学校現場での生成AI活用の現状と課題
第200回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2026.2.27 Fri
学校現場での生成AI活用の現状と課題</br>第200回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2025年12月17日、国立大学法人長崎大学 理事(教学担当)、長崎大学 教育開発推進機構長、長崎大学 教育学研究科 教授の中村 典生氏と合同会社デロイトトーマツの齊藤 綾子氏を招いて、「初等中等教育におけるAI活用~英語教育におけるAI活用の実践から~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、中村氏と齊藤氏が学校現場における生成AIの活用について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「初等中等教育におけるAI活用~英語教育におけるAI活用の実践から~」

■日時:2025年12月17日(水) 12時~12時55分

■講演:

・中村 典生氏
国立大学法人長崎大学 理事(教学担当)、長崎大学 教育開発推進機構長、長崎大学 教育学研究科教授

・齊藤 綾子氏
合同会社デロイトトーマツ

■ファシリテーター:
・石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真1・合同会社デロイトトーマツの齊藤氏

 

▲ 写真2・国立大学法人長崎大学 理事(教学担当)、
長崎大学 教育開発推進機構長、
長崎大学 教育学研究科 教授の中村氏

 

齊藤氏(▲写真1)と中村氏(▲写真2)は、約30分の講演において、初等中等教育段階のAI活用と、英語教育にフォーカスしたAI活用の実践例について話した。主な講演内容は以下の通り。

【齋藤氏】

初等中等教育段階においては、複数の場面で段階的ながらAI技術の活用が広がりつつあります。生成AIを中心に他のAI搭載ツールも含めたAI活用という視点で、2022年のChat GPTの公開以降の動きを簡単にまとめました。

▲ スライド1・初等中等教育における
AI活用をめぐる動き

 

国内では2023年に文部科学省から生成AIに関する暫定的なガイドラインが公表され、国主導で生成AI活用の実証事業が開始されたところです。学習指導要領の改定に向けた議論も進められ、その中でも生成AIが発展する状況下での質の高い学びの実現のための学習指導要領の在り方が、審議事項のひとつに位置づけられています。

 

また、2025年からは全ての都立高校で生成AIの活用を開始するという動きもあり、各地で実証や実践が展開されつつあります。AI活用による英語教育の強化も図られており、現在、全国300校ほどで英語教育におけるAI活用の実証が行われています。デロイトトーマツもその事務局の一部を担っています。また、長崎大学 理事の中村先生は、この事業の企画調整委員も務めています。

 

小中学校の現場での生成AIの活用例を紹介します。

 

▲ スライド2・学校現場における
生成AIの活用例

 

小中学校の現場では校務の効率化をはじめ、児童生徒の学習場面での活用など多様な実践例が生まれているところです。とりわけ英語教育では、さまざまなパターンの英語教材を瞬時に作成できる、レベル別・目的別に内容を調整できる、多様な場面を設定した英語学習ができる、フィードバックの叩き台を作成できるなどAIの特徴を活かして、授業準備や教材作成の支援、学習補助、個別指導のサポート、評価での活用といったかたちでの活用が広がりつつある状況です。

 

このようにAI活用の実践が展開されている中、その効果については一定程度、明らかになってきていると感じています。現場の先生方からは特に校務での利用において効果が実感しやすいという声をよく聞きます。

 

一方で子どもたちの学習活動におけるAIの活用については、さらに研究や検討が必要な段階だと捉えています。AIを単なる便利な道具として使うだけでなく、学習をより深めるツールとして効果的に活用していくためには、先生方が子どもたちにどのような働きかけを行う必要があるのか、またAIをどのように扱うのか、一段と深く考えていく必要があると感じています。

 

文部科学省の生成AIのガイドラインの中でも、人間中心の利活用を進めるために教師の役割がこれまで以上に重要になるということが示されています。まさにこの点が現場としても研究としても重点的に深めていくべきところです。

さまざまな課題が指摘された韓国でのAIデジタル教科書の導入

AIの効果的な活用や教師の役割を考えていく際に示唆的と思われる事例を紹介します。韓国でのAIデジタル教科書導入の取り組みです。

 

▲ スライド3・韓国における
AIデジタル教科書導入の取り組み事例

 

韓国では、個別最適型学習の実現や学力格差の是正を目的に、政府肝いりでAIデジタル教科書を全国で導入し始めています。しかし、現場の先生方や保護者、研究者と多方面から批判を浴びてしまい、当初の方針からは大幅な見直しを余儀なくされているという状況です。当初は韓国全土で2028年までに段階的に導入していくという計画を発表していたのですが、今年の夏時点では教科書ではなく、教育資料への格下げが発表されました。

