概要
超教育協会は2024年11月27日、探究学習プログラム「クエストエデュケーション」を展開する株式会社教育と探求社の代表取締役社長 宮地 勘司氏を招いて、「今こそ必要な野性味ある学び〜探究学習20年の気づき」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、全国42都道府県500校・10万人以上の中高生が受講している「クエストエデュケーション」をはじめとする教育と探求社の取り組みについて宮地氏が講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
「今こそ必要な野性味ある学び〜探究学習20年の気づき」
■日時:2024年11月27日(水) 12時~12時55分
■講演:宮地 勘司氏
株式会社教育と探求社 代表取締役社長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
受験のための「やらされ探究」とは違うクエストの進め方や優位性に多くの質問
石戸:「学校を中心として地域社会を巻き込みながら社会全体を正のスパイラルに回していく探究学習をされていることが、とてもよくわかりました。私たちも22年前にCANVASという団体を起ち上げ、主体的で協働的で創造的な学びを作ることを始めたのですが、当初、なかなか学校に受け入れられませんでした。定量的に評価しにくい学びに対して学校はどう向き合えばよいのかわからないという声をかなりいただきましたが、20年前に学校と連携して取り組むにあたり苦労があったのではないかと思います。どのような苦労があり、それをどのように突破されたのか、そして、それから20年経ち学校の空気感はどのように変化したのかについてお伺いできますか」
宮地氏:「私が日本経済新聞社の社員だった頃、社内でこういうことやろうよと言ったのですが誰もOKを出しませんでした。だから独自の判断で資本を集め、パナソニックとNTTグループに交渉に行き、デジタルと経済コンテンツで日本の教育を変える会社を作ろうと巻き込み、外圧を活用して日経社内に教育開発室という部署を作りました。教育事業のインキュベーションが始まったのです。最初は日経新聞の役員から『宮地の言うことを聞く校長が20校いたら始めていいよ』と言われ、賛同者と資金をかき集めてのスタートです。
ただ、当時は学校に行くたびに、『そんなことは大学でやればよい。なぜ高校生が企業のこと学ぶんだ。高校生はもっと勉強をしたほうがいい』という意見がたくさんありました。しかし、一部の校長や先生たちには刺さりました。『まさにこんなものが必要だと思っていた』と。最初はほんとうに草の根的な取り組みでした。直感でピンときた先生たちが熱狂的に支えてくれたのが起ち上げ期です。
石戸:「今は、比較的順調に進められるようになりましたか」
宮地氏:「そんなことはないです。今500校といっても普及率では全国中学校・高校の3%程度です。お金が払えない、時間が取れない、やれる先生がいないというのが、導入に向けてのハードルです。ただ、学校文化を本気で変えたいと考えている校長や、生徒よりもむしろ先生の意識を変えたいという校長先生はいます。生徒は毎年卒業していきますが、先生が変われば学校が変わりますからとおっしゃいます。また、数年前に話題になった千代田区の麹町中では、改革の先導者の工藤校長が早い段階からクエストを入れていただき、「麹町中の改革はクエストから始まった」と著書に書いてくださったので、その頃からは問い合わせが多くなりました。今では話を聞いていただける機会も増え、先生からの紹介で自動的に広がっている感じです」
石戸:「導入後のお話しを伺います。いざ導入しても今ご紹介いただいたような良い成果が出る学校だけではないと思います。うまくやるためには、先生や学校全体のマインドセットが変わる必要があるのではないでしょうか。うまくいかなかった学校がもしあるのでしたら、どのようにそれをサポートして良い循環に転換したのか、教えていただけますか」
宮地氏:「学校ごとに担当者を付けています。教材を売り切って最後ではないのです。1人10校から20校近い学校を担当し、先生たちと密に連絡を取ったり、困りごとをお聞きしたりしています。年に2回ぐらいは授業を訪問することもしています。
