不登校の児童・生徒たちのためにメタバースで新しい居場所・学びの場を作った東京都の試み
第177回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2025.3.14 Fri
不登校の児童・生徒たちのためにメタバースで新しい居場所・学びの場を作った東京都の試み</br>第177回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2025129日、東京都教育庁 総務部 デジタル推進課デジタル企画担当課長の江川 徹氏、デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社 マネージングディレクターの吉田 圭造氏、デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社 マネジャーの齊藤 綾子氏を招いて、「メタバースでつくる新たな居場所・学びの場~東京都のバーチャル・ラーニング・プラットフォームを参考に~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、江川氏、齊藤氏が不登校の子どもたちへの新しい居場所としてのメタバースの有効性、東京都の「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」の取り組みについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「メタバースでつくる新たな居場所・学びの場 ~東京都のバーチャル・ラーニング・プラットフォームを参考に~」

■日時:2025年1月29日(水) 12時~12時55分

■講演:

・江川 徹氏
東京都教育庁 総務部 デジタル推進課デジタル企画担当課長

・吉田 圭造氏
デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター

・齊藤 綾子氏
デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社 マネジャー

■ファシリテーター:

・石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ スライド1・左から
東京都教育庁 総務部 デジタル推進課
デジタル企画担当課長の江川 徹氏、

デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社
マネージングディレクターの吉田 圭造氏、
デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社

マネジャーの齊藤 綾子氏

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

他の自治体とのコラボレーションも視野に不登校に新しい打ち手を

石戸:「現時点で答えにくいかもしれませんが、参加した子どもたちのその後の変化についてお伺いしたいです。例えば、登校を再開する子もいるかもしれないし、ここを居場所として定着している子もいるかもしれないし、もしくはここも合わず他にお繋ぎするケースもあるかもしれません。どのぐらいの割合でどういう子たちがいるのかについて教えてください」

 

吉田氏:「大前提として、このプラットフォームは『学校に戻ってもらわなくてはいけない』というものではありません。そういった義務がある場所ではなく、新たな居場所として、ここで救われたり、ここで何か新たな発見をしたりする場所であって欲しいと思っています。

 

既存で居場所がここに見つかったという子どもが継続的に利用をしている状況だと思います。今後、ここに支援員を配置しコミュニケーションを取ることで、もしかしたら学校に戻っていく子どももいるでしょうし、このまま残る子どももいるでしょうし、場合によっては学校に通わないけれども第三の道に進む子どももいると思います。そこは、今後の様子も乞うご期待という形で見ていただければと思っています」

 

齊藤氏:「実際に何十人も出ているケースというわけではないですが、『バーチャル・ラーニング・プラットフォーム』に参加したことをきっかけに、そこで知り合った子とリアルで適応指導教室から一緒に帰るようになったという事例であったり、これをきっかけにリアルの支援センターへ顔を出すようになったり、学校の別室登校に顔を出すようになった子も一部、出てきてはいます。そういったところが今後ケースとしても広がっていくかどうか、我々も期待もしつつ見ていければと思っているところです」

 

石戸:「私はニューロダイバーシティのプロジェクトも推進しているため、以下の質問をとりあげたいです。『支援されていない層をメタバースで支援できればと思いますが、そういった子どもたちは発達特性の場合が多く、メタバース上でのコミュニケーションの難易度も高いのではないかと感じています。リアルの場でも同じく対応が難しい子どもだと思うのですが、メタバースでこういった子どもたちにいかに対応していくべきでしょうか。お考えを聞きたいです』という質問です。確かにそういうお子さんもいらっしゃるのではないかと推察します。実際にどのように対応されていて、今後の参加者数の増加にどのように対応される予定なのか教えください」

 

