これからの社会を担う人材をどう育てるか、経済界からの教育改革への新たな提言
第176回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2025.3.7 Fri
これからの社会を担う人材をどう育てるか、経済界からの教育改革への新たな提言</br>第176回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2025115日、一般社団法人新経済連盟(新経連)の渉外アドバイザーである小木曽 稔氏を招いて、「新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、小木曽氏が新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて」

■日時:2025年1月15日(水) 12時~12時55分

■講演:小木曽 稔氏

一般社団法人新経済連盟 渉外アドバイザー

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

小木曽氏は、約45分の講演において、今後、学校がどういう役割を果たすべきか、政府および民間が何をすべきかなど、教育改革に向けた議論と取り組みについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

経済界からの視点で教育を現代版にアップデートしていく

新経済連盟(以下、新経連)は12年前に設立され、現在、500法人以上が参加しています。設立当初から教育も1つのテーマとして取り組んできました。「イノベーション」、「アントレプレナーシップ」、「グローバリゼーション」の3つを活動のキーワードとしていましたが、それらを統一する言葉として2022年から「ジャパントランスフォーメーション」を掲げています。ロゴも「JX」としています。

 

▲ スライド1・「JX」ロゴを使用している
一般社団法人 新経済連盟(新経連)

 

新経連の教育改革についての取り組みでは、まず、安倍政権発足直後の産業競争力会議で代表理事の三木谷 浩史が、プログラミング教育についての提案をしています。それ以外にも、英語教育における大学入試での外部試験活用、英語教育の小学校での早期実施、アントレプレナーシップ教育など、「時代が変化していく中で必要とされる教育」という考えに基づき、さまざまな提案をしてきました。

 

そうした取り組みの一環として、トランスコスモスの顧問である船津 康次氏に座長をお願いして次世代教育ワーキンググループを設置しました。現在、30社程度のメンバーが集まってこれからの教育について議論をし、2024年の春に提言を出しました。

 

提言では大きく3つの柱を掲げました。「アントレプレナーシップ教育の実現」、「教育DX」、「教職員が時代の編成に応じた教育に対してどのように対応していくのか」です。これらを3本柱に、教育を現代版にアップデートしていく考えです。

 

▲ スライド2・教育を
現代版に
アップデートする3つの柱

 

基本的には、失われた30年を取り戻したいということ、アントレプレナーシップを持った人材の存在がそのために不可欠ということ、従来の教育では問題解決・社会実装力などの資質能力の育成が困難ということを訴えています。こうした考えを基に、教育を現代版にアップデートしたいのです。

授業時数特例校制度を活用したシブヤ未来科を2025年のモデルに

3本柱のうち「アントレプレナーシップ教育の実現」では、まずは「As-Is」として現在の状況や課題を、「To-Be」として解決するための打ち手を示しています。新経連としては、文部科学省に対して次期学習指導要領の中でアントレプレナーシップ教育をしっかりと位置づけ、その枠組みとプログラムを明確にして欲しいと訴えています。

 

議論の過程でわかったことは、現状ではアントレプレナーシップ教育の定義が曖昧なのでアントレプレナーシップ教育とは何かをはっきりとさせること、それによって「どういう能力を開発したいのか」をコンピテンシーとしてまとめる必要があるということです。それを議論して提示しました。

 

▲ スライド3・「アントレプレナーシップ
教育の実現」への
課題(左)と
解決するための打ち手(右)

 

そして、実際にその能力を育むために必要な授業時数を確保するということを提案しています。同時に重要なこととして、効果測定方法も並行して議論をしないとなりません。授業時数の確保については、次期学習指導要領が2024年末に諮問されることがわかっていましたので、その前にどういうことが必要かを先出しで議論をするため、2024年春に提言を出しました。

 

文部科学省が諮問している内容でも、特例校をどう活用するかが議論項目に入っていました。我々も授業時数の確保において特例校の制度を活用する方法があるかと考えています。こうした取り組みの事例としては、東京都渋谷区が2024年度から実践している「シブヤ未来科」という科目が参考になると考えています。

 

我々としては今後やっていきたいのは、次期学習指導要領で議論をしてもらうために、日本だけではなく諸外国の状況も含めて、定義、コンピテンシーの問題、時間の確保の手法、効果の測定方法、先行事例などをパッケージとしてまとめて提案していくことです。

