京都の「中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会」の平井美和氏と、「世田谷公教育におけるICT利活用を考える会」代表の吉澤卓氏を招いて、「保護者の声~オンライン教育の重要性について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半では平井氏と吉澤氏が、一斉休校中の保護者有志の取組みについて紹介。後半は超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
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「保護者の声~オンライン教育の重要性について」
■日時:2020年7月27日(月)12時~12時55分
■講演:
吉澤卓 氏
(世田谷公教育におけるICT利活用を考える会 代表)
平井美和 氏
(中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会)
■ファシリテーター:
石戸奈々子
超教育協会理事長
シンポジウムの後半は、参加者から寄せられた質問を、ファシリテーターの石戸が平井氏と吉澤氏にぶつけるかたちで進められました。
超教育協会理事長の石戸奈々子
質疑応答
石戸:「日本ではほとんどの学校がオンライン教育にシフトできず、大量のプリントが配布されるという対応がなされました。そのような、中央区や世田谷区の保護者の皆さまが危機意識を持って動いた背景を知らない方も多くいると思います。休校中の状況を教えて下さい」
吉澤氏:「世田谷区の中でも私が住む地域では、毎日ではありませんが、学校にプリントを取りに行って、先生から宿題を手渡される形でした。郵送やFAXではありません。時間割が作り込まれていて、これを家庭でサポートしてくださいというかたちでした。4年生はなんとかできましたが、1年生の子どもは『なんのことやら』という感じでした」
平井氏:「中央区では、小中学校のホームページに学年ごとのフォルダが作られ、時間割と課題がPDFで貼られていました。ただ、プリンタがない家庭が多くて、みんな困っていたようでした。
また、クッキングしよう、体操しようといった内容の授業も組み込まれていましたが、家庭の状況に応じては負担が大きいのが気になりました。これでは、在宅ワークの保護者は仕事ができない。私は2人の子どもの学習と遊びを見ながらの対応で、密室での親子対応にネグレクトもしくはDVの可能性すら感じた時もありました。
一方で、インターナショナルスクールに通わせている同僚の話を聞くと、そちらは完全オンライン対応で完璧にフォローされ、子どもたちは自宅で普通に学習しているようでした。そんなことを耳にすると、既に子供の時代で学習環境に歴然と差が出てきていることに気づかされました」
石戸:「保護者負担が大きすぎる、という不満の声はありましたか?」
平井氏:「課題について、提出・学校からのフィードバックもなく、答え合わせも『親』次第で、『丸投げだ』という不満の声は聞こえてきました」
石戸:「日本の学校教育におけるICTの活用は、世界と比較して遅れているという現実を知らなかった人たちも多かったと思います」
吉澤氏:「メールアドレスが学校に1つしかない、インターネットにアクセスできる人が限られている、これではICTを活用した教育ができるわけがありません。個人情報保護に関するオンライン結合の制限については、平成29年に総務省が地方自治体に解除の通達を出しています。しかし条文を変えた自治体はありません。しかし、ここから立て直さなければ、やりたいことはできないという認識を皆さんがもつことが大事だと思います」
平井氏:「私も、知人の小学校教諭から、Zoomでの朝会議が思うようにできないと聞きました。カメラ1台、動画送信用の回線が1本しかない状況で、思うようにならないと。学校でのオンライン教育推進には大きなハードルがあることを感じました。
有志の会では、学校単位とPTAで協力できることを、まず頑張りましょうと言っています。そしてまずは先生全員にアカウントを設定してあげないと、一歩も踏み出せないと思っています」
石戸:「GIGAスクール構想で国がようやく本腰をいれたところですが、一方では未だにICT導入に疑問を持つ声もあります。区にアンケート結果の報告や提言をされて、教育委員会の反応はどうでしたか?」
吉澤氏:「世田谷は前向きだと思います。やらなければならないことが多いので歩みは遅いですが、私の子どもからは、学校で学習支援アプリのロイロノートのテストを始めた、Zoomの練習をしたといったことを聞いています。できることを現場に通知して、進めていただいていると思います」
平井氏:「中央区でもICT教育の推進の部分は合意が取れていると思います。しかし学校のホームページは活用されていないし、具体的にどんなスケジュールで、学校現場をどう変えて行こうとしているかは、確認できていないです。世田谷区は進んでいると思います」
