起業家育成の推進に向けて教育機関側の要望とVC側の要望を議論 ~超・起業学校が発足―第1回オンラインシンポジウムレポート~

活動報告|超起業学校

2020.9.11 Fri
起業家育成の推進に向けて教育機関側の要望とVC側の要望を議論 ~超・起業学校が発足―第1回オンラインシンポジウムレポート~

概要

超教育協会は2020年7月20日、「超・起業学校」第1回オンラインシンポジウムを開催した。画期的なスタートアップの事例や若い経営者の活躍、学生が参加するピッチイベントの盛況ぶりなど、日本においても起業熱が高まっている。そこで、起業教育に熱心な学校、VC(ベンチャーキャピタル)、メンターによるシンポジウムを開催、起業家育成の推進に向けて「学生や学校側の要望」や「VC側の要望」について議論を行った。その模様を紹介する。

 

【超・起業学校が発⾜~第1回オンラインシンポジウム】

■日時:7月20日(月) 12:00-13:00
■登壇者:(※五十音順)
梶谷亮介 氏:NOW 代表取締役(共同代表)
田村真理子氏:日本ベンチャー学会事務局長
出口治明 氏:立命館アジア太平洋大学 学長 学校法人立命館副総長・理事
中村伊知哉 :iU学長、超教育協会専務理事
夏野 剛 氏:慶應義塾大学特別招聘教授、株式会社ドワンゴ 代表取締役、N高 理事
福野泰介 氏:株式会社 jig.jp 会長、神山まるごと高専技術教育統括ディレクター予定
両角将太 氏:F Ventures代表
■ファシリテーター:
石戸奈々子 超教育協会理事長

 

ファシリテーターを務めた石戸は冒頭、本シンポジウムの長期的な狙いとして、起業に熱心な学校のコミュニティ形成、および、VCやメンターなどの連携による共同カリキュラム作成を挙げた。これらを実現することにより、学生発スタートアップを盛り上げていきたいという。

実現に向け、第1回オンラインシンポジウムでは、各種要望を議論し、まずは「現場で何が求められているのか」を浮き彫りにする考えだ。

 

こうした位置付けの説明に続き、登壇者が各々、自己紹介を兼ねて挨拶をした。その概要は以下の通りである。

【自己紹介】

梶谷氏:NOWの代表を務めています。NOWは、2年ほど前に設立したVCで、比較的若いです。CAMPFIREというクラウドファンディングをやっている家入一真と私の2名が共同代表として立ち上げました。主に投資してるのはシード領域です。投資先の約半分は20代、その約半分は20代前半で、学生起業家のような方も多いです。

 

田村氏:日本ベンチャー学会の事務局長をしています。本学会は、約1000人の会員がいて、ベンチャー企業が創出しやすいエコシステムの構築に向けた、産学連携の支援活動をしています。大学・大学院、さらには小中高まで及ぶ起業家教育における現状と課題の研究等に取り組んでいます。

 

夏野氏:僕は起業教育について、「起業するための教育」ではなくて、「現代社会に生きていくための選択肢を広げる教育」だと思っています。いろんなところで自分の力を活かして生きていくことが大事で、そのためのプラットフォームが会社であるはずなのに、どうも会社と個人の関係性がおかしいという問題意識があります。自分が主語になって自分で切り開いていく、そういうことができるという前提で会社勤めしているのと、そういう選択肢がないと思って会社勤めしているのは、全然違います。教育の究極の目標は、何かを習得させることではなく、生きていく力をつけていくことなので、起業家教育がすごく大事だと思っています。

 

福野氏:私は高専時代、起業家教育を全く受けていないのですが、作ることは好きでした。起業家教育について思うのは、作る力をみんなに持ってほしいことです。自分で作れるのは楽しいなと思って、2012年から一日一創、毎日アプリを作っています。例えば、「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」を作り、現在400万PVぐらいあります。その他の活動としては、小中学生中心のロボコンの主催、こどもパソコンIchigoJam、プログラミングクラブネットワークがあります。

 

両角氏:私は生まれた地、福岡でF Venturesを立ち上げました。プレシード段階、アイデア段階のベンチャーに投資しており、学生をはじめとする若手向けの投資もしています。学生向けの起業家コミュニティを運営しており、TORYUMONというイベントを過去10回ほど開催、全国から参加者が集まるイベントに成長しています。当イベントを通して我々も投資しますし、その場で500万から1000万の資金調達が決まったりするようなコミュニティになっています。

