概要
超教育協会は、2024年8月28日、ソフトバンクロボティクス株式会社 教育事業推進室の長﨑 徹眞氏を招いて、「人型ロボット『Pepper』を活用した生成AI教育~生成AIで子どもたちに最先端の学びを」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、長﨑氏が新たに生成AIを搭載したPepperの教育現場での活用事例と可能性について紹介し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「人型ロボット『Pepper』を活用した生成AI教育~生成AIで子どもたちに最先端の学びを」
■日時:2024年8月28日(水) 12時~12時55分
■講演:長﨑 徹眞氏
ソフトバンクロボティクス株式会社 教育事業推進室
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
子どもたちには「できるだけ自由に」Pepperを使わせることが大切
石戸:「今回ChatGPTが搭載されたことによって子どもたちの発想や探究において、変化はありましたか」
長﨑氏:「ChatGPTに何かを聞いてヒントをもらうとか、ディスカッションのパートナーとしてChatGPTを搭載したPepperを使うといったところで変化が大きかったと思います。先日、2024年度のSTREAMチャレンジの取り組みの中でワークショップを実施しましたが、まず社会課題は何かと考える時に、ゼロから考えるとなかなか踏み出しにくい部分があると思います。それをChatGPTにどういう社会課題があるのか、どのように分類したら考えやすいかと投げると、きちんと分類してくれて、自分たちが取り組みやすい形を作ってくれます。相談相手としてのツール、かつ知識を引き出してくれるツールが登場したことは、探究学習においては非常に大きいのではないかと思っています」
石戸:「このような質問がきています。『物理的なロボットを介してAIを学ぶ、活用する意義は何だと思いますか』というものです。これまでも、ロボットを介して子どもたちがプログラミングを学ぶ環境を整備することに取り組まれてきましたが、プログラミングやAIに関して、ロボットを使うことの意義について、どのように考えているか教えてください」
長﨑氏:「ひとつ大きな意義は、子どもたちにとって分かりやすく、かつ現実として捉えられるということだと思います。Pepperは、実際に目の前にすると思ったよりも大きいです。子どもの背丈と同じ120センチくらいあって、そのPepperが両手を広げる挙動やダンスをするというのは見た目以上にインパクトがあり、現実にモノが存在するということがよく分かります。自分がプログラムしてPepperが手を動かすということを、自分がやったのだという実感をリアルに持つことができるのは、Pepperの特徴だと思っています。そこに、ChatGPTが加わって、自分がプログラムして喋っているのだということを自覚しながら使うのは、テクノロジーの裏にどういった仕組みがあるのかということをリアルに実感する、理解することに繋がります。それが、Pepperを使う最大の意義ではないかと思っています。
もうひとつあるとすると、ChatGPTはLLM(大規模言語モデル)なので、Pepperという人型のものが自分に対して話しかけてくれる、発話をするということは、言語的な影響を子どもたちも感じ取りやすいということです。Pepperに疑似的な人格を持たせてコミュニケーションを取る子どももたくさんいるので、言葉の影響をよりリアルに感じ取れるというのは、人型のロボットを使う意義だと思います」
石戸:「『学校に導入したPepperをうまく使えなくて挫折した経験があります。進化したPepperがあると良いな』というコメントがきています。確かにロボットを使ってプログラミングをする、もしくはこれからロボットを使って生成AIについて学ぶときに、全ての学校が初めから順調にいくわけではないと思います。恐らく順調にいっていない学校のサポートもされてきたと思いますが、どのように導入するとよい使い方ができるのか教えてください」
長﨑氏:「少し申し上げにくい部分はありますが、子どもたちが使う環境をできるだけ自由にするのは重要だと思います。やってはいけないことを全て先生が管理しようとすると、そもそも先生自身が子どもたちに使わせるのが億劫になってしまいますし、子どもたちもこれはやってはいけないかなと思いながら使うと、面白く使うことができません。うまく使っている学校は、プログラミングツールも子どもたちに渡して自由にプログラムしてよい、搭載されているアプリも自由に使ってよいと指導くださっています。自由の幅を広げて、それを持たせて使わせているということです。そうやって使わせていると、Pepperとは一対一でしか会話ができないので、順番待ちが発生したときに、子ども同士でルールを作って会話できるようにしたというケースも聞いています。自由な環境を与えておくことで、子どもたちが逆に工夫をしていく可能性もあると思うので、そういったところを意識して使っていただけるとよいのではないでしょうか」
