超教育協会は2025年3月19日、宮城県総合教育センター情報教育班　次長（班長）指導主事の山下 学氏を招いて、「宮城県総合教育センターの生成AI活用研修ガイドブックについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

シンポジウムの前半では、同センターが手がけた教職員向けの「生成AI活用研修ガイドブック」について山下氏が講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

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「宮城県総合教育センターの生成AI活用研修ガイドブックについて」

■日時：2025年3月19日（水）　12時～12時55分

■講演：山下 学氏
宮城県総合教育センター情報教育班　次長（班長）指導主事

■ファシリテーター：石戸 奈々子
超教育協会理事長

山下氏は、約30分の講演において、教職員向けの生成AI活用研修ガイドブック「はじめよう！生成AI」の制作背景や特徴などを説明した。主な内容は以下のとおり。

宮城県総合教育センターは、宮城県名取市に位置する県の教育研究所で、研修・研究・支援の3事業を展開しています。このほど、「はじめよう！生成AI」というタイトルの生成AI活用研修ガイドブックを発行しました。教職員が授業・校務で生成AIを活用しやすくするための、教職員向けの資料です。2024年12月11日に第1版を公開した後、文部科学省が「初等中等教育段階における 生成 AI の利活用に関するガイドライン」を2.0に更新したのに合わせ、2025年3月14日に第2版を公開しました。本日は、ガイドブック作成の背景、ガイドブックの特徴、ガイドブックの内容をご紹介します。

▲　スライド1・「生成AI活用研修
ガイドブック」の概要

ガイドブック作成の背景について説明します。2023年6月、宮城県では「宮城県庁生成AI活用5原則」を策定し、生成AIの限定的・試行的な活用を始めました。一方で文部科学省が同年7月に暫定的なガイドラインをリリースしたことで、この時期に教育現場での生成AI活用が進みました。宮城県も2024年1月には「県立学校における生成AIの教育利用に係る手続き」を定め、許可制での利用を開始。その後、2024年4月には県職員全員が本格的にChatGPT、Copilot、Geminiを業務での活用に取り組み、同じタイミングで教育委員会でもそれまでの許可制を改正し、許可不要としました。そして、2024年5月には宮城県総合教育センターもセンター内のルール整備に着手しました。

こうした動きの中で県立高等学校では生成AIを活用できる環境が整ってきましたが、小中学校では実際、どういう状況かは不明でした。小中学校は市町村の管轄で自治体によって生成AIへの取り組みに差があるのではないか、また、小中学校の現場では先生によって生成AIに関する情報収集の度合いに差があるのではないかといった疑問がわき上がっていました。さらに、教職員が生成AIに関する情報を取集できても専門的で理解できず、生成AIを使ってみたいと思っていても「最初の一歩を踏み出せない」のではないかとも感じました。

そこで、生成AI活用のための学校向けの資料が必要だとなりましたが、教壇に立つ先生方が「自分たちがわかっていないと児童・生徒に使わせられない」と考えていることから、まずは教職員を対象とした生成AIのガイドブックを作ることにしました。教職員向けであることがわかるようにガイドブックには「教職員による授業・校務での活用」という文言を入れています。

ガイドブックは高度な活用や最新のトレンドを目的とせず、入門書として作りました。先生方が「実際に使ってみるとどういうものなのか」を理解でき、「日々の教育活動をアップデートできる」資料を目指しました。

こうした考えのもと3つのことを意識しました。1つめが生成AIに初めて触れる教職員にも「親しみやすい」内容で基本から解説するものにしたいということ、2つめが、生成AIの活用を「理解しやすい」ように、豊富な使い方事例を収めること、3つめが、校内研修や自己研修で「活用しやすい」研修仕立てにしたことです。これらが、このガイドブックの特徴です。

▲　スライド2・「生成AI活用研修
ガイドブック」の3つの特徴

この3つの特徴を柱に据え、全体を5つの章で構成し、8つの研修を盛り込んでいます。各章の内容を紹介します。

第1章は、「生成AIの基本を理解しよう」です。研修を4つ準備しています。第2章は「生成AIの実際を知ろう」です。実際に生成AIにプロンプトを入れて返答をもらう例を踏まえ、生成AIとはこういうものだと理解していただく内容です。第3章で、初めて先生方に生成AIに触れいただきます。第4章では、豊富な活用事例を紹介しています。これが「はじめよう！生成AI」の最大のポイントです。授業編で16件、校務編で13件が収められ、第2版からは本ガイドブックの初版を見て実践していただいた先生の事例、生成AIの活用に取り組んだ学校の事例も掲載しています。第5章はFAQとして、よくある質問と答えを載せています。このように、生成AIについて基礎から理解でき、授業・校務で活用できようになるまでを研修仕立てで学べるように構成しています。