 

出口氏:APU、立命館アジア太平洋大学学長の出口です。APUは学生が6000人ぐらいいて、半数が留学生、約90の国や地域から集まっています。学生の声を聞いていると、起業したい、NPOを作りたい、という声が非常に多かったので、2018年の7月にAPU起業部、通称「出口塾」を作りました。わずか1年で4社が法人登記をして、小さいですが起業を始めました。学生、若者の潜在力は本当に高い、やりたいことや夢があればできるんだ、と僕自身もすごく元気づけられました。

起業家育成の推進に向けた、学生や学校側の要望


自己紹介に続き、本題である起業家育成の推進に向けた課題についての議論がなされた。まずは、「学生や学校側の要望」は何かについて、以下のような意見が交換された。

 

石戸:まず、学生の中で起業したいと思う学生は前に比べて増えているのか、その学生は何を求めているのか、についてご意見をいただけますでしょうか。

 

夏野氏:前に起業するのは割とワイルドな学生が多かったのですが、最近は優秀な学生ほど起業を考えるようになっていると思います。高学歴と言われるような偏差値の高い大学のほうが起業に熱心になっていて、特に理工系のほうが起業を真剣に考えているというのが、平成初期のベンチャーバブルとは違う傾向だと見ています。

 

両角氏:数年前から格段に起業家は増えていると思います。というのも、ロールモデルが増えてきた、例えばGunosy創業者の福島良典氏やdely創業者の堀江裕介氏など若い世代で起業して成功した事例が出てきているので、(起業に対する心理的)ハードルが下がっている感じはします。

 

石戸:ありがとうございます。田村さん、先ほど起業教育の効果・成果の研究もされていると聞きましたが、起業家教育の成果という側面もあるのでしょうか?

 

田村氏:起業家教育という面では第2フェーズあるいは第3フェーズに入ってると思います。当初はとにかくやる気のある人がきたのですが、最近は働き方の一つとして起業という選択肢があることを知っている人が増えています。ものづくりをしたいという理系の人たちが、自分たちの技術を生かして実現するための手段として起業を捉えることが増えている気がします。

 

石戸:福野さんは高専出身ですね。高専の学生の起業が増えているという印象があるのですが、いかがでしょう。

 

福野氏:確かに起業する子たちが出てきています。ただ、クラスに一人か二人という比率は前からあまり変わらないという気はしています。それよりも「自分で作りたいものって何?」という問いに対する答えを持ってない子が多いことが問題かなと。「こういうことをやりたい」というのがあり、それを実現する手段が起業だと思うので、そういう意味で「最初にいろんなことにチャレンジするといいよ」とアドバイスしています。

 

石戸:中村さん、iUは全員起業を謳っていますが、その背景には学生が求めるものの変化、社会における働き方の変化があるのでしょうか。

 

中村:今度新しい大学を作るので、どんな大学にしたらいいですかね?って何年か前に夏野さんに相談したら「それはもう全員起業だよ」と。それ、いいなあと思って、やることにしたんです。そうしたら、思っていたよりもたくさんの入学希望が殺到しました。起業熱は高いなと僕も感じます。ただ「全員起業」をどのように実現すればいいか、そのノウハウが必要だと思います。

 

石戸:ありがとうございます。梶谷さん、起業家の方々と日々お話しされていると思います。これから起業したいと思っている学生は、何を一番課題として感じていらっしゃるのでしょうか。

 

梶谷氏:2点ほどあります。1点目が、起業のアイデアが身近なものに寄りすぎてしまうこと。学生なので働いた経験が少ないバックグラウンドに基づいたアイデアは、大体似たようなものになってしまう傾向にあります。なので、事業アイデアをしっかりブラッシュアップする機能が必要です。

2点目がやはり資金調達です。資金調達に耐えうるほどの事業プランやチームが練りきれていない状態になってしまう。そこを先回りして、ある程度の知識を学生起業家の卵の方々にお伝えすることも必要です。

 

石戸:夏野さん、N高の学生はいかがでしょう。起業に対してどのような要望がありますか。

 