石戸:「今、どのように導入すればよいかという話をしていただきましたが、このような質問もきています。『そもそも導入のところで、現場の先生や保護者の理解と協力が必要不可欠と考えていますが、どういうアプローチを取ることで現場の先生、保護者の協力を得ていったのか教えてほしい』というものです」
長﨑氏:「まさに仰る通りだと思います。保護者については我々から見えない部分がありますが、学校の先生においてはまず短期的にお使いいただいて、Pepperの良さを知っていただく場合がございます。無料でPepperの設定についてオンラインでレクチャーして、最初の設定お手伝いするサービスも付随させています。『まずは使う』という第一歩、使い方やデバイスとしての特徴をご理解していただくところから始めています。あとは子どもたちの反応を体感していただいて、Pepperは良いねという声を醸成した上で使っていただくことが重要だと思っています。特徴的で素晴らしい教材になり得ると思っていますので、Pepperを愛してくださる先生を見つけることが非常に大事だと考えています。そういう先生がいらっしゃると、その先生が周りの先生と一緒にPepperを使いましょうという空気感を作ってくださいます。そういった先生に出会えるように、導入時には先生たちとのコミュニケーションをしっかり取ることを心がけています」
石戸:「このような質問もきています。『生成AIが登場し、Pepperに搭載されてから、Pepperを取り巻く状況はどのように変化しましたか』というものです。いかがでしょうか」
長﨑氏:「我々も長年、ご提供したかった環境がようやく整ったという思いがありまして、Pepperが世の中のさまざまなシーンにおいて、より役に立てるのではないかというような社内的な期待が高まっています。教育領域もそうですが、現在は介護の場面で、Pepperが高齢者の皆さまとコミュニケーションを取りながら、施設のスタッフの方々の負担を下げられないかという取り組みを加速させているところです。そういった新しい可能性が見えてきたことが大きいと思っています。皆さまも期待されているところではないでしょうか」
石戸:「生成AIとプログラミングの関係に関する質問もきています。『生成AIによってプログラミング教育のあり方も変わってくると思いますが、それについての考えをお聞かせください』というものです」
長﨑氏:「プログラミング教育とは、直接に高度なコードを書けるようにするという教育ではなくて、自分が目指すべき目標から逆算をして、そのプロセスを設計し、その中でトライアンドエラーを経ながらも目標に向かう取り組みを実践する教育であると考えています。そのために、基礎となるプログラミングに触れるということは重要です。一方で、実際に何かを実行するときに、プログラムのコードが書けるというスキルは必須ではなくなる時代も近いと思っています。生成AIもそうですし、ノーコードやローコードのツールでできることが、ビジネスレベルでも増えてきています。これをふまえると、新しいもの(例えばPepperを含む)が出てきたときに、これまで使っていたものにこだわらずにチャレンジしていける力、そして良いものは取り入れ活用できる力がさらに重要だと思っています。そういった教育の観点が重要だと思います」
石戸:「『AIリテラシーを学ぶにおいて特に重要なポイントはありますか』という質問がきています。これからAIを使いこなすリテラシーは、全ての子どもたちにとって必須だと思います。カリキュラムを作るにあたり、AIリテラシーを子どもたちに伝えるという視点で重視したこと、盛り込んだポイントについて教えてください」
長﨑氏:「リテラシーには、二つ見方があると思っています。『やってはいけないこと』を理解するリテラシーと、『どう活用していくか』という視点でのリテラシーです。やってはいけないことは必須事項ですので、他者の権利を侵害しないということなどを含めて、子どもたちに正しく使ってもらうための内容を盛り込んでいます。
