概要
超教育協会は2026年8月26日、兵庫県立氷上特別支援学校 教諭の黒田 一之氏を招いて、「生成AIで広がる特別支援教育の可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、黒田氏が特別支援教育における生成AI活用の実践例と可能性について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
「生成AIで広がる特別支援教育の可能性」
■日時:2026年8月26日(水) 12時~12時55分
■講演:黒田 一之氏
兵庫県立氷上特別支援学校 教諭
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
■ 共催:一般社団法人超多様
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
「できない」と諦めていたことが生成AIの活用で「できるようになる」
石戸:「黒田先生が、はじめに生成AIを授業で使おうと思われたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。どのようなところに魅力や可能性を感じ、実際に授業での活用に至ったのですか」
黒田氏:「最初に感じたのは、生徒の進路相談など、他愛もない話をしていたときです。ダンサーになりたいと、ダンスに打ち込んでいる生徒がいたのですが、相談を受けても、私自身『ダンサーになる方法』がまったく分からない。そこで生成AIに相談してみると、かなり具体的なアドバイスをくれました。そのとき、自分にはない視点や発想を生成AIは持っていると感じたことがきっかけです。
私がイメージしているのは『AIドラえもん』です。何か困ったことがあったときに、人だけでなく、頼れるテクノロジーや相棒がいる。そんな関係性を目指せたら素晴らしいと思い、授業で活用するようになりました」
石戸:「私も『1人1台情報端末』の次は、『1人1台ドラえもんのようなロボット』を実現したいと言っていましたが、生成AIの登場によって、それがあっという間にできるようになったと感じています。
生成AIを使うことによって、一人ひとりの特性に合わせた教育を提供できるだけでなく、一人ひとりに合わせてアウトプットや伝え方を変えることもできるようになりました。そういう意味でも、これから生成AIの使い方について、さらに研究が進んでいくとよいと思っています。
実際に生成AIを使ってみて、人間の観察だけでは気づかなかった子どもたちの良さや特徴、あるいは、その子に合った教え方が見えてきたということはありますか」
黒田氏:「新たな気づきという意味では、授業にもっとゲーム性を取り入れた方が楽しくなるのではないかと感じました。また、生成AIから生徒に対して『好きなことや得意なことは何ですか』と聞くような設計にしているので、教師からは『その生徒の好きなことや得意なことを、今まで以上に意識して授業を考えるようになった』という声もありました」
石戸:「特別支援教育の良さのひとつは、目の前の子どもを深く観察し、一人ひとりを丁寧に見ることにあると思っています。生成AIが、人の見方そのものを広げるツールとしても使えるのであれば素晴らしいと思い、今の質問をしました」
黒田氏:「実は、生徒の行動の背景を生成AIと一緒に考えるという取り組みもしています。
例えば、この生徒はなぜ机を叩いたり、プリントを破って教室を飛び出したりしてしまうのか。その行動だけを見れば、その子が悪いと誤解されてしまうかもしれません。しかし、その行動には『分からないからプリントを破ってしまう』という背景があることを、AIとの対話を通して気づける部分があると思っています」
石戸:「なぜこの子がこういう反応をするのかということも含めて、生成AIが過去の学習に基づいて『こういう特性の子だ』と型にはめてしまうリスク、つまり個別最適化と言いながらも『AIによるラベリング』になってしまうリスクも、少しあるのではないかと危惧しています。
子どもたち自身は成長し、変化していくので、過去に学んだことに基づいてその子を判断すると、見誤ることもあるのではないでしょうか。実際にそういう場面はあったのか、また、そうしたリスクに対する留意点についてどのように考えているのか、教えていただいてもよろしいでしょうか」
黒田氏:「生成AIやAIが、ある種の型にはめるリスクまでは、まだ掴めていません。カスタムインストラクションをそれぞれの生徒に向けて作るまではしておらず、プロンプトの工夫によって、ある程度柔軟性を持たせることで対応しています。学習履歴を読み込んで返すというところまでは、まだできていないですね。現時点では、生徒と生成AIの間に教員や保護者が入り、対話しながら最適化を考えていくことが重要なのではないかと考えています」