夏野氏:N高は起業部を作っていて、ベンチャーキャピタリストとか実業家とかがアドバイスしながら起業していきます。それに対して年間1000万の予算を付けています。高校時代なので失敗してもいいと捉えていますが、ただ、きちんとビジネスモデルを書いて、新しくチャレンジできる能力があり、しかもそのプランが現実的であれば、学校がお金を出す、ということをしています。

 

中村:iUはN高から入学してきた学生が一番多くて、いずれ全員が起業する前提なのは分かって入ってきています。それは1年200人の学生が毎年起業していく、5人1チームでやったとしても年間40社起業しろという話なので、めちゃくちゃ大変なんです。iUだけでできる話ではなくて、さまざまなメンターの方々に指導いただくことが必要です。なので、たくさんの客員教授を招いています。学生の話を聞くと、お金の出し手であるVCやその周りと会わせてくれという話がとても多く、その辺りのマッチングがうまくできるといいなと思っています。

 

石戸:先ほど出口さんが起業部を紹介されました。それを全国の学校で始めるには、何が決め手になるのでしょうか。

 

出口氏:自分と同じような普通の仲間がやっているのだから自分もできる、そういう意味のロールモデルがすごく大事だと思います。APUでは県や市の起業を応援する人やVC(ベンチャーキャピタル)、コンサルティングなどさまざまな人に来てもらい話をしてもらっているのですが、一番効果があるのはAPUの先輩達です。
そのうえで、大学のキャリアオフィスの改革にも取り組んでいます。大学を卒業した後のキャリアは企業に入るだけじゃない、大学院に行ってもっと勉強したいとかNPOを作りたいとかもキャリアです。学生の様々な進路の希望を支援できるキャリアオフィスにしようとしています。

 

石戸:ありがとうございます。進路指導側に多様な選択肢を提示する気持ちがなければ、そもそも学生に選択肢が届かないということですね。
参加者からの質問が来ています。起業について、大人や親の気持ちが追いついていないことが課題ではないか、という指摘です。これについてはいかがでしょう。

 

中村:日本は、やはり失敗したら立ち直りにくい社会だと言われているので、そこがネックなのでしょう。だから僕らも大学において、学生の間に一回起業をして「失敗しても学生だからいい」みたいな感じの軽いノリで新しいことを始められたらと考えています。

 

両角氏:親世代の常識だと、(起業で)借金して失敗したら地獄が待ってるようなイメージを持たれてる方が多いようです。TORYUMONに参加する学生に対する「親ブロック」って非常に多いんです。かなり起業環境もよくなっているし、投資家も日本で増えていて、借金じゃない形の資金調達の方法もたくさん出てきています。環境が整ってきたので、それをうまく理解してもらう必要はあると思います。

 

田村氏:教育機関に期待したいのは「チャレンジすることが大切である」という一番の根本を伝えることです。経験したことが必ずしも形にならなくても、その経験が違うかたちで活きた、そういう連鎖が必要なんじゃないかなと思います。

 

出口氏:「失敗を許さない」文化や社会の仕組みを変えるのは大変です。だから僕は皆さんに「まず自分が変わればいい」と言っています。お父さんやお母さんが変われば、子供も変わるのです。だから世の中の構造とか社会の問題について指摘し続けることはもちろん大事ですが、同時に、一人でも大人が変わること。例えば、子供が「就職するのをやめて、NPOをやってみたい」と言ったなら、全力で後押しする。それだけでも随分な力になります。まず我々大人が、今自分がいる場所でできることをやり続ける。長い目で見たら、これが一番力になる気がします。

 

石戸:そうですね。コロナ禍でも大人の対応が子供にも見られているわけですけれども、夏野さんどうですか、海外と比較して。

 

夏野氏:やはりお金だと思います。リスクマネーの供給が日本は少ないです。それはなぜかというと、VCの中に自分で起業して成功した人がほとんどいない、間接金融機関出身の人が多いからです。一方、シリコンバレーのVCは、「こいつはいける」と思ったら10億円単位でお金出すわけです。牛耳るのではなく、とりあえずお金を出す。そういうVCが少ないのが問題だと思います。

起業家育成の推進に向けた、VC側の要望

議論の後半では、逆の見方、つまりVC側が大学などの教育機関や学生に求めることへの意見が、具体的な事例を挙げながら、交わされた。

 