最初の頃は『意味がわからない』、『生徒に任せても何も起こらない』など、ありとあらゆる苦情がありました。『街へ出て探せって指令をだされても、いきなり会社を訪問できないでしょう』というのもありました。多くは先生の誤解や、今までご自身がやってきたこととのあまりにも大きな違いからくるクレームでしたので、『でもやってみましょうよ』で乗り越えていけました。そうすることで、うまくいくと当社の社員の自信に繋がることも多くありました。だから最近はうまくいかないケースはそんなにないような気がします。私たちもノウハウを溜めてきたのですが、先生の教育観がシフトしてきたことが大きいです。
多くの先生は生真面目に、教え込みこそが学びであると思っています。例えば、クエストをやるとなると、事前に大和ハウスについて徹底的に調べてまとめて、知識をパンパンに詰め込んで授業に来て、『大和ハウスってこんな会社で・・・、こんな歴史があって・・・社長はこんな考えで・・・』などと話し始めると、生徒はどんどん受動的になっていくわけです。そんなとき、弊社のコーディネーターが『先生、生徒の学びの機会を奪わないでください』と伝えます。生徒はそんな知識や情報を自分で見つけていくからおもしろく、自分事となっていくわけです。先生が生徒の質問に答えずずっと我慢して、『キミはどう思う?』と聞き続けると、生徒があきらめて自分で取り組み始めたらもう火がついたということで成功です」
石戸:「宮地さんの著書『探求のススメ』も読みました。先生がむしろ知らないふりをすることによって、自分がやらなければという生徒の気持ちを焚きつけるというのは、子どもたちが主役の、子どもたちを主体とした学習環境をデザインするという点で非常に大事だと思いました。
視聴者からこのような質問がきています。『固定化された今の学校教育をリデザインする好機ではないかと思います。それを始動させる初めの1歩は何だとお考えになりますか』というものです。民間企業から学校に入られて色々な違和感や課題を感じられたのではないかと思います。全国の学校に変化が求められている今、探究学習という形でどこから取り組むと、学校文化が今の時代にアップデートされていくのかについてご意見を伺わせてください」
宮地氏:「私たちの目的は学校教育が変わることで生徒の体験や学びが変わって、生徒の人生が変わって、社会が変わることです。入り口がどこかは極めて難しい問題だと思っています。本来的には、先生の意識が変わることは1つの大きなポイントだと思っているので、ティーチャーズ・イニシアティブという一般社団法人も作って、先生専門の研修も行っています。
ただ、普通にいる先生に『先生の教育感が変わった方が良いですよ』と言っても、『は?』となるだけです。私達のフィールドでは『生徒が変わることで先生の意識が変わるということが頻繁に起きています。まずはやってみてください』とお話しします。ワークブックなどは、手取り足取り詳しく書いてあります。全く右も左もわからないので過剰すぎるぐらいのサポートをしています。それにそってやっていき、生徒が発火する瞬間を体験すると、先生の内なる教育観のシフトが起こります。ネガティブだった先生ほどむすろ『これは良い』となり、そのあとは先生たちが自動的に動き出して、同じ学年の先生同士で話し合いを開催することや、『校内発表会を行いたいのでこうしたいけど宮地さん来てくれますか』となるのです。
このように先生のマインドセットが変わるのがポイントです。でもそれは簡単には変わりません。生徒が変わったことを見るのが1番大きいのではと思いました」
石戸:「ありがとうございます。その発火する瞬間に宮地さんはゾクゾクされているわけですね」
宮地氏:「そうです。ゾクゾクしています」(笑)
石戸:「高校生の保護者の方からこのような質問がきています。『最近だと大学でも推薦入試や総合型選抜に探究活動が使えるとばかりに、学校側がお膳立てしたような“やらされ探究活動”に従来の教科学習でも部活でも忙しい令和の生徒たちは、疲弊している感も垣間見られます。小中学校の時から探究活動をやってきた新指導要領世代が高校生になり、最近の探究活動にどのような変化を感じていらっしゃいますか』というものです。確かに最近は探究学習ブームと言いますか、探究と言いながらも押し付け型の探究もどきであることや、自発的、内発的な動機というより大学に入るための探究学習なども増えているかと思います。サポートを求められる企業にとっても依頼が多くて疲れているようなこともあると聞きます。そういう現状をどう見ていらっしゃるのか、課題やこれからやるべきことについてご意見を伺えますか」
宮地氏:「仰る通りのことが起こっているなと思います。私も最初にこの事業を始める時、企業からお金をいただき、学校は無償で配布するのが早く広がるのではないかと考えましたが、それだと先生はすぐに辞めてしまう。むしろお金の工面もしながら導入のところから一緒に考えることで、先生にも共犯になってもらう。その代わり先生を絶対に失敗させないぞ、という意気込みで取り組む。そんなふうに思ってスタートしました。
