格差なく生成AIの利用が進むような教育啓発の促進が不可欠 第169回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2024.12.6 Fri
格差なく生成AIの利用が進むような教育啓発の促進が不可欠 第169回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2024年109日、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) 准教授の山口 真一氏を招いて、「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』から見る生成AIと教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

シンポジウムの前半では、山口氏が「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』」の調査結果と教育分野での生成AI活用について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

>> 前半のレポートはこちら

「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』から見る生成AIと教育」

日時:2024年109(水) 12時~1255

講演:山口 真一氏
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(
GLOCOM) 准教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

生成AI時代に子どもたちに求められるのは考える力

石戸:「諸外国と比較して、日本における生成AIの利活用の状況はどういう状況でしょうか。山口先生のこれまでの調査研究から、諸外国と比較した日本の生成AIの普及の状況について教えてください」

山口氏:「私の知る範囲では、調査結果によってバラバラだという印象もあります。私自身が生成AIの利用というテーマでまだ国際比較調査をやっていないので、そのエビデンスは出せないですが、いくつか出てきたものを見ると、生成AIの利用率や関心度について日本は低いという結果もあれば、いやそんなことはない、同じくらいだという結果もあって、どれが正しいのか正直よく分からないという印象は持っています。

日ごろから継続的に利用している人は、もしかしたら少ないのかなというのも感じてはいます。あと、仕事での利用はおそらくあまり進んでいないです。中小企業の利用は少なくて大企業は多いという話をしましたが、それは海外でも同じような状況ですので、日本だけが特別に低いということはないと理解しています。ただ、もっと利用が進んで、それによって恩恵を享受できる余地は大きくあると感じていますので、そういう意味ではまだまだ可能性があると思います」

石戸:「日本はデジタル敗戦と言われているわけですが、デジタルの利活用の促進がなかなか進まなかったことがデジタル敗戦の理由のひとつではないかと思います。AIにおいても、日本がAI敗戦とならずAIの利活用の先進国になるためには何をすると良いのでしょうか」

山口氏:「その話は、政策的含意のところにも繋がっていくと思いますが、AIに関して考えるときは2つの方向があって、ひとつは高度人材です。つまりAI開発の話です。AI開発で日本の企業がしっかりと世界をリードしていくことは重要な観点です。もうひとつは、生成AIをうまく活用してもっと効率的に業務をこなしていく、学業にも活かしていくということです。私は社会科学の人間なので後者に関心があります。日本はこのテクノロジーの活用というものが一般論として進みにくいと思っています。それはさまざまな背景があると思いますが、例えば新しいものを取り入れるのが苦手な文化があるのかもしれないです。特に企業にそういう文化があると思っていて、リスクにフォーカスし過ぎて活用をなかなかしないという側面があります。企業が積極的に活用するようになれば、やはり必要だということで人々にどんどん広まっていくでしょう。

もうひとつ。私が出して欲しいと感じているのは事例です。今日も事例を色々出しましたが、こういう活用法があるということを分かっている人があまりに少ないので、それを出すのは大事なことだと思っています。まとめると、放置してもおそらく格差なく普及が進むことはないので、しっかりとメリットを打ち出して、その上でこういうリスクもあれば、適切な活用をしましょうというところを提示してそれをあまねく人に伝えていくことが重要ではないかと感じています」

石戸:「視聴者からは教育周りの質問がたくさんきています。ひとつは、『AIリテラシーを学ぶにおいて特に重要なポイントはありますか』というものです。今回は初等中等教育に関わる視聴者の方も多いので、幼少期からというのも念頭に置きつつ、AIリテラシーとしてこれを強調して伝える必要があるのではないかというポイントについて教えてください」

山口氏:「重要なポイントはいくつかあると思います。ひとつは適切な利用方法。つまりどんなプロンプトを書くとどんなことが返ってくるのかです。並びに、どんなメリットがあって、どんな目的を果たせるかということ。これはしっかり伝えて欲しいです。こういう話になると、ついリスクの話ばかりにフォーカスしがちですが、ネガティブな話ばかりだと前向きに使おうという気持ちになりません。先ほどのベネッセの話はよいと思っていて、こんなに便利だということを、対象年齢が子どもたちになっているサービスで体験できるというのは、すごく重要なことです。役に立ったという体験が前向きな利用に繋がるので、ここにまず力を入れて欲しいです。そのうえで、でもリスクもあります、そのリスクとはどんなリスクなのか、例えば偽情報を、悪意をもって使う人がいる、ディープフェイクの画像や動画で騙そうとしている人がいるということなどです。あるいは、生成AIが出してくる回答には誤った情報もたくさん出てくるというようなハルシネーションの話です。そういったリスクの話をしっかりする必要があると思います。ですから、誤った情報周りの話とポジティブな話、この2つをしっかりと押さえて伝えていくことを、まずやっていただきたいと思っています」

石戸:「次はAIでは必ず出てくる質問です。『人間を超えるスーパーインテリジェンスが出現しようとしている今、子どもたちに求められる力は何か。最も教育に求められることは何か』というものです。ご意見をお聞かせください」

山口氏:「私がよく言っているのが、生成AIの活用において、人間との協働ということを意識した方がよいということです。数十年後どうなっているかは分かりませんが、少なくとも現状、近い将来の話で言うと、生成AIに全部任せておけばあらゆる経済、政治がうまくいくということはないと思います。政治や経済、企業活動や生産活動などさまざまなものについて、生成AIを道具として活用するという視点がまずとても重要です。人間側に知識があって、疑問に思ったり考えたりするなかで生成AIを活用するととてもよいアウトプットが出てきます。