我々がこだわったのは、『どう活用していくか』の視点でのリテラシーです。それには、ChatGPTをどんどん使っていただき、アイデアを考えるときなど『どうインプットしたら望ましいアウトプットが出てくるのか』を体験して学んでいただきたいと考えています。また、正しく活用するには自らも勉強して、自分自身をアップデートしていかないとなりません。その点について、子どもたちには頑張ってもらいたいという思いを込めて教材を作っています。生成AIは何でも答えを出してくれるという側面もありますが、何をどう頼むかによってアウトプットが変わってきます。自分が何を考えているのか、何をさせたいのかという意思を持ってそれを表現できているのか、そこが重要だということを理解しながらツールを活用してもらいたいという思いで授業を進めています」
石戸:「いくつかの活用事例をみると、特別支援教育でかなり活用されているように思えました。Pepperなどのロボットを使った学びと、特別支援教育の親和性についてのお考えを教えて下さい」
長﨑氏:「ChatGPTの機能が搭載される前から、Pepperが特別支援教育の中で価値を見い出していることは、さまざまな報告から把握していました。完全に無償の社会貢献事業としてPepperを貸し出していたときにも、特別支援教育で活用いただきました。先ほどの事例でご紹介した学校では、学校の方が自ら特別支援教育で活用できそうだという思いを持ち、Pepperの貸し出しを申し込んでいただきました。生成AI自体が特別支援教育の中で注目されているのではないか、加えて、Pepperが人型をしているということがさらに効果が出ているのではないかと考えています」
石戸:「先ほどロボットを使うことの意味についてお話いただきましたが、それを踏まえての質問がきています。『ロボットを使ったことによる成果は何と定義し、それをどう測定、検証していますか』というものです。また、『いわゆる飽きへの対策は何かお考えでしょうか』という質問もきています」
長﨑氏:「まず評価の部分は、授業での利用回数を調査しています。また感想をアンケート形式で取っていますので、さまざまな指標について毎年、我々で精査して授業の評価をさせていただいています。それから成果発表の場(STREAMチャレンジ)を設けていますので、そちらでどういったアウトプットを出していただけたのかを可視化して評価しています。
飽きについては、やはり飽きるときはきます。しかし、その中でも、実際にプログラミングの授業や探究学習で使っていただいたり、STREAMチャレンジに取り組んでいただいたり、もしくは会話できる相手として学校の中に置いていただいたりという活用を進めていただくことで、パソコンと同じように『日ごろから学校にあって使うもの』という意識が醸成されると考えています。飽きられてはいるというよりも、学校の中で使われるのが当たり前の存在になるという状況を、目指すべきではないかと考えています」
石戸:「次は、『ロボットや生成AIと共生し、社会で活躍する人材になるために育むべき資質はどのようなものだと考えますか』という質問です」
長﨑氏:「重要だと思うのは、自分の力を他人のためにどう使っていこうかという心持ちを持つことです。また、新しいものが出てきたときに拒否反応を起こさずにトライしてみて、自分の判断をしっかりとすることが非常に重要ではないかと思っています。そんな考え方を醸成していくのに役に立つ教材として有益なものをご提供したいと思っています」
石戸:「最後に二つ質問します。一つめは、ロボットや生成AIを使った御社としての教育サポートの展望について教えてください。二つめは、御社の取り組みのみならず、活動を長く推進していく中で、これからの学校教育はこうあってほしいという長﨑さんの思い、願いについてお聞かせください」
長﨑氏:「今後の弊社の動きとしましては、Pepperの中で生成AIを使いながら新しい教材を開発して提供するという動きがあります。グループ会社でそれぞれ教育に関する取り組みを個別に行ってきたのですが、そういったところと連携を強めて、個社ではカバーしきれない部分を連携しながら、会社を超えた枠組みで新しい取り組みを世の中に提供したいと思っているところです。グループ他社ではオンラインで学べるAIの教材を出していたり、情報リテラシーの教育を進めていたりするので、連携して取り組みたいと考えています。
今後の教育については、これまでの取り組みに変な意味で囚われずにチャレンジしていただきたいと思っています。業務の中で新しいツールを使っていきながら業務を効率化していただくことも含めて、教育の仕組み、進め方をデジタルツールで開拓していき、チャレンジしていただきたいです。最後にご紹介したふるさと教育支援ですが、この取り組みは行政の中だけでは厳しい部分がありますので、地域全体を含めて企業や広域団体と連合体的な形で子どもたちに教育していくのが重要だと思います。そちらもぜひご一緒できたらと思っています」という長﨑氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。
※「Pepper」はソフトバンクロボティクスの登録商標です