今後、探究が増えていくと、子どもたちがどんどん企業に押しかけて、あれを教えて、これ教えてとなって企業が受け身になっていく未来も見据えています。今では、私たちの取り組みが企業のマーケティングの場になることに対しても大きな懸念があって、企業にはここが宣伝やマーケティングの場所ではないことも伝えています。
質問者の方がご指摘された通りのことが起こっているのは、結局、偏差値の代わりに探究がはまっただけで、構造は何も変わっていないからです。できる子は器用にやるし、なおかつそのことが人生を開きます。例えば、両親が、政治や世界の紛争、原発問題、景気などの話をしている家庭と、仕事もしないでふらふらしていてケンカが絶えないような家庭の子どもでは、その子たちが持っている言語や世界観が違います。ブレストで好きなことを話し合ってみようとなったときに、すでに差が生じますので、私たちはすごく心理的なハードルを低くして取り組めるよう工夫をしています。
探究ブームになって、小中学校からやっていれば探究の型を真似ることは、日本人は上手です。なにか調べて話し合って発表して『はい、良くできました』と。それでは今までの学習観と同じです。私が探究を大事にするのは、やはり自分の魂が震える学び。そんなことにこどもたちが一生懸命になるからです。ワークブックに40種類の表紙を作ったり、おもしろいアニメーション教材をつくったり、企業からの行きた課題「ミッション」をこどもたちに届けたりするのは、多様なこどもたちが、そのどれかが入り口になって発動することを期待しているからです。そうなると自然に学び始める。逆に言うと、それが起こらないと膨大な時間をかけて取り組んでも、無駄な探究をやっていることになると思います」
石戸:「色々と課題もありつつも、一方で広がれば広がるほど質が高いカリキュラムも入ってくる可能性があると思うと、広げていくことも大事かなとは思います。
AIに関する質問もいくつかきています。生成AIがこれだけ広がることによって、子どもたちの探究の仕方や探究のあり方も変わってきていると思います。生成AI時代の探究学習の未来について、考えていらっしゃることを教えてください。同時に、生成AI時代だからこそ、より一層子どもたちに求められる力はどういうことなのか、どういうことを意識されていらっしゃるのかについても教えてください」
宮地氏:「良い質問ですね。もうまさにど真ん中だと思います。ICTやAIが進めば進むほど、やっぱり今まで厳しい競争に晒されてきた人間は、全部機械に置き換わる力を養ってきたとのではないかと怯えるわけです。それを取り除いた時に人間に何が残るのかと。僕は主観と客観ということについて考えます。今の世の中、客観があまりにも優位です。データやエビデンスがとても大事あつかわれ、一方で主観は迫害されています。『キミの意見は常に客観的で素晴らしい』と言われる一方で『キミの意見は主観的なんだよ』となじられる。人は客観性を求めるがあまり、自分の意見をひた隠しに隠して、表面的に合わせている。これが予定調和、前年踏襲を生む。つまり、自分の意見が言えなくなっています。人間はもっと主観を伸ばさなければいけません。自分の意見、自分の希望、自分の理想、自分の夢や愛は、自分の主観から生まれてくるものです。そこを鍛えるというか、主観を磨くことが、これからのAI時代においては大切だと思います。AIでもプロンプトが大事だと言われているように、こちらの意思が大事です。AIに支配されるのかどうなのかという議論もありますが、それは人間自身が決めることだと思っています。AIに委ね、隷属していけば、そのような未来が来る可能性もあるし、主体性を握りしめてAIと有効な関係を築くことができれば異なる未来もありうるでしょう。野性味のある学びを通じて、骨太な人間を生むことが大事だと思っています」
石戸:「探究するにあたって生成AIを活用している学生も増えてきていると思いまして、使うことによって探究の質がどのように変わってきているでしょうか」
宮地氏:「そこに関しては話せるような具体例はまだないですね。授業で積極的に使っていたり、逆に先生が使わせるかどうかを逡巡していたり。現状、さまざまな使われ方があり、先生たちもまだ戸惑いがあると思います。具体的にどのようになっているのが、方向性を持って話せるような材料はないです」