石戸:「視聴者からもたくさん質問が寄せられています。『前提として、AIを単なる業務効率化のツールではなく、表現や創造性を拡張するために活用されている点が印象的でした。生成AIの活用前後で、ユーザーの気持ちや行動に変化は見られたでしょうか。例えば、『自分にもできる』という感覚、自己効力感の向上、新しい挑戦への意欲の変化、他者とのコミュニケーションや社会参画への変化など、心理面や行動面での変化に関する知見があれば伺いたいです』というものです。いかがでしょうか」
黒田氏:「ありがとうございます。私も、そこはすごく感じているところです。実際にAIを使って画像にし、その画像をもとに伝え合うという取り組みをしたとき、これまでなら『私にはできません』、『この授業は、私にはストレスです』という生徒が結構いました。しかし、かつて普通校に通っていて、傷ついた体験があり、伝えることに苦手意識があった生徒全員が、この取り組みによって伝え合うことができたのです。
後にアンケートでも、生成AIで画像にして自分の考えを整理したことで、自分の意見が伝えやすかったと回答してくれました。生徒の表情を見ていても、楽しそうに対話していることを感じました」
石戸:「他にも質問が寄せられています。『人と対話するには、自分で理解できたことを言語化する必要がありますが、その辺りの支援を具体的に教えてください』というものです。
ファクトチェックに関する質問も寄せられています。正しいかどうかをどのように調べているのか、また、自分が理解できたことを言語化するための支援について聞きたいという質問だと思います。いかがでしょうか」
黒田氏:「今回は、できるだけハルシネーションが起きにくい資料を使いました。知的障がいがある生徒が厳密にファクトチェックをするには、まだ少しハードルが高い部分があります。その部分は私の方で補いました。
もうひとつ、Gemを使って対話をするときなどは、生徒とAIが一対一ではなく、そこに教員が入ってチームで対話することで、教員がいつでもファクトチェックできるような支援体制や環境を整えました」
石戸:「他にも質問が寄せられています。『これまで大人が推測するしかなかった子どもの思いやニーズを、本人に近い形で捉えるために、AIはどこまで活用できると思いますか。実際に工夫している点もあれば聞きたいです』というものです」
黒田氏:「やはり対話をすることが大事だと思っています。それが本当に、本人が思っていることなのか、伝えたいことなのかということを本人とも対話しますし、本人だけではなく、保護者とも連絡帳でやり取りしたり、直接会ってお話ししたりします。そこがポイントではないかと思っています」
石戸:「特別支援教育だからこそ、生成AIを活用する意義を、どのような場面でより強く感じているのでしょうか。また、その活用をさらに進めていくために、教育委員会などの行政に求めたいことはありますか」
黒田氏:「私が活用していて意義を感じるのは、これまで『分からない』ためにアクセスできなかった情報に、アクセスできるようになったことです。また、デジタルインフラを活用することで、これまで難しかった、みんなで話し合ったり伝え合ったりすることも可能になります。さらに、モチベーションの支援にもつながっていると感じています。本人が『自分にもできる』、『自分も考えられる』と思えることが一番大事で、教師としても大切にしていますし、そこに最も大きな意義を感じています。
教育委員会に何を求めるかという視点では、まず、さまざまな場面で教育委員会にサポートしていただいているので、とても感謝しています。指導主事の方にも本当に支えてもらっています。ただし、こうした対応は自治体によって違うようです。AIを使いにくくしている自治体もあれば、現場の判断に委ね、AIを活用できるように整えている自治体もあります。
教育現場では、先生方による校務でのAI活用は進んできています。しかし、生徒と一緒に授業で活用している先生は、まだ少ないです。次のステップとして、AIをどう教育的な効果に落とし込むのか。具体的な方法を現場は知りたいのではないかと感じているところです」
石戸:「一人ひとりに合わせた学びの必要性は、教育全体で求められていることです。特別支援教育でこれまで培われてきた知見を、教育全体に広げていくとよいという考え方もあります。
生成AIのような技術を活用できるようになると、通常学級と特別支援教育の境界は、これからどうなっていくのでしょうか。特別支援教育という言葉自体が、この先も残っていくのか。未来の教育がどうなっていくのか、改めて考えていく必要があるのではないかと思っています。