 

コンピテンシーとしては、そもそもどのような力を発揮させたいのかという視点で5つを挙げています。「ビジョン・ドリブン思考力」、「問題解決・社会実装力」、「セルフリーダーシップ力」、「共創コミュニケーション力」、「レジリエンス力」この5つがこれからの社会で生きていくために必要な要素だと思っており、それを導き出すための学習の重要性を訴えています。

 

▲ スライド4・これからの社会で
生きていくために必要な5つの要素

 

我々が考えるアントレプレナーシップ教育とは、パソコンの基本ソフト(OS)だと考えています。最下層にあって学習全体に横串を刺すものとして基本的な能力を育成する教育です。その上でさまざまな教科の教育、いわばアプリが動くのです。

 

▲ スライド5・アプリとOSの関係性を
アナロジーとして書いた、
アントレプレナーシップ教育の位置付け

 

次にアントレプレナー教育が小・中・高校、大学、社会人でどのようにマッピングされるのかについても示します。我々は義務教育で取り入れることを提案していますが、それだけではなく、高校や大学、社会に出てからもアントレプレナーシップ教育は必要だと考えています。また、アントレプレナーシップ教育と情報教育は密接不可分ですので、コンピテンシーを素養するのに情報教育は裏表の関係になり、その強化も必要です。

 

▲ スライド6・小中、高校、大学、社会人は
どのようなマップになるのか

 

我々が考えているアントレプレナー教育の参考事例としてシブヤ未来科について紹介します。2024年4月からスタートした渋谷区の取り組みで、我々もこれをモデルにしていきたいと考えています。教育目標は「自ら考え判断して学び続けていく自己調整力」、「多様な仲間と共同して新たな価値を生み出す創造力」、「自分が思い描く未来を実現していく挑戦力の育成」です。これらの要素は我々が掲げているデジタルコンピテンシーと重なる部分も多く、参考事例になると考えています。

 

▲ スライド7・授業時数特例校制度を
活用したシブヤ未来科

 

このシブヤ未来科では、教科の学習で培った見方や考え方・スキルは日常生活や社会の事象を考察する場面において生かされなくては本当の学力として身につかないとしています。

 

また、外部人材を活用してアントレプレナーシップ推進体制の充実・強化をしていくことも重要であることが示されています。これまでの教育科目とアントレプレナーシップ教育はまったく違うものですから、別途、アントレプレナーシップ教育用の仕組みを作って人材を集め、マッチングする仕組みを作らないと進まないと考えています。英語教育におけるALTをイメージしていて、それのアントレプレナーシップ教育版ができないかという提案をしています。規制改革会議を通じて文部科学省と議論を進めています。2025年6月の規制改革実行計画の前にアジェンダセッティングができないかと考えています。

 

▲ スライド8・外部人材活用の仕組みを
さらに構築し、アントレプレナーシップ
推進体制の充実強化をしていく

新経連の教育改革における2025年の具体的な取り組み

アントレプレナーシップ教育は、官民連携をしないと進まないと考えています。新経連の会員でも学校と連携をしながら、実際に教育プログラムに携わっている企業があります。そういった枠組みを整理し、官民コンソーシアムのような形で一緒に枠組みを作ってほしいと提言しています。具体的には新経連の推進プロジェクトとして何らかの名前をつけて、実際の学校現場での教育を変えていく取り組みに関わる事例を会員企業の発案のもとに実施していく考えです。そうした取り組みを「事例1番、事例2番」というように増やしていきます。提言の中でそう宣言し、2025年度に実践していく考えです。

 

教育データに関する提言では、標準化・統一化・オープン化の重要性を示しています。英国や米国の教育省でも、さまざまな情報をオープンにしているという事例があります。海外の取り組みも参考にしながら、新経連として今後、アジェンダセッティングをどのようにしていくかを検討していきます。

 

▲ スライド9・新経連としても引き続き
教育データのオープン化を進めていきたい

 

米国と英国で教育データをデータベースに蓄積している事例で私が衝撃だったのは、州を超えてデータを蓄積するシステムができあがっていることでした。次世代の教育の実現に向けて、教育基盤をきちんと整備しないと国力が下がるという大きな危機感があるのではないかと思っています。