石戸「企業の参加者が多いため、企業はどのように参画されているのかという質問がきています。まず、企業が関わるにあたり、どういうプロセスを経ているのでしょうか。また、子どもたちの社会との関わりに関する海外との比較データに関しては問題視されている方も多いかと思いますが、海外に追いつく、もしくは追い越すためにはどうすればよいのかという質問がきています。海外の探究的な学びの実態とそれとの日本の比較、国際比較の視点からの日本の優位性についても教えて下さい。より一層力を発揮するにはどうすればいいか知りたいです」
宮地氏:「企業との関わり方ですけど、これに参画している企業はみんな協賛という形で参加しています。年間の協賛金をいただいた上で参画していただいていますが、目的はいくつかあります。1つはいわゆるESGのSでソーシャル、社会をより良くするためです。次世代に本質的な学びを提供することが社会を良くして、自社もサステナブルになるという社会貢献的意識からやってくださっている企業もあれば、広報マーケティングとしてエンゲージメント、いわゆるZ世代というか、そういう世代とのエンゲージメントを作ろうということでやっている企業もいます。
10年以上やっている大和ハウスは、すでに数万人の受講生を生み出していますが、大学卒業後毎年4~5人ぐらいはクエスト受講生が入社していると聞いています。このように企業にはESG、エンゲージメント、人材の視点で協賛いただいています。クエストを一つのプラットフォームとして企業の価値をどう高めていくのかということにも協力しながら進めています。
海外との比較では、例えばデンマークには教育視察で行きましたが思想が違います。象徴的なことが2つあります。まずはデンマークが発祥と言われている森の幼稚園です。3歳から5、6歳の子たちが冬も雨の日も林の中で転げ回っているのです。わら山を登ったり、木を削るなど、危険なハラハラすることもやっていてこどもたちは自由に楽しんでいます。園長先生に、森の幼稚園の意義について尋ねました。私は、自然と関わることで子どもたちはたくましく育つ、みたいなことかと考えていましたが、答えは全く違ったものでした。『子どもたちは毎日、リスクに出会い、そのリスクを乗り越えることで成長するのです』。そして、子どもたちが学び成長していく中で、必ずコンフリクトが起こります。遊び道具や場所の奪い合いなど。そしてそれを自分たちの力で解決していく、『ここは、民主主義を学ぶ場なんです』と言われた時、どどーんと頭をぶち抜かれた気がしました。
私達にとって、「民主主義」とは三権分立とか、衆議院の定数がいくらでとか、概念的に頭で学ぶものかと思っていました。しかしデンマークの子どもたちは、それを体験として血肉で学んでいるのです。そのことが彼らの人間の内なる基盤として育まれているのです。コペンハーゲンにある自由高校では、全てのことを生徒も1票、先生も1票の投票で決めています。校長が辞めたら次の校長を誰にするかということも、生徒会執行部が公募し、書類審査をした後、校長候補の数人がホールでプレゼンテーションして、生徒も一票、先生も一票、全員投票で決めるわけです。教育のスタイルが、国を作る文化になっていると感じました。
オランダのホフステードの国民文化研究では、日本人は変化に対する恐れが圧倒的に高いとされているようです。ただし、変わる勇気を持つと日本人はすごい力もあると思いますし、教育分野で変化を起こすことも、まだ間に合うと思います。生徒が学びの主役であることを思い出し、それに即して私達の思い込みを手放し、教育を本質的に変えていく、そういった取り組みが大事だと思います」
最後は石戸の「日本はポテンシャルがあるので、必要なのは変わる勇気という言葉は、その通りだと思います。クエストの普及率が3%とのことでしたが、100%の学校に教育と探求社が入ることを期待しています」という言葉で、シンポジウムは幕を閉じた。
後日回答
※本シンポジウムでは、視聴者から多数の質問が寄せられました。以下、後日宮地氏から文書にて回答いただいたものをご紹介します。
- 質問1 「探求学習」が重要だとはだれもが考えているけれど、それを授業に落とし込むのは知見を集めている段階だと考えます。
多様な子供たちを多様なまま授業を構成するのは大変です。探求は先生が引っ張るのではないので、どうするのでしょうか。興味深く受講します。
宮地氏:「そうですね。確かに実際の授業で効果を出すことは簡単ではないと考えています。それはこれまでの教育観そのものをシフトしなければならないからです。大きな仕事だと思います」
- 質問2 人間を超えるスーパーインテリジェンスが出現しようとしている今、最も教育に求められることは何とお考えでしょうか?