江川氏:「実際、子どもたちはアバターにニックネームを付け、やり取りをしています。各自治体の支援担当者はそれが誰かはわかってはいますが、オンライン支援員には、それが男の子なのか女の子なのか、何歳なのかわからなくしてあり、個人情報を見せない状況でやり取りをしています。ご質問にあったような状況の子どもたちの把握が十分にできていないといえます。しかし、チャットなどを通じて、だんだんとコミュニケーションが密になっていくことは、コミュニケーションの難易度が高い子どもにもあてはまることだと思っています。そういったところを捉えて子どもたちがより良い方向に行ければと思っています。このように、難しさを十分把握しきれていないところが現状かなと思っています」

 

吉田氏:「こういった層に対して、いかに対応していくべきかという観点は重要な課題かと思っています。一方、先ほど齊藤から言及があったメリット・デメリットのページにもありましたが、お金の問題との兼ね合いも相当にあると思っています。子どもたちが、実際にメタバース空間に来たとき、デジタルの機能さえあればその子どもがそこに残るかというとそうではないと思っています。1人で自律的に学習できる子どもはそこまで多くないでしょう。

 

つまり、ここに対する一定のマンパワーが必要です。人を配置して、機能面での支援が相当に必要になってくると思います。ここはお金の問題でビジネス側面的にどう対応するかはデロイトもそうですし、他の事業者も含めてビジネスサイドの課題でもあると思っています。今後に関してもやはり、この点はすごく大事だと思いますが、少なくとも現時点で言えることは、こういったプラットフォームを利用して間接的にアバターベースでやり取りすると会話をしてくれる子どもがいるのも事実としてありますので、少なくとも1つの特性にフィットする可能性があるものを提供しているという観点では、貢献できていると思っています」

 

石戸:「選択肢を増やしていくこと重要ですので、とても有効な1つの手段だと思います。いまのお話は、私が次に質問したかった点でして、心のケアも含めて、伴走していく人が必要だと思います。先ほどご紹介頂いたいくつかの自治体の例では、心理士や学習支援員が配置されているとのことでした。全体では子どもに対する大人の人数はどのくらいの環境を作っているのか、もしくは作ろうとされているのでしょうか。そして、その大人に対する研修はどうされているのでしょうか」

 

江川氏:「今、おっしゃられたようなことは、現実的にはご期待いただいているような形でやっていないということが答えになります。と言いますのも、我々は広域行政として子どもたちを直接このように支援するということを言う立場ではありません。区市町村がそれぞれの考え方の中で、子どもにこういうような形で支援すると考えて取り組むことになります。

 

そのような中で実際にそれぞれの自治体がよりやりやすくすることに心を砕いているところで、子どもたちに対してこのようにすべきであるということを現地点で強く出しているわけではありません。むしろ、仮想空間という、例えば教育支援センターの職員からしてみれば、あまり聞いたこともない場での支援は、どのようにしたらできるのだろうかを今、模索しており、連絡会などを開いて共有することに最も力を入れています。お答えになっていないのは十分承知の上で、このような答えをしています」

 

吉田氏:「自治体にもよりますが、来ていただいた児童・生徒が迷子にならないようにインストラクションしたり会話をしたりする支援員を自治体ごとに1名から3名ぐらい配置をする形で対応させていただいており、その方々は別の事業者による事前の研修を受けていただいています。ここが運営コスト・体制の部分であり、システムのプラットフォーム以上にそういったところがランニングコストという意味ではかかります。ですが、個人的にはそこは外せないというか、大事にしたいポイントかなと思っています。

 

一方で、今後もう少しドラスティックに変えていく必要性も相当に感じていて、教育委員会および学校現場の働く領域をもう少しバーチャル上にも向けていけるような、そういった国レベルでの政策が少しでも進むと、検討の余地が出てくるのではと感じています」

 

石戸:「それは、まさに次に質問したかった点です。自治体ごと別れている理由や背景事情は重々承知した上で、コスト的な問題やマンパワーの問題を考えると、例えば心理士の方に複数自治体をまとめてお願いするなど、広域や全体として環境整備する仕組みも考えられた方が、持続的な運営につながるのではないかと考えながらお話を聞いていました。コストの課題の解決のためにも、そのような議論も現状では進みつつあるということですよね」