▲　スライド3・「生成AI活用研修
ガイドブック」の章立て

各章の具体的な内容を説明します。第1章では、生成AIのコアとなる大規模言語モデルとは何かをはじめ、正しいと思える回答をするハルシネーションもあることなどを説明しています。利活用する際の注意点として、回答の真偽や入力した情報に機密事項が含まれていないか、著作権が侵害されてないかといったことを確認することの必要性を解説しています。

第1章で重要なのは、生成AIの利活用に関するさまざまなルールを事前にしっかりと確認することを示しているところです。例えば、学校設置者である各自治体や教育委員会のルール、生成AIサービスを提供している事業者の利用規約、文部科学省によるガイドラインなどです。これら3つのルールをまずはしっかりと確認しないと生成AIの利活用ができないことを強調しています。なお、これらのルールについては研修でも触れています。

▲　スライド4・第1章で書かれている内容

第2章は「生成AIの実際を知ろう」です。実際にChatGPTとやり取りした内容を画面キャプチャーして掲載しています。ChatGPTにログインしない活用事例ですが、実際に使う様子や手順を理解していただける構成です。

▲　スライド5・第2章はChatGPTでの
実際のやり取りを理解する内容

例として、算数の授業作りのアイデアを出してもらうために「分数の計算が苦手な児童にはどのような指導したらよいですか」というプロンプトを送り、どのようなやり取りとなるのかを掲載しています。

ここでのポイントは、「分数の計算が苦手な児童にはどのような指導したらよいですか」といったプロンプトでは、逆にChatGPTから「具体的にはどのような分数の計算に苦手意識を持っているのでしょうか」と質問されてしまうことがあることです。じつは、生成AIを活用し始めたばかりの先生方からは、「質問やプロンプトを入力したけれども、良い答えが返ってこなかった」という声をよく聞きます。これは、質問やプロンプトが具体的ではないからだと考えられます。第2章では研修を通じて、プロンプトをできるだけ具体的に入力すること、具体的に質問することが重要だと理解していただける内容にしています。

▲　スライド6・プロンプトはできるだけ
具体的に入力することがポイントになる

実際には、どのようなプロンプトが適切なのかは試行錯誤によって理解していくことになりますが、先生方にはご自身が欲しい答えにたどり着けるようになるまでの過程を事例や研修を通じて学んでいただきます。

第2章では最後に、「アイデアを引き出すことに生成AIを活用してみよう」、「生成AIを活用すれば具体的に聞くことで、より望ましい回答が得られる」、「対話を通して、内容を深められる」ことなどを説明しています。生成AIだからと構えるのではなく私たちの普段のコミュニケーションと同じ感覚で、いつものディスカッションの気持ちで使うと効果的といったことをまとめています。

▲　スライド7・第2章では
生成AI活用のポイントをまとめている

第3章の研修では、実際に先生方に生成AIをお使いいただきます。入力したプロンプトや送信したデータに「機密情報が入っていないか」、「著作権上、問題になるものは入っていないか」を確認して使わなければいけないことを改めて確認したうえで、実際にアクセスして質問してみてくださいという流れで研修がスタートします。

▲　スライド8・第3章では実際に
生成AIを使う前に確認したい注意事項が示される

最後に「生成AIをブレインストーミングの相手の一人として考えると、様々な活用方法が見いだせるのではないでしょうか」と投げかけています。職員室にやってきた「大型新人」、仲間の一人として、試行錯誤しながら気軽に使ってもらいたいとまとめています。

▲　スライド9・生成AIと仲間の一人として考え、
試行錯誤しながら気軽に使うことを推奨

次の第4章がガイドブックのポイントです。授業編と校務編の事例を合計29件、収めています。授業編と校務編では活用シーンをイメージしやすいように「作ってもらう」、「教えてもらう」、「手伝ってもらう」という3つに分けて紹介しています。

▲　スライド10・第4章 生成AI活用事例集の内容

ここでは、研修4の内容を紹介します。先生方に注意していただきたいのは、事例によって「こう使って欲しい」を示しているのではなく、「こういう使い方ができますよ」という提案を示していることです。先生方の中には、自分の教科における生成AIの活用事例を見て「この使い方は、私の授業では難しい」となってしまうこともあると思います。しかし、私たちは教科を想定した活用事例であっても、その教科に縛られるのではなく、例えば「社会ではこう使える、国語ならこう活用できるのでは」というように、事例で示している考え方を応用し、活用していただきたいと考えています。

そして事例集を通して、他の先生方とディスカッションし、使えそうなアイデアを話し合ってもらいたいと考えてみます。研修４により活用を「考えてみよう」、「話し合ってみよう」、「試してみよう」となって欲しいと考えます。