宮地氏:「まさに人間本来のチカラですね。願いや夢、愛や思いやり、主観に基づく力や非認知能力など。私は「野性味」と呼んでいます」
- 質問3 探究学習を導入した学校において、生徒や先生にどのような変化の声がありますか?
宮地氏:「生徒:学びとは楽しいものだ、時分でやるから楽しい、理系とか文系とか関係ない、
教師:先生になってよかった、教えないことはつらいけど、乗り越えると楽しい」
- 質問4 参加企業はどのようにして参加できるのでしょうか?また、参加すると企業側はどの程度の時間が必要になりますでしょうか?
宮地氏:「参加企業には協賛というかたちでお願いしています。担当部署は、CSR、サスティナビリティ系、広報IR、人事部、経営企画など、工数は企業やその目的によって異なります。担当者と上司で現業を持ちながらやる場合もあれば、20名程度の社内プロジェクトチームを組むこともあります」
- 質問5 他の授業と比べて、クエストエデュケーションにはどんな特徴がありますか?
宮地氏:「生徒が主体的になる。気持ちが動くこと。学びがその後の活動に好影響を与えること。昨年行った10年後調査においても、後輩に勧めたいが80%以上。チャレンジ精神や他部署との連携力が身についたなどの声が聞かれました」
- 質問6 ビジネルモデル、収益、売上を教えてください。
宮地氏:「学校からは生徒一人年間4千円程度をいただき、企業からは年間の協賛金をいただいています」
- 質問7 このプログラムを通じて子どもたちは何を得て、どのような将来を獲得したのでしょうか?
宮地氏:「自ら考える力、主体的に生きる力、協働する力、レジリエンスなど、通常の授業では得られない力を得ています。10年後の卒業生に対して行った調査はこちらにあります」
- 質問8 受験や大学入試はどのように変わっていくべきだとお考えでしょうか?
宮地氏:「単なる平等主義や目に見える力のみではなく、その子の生きる目的に沿って深く学ぶための大学となり、それを踏まえた入試となるべきだと思います。人口拡大期は競争による選別が有効でしたが、全入時代においては、多様性やより本質的な学びが重要となるべきです。社会の仕組みがそこに追いついていないと思います」
- 質問9 起業理念に掲げられている「自分らしく、生きる。」という言葉は素敵ですね。
今の時代に必要だと感じています。今後の展望についてお聞かせください。
宮地氏:「ありがとうございます。だれもが自分が生まれてきた意味を感じ取り、他者の意見を聞きながらも最後は自己決定して生きていける社会、その結果、他者の尊厳を守り、主体性と創造性が満ちた社会。そのことを教育を起点にしてつくっていきたいと考えています」
- 質問10 すばらしい内容の共有をありがとうございます。コースで学ばれた生徒さんたちが、実際の社会に出られてから、コースで学ばれた成果をどのように生かしてるかなどの検証はされていますでしょうか?
宮地氏:「昨年10年後の卒業生に対して調査を行いました。詳しくはこちらをご覧ください」
- 質問11 探究学習において、教師の役割はどのようなことだとお考えですか?
宮地氏:「ティーチャーからファシリテーターへ。知の普及者から、学びの伴走者へ」
- 質問12 今後の展望をお聞かせください。
宮地氏:「学校で本質的な探究学習が広がることで、教育観が更新される。同時に、社会においても知力、学力だけではなくて、人間らしい力、非認知能力、多様性が本当の意味で大切になる。そんな社会を作るために必要なことをやっていく」
- 質問13 スタッフのスキルアップのため、どのような研修を行われているのでしょうか?