黒田先生は、この先10年、20年後にも特別支援教育という概念が残っているのかということも含めて、そこで培われてきた知見を通常学級や教育全体にどう広げていけばよいとお考えでしょうか。ご意見をお聞かせください」
黒田氏:「特別支援学級には、本当にさまざまな生徒がいて、通常学級の中での学びに合う生徒もいれば、落ち着いた環境の方が学びやすいという生徒もいると思います。全部を統合するというよりは、その生徒に合わせて、学びやすい環境を選べるようにすることが重要ではないかと思っています。自分らしく学べる場所を選べるというのは、本当に大事なことです。
また、通常学級でも、その生徒に合わせた学びを提供する取り組みを進めていけたらと思っています。私も実際に35人を担当していましたが、どこまで個別最適化できるかは難しいところです。教員だと一対一になると、他の34人に待ち時間が生じてしまいますが、そこをテクノロジーの力で解決できるのではないかと思っています。あとは、場だけ一緒にいるのではなく、一緒にプロジェクトをすることが大事かと思っています。
先日、ドイツでインクルーシブに関する講演を聞きましたが、ナチス・ドイツで支援の必要な子が排除されて命を失ったという歴史もきちんと学んだ上で、健常者と支援が必要な方が一緒に博物館に行き、歴史について一緒に学ぶという取り組みをしているということでした。場だけ一緒にいるのではなく、目的を持って一緒に対話しながら、お互いの立場を考えてプロジェクトを進めていくことが大事なのだと感じています」
石戸:「視聴者から、このような質問も寄せられています。『米国で出版された書籍で、生徒に合った教授法こそが生徒を伸ばすと言われている。しかし、学校の存在意義は、慣れ親しんだ学びとは異なる学びの体験を与えて成長を促すことである、という主張を読みました。今も私を混乱させている主張です。黒田先生のご見解はいかがでしょうか』というものです。
確かに、AIを使って最適化され過ぎると、逆に子どもたちの世界を狭めてしまう危険性もあると思います。好きなものや自分に合った方法で学べるようにすることと、これまで知らなかった新しい世界に出会い、世界を広げていくこと。その両方が大切だと思っています。そのバランスについて、先生はどのように捉えているのか、教えていただければと思います」
黒田氏:「AIやテクノロジーを使って最適化され、モチベーションが高まるところまではAIをうまく使いながら、その上で未知の世界を体験することは、とても大事だと思います。人と人が出会うだけで、自分にはない価値観がどんどん入ってきます。学校というのは、そういった場です。
モチベーション支援にはAIやテクノロジーのサポートがありつつ、そこからは一緒に考えたり、一緒に対話したりすることが大事だと思っています。バランスは、その生徒によるかと思っています。未知の学びは大事だと思いますし、一緒に体験する、考えることを大切にしていけたらと考えています」
石戸:「最後に、生成AIをより便利なツールとして、より多くの学校が使えるようにするためには、どうすればよいと考えているか。また、黒田先生がこれからさらにチャレンジしていきたいこと。この二点についてお聞かせいただければと思います」
黒田氏:「やはり、生徒のアクセシビリティを高めたいと思っています。同時に、生徒らしさを出せたらよいと思っています。実は今、『わかるAI』といって、プロンプトを工夫するだけで、情報を自分で分かりやすくするサイトを作っています。
*『わかるAI』https://assist-ai-prompt.com/aitools/wakaru-ai/
先生方が特別支援の現場でAIを活用しているケースは少ないので、そこの格差を埋めるために、こうしたツールを作っていきながら、ワークショップなども行うことで、まずは先生方が、AIで画像を生成して自分の考えを伝えやすくするということを体感できるようにしたいです。そこからさらに、子どもたちが『伝え合うことが楽しい』と思えるところを目指して、実践をどんどん進めていきたいと思っています」
最後は石戸の「子どもたちの好奇心を刺激し、一人ひとりがさらに力を発揮できるような学びの環境を、これからどうデザインしていくべきなのか。そのことを改めて考えさせられるとともに、たくさんのヒントをいただいたお話だったと思います。私たちも、これからのインクルーシブ教育をどう設計していけばよいのか、ワーキングを設置して議論していきたいと思っています。ぜひ視聴者の皆さまにもご参加いただければと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