両角氏:大学は、インターンをする機会、スタートアップの現場を知る機会を提供できるのではと思います。インターンをした経験を持って起業したスタートアップはかなり成功例が高いというのを肌感覚で感じるので、(学生が)現場を知ることは非常に重要だと思います。
同時に、コミュニティも大事です。楽天の三木谷浩史氏やサイバーエージェントの藤田晋氏の周りにいる人が起業に成功しているように、良質なコミュニティを大学で形成できると効果的だと思います。

 

石戸:コミュニティ機能に関連して、大学同士の連携体制を作っていこうと思っています。これについてはいかがでしょう。

 

両角氏:大学が独自にやろうとして失敗した事例もたくさん見てきているので、大学とVCで連携したりなどいろんな方々を巻き込んでコミュニティを形成していくことが重要だと思います。

 

中村:コミュニティでやったらいいというサービスは、VC側から見てどういうものがありますか。

 

両角氏:やはり(起業の)ハードルを下げることが必要かなと思います。レベル感の高すぎる人じゃなくて、同世代の活躍している起業家を呼んでリアルに話したりという活動です。オンラインでイベント数をこなしたり、Facebookなどで繋がったりして、その後話し合えるような関係性に持っていく機会があると、メンターもできるし、横の繋がりもできるので、非常に重要なのかなと思います。

 

梶谷氏:一点だけ、起業に失敗した場合について補足させてください。失敗した方々がだめになっているかというと、そうではありません。コミュニティに属しているので、例えば友人の会社にエンジニアで入りましたとかマネージャーで入りましたといった、バックアップ体制ができているんですね。こういう事実が知られていないので、やはり親世代あるいは学生にも、起業が怖いイメージがあるのでしょう。

 

出口氏:このような連携、コミュニティについては賛成なのですが、一点注意していただくことがあります。コミュニティに入ったからといって、何かできるわけではないということです。大前提として、参加主体がやりたいことなり哲学なりの「コア」をきちんと持っている必要があります。そうでないと、グループに入ったからといって、急に何かができるわけでは決してないのです。

 

石戸:おっしゃる通りですね。何かやりたいっていうだけで緩く繋がってるネットワーキング・パーティーみたいなるのは防ぎたいなと思います。例えば、スキルが多少足りなくても強い意志を持っている、強い個の集団としてのコミュニティの形成が大事かなと思います。そのためには、このコミュニティに入りたいとみんなが憧れる、でも高すぎず低すぎない、コミュニティ形成の仕方を考えていくとうまくいくのかもしれないですね。

最後に、これだけ社会がダイナミックに変化をしようとしているこのタイミングにおいて、「どういう領域での学生起業を期待するか」、あるいは、「超・起業学校」への期待について教えてください。

 

夏野氏:チャンスは与えるけれども、あまり甘やかさないほうがいいと思います。お金を出しやすくしなきゃいけないとか、支援してあげなきゃいけないとか言いますけれども、最初からブーストされても後が続かないでしょう。チャンスはいくらでもあげて、そんなに甘やかすことはしない。失敗を誰かが怒ったりするからこそ、次があると思います。

 

梶谷氏:大学との連携ということでは、今日お話しできなかったような学生起業に対する課題感というのは他にもあったりするので、そういうところを議論しながら、起業がよいかたちになるようにできたらいいなと思っています。

 

田村氏:現状では、やりたいことがベースにある人たちが集まるネットワークは横に繋がっていない気がします。なので、コミュニティの横の繋がりができてくると非常におもしろいなと思います。

 

出口氏:「自分がやりたいことをやるのが一番楽しい人生なんだよ」と、みんなで背中を押してあげ、そういうプラットフォームが作れれば楽しいのではないでしょうか。

 

福野氏:「これをやれ、ひたすらちゃんとやれ」という教育が問題なのかなと思います。なので、「急にやりたいことやれ」と言われても困るのでしょう。この問題を認識したうえで、やりたいこと、夢がある人をガンガン応援してあげることが大事だと思いますし、広い視野とそれが実現できる技術力をすべての子供に持ってもらえたら、世の中はとてもおもしろくなると思います。

 

両角氏:やりたいことがあっても何もしてないような学生たちが起業の機会を得て、成功してスターになっていく。これがVCとしての醍醐味だと思っています。そのための支援を、皆さんとの連携でできていければ、VC冥利に尽きます。

 

最後に石戸は、さらなるアイデアに向けて、積極的にメールなどで連絡し合うことを呼びかけ、本シンポジウムを締めくくった。

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