 

江川氏:「そちらの方も全く議論として排しているわけではございません。例えば、広島県では同じように仮想空間を設定し、それをひとまとめにしている状況を見させていただいたこともあります。また私達が認知していない自治体で、そういった取り組みがあるかもしれませんし、私達が今、行っているやり方がベストかどうかもわからず、子どもたちのためになるのであれば持続可能なやり方をまた考えていかなければなりません。

 

不登校に関わる大人たちが、仮想空間というチャンネルもあるのかと気付いていただけた、ないしは、これも1つの有効な手段だなと実感していただいたということが今の私達の立ち位置と思っています」

 

石戸:「複数の方からメタバース登校における出席や学習履修の取り扱いに関する質問がきています。学校との連携はどの自治体もスムーズにされているのでしょうか」

 

江川氏:「東京都として把握している内容では、『バーチャル・ラーニング・プラットフォーム』に参加し、教材に取り組んだことで出席扱いにしている自治体もあります。おそらく、少しだけということではなく、このくらいやればという形で出席にしているのだろうと思っています。私どもはこの仕組みを通じて、これらの子どもたちはこのくらいの時間や分量をやりましたと提供できる形になっており、あとはそれをそれぞれの自治体や学校の校長先生が判断して、出席に変えていくということになっています」

 

石戸:「自治体、学校の先生、保護者からはどのような反響がありましたか。もしくは、ここから先の展開に向けて、どのような要望や改善点が挙がっていますか」

 

江川氏:「反響の1つとして、グラデーションとして先ほど見せた不登校の子どものうち、自分の部屋から出なかった子どもに対面で教育支援センターや学校の人間が会いに行ってもなかなか顔を出さなかった子どもが話すようになった、あるいは実際に少し家の外へ一歩出るようになったということが、我々が聞いている限りでは一番大きな成果かなと思います。このような子どもに対しては、私達のやり方は自信もって有効であると言えます。ただ時間がかかる、人手もかかるということで、不登校の子どもたちが東京都だけで3万人以上いる状況の中、すぐに有効な決定打になるとは思えない状況であり、有効な手だての1つかなというところです。

 

仮想空間を覗いてみたけれどもあまり面白くないと感じる子どもはいます。そういう子どもに対して魅力的な空間にすることが難しいのは、ゲームのように楽しくしてしまうと仮想空間にずっと入り込んでしまうという危惧があるからです。私達としては、大人と、または誰かとの繋がりを作ってほしいという思いでやっていますが、単純にただ楽しい空間にはしないようにしたいと思いつつも、入ってきたからには何かしらか人との挨拶などのやり取りが発生する場として、さらに育てていければと思っています」

 

石戸:「魅力的な場所にしていかなければならないというお話と、コンテンツの充実が大事だという話もありました。これまでの経験を踏まえて今後、充実・拡充していきたいコンテンツを教えてください」

 

江川氏:「先ほどお話しした、一部の自治体が取り組んでいる科学実験教室や手芸教室など、お願いをして、そういう時間を作ることについて、その辺りを東京都としてもお手伝いができないかと思っています。ただし、仮想空間に入ってきた子どもたちを全て東京都が抱えることはできないと思っています。東京都としての何らかのコンテンツを提供しながら、それぞれの区市町村の方でも、さらなる取り組みを充実させてほしいという形で、私達だけが頑張るということではなく、区市町村の担当者の皆さんと、少しずつ盛り上げていければと思っています」

 

石戸:「吉田さんは海外のご経験も豊富です。海外の状況も踏まえて、今後導入したい機能や参考にしたい事例を教えてください」

 