 

この取り組みについてさまざまな指摘があった中で、注目は教育に関する研究者から学力向上効果への懸念と教育格差是正への疑念が指摘された点です。AI活用による個別最適化学習がもたらす学力向上の効果について、根拠が乏しいという指摘がされました。テクノロジーを用いた効果的な学習には、教師の介入の仕方が重要であるとされています。

 

また、教育格差の是正でも十分な効果検証がなされていないという疑念が生じているようです。教師による適切で質の高い指導を考慮せずにテクノロジー導入を優先した場合、十分な効果を上げることが難しいという指摘です。つまり、デジタル教育における格差は機器の有無ではなく、使用方法によって生じるという指摘です。教育効果を創出するための教師の関わり方について丁寧な議論や検証が行われないまま、テクノロジー導入が先行してしまったことが計画変更の要因になっていると捉えています。

 

日本とは前提条件が大きく異なる海外の事例ではありますが、AIも含めてテクノロジーの活用を進める際には教師の役割をしっかり考えていくことが非常に重要であるということを改めて認識させられる事例と言えます。

AI活用の進展で教師に求められる役割の変化とは

それでは、教師はAIをどのように扱えば良いのでしょうか。英語学習にフォーカスして考えます。私も現時点で明確に「こう活用すると良い」という答えを持っているわけではありません。今後の実践の中で、より深めていくべきではないかと捉えています。ポイントをまとめました。

 

▲ スライド4・学習活動における
AI活用で教師に求められる役割

 

一つめは、活用目的や場面のコントロールです。AIの効果的な活用には、学習者のレベルに応じてAIを活用する場面や程度を調整する必要があると指摘されています。AIによる支援を与えすぎると学習者の思考を奪ってしまうということになり、深い理解を阻害してしまいます。どのような支援を得るためにAIを使うのかを教師側も明確にし、それを児童生徒とも共有することが必要です。

 

二つめが個人学習に偏らない活動設計です。AIの導入によって、人間同士の協働的な学びが損なわれないようにすることが大切です。児童生徒同士での対話やプレゼンテーション、グループ活動といった協働学習と組み合わせた活動設計が必要であるとされています。

 

三つめが児童生徒自身にもAIを使いこなす姿勢を身に付けさせる必要があるということです。AIの活用に関してのガイドライン、例えば扱う際の基本的なスタンス、やってはいけないことなどを予め明示し、AIの回答を批判的に評価する活動を組み込むことが適切なのではないかと考えられています。

 

その他にも二つのポイントを挙げます。一つが、技術的な正確性を過度に重視することで創造的な活動を抑制しないようにするということです。英語学習においてAIは発音の正確性を瞬時に判定してフィードバックを返してきます。しかし、実際の英会話の中では正確性だけが重視されるのではありません。人間同士のコミュニケーションの中では発音ミスが生じたり、言い間違いが生じたりすることもありますし、学びの過程でそういったことが生じることもあるということを理解しておくべきです。教育の現場では、技術的正確性と創造性の双方を価値付けるような教育文化の醸成が必要ではないかと考えます。

 

そして、もう一つが、AI活用に関して児童生徒からの反応や評価を得ることも必要とされています。単純にAIを使えば良いということではなく、学習者の認知的な主体性を意図的に守っていく、育てていくという配慮が必要です。言葉にするのは簡単ですが、実際にやってみるのは難しいということもあるとは思いますが、こうした配慮をしながら取り組んでいくことが大切だと考えています。

「AIと気楽に会話したい」そう思う子どもが大半

【中村氏】

初等中等教育における英語教育においてAIを活用するにあたって、AIに対する子どもの意識を調査した結果があります。実際に英語を学習するにあたって6種類のアバターを用意し、1,000人近くの小学生に「どのアバターと英語で話したいか」を選択してもらいました。すると、圧倒的1位だったのはカのたぬきでした。2位がオのロボット、3位がア、4位がイ、5位がウ、6位がエです。実際の人物の写真に近い方が、順位が低くなるという結果でした。

 

▲ スライド5・どのアバターと話したいか聞いた結果

 

この結果は小学生がAIに対してどのような意識を持っているかに繋がると思います。たぬきやロボットは現実とは離れており、写真はかなり現実に近いことから、小学生がAIに求めているのは現実から離れていて、なおかつちょっと肩の力を抜いた練習的な相手だということです。実際、たぬきを1位に選んだ理由として「人と話すのが苦手なので知らない人とはあまり話したくないから」、「動物の方が気楽でいいから」という回答がありました。

 