宮地氏:「自分自身の人生を振り返る。身体性の学びを体感する。個性や多様性について考える」
- 質問14 流山特別支援学校の生徒のグランプリを取ったプレゼンをぜひ拝見したいです。
宮地氏:「こちらに掲載しています。動画の6分29秒あたりからをご覧ください」
- 質問15 探求学習の最終ゴールはなんだと思われますか?
宮地氏:「学びに最終ゴールはないと思います。強いて言えば、学ぶ楽しさを知り、生涯学び続けること、ですかね」
- 質問16 生徒それぞれの評価方法はどのように行われるのでしょうか?
宮地氏:「評価については、視点などの提示は行いますが、学校の考え方、導入目標にお任せしています」
- 質問17 探求学習に特に重要視されているスキルや知識はどのようなものですか?
宮地氏:「スキルや知識は、探求の結果身につけていくので、事前にこれが必要とは考えていないです。楽しむ力、率直に物事に向き合う力があれば導入はスムーズに行くことが多いですね」
- 質問18 生徒たちの言葉の中に、学制150年の経過の中で、指導する側が見失ってきてしまった学びの本質的な価値があると受け止めました。ある意味固定化された今の学校教育をリデザインする好機だと思います。それを始動させる「はじめの一歩」って何だとお考えになりますか?
宮地氏:「そのように評価していただき、嬉しいです。まさにその可能性を含んでいると思い、今の仕事をやっています。先生の意識が変わることが大きいことだと思いますが、生徒の変化を見てこそ先生の教育観がシフトすることも多いです。まずはやってみる、からすべてが始まると思っています」
- 質問19 AIが発達し、予測不能なこれからの社会において、子どもたちが必要だと思われる知識、能力、資質は何だと思われますか?
宮地氏:「身体知性、感じる力、古代の智慧ですかね」
- 質問20 探求学習プログラムを構築する際に特に重視されていることはなんですか?
宮地氏:「心の動き(情動)、ユニバーサル性(だれでも参加できる)、活動よりもそこに学びはあるのか?」
- 質問21 生徒・大人の変容の追跡評価なども含めて、とてもわかりやすいご説明ありがとうございました。素晴らしい事業活動だど考えますが、この事業活動をより多くの学校・生徒・大人に拡げていくためにハードルとなっている「もの・こと・ひと」はどのような?
宮地氏:「ありがとうございます。ハードルは、学校の導入資金、授業時間の確保、指導する先生のアサイン、校長・経営者の意識ですかね」
- 質問22 規模感のスライドをもう一度、見せていただけると嬉しいです。
宮地氏:「どんな学校に導入しているかの箇条書きのスライドでしたので、テキストでお答えします。全国41都道府県で約500校、10万人の生徒が学んでいます。3割が公立校、偏差値は30台から70近い学校まで。商業高校、工業高校、総合高校などもあり」
- 質問23 企業は協賛でしょうか?似たようなことを小さくやっているのですが、学校はもちろんのころ、企業からもお金をいただくスキームが作れず苦戦しているので、これだけ協力していただける背景には何があるのか、仕組みをお伺いしたいです。
宮地氏:「企業は協賛です。協賛いただけるための企業のメリットを考え抜き実践してきました。社会貢献や人材育成効果です」
- 質問24 探究活動のパイオニアとしてのお話、楽しみにしておりました!
高校一年生の保護者です。昨今では大学の推薦入試・総合型選抜に探究活動が使えるとばかりに、学校側でお膳立てしたような「やらされ探究活動」に、従来の教科学習にも部活にも忙しい令和の生徒たちは疲弊している感も垣間見えます。小中学校の時から探究活動をやってきた新指導要領世代が高校生になり、最近の探究活動にどのような変化をお感じになっていらっしゃいますか?