 

次が学校のクラウド化についての提言です。学校現場ではまだ紙の資料のやり取りが多くあります。我々が調べた中では、例えば教師が作成する指導要録などが紙のままです。規制改革会議で、原則デジタル化することを前提に検討を進めています。

 

▲ スライド10・学校のクラウド化は
言うほど進んでおらず、まだ紙が残っている

 

最後に教職員の対応力向上についての提言を説明します。方向性としては2つあります。そもそも教職員がさまざま事務をやらなくても済むようにする方向性と、教職員のデジタル能力を引き上げていくという方向性です。新経連では、そのどちらもしていかなければいけないという提案をしています。

 

▲ スライド11・新しい事態に沿った
これからの教職員の形は2つある

 

教職員向けのリスキリングについては、「教員研修プラットフォーム」を文部科学省が整備を進めようとしていますので、それを有効に活用していきましょうと提案しています。

 

▲ スライド12・教職員向けのリスキリングでは
文部科学省の「教員研修プラットフォーム」の活用を検討

 

ここまで説明してきた中で、今後、教育データに関する議論が重要になると考えています。現在、文部科学省ともいろいろ意見を交換し、継続的に取り組んでいる案件です。教育データの利活用に関する有識者会議が設置され、新経連の会員企業であるライフイズテックの讃井 康智氏が委員として参加しています。2025年3月までに報告書をまとめるというスケジュールで動いています。

 

ライフイズテックの讃井氏の資料では、教育データに関する現状の進め方では目的が不明確なものが増えてしまう、自治体の財政負担が増える一方で子供たちに適したEdTechのツールや教材を選択する可能性が狭められてしまう、つまりベンダーロックインになりかねない仕組みであることなどが懸念として示され教育されています。

 

▲ スライド13・データ基盤の整備の在り方

 

デジタル庁を作るとき、デジタルの仕組みについて「密結合か疎結合か」という議論がありました。基本的に疎結合で作っていかないとオープンな議論になっていかないということが基本的な考えとして話し合われたと記憶しています。その考えに基づいて教育分野についてもきちんと整理されているのか、そんな問題意識を持って文部科学省と議論しています。

 

2025年は新経連としてどのようなことを議論していって、どのようなことをやるのかをご紹介します。まず、学習指導要領の在り方について諮問された内容をもとに議論をしていきます。これまでに提言してきた内容が盛り込まれるように議論していきたいと考えています。これが1つめです。

 

次に文部科学省やデジタル行財政改革会議で教育DXについては以前から議論されています。その進捗度合いを民間側からも検証させていただきたいと考えています。これが2つめです。また、教育データの利活用ガイドラインを2026年3月末までに改定をすることになっていますが、教育データの利活用についてどのように書き切るのかという問題点が残っています。それについても検証します。

 

▲ スライド14・新経連における
2025年の政策的動向の見通し

 

デジタル行財政改革会議でデータ利活用制度を検討し、2025年夏に基本的な方向を取りまとめるという方針を石破総理が2024年12月に示しました。その中では教育が1つの事例として取り上げられています。この議論がこれまでの教育データ利活用ガイドライン改訂の議論とどのように絡んでいくのかが現在では見えていません。ここも重要なポイントです。

 

データ利活用にまつわる方針は必ずしも政府部内できちんと議論されていません。夏をめどに方針を出すとなっていますが、3つの分野での利活用が検討されています。医療と教育と金融です。教育ではGIGAスクールでのデジタル教材をどう普及させるか、コンテンツにどうアクセスできるようにするか、システムアーキテクチャがすごく重要になると考えています。初等中等教育段階のシステムアーキテクチャやIP管理の実現方策などを議論していくことが大切だと考えています。

 

▲ スライド15・第8回デジタル行財政改革会議で
挙がった3つの事例

 

新経連としては、アントレプレナーシップ教育や教育DXとは何かを分かりやすく示していきます。新経連の会員企業同士が連携し、実際に学校の教育現場で新しいサービスを実装することを実施していきたいと考えています。

 

>> 後半へ続く

おすすめ記事

他カテゴリーを見る