逆にたぬきを6位に選んだ子もいます。その理由は「たぬきは英会話ができないから」、「たぬきは外国人と話している感じがしないから」という回答です。こういうリアリスティックな部分を求めている子もいるのですが、多くはもっと気楽に話したいと思っていることがわかってきます。

 

ウのアバターを1位に選んだ子は、「ちゃんとした見た目のAIと話したい」という理由でした。逆に6位に選んだ理由としては、「AIがリアルの人のような格好をしていたら怖いから」です。AIに対してどういう意識を持っているかを知っておくことが、その活用にも十分役に立つかと思います。AIと会話するとき、子どもたちは実際の外国人と会話するのとは少し違う感覚を持ち、気楽に練習したいという感覚を持っていることが分かります。

 

AIを実際に使用した事後のアンケート結果も紹介します。

 

▲ スライド6・AIを英語の授業で
使用した後のアンケート結果

 

AIを使った「今日の授業は楽しかった」という問いに対し、「そう思う」と「少しそう思う」を合わせると99%と高い割合でした。ところが、「今日の授業は難しかった」というのも割合が高いです。「楽しいこと」と「難しいこと」は必ずしも相反するものではないということです。難易度が高いところに挑戦をすることにおいて、AIを使用する意味があると考えられます。

どのような力を付けるためにAIを活用するのか意識することの大切さ

次に実際の英会話のログを示します。青森県の中学校で取得したデータです。途中で会話が変わってきているのが分かります。

 

▲ スライド7・ログから英会話の変化が分かる

 

「Let’s talk about sport. What sport do you like?」という問いに「 I like baseball.」と答えています。次に「You like baseball!  Can you play baseball?」と聞いた時に、「Yes,  I do.」と答えています。下の方では「Can you play baseball?」という問いに、「 I can’t play baseball.」と答えています。canで聞かれたらcanで答えるところが変化をしているところです。最初はできなかったことができるようになりました。

 

さらに、例えば「What is your favorite animal? 」と聞かれて最初は「Yes,  I do.」と答えたのが、「What animal do you like?」と聞かれて「 I like dogs.」と答えるなど変化が見えます。教師がこうしたログを見ることによって、AIを使うとこんな変化が見えるということをしっかり把握しておくことが大切です。

 

今後の課題としては、「どのような力を付けようとしているのか」を明確にするということです。

 

例えば子どもが「Hello. I’m Taro.」と言うとAIが音声で「Hello. I’m Ken. I’m in San Francisco.  What country do you want to go to?」と言ってきます。この音声と同時に文字が出てきます。そして日本語の意味も示されます。そのやり取りがずっと続いていきます。

 

▲ スライド8・音声会話を文字にすると
会話力が付かない

 

つまり、会話が音声で続いているときに英語が出てきたり、日本語が出てきたりするということです。もちろん音声が聞き取れない、英語を得意としていない子にとっては非常にサポートになるとは思いますが、「どのような力を付けようとしているのか」という観点では、あまり機能していないのではないかと思います。文字の方に目が行きますし、音を聞いてそれに対して返すという形は取れていません。音と文字が両方出た時に、どちらが優先されるのかが曖昧になってしまう可能性があります。

 

音読の授業でのAIの活用についても同様です。例えば「Food Chains」という文章を生徒たちが読むと、発音が怪しかった単語が明示されます。

 

▲ スライド9・音読で発音が
怪しいところを
指摘する機能

 

ここを直すべきと指摘され、点数が出てくることもあります。これは、音読の正確さを測ってくれるAIです。どのような力を付けようとしているかしっかり考えておく必要があります。多角的語彙習得モデルで考えて見ます。

 

▲ スライド10・意味を捉えながら
音声を出すことが重要

 

文字を見て正確に音を出すのは5番の矢印が示すところです。ところが「読む」作業には音声を出すだけではなく、「意味を捉える」という大事な側面もあります。音読の正確さを判断するのは5番に特化しています。5番ばかりを学習していると、文字から意味を把握する3番が意識されなくなってしまいます。

 

「読む」という作業においては正確に話すことは重要ですが、「読みながら意味をどう捉えるか」も重要です。5番に偏りすぎず3番の読む力もつけることを意識しておく必要もあります。

 

個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の中に、ICTの活用が入っています。その中にAIの活用も当然入ってくるわけですが、大事なことはただ使うのではなくて、どのような力を付けるためにAIを活用するのかを意識することです。教師がそこを意識した上で介入をして、AIを英語教育の中に組み入れていく。そして教師のサポーターとしてAIを活用していくということが重要です。

 

>> 後半へ続く

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