▲　スライド11・事例そのまま再現するのではなく、
参考に活用してもらうことを狙っている

第４章に掲載している具体的な生成AIの活用事例をいくつか紹介します。まず授業編です。生成AIは間違った回答（情報）を返してくることがあります。そこを逆手にとった授業の事例です。生成AIにはあえて間違いを含むレポートを作ってもらいます。そのレポートを子供たちが見て、間違いの箇所を探して何が間違っているか、正しい答えはどうなのかを考えて導き出す授業のプランになります。教科の学習はもちろん、情報のファクトチェックという情報活用能力の育成も意識した授業プランとなり、社会科だけではなく、ほかの教科でも、同じように活用できると思います。

▲　スライド12・授業編で紹介されている
具体的な活用事例

もう1つは、特別支援学級での活用事例です。特別支援教育では絵カードを使って子供たちに次に何をするのか、次の活動を理解してもらうことがあります。ただ既存の絵カードには、必ずしも次の活動にマッチしたものがあるとは限りません。そこで、生成AIを活用して絵カードを作成しました。

▲　スライド13・生成AIを活用して
オリジナル絵カードを作成

最後は修学旅行の自主研修コースの作成と所要時間の計算に生成AIを活用した事例です。

▲　スライド14・プログラミングが
必要な内容を生成AIにやってもらうことも可能

今までなら、いくつかのコースパターンから先生が考えたり、手作業でコースの所要時間を計算したりしていましたが、ある程度の情報を与えてあげると生成AIが自主研修コースを計算して提示してくれます。プログラミングが必要な内容は生成AIにやってもらうことができるので、プログラムが作れなくても、条件を整えて示すことで、簡単に自主研修コースを立案したり、所要時間を計測したりできるようになります。

続いて校務編です。ここでは、日本語を母語としない保護者向けの文書の作成に生成AIの活用を提案しています。簡単な文書を日本語に直してもらう。もう1つは、多言語化してもらう事例です。

▲　スライド15・校務での生成AI活用事例

次は、表計算ソフトのマクロを作ると業務改善できるという提案です。日誌や日報の作成で、ページごとにシートを毎回コピーするのではなく、ひな形を作ったら同じものを一気に大量に作れるという事例です。子供たちが何かの記録を取るときに同じシートが大量に必要な場合にも役立ちます。

校務編最後の事例は、学校防災や学校安全に必要なことを生成AIに教えてもらうという事例です。

▲　スライド16・学校防災・学校安全に
必要なことを生成AI に聞いてみる

教職員には転勤があり、今まで縁のなかった地域に赴任することも多々あります。その地域の特性をよく知らないままに校務で防災担当になることもあるので、その際の事前知識の習得、それを踏まえての学校防災・学校安全の対策立案に生成AIを活用できると考えています。

「はじめよう！生成AI」第2版から新たに掲載した事例を紹介します。ガイドブックを出したところ、ある中学校の英語の先生が「学級の実態を踏まえた読み物教材を生成AIが作成した」道徳の事例と、「習熟度に応じた演習問題を生成AIが作成した」数学の事例を参考に、生成AIを活用して英語の長文問題を作りました。

ちょうどインフルエンザが流行し欠席者が多く、普通の授業ができない状況で、登校してきた生徒を対象に急遽、別の授業を準備する必要があったそうです。そこで生成AIに難易度の異なる問題を3つ用意させ、生徒に解いてもらったところ、生徒側も理解度に合わせて学べたことから非常に好評だったとのことです。この先生は、生成AIが作成した問題や回答は、事前に目を通して必要に応じて修正しました。生成AIの生成物をそのまま使うのでは無く、確認することは大切なポイントです。

もう1つは、学校全体で組織的に生成AIを活用した事例です。ある学校では、校長先生をリーダーに学校内に推進体制を構築し、レベルを段階的に上げていきながら先生方が生成AIの活用に積極的に取り組めるようにしました。生徒に生成AIの活用をどう展開し、浸透させていったのかをぜひ他の学校にも見ていただきたいと考えて新たな事例として掲載しました。この学校の取り組みで良いと思ったのは、「生成AIを愛する3か条」を出していることです。3か条は、「相棒」（AIと対話して考えを深めよう）、「アイデア」（AIをヒントに発想を広げよう）、「I」（自分で考えて決めよう）で、ビジョンを明確にして無理なく活用を推進しているとろが素晴らしいと感じました。ぜひ、多くの学校にも参考にしていただいたいと思っています。

▲　スライド17・ある中学校が定めた
「生成AIを愛する3か条」

第5章は、よくある質問と回答を掲載したFAQです。今回、教職員向けということになっているので、一歩進んでいる学校が疑問に思うであろう内容をFAQとしてまとめています。

▲　スライド18・第5章には、
よくある質問と回答のFAQが掲載されている

最後になりますが、宮城県総合教育センターではYouTubeチャンネルで「MナビTV」という研修プログラム配信をしています。その中でも先日、ガイドブックについて解説していますので、ご覧いただけると幸いです。

▲　スライド19・YouTubeチャンネルで
「MナビTV」という研修プログラムを
配信している宮城県総合教育センター

＞＞　後半へ続く