一方で、人間側にまるで知識がないとか、あまり考えない評価しない場合はうまく使えていないというケースが多いです。自治体で導入したけれど、あまり効果がなさそうなのでやめたという話も聞きますが、それは使っている側にも課題があるのではないかと思っています。そういう意味でいうと、単純作業は生成AIが合っています。例えば議事録を作るなど。そこから出てきたアウトプットを活かして、それを上手く自分の糧として新しいものを生み出していくという行動が今求めらていると思います。

先ほどの質問に答えると、今、子どもたちに求められているスキルが劇的に変わっているというわけではないと思います。学校ではしっかり勉強して思考力を身に付けますが、そのスキルが無駄かというと、全然無駄ではないと思います。考える力はとても大事です。その上で、AIに置き換えられる部分もあるので、疑問をしっかり出して、それを自分なりに分析する、調査する。そういったことをクリエイティブにやっていく能力が大事だと思っています。

他方、これと逆行するような現象が今起きています。情報が溢れる高度情報社会になって、私がいつも懸念しているのが、人々が考えなくなったということです。情報や知識は調べればすぐ出てくるので、今の若い人たちの知識量は上の世代の人たちが若い頃よりはるかに多いです。しかし、情報量があまりに多いので、今度はそれをいちいち吟味したり考えたり、自分で考えることを全然しなくなってしまう。こういう考える能力のない人は、おそらく生成AIに置き換えられてしまう。なので、生成AI時代に必要な能力は考える力だと思っています」

石戸:「山口先生のプレゼンの最後にも、生成AIを生徒たちが使いこなすという話と、教育の中に生成AIを入れるという両面があったかと思いますが、後者に関して言うと、動画の教材とベネッセさんの教材のような家庭教師のように機能してくれる生成AIがあると、学びの方法が抜本的に変わるのではないかと思っています。そんな時代に、学校に求めることはどのようなことがありますか」

山口氏:「私は教育の専門家ではないですが、私の専門的見地や経験からいうと、まずはうまく活用してほしいというのがあります。活用することによって、問題となっている教育者の残業なども私は軽減されると思っているので、使えるものは適切に前向きに使ってほしいです。そういった中で、何を重視していけばよいのか。私の専門でよく言っているのが、ディスカッションをもっとして欲しいということです。なぜディスカッションの話をよくするかというと、SNSを研究している立場からすると、日本はとても議論が下手です。まず、批判と誹謗中傷の区別がまるでついていないので、攻撃的に人格否定をします。この人の意見が気に食わない、だから人格否定をしようということがかなり起きます。これがネットの誹謗中傷という問題です。

もうひとつあります。それは受け手側も、正当な批判を自分への攻撃だと思いがちということです。批判を受けるとこれは誹謗中傷だとすぐ言ってしまいます。これはなぜ起きてしまうのかというと、子どもの頃から議論をするという場面があまりに少ないからです。私が教育を受けてきた経験を振り返っても、なかなか議論の場はなかったです。知識など一方的に教えるものは、生成AIでもできますし、そこは簡略化できるかもしれません。もちろん知識は大事ですが、それだけではなくて、考える時間や議論する時間にもっと教育の時間を割いてほしいです。それこそが、ゆくゆくは生成AI時代に求められる人物像にも繋がっていくのではないかと思っています」

石戸:「視聴者から『生成AIの利用に関して格差なく多くの人が利便性を享受できるようにするにはどうすればよいでしょうか』という質問がきています。日本において、格差なく全ての人が生成AIの利便性を享受できるようにするためには何に取り組んでいけばよいかについて、最後一言お願いします」

山口氏:「政策的含意の2めで、今日お話した通りです。社会的階層や企業の規模によって活用度合がまるで違う。これの根源は何かという話です。格差の話をするとよく出てくるのが所得の話で、つまりお金がなくてできないと言われますが、それは当てはまりません。ChatGPTなどは無料でも使えるからです。ではなぜ使わないのか。予想ですけれど、適切に活用する以前の問題で、そもそも存在を知らないというレベルの話になっていると思っています。ですからやはり大事になってくるのは、教育啓発です。人々にまず関心を持ってもらうのは大事であって、さらにそれがあなたの役に立ちますということを伝えていきたいです。企業の格差の是正のためには、活用事例を中小企業まで含めて伝えていくことが大事だという指摘は、よく政府にしています。人々に対しては、ショートムービーやインフルエンサーなども活用しながら、幅広い層に生成AIはこんなことができる、でもここには気を付けようということを伝えていくことが大事だと思っています。

今日の講演で縦の深掘りと横の広がりのときに言わなかったことがあります。それは何かというと、縦も横もリッチにできる方法がひとつだけあって、それは教育課程に導入することだということです。最終的には、教育課程に生成AIを導入していくことが何よりも効果的なのは間違いないと思っています。ただその前段階として、インフルエンサーの活用や講座を実施するなどで、幅広く啓発していくことが大切な今のフェーズだと感じています」

最後に石戸は、「本日の調査結果についてネットで検索していただけると全文が無料で読めますので、ぜひ読んでいただき、生成AIについての実態を広くご理解いただきたいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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