吉田氏:「アメリカやカナダの事案がベースですが、このように不登校や外国籍の児童・生徒に対して使っているという事例は、まだ海外的にもあまり多くはありません。一方で例えば、祖国の歴史の勉強や医学教育などの実習をしなければいけない、今は見えないけれども過去をさかのぼったらこのように見えるところに関しては、こういった仮想空間の中でコンテンツを用意して実行しています。面白い例で言うと、例えば博物館の中を物理スペースはかなり狭いですが、歩きながらVRを見ることでちょっとした修学旅行を実践するような話があるなど、そういうコンテンツは今後も増えていくと思っています。

 

一方、東京都の今回の事例を踏まえると、対人的な関係を築くといった点は避けられないのかなと思います。また、民間の協力も欠かせません。ビジネス的に成り立たせないと、行政の補助金だけで、どの自治体でも全てやり切るってことは難しいと思います。そういった点は協力的に頑張ってやっていきたいと思います。

 

もう1つはセキュリティです。学校と近しい空間になったときに、いろいろと危険な状況が生まれてくると思います。セキュリティを担保して、うまく今後、進展、発展していければよいと思っています」

 

石戸:「『子どもたち同士における、オンラインでのトラブルにはどう対応しているのか』という質問も複数ありました。また『各自治体における利用者のターゲティングはあるのか』、『対象を絞るということは既に不登校児童・生徒がどういう状態で何人いるかという分析が必要ですか。そういう分析は既にされているのでしょうか』という質問もありました。この2つにお答えいただけますか。

 

そして、最後に1つ私からの質問です。このような選択肢が増えることは素晴らしいと思う一方、不登校の子どもが増え続けている状況では、環境の整備がおいつかない実態もあります。環境整備に尽力すると同時に、学校側が不登校増加を防ぐように変化していくことも必要と思います。これまでの経験を踏まえて、学校に対する提言がありましたら、ご意見伺いたいです。

 

江川氏:「トラブルは多少出始めてきたところです。乱暴な発言など、そういったものがあると思っています。実は東京都が配置しているオンライン支援員というスタッフは、その辺りの防止や被害を大きくしない形で配置している意味合いもあります。何か状況が良くないことがあれば、子どもたちの間に介入して、そのトラブルを解消する形で頑張っていこうと思っています。

 

ターゲティングについてはなかなか難しく、実は各自治体がどういったスタッフをこの活動空間に配置するかによって変わります。教育支援センターの職員がメインで入ってくる場合は、そこの教育支援センターの延長線と捉える場合もありますし、また先ほど途中で見たように、どこにも繋がりのない子どもを何とか支援しなければいけないと強く考えているところは、先生方のチームがそういった子どもに絞っていくこともあるようです。

 

最後に、学校教育は当然変わっていかなければいけないだろうと思っています。子どもが自分の学習・勉強に対して、もっと主体的に自分自身で決めていく場面を意図的に作っていくことは必要ではないかと私個人としては思っています」

 

吉田氏:「こうした取り組みで大切なのは、あの自治体はこうやっているというような比較・競争的な視点を持つのではなく、協調的に他の自治体でやっていることと併存してコラボレーションしていこうという視点だと思います。他者をリスペクトしながら見ていく目を積み重ねていくことそのものが、地域作りや学校現場作りになると思うので、一緒に何かコラボレーションしていく形で、お問い合わせいただき、好意的な目で見ていただけると子どもにとってもよいのではないのかと思います」

 

齊藤氏:「東京都との取り組みを、今後、より良い空間にしていくために、我々もいろいろ他の事例からも学ばせていただいたり、さまざまなご意見をいただいたりする中でブラッシュアップしていけるとよいと思っています。同様の取り組みをされている方々も含めていろいろとご意見を交換する中で、より良い取り組みにしていければと思っていますので、一緒にこういった空間の可能性を広げていく活動にしていけるとありがたいと思います」

 

最後に石戸の「新しいチャレンジには失敗も試行錯誤もあります。産官学連携で、みんなで力を合わせ、子どもたちの多様な居場所を用意できるそんな社会にしていきたいです」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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