宮地氏:「ありがとうございます。そのような意識を持っていただける保護者の存在が何よりの力になります。「やらされ探究」の増加は大きな問題と懸念しています。Whyではなく、Howを重視する日本のビジネスマンや先生方の特性も大きいですね。どうやればうまくやれるか、にすぐに意識が向かってしまう。小中学校で探究をやってきた生徒による影響はまだ大きくは感じません。数としてもそれほど大きなものに放っていないので。それよりも世代が進むにつれて合理性とか、客観主義、コスパ主義などが進み、こじんまりとしてきていると思います。もう一皮むけてほしいですね」
- 質問25 ありがとうございました。子どもたちの声に感動してしました。2点質問させてください。
①指導要領という枠組みはありますが、教科書、教材でも、キャリア教育的な内容は強化が進んでいると考えてはいます。学びのモチベーション、意識改革には重要だと思っています。現在の教科書、教材に対する印象がありましたら、お聞かせください。
②中学校と高等学校で、取り組み方の違い、結果の違い等ありましたらお聞かせください。高等学校だとより具体的に社会につながるかと思いますが、中学校ではそうもいかないかと思いました。(タッカーホール懐かしい。。。)
宮地氏:「ありがとうございます。
①そうですね。文科省の指し示す方向性にはかなり合致していると思っています。ただし、教科書は旧来の教育観のなかにあり、あまり革新が見られません。教え込みの文化ですね。それと、先生方のメンタルモデルの変化も一部に留まっているという印象を持っています。まずは体験してみると生徒の変化に学ぶことも大きいのですが。
②中学も、高校も、同じプログラムをやっています。汎用的なプログラムとして設計していますので、そこで何が起こるかは学校の目的設定、クラス文化、生徒の志向により変わってきます。個人的には知識や論理性が高まる高校生よりも、無垢で斬新な中学生の提案のほうが面白いと感じています」
- 質問26 貴重なお話をありがとうございます。参画企業はどのように選定または募られていらっしゃるのでしょうか?例えば、学校側からの希望なども吸い上げていらっしゃるのでしょうか?
宮地氏:「企業からは協賛金をいただいておりますので、企業向けには営業を行っております。
業種や社風を考慮し、学びに意識のある企業で、マーケティング目的ではない企業に参加をお願いしています」
- 質問27 海外との差異についてのお話しがありましたが、ご説明をいただいた様な事が皆でできて、そしてマインドが変化して、やっと海外の教育や、それを経験した人が企業を運営する時代に追いつくのかもしれませんが、それでは進んだ海外の教育、企業から排出した人たちの世界にまた遅れてしまうのかもしれません、クエストの先、海外より先に進むためにはどのような取り組みが必要だと思われますでしょうか?
宮地氏:「海外ばかりが先行しているとは考えていません。世界の学力調査では日本の15歳時点の学力は、概ねトップクラスです。これは日本を戦後の復興から立ち直らせた教育政策と真摯で有能な教師たちの力によるものだと思っています。
ただし、変化に対するおそれを持ち、予定調和、前例踏襲を繰り返し、出る杭を打ち挑戦しない文化を築き上げてしまったことに対して疑問を呈しています。日本の、日本の教育の素晴らしさはたくさんあります。他国に学びつづ、自国にも誇りを持って進んでいけたらいいと思っています」
- 質問28 「正解のない問い」について考えるのは、幼児から挑戦できるのでしょうか。幼児の家庭学習においても、できる取り組みがあれば教えていただきたいです。
宮地氏:「あると思います。こどもたちは本来「問う力」を持っています。あれは何、これは何?どうしてこうなるの?そのことに答えたり、共に考えたりする中で、問いを持つことの楽しさや可能性をそのままに育つことができると思います。その芽を摘んでいるのは概ね大人や社会だと思っています」
- 質問29 今後の探求学習の発展について、どのような展望をもっていらっしゃいますか?
宮地氏:「本当に意味のあるものにできるのか、ここからが正念場だと思っています。「やらされ探究」として消費されてしまうのか、より深く本質的なところに向かい、学びが進化できるのか。大きなポイントですね」
- 質問30 参加されている学校は私立の学校が多いですか?公立学校の割合はどのくらいでしょうか?
宮地氏:「公立校は、35%くらいですね。おおよそ」
- 質問31 各校での20年の実践ナレッジを社内でどう溜めて(共有されて)いらっしゃるのでしょうか?
宮地氏:「各校の実践については、社内で統合的に蓄積はしていません。毎年総括して、次年度に活かす、というような活動をしています。昨年、探究学習に10年前に取り組んだ生徒たちが今、どのような意識を持っているか、という調査を行いました。詳しくはこちらをご覧ください」