石戸:「オンライン教育の必要性について保護者から要望が上がり先生方も感じていることがあると思いますが、先生方の反応はいかがでしたか?」
吉澤氏:「7月25日のオンラインミーティングに出ていただいた3人の先生方は、コロナ下で子供たちとの距離が遠くなってしまっていることを憂慮していました。そういう先生たちが多数派だと思います」
平井氏:「学校の現場では、6月学校再開後も、いかにして今年度の学習を終わらせるかを優先して考えている印象です。もちろんオンライン教育も進めなければいけないんですけど、先生方が忙しい中で、優先度は下がっている印象です。保護者はコロナ第二波、第三波、災害等で長期にわたる休校がまた起きることは非常に心配しています」
石戸:「参加者から、年齢層の高い先生方は学校での決定権を持っているけれども、ICT導入への理解に不足がある、それによって積極的になれない学校もあるのではないですか?との質問です」
吉澤氏:「校長に理解があって環境を整えられた例をご紹介しましたが、理解不足の学校との差は大きいです。必要性を理解しない、ルールが整っていない、情報が届いていないケースもあるのではないかと思います」
平井氏:「中央区では日本橋小学校が、Zoomでのオンライン朝会を各クラス2日に1回ぐらいやっていたのですが、それは校長先生と教頭先生の理解があったからと聞きます。それと、ICTのヘルパーは数校掛け持ちで来るのは週に1回とも聞きます。保護者でICTのヘルプデスクをできないかという話もしています」
石戸:「私たちも以前から学校ICT化を推進する運動をしています。もっと前にICT環境が整備されていれば、このような状況にはならなかったように感じています。保護者からは、これまでは全く声は挙がらなかったのでしょうか」
吉澤氏:「先日お会いした学校ICT導入に30年来奮闘してきたベテラン教員によると、今までは保護者と連携して導入を進めようということがなかったそうです。それと、ドイツのベルリンに、保護者が運動の核になっている学校の事例があります。それを聞いたとき、日本で学校が変わらないのは、学校が保護者を巻き込むことがなかったからだと気づきました。日本でも、保護者は学校に考えをどんどん出していくべきだと思いました」
平井氏:「親として、これまでは学校には元気で行ってくれればそれでいいと思っていました。コロナ後で社会がニューノーマルになっている中で、学校の現場が変わらない現状が良く見えてきます。学校側が実際に何を困っているのか、行政側も保護者側も耳を傾けなければならないと思います。私達が教育委員会の方と行ったミーティングでは、保護者からの声を伝えた点には意義があったと感じています。きちんと伝えることも大切だと感じました」
石戸:「今回、ICTに限らず、150年間変わらなかったとされる学校の、いろいろな課題が浮き彫りになったと思います。一斉授業はこのままでいいのか、ということも含めて、社会全体で学校とは教育とは何か、と改めて考えるきっかけになったのではないかと思います。お二方から見てICTに限らず、今の学校の課題はどこにあると考えているか、そして今後よりよくしていくために、どんなことをすればよいと考えていいますか」
吉澤氏:「いままでの義務教育は学校に通わせることが前提ですが、今後それを緩めていくこと、緩め方をどうするかを考えたとき、ICTの活用は最適な選択肢だと思います。学校は『学校に行きたくない/行きたい』を超えて学びをサポートして行かなければなりません。
ただ、本当に大きな変化になります。今でさえ現場は疲弊していると言われていますので、先生方にかかる負担を支える仕組みも必要だと思います」
平井氏:「オンライン教育が煤、恵那、インクルーシブ教育が圧倒的に進むと思います。また1クラスに40人は無理があり、特に低学年は先生の負荷が本当に大きいですが、ICTが入ることで、ハイブリッドを考えていけると思います。ディスカッションはオンラインでやるなどです。
ICTの活用は、次の世代の子どものために重要です。子どもによっては様々な理由で学校に行くのが難しい子供たちもいると思いますし、そんな子どもとの学習の格差をICT活用で埋めていただきたいと思います。
コロナ禍の世界各国で、子供の学びにここまで影響が出ている先進国は日本ぐらいです。全くサポートされず、コロナの中で放置された先生も日本だけだと思います。ICTツールを持つことは、これから当たり前。一方で学校だけの負担にならないよう、行政としても人と予算をきちんと手当てしていくこと、保護者もサポートしていくことが大変重要だと思います」
最後に石戸の「このコロナ禍で、教育が変わらなければならない。しかし学校任せにするのではなく、保護者も一緒に取り組むことによって、学校も変わっていく、その見本を世田谷区と中央区が見せてくれたのではないかと思います。保護者と学校のパイプの連携の仕方が全国に広がっていくとうれしいです」という締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。